日本列島森づくり百科

(12)今も投資価値ある無節材

速水 亨(三重県海山町) 

 

 

 

 前回、私が除草剤を使用していることを書きましたら、読者から早速メールを頂きました。他にも疑問に感じられた方も多いのではと思います。今回はその話から始めます。

●危険物ではない除草剤


 まず、除草剤はなるだけ使わない方が良いと思いますが、暖帯林の林業は下草との争いであり、世界の多くの森林再生には除草剤が使われています。現在の日本の林業のように除草剤無視の林業は珍しいのです。そして、比較的短期間で口に入る農作物生産の場合の薬剤使用と、林業とでは人に与える影響は比較になりません。しかし、水の流れを考えれば決して簡単に考える物でもありません。
 私が使ってる除草剤はカルブチレート粒剤といって、多年生のシダとササに選択的に効果が出るものです。国連の基準による評価では「危険物に該当しない」とされています。世界保健機関(WHO)の分類でも「Un-likely to present any hazard innormal useの化合物」と説明されており、特に危険性は指摘されていません。

●伐期までに1回使用

 使う場合には植林して次の年の春に原則150kg/haを1回だけ使います。これは伐期までに1回です。一口で除草剤と言っても実は多種に分かれます。ダイオキシンの含有の可能性がある物から、上記のように特に安全基準の範疇にも入らない物まであります。
 ともかく、除草剤は細心の心配りと現場教育、そして充分に試験使用をした上で使うべきでしょう。今一度書きますが、使わなくて良いときは可能な限り使わない事が重要だと思っています。事実、私の最大の除草剤は、繁茂する草をにらみつけながらの「辛抱」という除草剤です。

●付加価値ある無節材

 さて、除草剤はこのくらいにして、枝打ちの話に移りましょう。無節材は以前と比べて並材との価格差が小さくなったと言っても、投資価値のある作業です。枝を打つ技術がまるで神業のように言われる事もありますが、「良く切れる刃物で、丁寧に、切り口を小さく、幹に傷を付けないで打つ」。これを守れば良いと思っています。重要な問題は、いつ打つかです。
 図は12cm角の柱を取る木材の断面ですが、相対する面に枝があると想定します。a面で枝を打つと2〜3年でb点のように巻き込みますが、一般的に柱の表面cに枝打ち跡が完全に出ないためには1.5cmほど必要になります。両面ですから2倍の3cmが必要です。つまり、直径9cmの所には枝を残してはダメですので、一番下の枝の着く幹の直径が9cmになったところで枝打ちを常に始めなければなりません。

●直径7.5センチで枝打ち

 合理的に考えるならば、枝を打つとき成長を考え、次の枝打ち回帰年の時に9cm以下になるような高さまで枝を打ち上げておくことが肝要でしょう。その上で、曲がりを考えると直径で1.5cmの余裕を見たいと思います。そこで9cmから1.5cmを引いた7.5cmで枝打ちをすれば良いでしょう。
 コストを考えた場合、無駄な枝打ちは避けなければなりません。打つ本数は基本的に販売可能になる年数の立木本数を予想し、それに1.2くらい安全率を見ておけば良いと思います。
 つまり、40年生から間伐材が販売できるとして、その時の立木本数が1,200本/haとすれば、枝打ち本数は1,400〜1,500本/haとなります。もし今までの手入れが良くて幹の曲がりが少ないなら、余裕の1.5cmはもっと小さくすればいいと思います。打ち残した木はせっせと除伐することです。
 ここで注意しなければならないことは、疎植の場合です。枝が太くなりますから巻き込みに時間がかかり、もっと細い時期に枝を打つ必要があります。少し時間を掛けてその地域の特徴を知る必要があるでしょう。

●適切な時期に枝打ちを

 また、枝打ち準備のための林内下刈りを実行しているところは、出来るだけやめて、そのまま枝を打つことを薦めます。案外、下草が繁茂していても打った枝が下草を押さえて、問題なく作業が進みます。
 このように、枝打ちは目標とする製品を予想しながら、それに応じた枝打ち時期を判断しなければいならないと思います、はっきりと目的を持たずに枝を打つことは、材内部に思わぬ腐りや変色を発生させる可能性もあります。
 林業にはどの作業にも目的があります。その目的が今の時代に合っているのか、その目的のために正しい方法をとっているのか、常に疑問を持ちながら、注意深くかつ思い切って作業を進める必要があります。                

(写真・上) ヒノキの枝打ちが成功し、間伐材でぼ無節材の柱が取れる50年生の林分
  (次回に続く)

【注】前回の写真(右・クリックすると拡大します)に説明が抜けていました。前回の写真は尾鷲林業の伝統的な施業で「良い」とされていた林で、枝打ちと弱度の除伐で形状比が高く、林内に下草のない林が育っています。これが私が改善したい対象森林施業です



三重県海山町 ・ 速水 
TOHRU HAYAMI
林業家。
国際的な森林認証「FSC」を2000年に日本で初めて取得。
日本林業経営者協会理事。森づくりフォーラム理事。
慶應大卒。三重県海山町。49歳。