去る1月19日(金)、市民参加の森づくりシンポジウム「21世紀の日本の森林を誰が、どう守るのか −これからの森林・林業政策を考える−」を、東京四谷の主婦会館プラザエフにて開催しました。平日の昼間という日程にも関わらず、定員100名のところを243名もの参加者を得て、会場から人が溢れ出さんばかりの大盛況となりました。
内山節森づくりフォーラム代表理事の挨拶を皮切りに、大島克郎氏((社)国土緑化推進機構常務理事)、高木文夫氏」((財)森とむらの会会長)の挨拶のあと、基調講演、パネルディスカッションと続けられました。森林・林業の政策問題という壮大なテーマであり、限られた時間では、とうていすべてのことを議論することは出来ませんでしたが、議論白熱、とても濃密な4時間となりました。ここでは、参加出来なかった方のために、そのエッセンスをご紹介いたします。
●基調講演 「林業基本法の見直しについて」
古橋源六郎氏(前林政審議会会長・森とむらの会理事)昨年10月に林政審が「新たな林政の展開方向」を、12月に林野庁が「林政改革大綱とそのプログラム」を発表した。しかし基本法の改正になにをおりこむのかが明らかになっていない。私なりに基本法におりこむべき事項を考えた。
林業基本法は、一部改正ではなく全面改正すべきだ。また、林業基本法の名称に「山村」を入れ、山村についての理念を入れるべきだ。基本法に入れるべき理念は、「多様な機能の持続的発展のための適切な森林管理」「林業と木材産業の発展」「山村の振興」だ。
基本計画に山村整備計画を入れるべきだ。自給率については否定的だが、多面的な機能を発揮する指標はつくるべきだ。森林計画は、下から上へ積み上げる計画をつくるべきだ。整備手法も地域の独自性を認めるべきだ。
国の責務は、基本法に則り施策を総合的に策定し実施するという書き方になる。民有林と国有林との協調、役割分担について明確にする必要がある。国民の役割は、労働力や資金の提供について法律に原案として出し、国民に議論を広める必要がある。
基本的施策として追加すべきものは「多様な機能の発揮のための森林の管理の推進」「地域林業の経営体制の整備、林業就業者の確保育成、効率的かつ適切な森林整備のための生産基盤等の整備等、林業施策に関するもの」「木材の加工体制の改善、流通と合理化と情報化の推進、木材産業の再編整備の推進等、木材産業の振興に関するもの」「森林林業木材産業に関する研究技術開発の推進」「山村対策」「林業行政機関及び林業団体に関するもの」「林業分野における国際的な取り決め、国際的協力」の七点。
NPOは行政と適切な緊張関係を持つために努力しなければならないが、そのための情勢は整ってきている。NPO自らが政策をつくって提言をしていくことが必要だ。
●パネルディスカッション
【パネリスト】
内山節氏(NPO法人森づくりフォーラム代表理事)
速水亨氏((社)日本林業経営者協会理事)
半田良一氏(国民森林会議会長)
松下芳樹氏(NPO法人森づくりフォーラム理事)
森巌夫氏((財)森とむらの会理事)
【コーディネーター】
山本信次氏(岩手大学農学部助手)
◇基本理念について
・内山 今までの林政の、林業が成り立てば結果として良い森が出来るという予定調和論が崩れてきた。また戦後社会が行き詰まっており、社会の作り替えの時期にきている。市民と行政が緊張感のあるパートナーシップを結びながら社会を形成していく必要がある。
・速水 だれにも後ろ指を指されない人工林経営をやってきたが、維持するのに厳しい時代がきてしまった。今一般の市民が日本の林業、森林を見直す時期がきている。
・森
予定調和論が成り立たなくなったのは、公益的機能の中身が多面的に変わってきたから。国民が社会づくりに参加することは、社会が成熟したことの現れだ。
・山本 市民が森づくりについて行政槍業関係者に任せるだけでなく、自ら考えなければならないということを共通認識としたい。
◇山村問題について
・森
山村は、お荷物として扱われてきた。山村こそ我々の成立基盤だという対応が必要だ。
・半田 山村問題は、オールラウンドに取り上げるべきだ。しかし現状は林業の担い手が高齢化し、後継者も少なくなっており、山村の根本をつくり直さなければならない。
・内山 今、山村の人たちは森と関わることが出来ない。山村に住む意味を失っている。逆に、都会人が森と関わる意欲を持っている。森と関われる村づくりの転換期がきている。
・速水 山村問題には、豊かさの捉え直しが必要。今の田舎は公共事業中心だが、それは田舎の基幹産業のためにおりてきている。田舎の基幹産業をどう評価すればいいのかが悩み。
・松下 山村と都市とを構成員とした森林コミュニティをつくることの延長線上に、地域ごとの山村像が出てくるのではないか。
・山本 山村は森と人との関係の最前線であると同時に、都市の人と森に携わる人の関係の中心だ。その関係のなかで、山村を支えることで都市が森を支えるという形が問われる。
・森
「都市冷遇山村優遇」といった世論を変えていかなければならない。
◇木材自給率問題について
・半田 木材自給率設定は必要。目標がハッキリしていれば、関係者は勇気づけられる。
・山本 目標数値なのか、結果的に出てくる数値なのかということが分かれ目となる。
・速水 経営者としては使ってもらわなければダメなので、50%ではどうなんだ、というのはある。国際的な見方からすれば、秩序正しい木材貿易を考えなければならない。
・森
日本の林業活性化、また地球環境的問題からも、木材自給率を掲げるのは極めて大事だ。
・内山 フォーラムとして、木材自給率に変わる概念を考えたい。木材の有効利用率といったものを算出できないか。
・速水 海外から木材を運ぶのに多大なエネルギーが消費されていることも知ってほしい。
・半田 自給率を出す背景として、木材産業の体質改善はさけて通れない。
・山本 自給率を高めることが、必ずしも良い森をつくり出すことにつながらないことは知っておかなければならない。我々がどれだけ木材を使うかを考えることも必要だ。
◇分権問題について
・松下 今のシステムのままでは、新しい目標を掲げても、何も変わらない。地方主権ということをフォーラムは提言しているが、そういう問題を共有する地道な積み重ねが必要。
・半田 ゾーニングという言葉が目に付くが、機能を割り切ってしまうことに疑問を感じているが、下から積み上がる計画であれば、その懸念は解消されるのではないか。また、分権化については、所有と経営の間をどう律するかが問題。施業の目標はハッキリさせる必要があり、私は択伐というスローガンを掲げたらいいと思う。
・速水 所有と経営の分離は、そうなっていけば理想的だろうと思う、しかし、森林所有者には森林に対する思い入れがあり、この点では整理をつけなければならない。施業計画は、県のレベルで資源計画と経営計画の整合性をとればいいと思う。
・内山 フランスでは、自治よりも時間の早さが要求されるものは国が、時間よりも自治が重要なものは県や市町村が意志決定をするという考えがある。日本でもメリハリの利いた参加型社会というものを行政の改革と併せて考えなければならない。
・森
現行の森林計画制度は実行性がなく、破綻している。地方分権を実のあるものとするためにも、森林交付税創設連盟を支援することを提案したい。
◇まとめ
・内山 都市と山村との一体性をつくっていく努力をしたい。
・速水 社会性を持った人工林経営を、技術を含めて議論をしていかなければならない。
・半田 一つの循環圏として、山村と関連した労働力の問題を考える必要がある。森林林業の問題は長期的な問題なので、方向性を明確にした上で地道に積み上げていく必要がある。
・松下 議論を集約できるシステムを作り上げることが必要だ。直接支払い法について議論することを提案したい。その議論のなかにすべての要素が関連して出てくるのではないか。
・森
既成概念の林業から脱皮する必要がある。21世紀は現場の時代、地方の時代だ。森も、現場の人たちが一番いい使い方をすることが基本となる。
・山本 私たち全員が新しい森林管理体制をつくる主役だ。今日はそのための議論の第一歩。今後もこういったものを続けていきたい。
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