団体紹介

 

第十一回  2001年7月  宍塚の自然と歴史の会    報告:及川ひろみ

環境を保全するには地域の人たちとともに

 「やっと大池にたどり着いた。いいところだとは聞いていたけれど、ほんとうに来てよかった」こんなつぶやきを池のほとりで何度聞いたことだろう。 
 全国的に里山の崩壊が進むなかで、茨城県土浦市にある宍塚の里山はため池を中心に林、谷津田、草原、小川などが100ヘクタールに渡って広がり、たくさんの生き物が互いに関連を持って暮らす、関東平野でも有数の里山で、環境庁(現環境省)の「生物多様性のための重要地域」に選ばれている。
 池の水源である台地の上の林との高低差はわずか20メートルほどに過ぎないが、緩やかな起伏の中に実に多様な顔を包み込んでいる。池を離れ、林の中の細い曲がりくねった坂道を登るにつれて、次々と異なった風景が現れる。池の北側の谷津沿いに進めば、昔ながらの小川がのび、流れは霞ヶ浦へと続いている。この多様な自然が、実に多くの生き物を育んでいる。チョウやトンボは日本に生息する種の実に1/4以上が見られ、植物は茨城県で確認されている種の1/3を記録している。
また、この地域の遺跡地図を見ると、池を囲むように貝塚や古墳などの埋蔵文化財が数多く点在し、中でも上高津貝塚は国指定の遺跡で、上高津貝塚ふるさと歴史の広場として整備されている。この里山全体が縄文時代以来の人々の生活の中で培われてきた、まさに文化遺産といえる。
 ここに開発計画があることを知ったのは1987年のことである。当時この地域を知っている人は大変少なく、人知れず開発の波に飲み込まれていくのを座視することはできない、なんとか大池の森を残せないだろうかと模索する中で1989年 宍塚の自然と歴史の会を結成した。会員数は現在550人を超える。里山はほとんど民有地だが、宍塚も例外ではない。地権者の利益になる保全のあり方を模作する一方、当地域の客観的価値を捉えること、汗水を流す実践行動を大いに進めながら、里山の維持管理に市民が果たす役割を模作し、またこの地域を多くの人々に知らせ、保全のあり方を考えていくことなどを柱に活動してきた。

◇様々な試み
 会発足まもなく池のほとり80アールの林について、山主から出入り自由の許可を得、市民による林の草刈りを開始した(この林は1995年まで実施)。観察路約3キロの草刈り、池の保全のため、繁茂する野生ハスの刈り採り(93年からは土浦市との共同作業)、ごみ拾いなども会発足当初から行っている。1998年これらの活動に加え、地権者から許可が得られた休耕田、林の草刈り、小川の整備など新たな活動を含めて、「里山さわやか隊」として組織を整理し、より活発な活動を展開している。2000年には草刈り等の保全面積は2ヘクタールに及んでいる。林ではキノコの栽培も行っているが、毎年秋に行う収穫祭の重要なメニューになっている。それ等の実践活動によって、部分的とはいえかなり良好な里山環境が維持されるようになってきている。
 「田んぼ塾」は大池下流の田んぼの耕作と里山の保全を考える学習会だ。今年は200人以上で田植を行った。「里山ふれあい農園」部会は1999年から、休耕地の復元を図っている。放棄されていた果樹園の管理を地権者から任されるなど、年々活動が活発化している。また、谷津田の米を買い取る「谷津田米のオーナー制」を開始して今年で3年になる。耕作者から谷津田の米を買い取る事による農家支援と米の産直事業である。関東一円からの参加者がある。

◇調査と出版
 足繁く通う者が生き物の生息状況を正確にとらえることができると専門家の助言を得ながら生物調査、水質調査などを行ってきた。その結果は「宍塚大池地域自然環境調査報告書会報」にまとめた(地形、土壌、水質、チョウ、トンボ、野鳥、サシバ行動圏調査、キツネ等23項目)がこれは、この地域を具体的、客観的に説明する貴重な資料となっている。「歴史部会」は大池を巡るかつての里山の暮らしを古老から聞き取り、「聞き書き 里山の暮らし―土浦市宍塚」を出版した。
 毎年80回を越える観察会、年10回に及ぶ展示会、「収穫祭」や「春の野草を食べる」などのイベントの開催等によって多くの人々に大池の存在を知らせ、保全の必要性を訴えてきた。観察会や会の行事になるべく多くの子供達の参加を願い、楽しいイラスト入りの「宍塚大池のお知らせ」を毎月7000枚土浦市内の小学生に配っている。学校とタイアップした環境教育は「子ども部会」が担当している。会報、「どんなところ? 宍塚の里山―茨城県土浦市―」など出版活動も様々試みている。
 1992年〜94年には里の自然について学ぶ三回のシンポジウム「オニバスサミット」「里山サミット」「サシバサミット」を開催した。毎回数百人が参加し、画期的な集いになった。これら多岐に渡る活動は常に地域のミニコミ誌によって広く一般の人々の参加を募っている。その結果、かなり多くの人がこの地域を理解するようになり、活動に多数の多彩な方々が参加するようになった。
◇関係者の相互協力
 草刈り、田んぼや畑、果樹園の耕作が行えるのは地権者の協力が得られたからだ。現在15件の農家から農地の利用許可を得ている。1999年、刈り払い機、チェーンソー、脱穀機等、多くの作業道具の保管をするための小屋「里山さわやか隊基地」もできた。又、聞き書きの活動も地元の方々の理解なくして進めることはできない。そして何より、農作業をはじめとする里山の暮らしの中で培われた知識、知恵そのものについて地元農家かの教えを乞うことができることが大変有難い。
 土浦、隣接するつくば市・茨城県に対して、保全の要望を行っている。現在、宍塚大池地域の開発計画は進行していないが、宍塚の里山が残り、次世代への贈り物とするには、地権者、行政の理解と賛同、多くの市民の協力が必須条件である。


DATA
●連絡先
 〒305−0023 つくば市上の室292−5 及川ひろみ
 T・F 0298−57−3054
 e‐mail:sisitsuka@muf.biglobe.ne.jp
 http://www1.accsnet.ne.jp/~northfox/ooike/
●活動場所
茨城県土浦市宍塚大池周辺の里山
●設立の経緯
1987年開発計画が新聞に乗ったのを機に、毎週土曜日の観察会を開始した。1989年保全を求めて、宍塚の自然と歴史の会として発足した。
●活動の目的
1)地権者にとって保全することがプラスと考えられる保全のあり方を考える。
2)生物の多様性を維持できる環境の保全。
3)子ども達が自然とふれあう場にする。
4)心のふるさととしての保全。
●活動内容
・「里山さわやか隊」
 〜里山保全の実践(谷津田グループ・ハス刈りグループ・ごみ拾いグループ・縄文の森グループ・観察路グループ)
・谷津田米オーナー制〜農家支援、米の産直
・「里山ふれあい農園・果樹園」〜休耕田の耕作、農園・果樹園の経営
・「田んぼ塾」〜田んぼの耕作・里山保全の学習
・「歴史部会」〜里山の暮らしの聞き書き、資料の収集
・「子ども部会」〜環境教育、生涯学習の実践・自然教室(学校とタイアップ)
・「観察会」
第1日曜テーマ観察会・土曜観察会(月例観察会、毎週土曜の観察会、年80回以上)
・調査活動(植物、キノコ、蜻蛉、蝶、両生類、爬虫類、野鳥、哺乳類、水質・・・)
・出版活動 
 「どんなところ?宍塚の里山―茨城県土浦市―」「聞き書き 里山の暮らし―土浦市宍塚」他
・会報「五斗蒔だより」月刊116ページ
・展示会―市文化祭・公民館祭りなど年10回
・イベント 春の里山祭・収穫祭など年数回 
・シンポジウム・土曜談話会―里山について学ぼう
・行政とのパートナーシップ・保全の要望
●組織
 会長、副会長(3名)、会計、監査、顧問、各部・塾長
●会員数
 個人会員550人 法人会員4団体
●会費
 個人:年会費1500円 法人:年会費1万円

 

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