日本列島森づくり百科

(13)集約林業で高品質実現

速水 亨(三重県海山町) 

 

 


 間伐にはいろいろな方法があります。私の住む三重県では間伐技能士という制度があり、県独自の環境創造事業を実行する場合の条件になっています。ここに速水林業の2名の職員が参加し、元森林総研の藤森先生の指導を受けながら間伐を学びましたが、その時に他の参加者が殆ど優勢木間伐を主張することに驚いて「劣勢木選択の定性間伐を実行するのは我々2名のみでした」という報告がありました。
 優勢木間伐は、前提として大きく曲がったような木は既にないと言うことで、直径で「大」「中」「小」の3つに分け、「大」が柱が挽ける太さになるところを間伐して、「中」がまたその太さになったときに再び間伐し、最後には時間をかけて「小」を太らせて皆伐するという育林法です。
 理論的には、特に枝打ち実行林分では「大」が枝打ち時に既に適寸より太くなっている可能性が高いので、「中」以下の方がきれいな柱が挽けるということと、またある程度太った木は全て柱が挽ける太さで販売できることが大きな理由です。しかし本当の理由は、ともかく早期に収入を確保することです。
 植物の生態からいえば、もしこの林分が挿し木のようなクローンであれば、立木の成長の差はあくまでも育成環境による後天的なものと言えますから、隣接した立木で成長の差があれば「大」を伐採すれば、陰になっていた「中」「小」は今まで以上に成長することとなります。
 しかし、実生の苗木であれば、成長の差は遺伝子の影響がありますから、上記の理屈は通らなくなり、結局優勢木を間伐された森林は次第に成長が衰えていくこととなります。
 私自身は現在の木材マーケットの価格を考えると、可能な限り優勢木間伐は避けた方が最終的な売り上げは大きいと考えています。劣勢木を除くことと適切な間隔を確保することを大事にして、劣勢木間伐を実行しています。
 環境管理の育林を実行していくと、林床植生の確保にはある程度間伐を強度に実行していくことになります。25年生前後から間伐収入が得られた時代は、弱度の間伐を繰り返すことで常に林床に植生を維持し、なおかつ広葉樹の繁茂も得られましたが、近年のように間伐収入が得にくくなると、間伐の強度は大きくなり、数年おきに25〜30%程度の間伐が行われます。
 当地の集約林業では昔から10,000本/ha以上と密植林業でした。これは成長の悪い土壌で早く下刈りを終わらせるためや枝を自然に枯れ上がらせて、質の良い柱を生産するための技術でした。今でも8,000本/haは植えられていますが、速水林業では5,000本/haになっています。
 最近の速水林業の施業の変化を表にして添付しました。〈表 1−1〉に5,000本/haの今の育林体系で延べ136人、〈表 1−2〉に8,000本/ha植栽で旧来の育林体系で413人の比較です。延べの育林投下労働力は全国平均で180人前後と言われていますから、一気に全国平均の2.5倍から0.7倍になりました。
 〈図−1〉に密度の変化をグラフにして示してありますが、これが理想というわけではなく、この位の密度変化になっているという程度に見ておいてください。
 間伐は伐期近くでも遅れると、年輪が密になり過ぎ、高品質な柱や板を取るときは、木にアテと呼ぶ内部応力が発生し、製材したときに曲がりや捻れが製品に出やすくなったり、艶も悪くなります。そのため集約育林でも、枝打ち終了後はしっかりと間伐をしないと良い製品は生産できません。
 間伐は昔からいろいろな方式がありました。手法を開発された方々の名前が付いたり、特徴的な手法の名前が付いたりしていますが、わたしはそれぞれ地域によって異なるのだろうと思っています。
 例えば、私が積雪地帯の挿し木のスギ林の間伐をするならば、かなり悩むと思いますし、北海道のトドマツやアカエゾマツの林を間伐する自信はありません。ただ、現在求められている間伐は結果的には下層植生の繁茂が最低限必要だと思っていますが、それも一時的に下層植生が消えることもあるでしょう。何度か繰り返しながら、時間と共に安定させていく技術だと思っています。そのための一つの手引きとして間伐マニュアルは重要な情報誌ですが、あくまでも時間をかけて様子を見ながら実行するしかないでしょう。
 さて、高品質のヒノキの生産の現場を説明しましたが、私は〈表 1−2〉のように国内でも最も集約的な育林を実行してきました。改変した〈表 1−1〉の作業内容もやはり集約です。今のところ、この成果もあって販売するヒノキの丸太は他と比べて高価に取り引きされていますが、これもあくまでも相対的なもので、絶対的にはこの数年半額まで下がっています。
 このような状況の中で、いかに合理的に育林していくか、そして環境に配慮していけるかを考えています。特に、尾鷲林業のように長い歴史がある地域ですら、ここ数年で分かっているだけで200ha以上の伐採後の未造林地ができ、旧来の育林体系を前提とした管理から脱皮できないままに育林が放棄されていくという現状は、非常に残念に思われます。本来もっと早く可能な限り合理的な施業に変更し、育林の持続を計るべきで、それが林業のもっとも本質的なリ・ストラクチャーであると思います。
 3回に分けて日頃考えている育林の変化を書いてみました。現在は林業経営は大変厳しい状況です。これは面積が広くても狭くてもほとんど同じことです。しかし、私は厳しい世代に生まれたと思って最低限、次の世代に森林をつないでいくための現在考えられる最善の努力をしているつもりです。今いるところにとどまらず、常に変化を求めて森林管理の先端を走っていこうと考えています。
 森づくりフォーラムの皆さんもそれぞれの立場で森林管理に関わっておられると思います。私の周りの森林関係者では最も元気の良い人々の集まりだと認識しています。皆さん、いつまでも世界の森林を愛し続けようではありませんか。      (終わり)

三重県海山町 ・ 速水 
TOHRU HAYAMI
林業家。
国際的な森林認証「FSC」を2000年に日本で初めて取得。
日本林業経営者協会理事。森づくりフォーラム理事。
慶應大卒。三重県海山町。49歳。