森づくりフォーラム活動報告・0309

 

「市民参加の森づくり活動における『技術習得制度(仮称)』」
「市民参加の森づくりにおける『森林施業ガイドライン(仮称)』を検討中



現在、皆様の各地での活躍によって、「市民参加の森づくり」活動の社会的な認知も広がり、全国的に普及しつつあります。しかし、「指導者育成」や「安全管理」といった面は、依然として多くの団体の課題となっています。
そこで本会は「市民参加の森づくり」活動をさらに充実したものとしていくために、「市民参加の森づくり活動における『技術習得制度(仮称)』」と「市民参加の森づくりにおける『森林施業ガイドライン(仮称)』」の検討に取り組み始めました。
(森づくりフォーラム事務局長 坂井武志)

新たな人材育成システムの構築へ
 「市民参加の森づくり」団体は、今日では全国で600団体とも1000団体とも言われるほど、その活動は広がっています。しかし、「指導者の養成・確保」「安全確保」などは依然として課題となっており、充分に活動基盤が固めきれない団体も少なくないようです。そのような状況から、新たな人材育成システム構築への要望の声が「第7回森林と市民を結ぶ全国の集い(2002年2月、広島開催)」で出されました。
 そのことを受け、本会では2002年4月以降、人材育成システム構築について各地の実践者や市民団体との意見交換や準備会を設置し、多くの方にご意見を伺いました。また2003年2月、本会の総会に併せて実施した『市民参加の森づくりシンポジウム―新ステージに向かう、市民参加の森づくり―』(NEWS Vol.90-93参照)では、「森林作業技術を問う」として作業技術水準と安全管理水準の向上を視野に入れた人材育成システムについて、また「森林施業を問う」として森林施業方法の適正化に向けての理念や技法や手法について、参加者とのディスカッションを実施しました。
 それらの結果、多くの皆さまからご支持の声をいただいたことから、人材育成システムについては「市民参加の森づくり活動における『技術習得制度』」、森林施業方法の適正化については「市民参加の森づくりにおける『森林施業ガイドライン』」の検討を開始することとなりました。
技術習得制度
◆森林ボランティアの安全管理水準
 森林作業は、常に危険と隣り合わせの中で行われるものです。もともと3Kと言われる職場であり、労働災害も頻発する作業であるからこそ、ボランティア活動においては、特に念入りな安全管理体制が必要となります。
 しかしながら、「NEWS Vol.94」でも報告したように、全国各地で事故が多発しているのが現状です。しかも私たちが把握できるのは「森林ボランティア保険」の利用団体で起こった事例だけであり、実質的にはさらに多くの事故が発生しているのではないでしょうか。本会で実施したアンケートでも約4割の団体が、過去に事故や怪我等を起こしていると回答してます。また、報告されている事故事例は、十分な安全管理体制の整備と実効的な安全教育が徹底されていれば、十分に避けられるものが大半です。
 今後のこのような事故が多発するようだと、「森林ボランティア」は社会的な信用を失い、さらなる活動の広がりが阻まれてしまうかもしれません。
◆指導者数・指導水準の低迷
 「活動の機会」や「活動の場」はおおむね確保されるようになってきた森林ボランティア活動ですが、「指導者の育成・確保」まで実施できている事例は多くはないようです。また、これまで実施されていた指導者育成プログラムは、「森林インストラクター」のように林業技術が評価対象外であったり、ほんのわずかの講習に止まっているものが多かったのではないでしょうか。さらには、増大する森林ボランティア活動の一方で、指導者的な立場である国有林や都道府県職員の方たちの人数は限りがあり、十分に対応しきれなくなっている場合も少なくないようです。本会で実施したアンケートでも、約6割の団体が指導者不足を指摘しています。
◆作業技術水準の確保
 また、全国各地で「市民参加の森づくり」のイベントが実施され、年間10万人ともいわれる森林ボランティアが森林作業に取り組んでいますが、実質的な知識や技術を習得する機会に恵まれないボランティアの方も多いことと思われます。「チェーンソー講習」といったセミプロ向けの研修機会は各地で行われてはいますが、一般市民向けの体系的かつ総合的な研修の機会は、実践の機会や場と比べて余りにも少なすぎたのではないでしょうか。本会で実施したアンケートでも、指導者・技術者育成のための研修会等の必要性が、約8割の団体から指摘されています。
◆「技術習得制度」の目指すもの
 さらなる「市民参加の森づくり」活動の活性化と社会的地位の向上のためには、新たな人材育成システムが必要なのではないでしょうか。
 そこで現在、?安全管理水準の向上(セイフティーネット)、?指導水準の向上(学習段階の提示・向上心付与)、?管理水準の向上(技術力向上)を主目的として、森林ボランティア活動が誰でも安全で楽しく参加できる基盤を、全国規模で整備することを目指して「技術習得制度」を検討しています。そして、そのことが結果として森林所有者等の理解を深め、より多くの森林がボランティア活動のフィールドとして広がっていくことにもつながるのではないかと考えています。
 本会では、2003年5月より全国の市民団体へのアンケート調査を実施するとともに、制度の適正化に向けて市民団体、森林所有者、学識経験者の参加のもとで「検討委員会」を設置しました(表1参照)。今後の「市民参加の森づくり」活動の円滑的かつ効果的な推進に向けて、知識や技能を一定の基準や指標に照らして個々人を認定する「ライセンス制度」(図1参照)と、これに併せて個々人のステップアップを支援する効果的な「研修制度」の構築に向けて本格的な検討を始めています。


森林施業ガイドライン
◆公益的機能を求める森づくりと実態
 近年、わが国の森林政策は、旧来の木材の安定供給という資源政策から、水源涵養機能や自然災害防止機能といった公益的機能の高度発揮を指向する環境政策へと転換しています。また、「市民参加の森づくり」に取り組む皆様も、生物多様性や水源涵養といった多様な公益的機能を求めて活動に参加されていることと思います。
 しかし、これまでの「市民参加の森づくり」活動のための手引書は、用材生産を目的とした労働多投型の施業を前提にしたものや、個別作業の解説が中心となったものが多く、多様な機能の発揮を目指した体系的なガイドラインはあまり見られませんでした。
◆市民主導の森づくりの意味
 また一方で森林ボランティアの役割は、管理の行き届かない森林を一時的に手入れして、旧来の用材生産を目的とした管理サイクルに戻すだけではなく、伐採跡地の植林活動に代表されるような、市民主導で森づくりを実践するような活動まで広がっています。つまり森林ボランティアは、「将来世代にとっても好ましい、様々な機能を発揮するより良い豊かな森林をつくる」ことを期待されているとも言えるでしょう。そうであるからには、森林をつくることへの責任も生じてくるのです。
◆社会性ある「市民参加の森づくり」 のために
 社会性ある「市民参加の森づくり」活動の目的を達成するには、「誰のために、何のために、どのような作業をすればいいのか」という道筋をはっきりさせることが必要となってきています。さらに、森づくりは50年、100年という世代を超えた継続的な取り組みが必要であることから、その道筋を計画的にするとともに、明文化する必要もあります。しかし、本会で実施したアンケートでは、残念ながら約2割の団体しか具体的な計画を書類で作成していないことが明らかになっています。
 そこで、本会では、「調査−目標の設定−計画の立案−作業手法の選択−評価」という森づくり計画全体を体系化(図2参照)して、森林の多様な機能の発揮を担保する、市民参加の森づくりにおける「森林施業ガイドライン」の構築を検討しています。2003年6月より有識者(表2参照)へのヒヤリングを経て、7月には公開意見交換会を実施し、9月より本格的に取り組みはじめています。
皆様の生の声を、お聞かください
 私たち市民はもとより、わが国の森林、さらにはわが国の社会にとって有益かつ実効的なシステムを創出するためには、多くの皆様のお知恵やご感想などといった現場の生の声が必要不可欠です。
 今までも、2003年2月のシンポジウム以降、5月には全国の市民団体へのアンケート調査、7月には「公開意見交換会」を開催してきました。また、今後も「森林と市民を結ぶ全国の集い」などの各種イベントにおいて現状報告と意見募集を行うなどとして、焦らず地道に、誰もが納得できるより良い人材育成システムを、皆さまと共につくり上げていきたいと考えています。
 「市民の、市民による、市民のため」の制度とすべく、多くの皆様の忌憚のないご意見・ご感想等をお寄せ下さいますよう、心からお願い申し上げます。

 

 

  活動報告目次へ           活動報告0112へ           活動報告0310