ニュース第50号 99年11月号より
NO.35 セントラルパークの発見
中沢和彦
●中央公園
ニューヨークのセントラルパークは、南北約4km東西約800mという大きな公園で、そこには大都市の中とは思えぬほどの自然があるという。以前から、ニューヨークに行ったら、ぜひとも歩きたいと思っていた。
ところで、わが家の近くに大泉中央公園がある。緑豊かで散歩も楽しい。けれど、ひとつ不思議に感じていることがある。名前だ。そこは、埼玉県に接した東京の外れであり、大泉の外れでもある。なのに中央とはなんなんだろうか。
エンパイアステートビルの振動が気になるエレベーターに乗って「お登りさん」になれば、セントラルパークは文字どおり「大都市中央の公園」だと実感できる。林立するビルの向こうに、定規で引いたような長方形のスペースが見える。灰色の町並みにあって、そこだけがまるで子どもの絵のように緑色に塗りつぶされている。緑のなかの水色の楕円は池だろう。
その公園をめざして5番街を歩く。初めての高層ビル街は、香港初訪問時ほどのインパクトはなかった。店の窓に、どこかで見たようなキャラクター大きく描かれている。あれはポケモンではないか、ピカチューである。以前、テレビを見ていた子どもたちが「倒れた」という事件によって小生は初めて、漫画もアニメもゲームもカードも大変な人気だということを知った。
その「ポケモン」がアメリカに上陸して1年、テレビは大ヒットしゲームソフトも420万セット売れたとか。
人気の背景には、「暴力シーンがない」ことがあるとも言われている。親たちのひんしゅくを買うカード集めも「希薄になっている子どもたちのつながりを取り戻す役割を果たしている」などとも言われているらしい。
ところで、アメリカでは日本製アニメのファンは「OTAKU」と呼ばれ、その数は、かなり多くなっているようだ。小生は姫路の映画館で観た『もののけ姫』も、近々公開されるらしい。
森と人間とのかかわりのドラマを、どんなふうにアメリカの人たちが受け止めるのか、興味深い。
●発見される人
日曜日、公園はにぎやかだ。ジョギング、自転車、ローラーブレード、速足で歩く人・・・。それにニューヨーク名物の馬車、これは予想以上の台数で、馬糞の臭いがどこまでも追いかけてくる。
大きな芝生に寝転がる。2日前まで、テレビは超大型のハリケーン「フロイド」のことばかりだったのだけれど。今日は台風一過。青空だ。
森を歩き、坂をあがり、氷河が削った岩盤がむき出しになっている場所を通り、樹木とリスと池をながめてベンチに腰掛ける。
サイモン&ガーファンクルは、公園のベンチに座って時を過ごす高齢者たちを「まるで本立てのよう」と唄っていたけれど、世紀末のブックエンドは倒れやすいらしい。家を持たない自由な人たちがベンチで寝ている。
向こうのベンチに日本人と思われる青年が座っている。膝には、200mm以上の望遠レンズを付けた一眼レフカメラが置かれている。見ると、ファインダーが上から覗けるように改良してある。その望遠レンズの向かう先には、ゴミ箱をあさる「いかにもホームレス」男性がいた。
嫌な光景だった。彼が正面にカメラを構え、その人物を狙っていたのであれば、それほどの不快感はなかったかもしれない。そしらぬふりで撮る、隠れて撮る。断りもなしにかってに顔を大きく撮る。そして、その写真に「繁栄の中の孤独」だとかなんとか・・・、たっぷり手垢の付いた表現で都合のいいコメントだけを書き添えるのだろうか。まるで、自分だけが勇気を持って「発見」したように、・・・バカもの。
同じ「発見」でも、数日前テネシーで聞いた4Hクラブの女性は楽しかったなあ。
日本を2度訪ねている彼女は、そのときのスライドを100枚近く見せてくれた。写っていたものは、道路表示板、トイレ、子どもたちの様子、着物を着て喜ぶ本人、小さい家、小さい庭、マクドナルドの看板などなど。これでもか、というほどスライドは続いたのだった。
ちょっと太っていて、人の良さそうなやさしいお母さんが「発見した日本」がそこにはあった。だけど、発見された国の住人である私としては「なんか違うんだけどなあ」という感じではあった。
ちなみに、4Hクラブは、心(Heart)、頭(Head)、技(Hands)、健康(Health)をキーワードに農村の活性化などをめざして活動している組織で、日本では戦後、GHQによって取り入れられた。
だいたいの方向を予測しながらセントラルパークを歩いて、公園の外に出た。まいった。どこなのかわからない。予想と全く違う方向に出てしまったようだ。 なにかのモニュメントがある。案内書を見ると、どうもCOLUMBUSサークルに出たようだ。
近寄ってみると、アメリカ大陸をかってに「発見」したコロンブスの像があった。
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