日本列島森づくり百科

(18)生き残りに賭けた省力林業(2)
育林費の目標は50万円/1ha

山本 速水(高知県大豊町) 

 

 


 徹底したコストダウンで国産材の復活を図る「省力林業」に取り組む高知市の林業家・山本速水さん。林業経営の最大の課題となっている育林費・搬出費のコストを削減するために、山本さんは作業道の開設を基本に森林施業を実施していることを前回紹介した。今回はその内容を、森づくりの具体例を挙げながら報告する。

●全て列状に強間伐

 山本さんが所有するスギやヒノキの人工林は、これまで1haに5000〜6000本と、一般的な植栽本数の2倍程度を植えてきた。このため「結構密度が高い上、控え目な間伐を続けてきたので、結果的に過密になってしまった」という。
 それは、まさに柱材の生産を主眼とする「過密」だったわけだが、「最近は柱材より板材の需要が高まってきたことから、立木を太くする方向へと人工林の密度管理を変更した」と山本さん。つまり間伐率を大きく引き上げるために「列状間伐」へと施業の方法を変更したのだ。
 単木選木の場合、伐採木を直引きすると立木を痛めてしまいがちだが、列状間伐であればこの欠点を補えるという利点もあり、「強間伐」と「出材の利便性」のいずれをも実現する手法が列状間伐だったとも言えよう。
 「機械的に1列ずつ伐り、細い立木の林地は2列伐って3列残せ」と、山本さんは指示している。列状間伐した丸太は、市場価格に照らして「採算に見合うものは出材し、コスト割れしてしまうものは出材しない」と山本さん。こうして強間伐を進めた結果、現在は「列の中には単木で選木・間伐しなければならない立木がたくさん残っている」。
 山本さんは「乱暴な施業だが、例えば木が60〜70年生になったとき、だいたい400〜500本の立派な木が残っていれば上等だよ」と話す。だから「森づくりのプロセスは見せ物ではない。『きれいな山ができましたね』と人に誉めてもらうような山をつくる余裕はない」と結論付けた。
 山本さんにとって間伐は「昔は途中で収益を上げるためのひとつの作業だった」。しかし、「今は完全に経費となってしまった」。経費であれば少なくした方がコストダウンになるものの、間伐材が右から左に売れる時代ではない。間伐を含む育林費を山本さんはどうやって軽減しようというのか。


● ポット苗を自ら生産

 まずは苗木。下刈りを省くために、山本さんは実生のポット苗を自ら生産する道を選んだ。「苗畑は連作できないが、ポット苗は土地を選択する必要がないし、潅水装置さえ設置すれば人手をかけずに大量生産できる」と山本さんはそのメリットを説明した。ポットは2回程度使えるが、苗をポットから引き抜かなかければならず、この手間を省こうと、山本さんは生分解性のポットの導入も検討している。また、ポット苗は植栽の時期を選ばないため、「少々の草地なら地拵えせずに植えてみようと考えている」のだとか。
 こうして、山本さんは現在80cm強に背を伸ばしたポットの大苗を1ha当たり3000本の密度で植えている。以前は5000〜6000本を植えていたため、植栽本数は概ね半分に減ったことになる。
 山本さんは自家用だけで年間2万本を生産しているが、これだけでコストの削減は難しいため、「スギやヒノキだけでなく、果樹や緑化木などを組み合わせ、大量に苗木を生産する必要があるだろう」と話した。

●育林費の目標は50万円


 山本さんは枝打ちを止めてしまった。「自然落枝に任せてコストの安い木を供給する、いわゆる並材生産に徹している」からだ。それでも「地味が良く、生長量が大きいからそれなりに競争力はある」と山本さん。
 こうした取り組みの中で最もユニークな試みが"林内放牧"の復活ではないだろうか。
 「それほどのことではないが、昨年の11月から実験的に牛の持主の協力を得て土佐赤牛の雌5頭を林内に放している。この5月にそれぞれ子牛を生んだので10頭になった。作業道の草を全部食べてくれるので、今年は草を刈る必要がない。スギは少し傷められたけど、ヒノキは大丈夫だった。牛はどうもクズ、イタドリ、ススキが好きみたいだねぇ」
 牛が石を食べてしまい、体調不良に陥ってしまうというハプニングも。牛主の話によれば「冬場は草がないので餌を与えるが、餌を道の上に置いたため、小石や砂利まで一緒に食べちゃった。胃袋から石がたくさんでてきましたよ。今は回復して、みんな元気ですが…」
 こうした数々の取り組みを重ねる山本さんに「1ha当たりの育林費の目標はいくらなのか」と尋ねると、「50万円」という答えが返ってきた。「ニュージーランドは15万円以下だろう。これは例外だとしても欧米だって20〜25万円。日本はかなりコストダウンしたと言われていても90万から100万円ぐらい。つまり欧米の4倍に当たる。だから50万円を当面の目標として、その金額にするための仕掛けをどうするのかというのが最大の課題」と山本さんは言う。
 しかし、50万円を実現したとしても、まだ欧米の2倍であり、対等な競争はできない。その点について山本さんは「ぎりぎりまで努力して到達できないのであれば公的資金に頼るのも仕方がないのかなあという気はする。しかし、欧米と競争するために行政に格差の75万円をそのまま補てんしてくれとは到底言えない。経営努力でどこまで欧米に迫れるか。どこまで経営者が一生懸命にやるのかということだ。安易な助成は合理化の努力を怠る原因になる」
 行政への注文も含め、山本さんはこう締め括った。「山には木を植えろ、植えたらきちんと管理しろと行政が言うのは結構だ。しかし、林業が収益事業であるからには、こうすれば採算が取れるというモデルを行政は示してほしい。そうしたモデルも持たずに赤字にしかならない事業をやれと行政にいわれても説得力に欠ける。林業者は経営者の責務としてコスト削減という努力をする。行政も自らの責務を果たす。両方がお互いに知恵を出し合ってこそ、林業経営の持続の可能性が出てくるのではないだろうか」     (編集部)



高知県大豊町 ・山本 速水
HAYAMI YAMAMOYO
林業家。
鵜鵜集大学農学部林学か卒。
土佐林業クラブ副会長。65歳。