日本列島森づくり百科

(17)生き残りに賭けた省力林業(1)
作業道開設でコストを削減

山本 速水(高知県大豊町) 

 

 


 国産材の長期低迷を嘆くばかりでなく、徹底したコストダウンで外材に対抗しようという人が“土佐”にいる。伝統的な林業経営を見直し、木材生産をめぐるあらゆる経費を削減することで国産材の競争力を回復しようとする試みだ。一般的に「省力林業」と呼ばれる挑戦はどのようなものなのか。林内に開いた作業道を武器に国産材の復活に挑む高知市の林業家・山本速水さんの“粉骨砕身”を紹介する。

●環境は経営の資源

 新たな森林経営を、山本さんはどのように考えているのか。山本さんは今「環境問題に絡んで森林の役割が大きく変わってきた」と考えている。それは、社会全体の森林に対する評価が変わったためであり、「ある意味ではチャンス」と山本さん。だからこそ「木材生産主導の森林管理から、いかに環境機能を経営資源として生かす森林管理に変えていくかが林業経営者の課題」と考えている。
 このため、林業経営と同時に「環境」を事業化する取り組みも徐々に始めてはいるが、まだ収益の柱には至っておらず、「環境から収益が得られるまで経営が持ちこたえることができるかどうかが問題だ」と山本さんは分析した。


● 広葉樹に一部転換

 山本さんは現在、山本森林株式会社の社長を務めている。山本家は大正時代の終盤から人工造林を始めた。同社は現在一団地400haの森林を所有。このうち90%に当たる360haが人工林だ。
 スギ・ヒノキの樹齢は「最高で80年生ぐらい。このため並材価格の低落の影響をもろに受けている。60年生以上の森林面積は120haあり、資産があるように見えるかもしれないが、中身が痩せ細っていて実際の価値は半分ぐらいだろう」と山本さん。
 自ら所有する森林全体の状況については「スギ・ヒノキが多すぎて広葉樹とのバランスがおかしくなってしまった。以前は周りに広葉樹の山がたくさんあったからよかったが、周りも同じようにスギ・ヒノキを植えたから針葉樹の山ばかりになってしまった」と反省の弁。このため「今後はバランスを回復するという意味から、採算性の悪いスギ・ヒノキ林の一部は広葉樹に転換するために放置することも構わないのではないか。表土が流出してしまった場所は再造林するよりも自然に広葉樹を増やす方が環境的にもいいだろう」と考えている。

●作業道が省力の鍵


 林業経営の最大の課題は何なのか。「育林費・搬出費のコストダウン」と山本さんは答えた。「国際価格に対して、日本のそれは高すぎる。だから作業道をたくさんつくった。基本的に道がないと始まらないと考えている」。そして、作業道の総延長は現在42kmとなった。
 しかし、作業道の開設にあたっては収穫以前に資金を投入しなければならず、それだけ財務体質を圧迫する。それでも作業道を重要視するのはなぜなのか。 「きめ細かい施業をする一方で、森林施業に伴う人件費を抑制しようとすると、どうしても作業道が必要になる。作業道がない場合は、架線を張るとか、一回で大量に伐出するとか、つまり大面積の施業で山を荒らすような方法でなければコストは下がらない。架線を張るには技術力が要るし、その設備を償却するためには何千m3も伐採しなければならなくなる。ところが、道があれば必要な材積が簡単な設備というか仕掛けで手に入る上、少人数で処理でき、コストも安くつく。作業の安全性も高まる上、機械を使うことも容易になるから」と、山本さんは説明した。

●直引きでコスト削減

 その作業道とは― 
 一団地400haの中の作業道は道幅3m。「これで10tトラックが入るものの、まだ作業道は足りないので補完的にパワーショベルが入る程度の道幅の狭い道もつくっている」と山本さん。 
 作業道と手作業を機械化することがコスト削減の鍵となるため、もちろん道もほとんど自力で建設する。道づくりの直接経費はまちまちで「1m当たり3,000円程度の場所もあれば、1万5,000円のところもある」。行き止まりになってしまう道をつくっても意味がないため、地形や地盤によって循環する道を建設できない場合は業者に依頼するのだという。
 こうした道路網にクローラー(キャタピラー付き林内作業車)が入る程度の簡単な搬出路を付け、丸太を直引きするのが山本さんの集材方法だ。「作業道に置いたパワーショベルにウィンチを付け、ワイヤーで間伐材を引き上げるか、引き下げる。引き下ろす場合は危険度が高いので、ワイヤーを2本使い、一方でブレーキをかけながらそろそろと下ろすので能率が悪くなる。引き下ろす方の機械はスイングヤーダーという機械だ」。最も効率がいいのはワイヤーの長さが「60〜70mの場合」と山本さんは付け加えた。 (編集部)

高知県大豊町 ・山本 速水
HAYAMI YAMAMOYO
林業家。
鵜鵜集大学農学部林学か卒。
土佐林業クラブ副会長。65歳。