六ヶ所再処理工場から放出される放射能による被ばく
「0.022ミリシーベルトだから安全」は本当か?


2006年3月7日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

 六ヶ所再処理工場に係わる安全協定(素案)では、放射能放出量の管理目標値が挙げられている。この値は、事業(変更)許可申請書の放射能放出量をそのまま引き写したものである。申請書では、その放出量による被ばく線量を最大で0.022ミリシーベルト(mSv)とし、原発敷地境界での線量目標値0.05mSvを下回ることをもって、再処理工場の日常的運転を安全なものとみなす判断の根拠としている。
 原燃は、「0.022mSvを規制値としているので安全」をアクティブ試験実施、さらには本格運転が可能だとする根拠としている。県主催の県民説明会でも、原燃は「0.022mSvだから安全」と繰り返した。この論理を批判することが、重要な課題として浮上している。
 まず確認しておかなければならないのは、0.022mSvという数値に関係なく、いかに「微量」であっても放射能は危険であり、放射能を放出すること自体、そもそも許されない。この点を踏まえた上で、次の3つの観点から批判する。

[1]被ばく線量の0.022mSvは、さまざまな仮定に立って計算された数値である。膨大な放射能が大気と海水に、なにごともなく静かに拡散していくことがまずは前提とされている。ヨウ素などは不思議にも海には比較的わずかしか出ないようにされている。ヤマセのような冷たい空気による逆転層によって放射能が地面に戻されることは考慮されていない。さらに、濃縮係数や食品の量などが比較的低めに仮定されている。このようなさまざまな都合のいい仮定に立つ反面、イギリスやフランスで実際に見えている恐ろしい現実が考慮されていない。従って0.022mSvの基礎になっている放射能の放出量や挙動等を批判することが重要である。

[2]被ばく線量の0.022mSvというのはそもそもそれほどとるに足りない被ばく線量なのだろうかという根本的な問題がある。被ばくの危険性は通常、ガン死と白血病によって表現されているが、1mSv被ばくしたときのガン死の数はどのような事実に基づいて評価されているのかが問題になる。特に現行の法令が基礎にしている、国際放射線防護委員会(ICRP)の評価方法には大きな問題がある。それは基本的に広島・長崎での外部被ばくの評価に基づいているが、それでは、セラフィールド再処理工場周辺で多発している小児白血病が全く説明できない。内部被ばくには別の考察が必要となる。
 さらに、放射線の人体への作用は、遺伝子の破壊・変質である以上、ガン死までいたらなくてもさまざまな健康破壊をもたらす。ただし、その効果は定量的に表現されていないだけである。大気と海への微量な放射能はそれに接するあらゆる人たちの健康破壊をもたらすことは否定できない。

[3]六ヶ所再処理工場から大気と海に放出される放射能は、通常の原発施設に照らして信じられないほどに膨大な量であり膨大な毒性をもつ。海洋への放出放射能量は年間47,000人の経口致死量に相当し、大気への放出量は5,700人の吸入致死量相当する(「三陸の海を放射能から守る岩手の会」による試算)。さらに、原発重大事故のおよそ20回分のプルトニウムが1年間に放出される。スリーマイル島原発事故で放出された全希ガスの3.6倍のクリプトン85が1年間に放出される。希ガス、トリチウム及び炭素14は何の除去措置をとることなく全量が大気と海に放出される。これは政府公認の犯罪行為というべきではないだろうか。

 ここでは、上記のうち、まず[1]の問題についていくつかの点を具体的に指摘する。次に、[2]のガン死の評価の由来について述べ、それが大きな制約のもとにあることを説明する。けっして0.022mSvだからとるに足りないなどとは言えないということを指摘する。 [3]の問題のうち炭素14などが除去されずに全量放出されることについては[1]の問題の中で触れる。

[1]0.022mSvはさまざまな恣意的仮定の上に計算された数値にすぎない

1.これまで160億円もの費用をかけて除去技術を研究しながら、なぜ、クリプトン85の全量を大気へ放出するのか?


 日本原燃は、クリプトン85などの希ガスについて、何らの除去措置をとることなく、全量を環境に放出しようとしている。2001年(H.13)7月の変更申請書では、「希ガス、炭素-14及びトリチウムの回収・固定化、貯蔵保管については、実用段階において総合的に実証された技術は確立されていない(7-4-2頁)」としている。全量放出の理由である「技術は確立されていない」という記述は、今から15年も前の1991年(H3)7月の申請書からずっとそのまま続いている。
しかし、これまで、クリプトン85の除去技術開発のため、日本原子力研究開発機構(旧・核燃料サイクル開発機構)に多額の国家予算がつぎ込まれており(1983年〜2003年の約20年間で160億円)、クリプトン85を除去することは基本的に可能になっていると言われている。
 それにもかかわらず、原燃は15年間ずっと、「技術は確立されていない」と言い続け、結局、クリプトン除去装置を付けずに六ヶ所再処理工場の運転を始めようとしている。その背景にあるのは、全量放出してしまった方が安上がりだという経済的な動機以外には考えられない。原燃は、クリプトン除去技術を導入した場合にかかる費用と、そのことによって減らすことのできる人の命の価格をどう比較したのか、明らかにすべきである。
 また、何らかの理由で除去技術が使えないというのであれば、除去技術が使えるようになるまで、再処理工場の運転はやめるべきである。

※ICRPによる放射線防護の基本的枠組みに、「すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべき(ALARA)」という考え方がある。この考え方は、被ばくの低減措置をどこまで取るかは、それに要したコストと、それによって救われる人命の価格が釣り合うかどうかを判断して決定している。例えば、クリプトンを除去することに100億円かかるが、そのことによって年間100人の人が助かるとしよう。この場合、一般的な1人当たりの慰謝料を5000万円とすれば、救われる命の値段=慰謝料の総額は50億円となる。100億の設備投資をして、50億円分の人命では釣り合わない。それならば、クリプトンを除去しない方が合理的だという考え方である。つまり原子力産業は、人の命や健康をすべて金銭に置き換えて計算し、どこまで被ばくを低減するかを決めているのである。

2.セラフィールドでは炭素14を除去しているにもかかわらず、六ヶ所では全量放出。なぜ炭素14を除去しないのか?

 日本原燃は、先に述べたように炭素14についても「技術は確立されていない」という理由で全量放出するとしている。その結果、例えば米1kg当たりに90ベクレルもの炭素14が入り込むことを原燃は認めている。
 しかし、イギリスのセラフィールドでは、1990年代の初めから、炭素14は苛性ソーダを用いて除去凝縮し、セメントで覆ってドラム缶づめにされるような措置がとられているという。申請書では、「なお、トリチウム、希ガス及び炭素―14の回収・固定化、貯蔵保管技術については、今後の研究開発の成果を考慮しつつ、その適用可能性の検討を行う」と述べているが、このような記述が1991年以来今までずっと続いている。
 「実用段階において総合的に実証された技術」とはいったいどんな技術のことなのか。「今後の研究開発の成果」の「今後」とはいつの時点から見ての今後なのか。イギリスでは1990年代初めから炭素14の除去技術が実際に適用されているというのに、なぜ六ヶ所でも同じように除去できないのか。その理由は、クリプトンと同様、経済的なものではないのか。
 除去技術が開発中というのであれば、それが完成するまで再処理工場を動かさなければよい。そうすれば、青森の米に炭素14が新たに含まれることもなくなり、農業者の不安も少しは解消されるであろう。

3.大気拡散の解析において、ヤマセによる逆転層の影響は考慮されているのか?

 六ヶ所再処理工場の周辺地域では、夏場にヤマセと呼ばれる東風が吹くが、この海からの冷たい風は低い気温の逆転層を形成する。上空にできた冷たい空気の層によって、大気は上から蓋をされたような状態となり、排気筒から放出された放射能は逆転層で反射されて地上に戻され、地上での放射能濃度は高くなる。ところが原燃の大気中に放出された放射能の拡散解析では、このような、現地特有の気象条件がまったく考慮されていない。

4.ラ・アーグの技術を導入しているはずなのに、六ヶ所から海洋に放出されるヨウ素の量がフランスよりはるかに少ないのはなぜか?


 六ヶ所再処理工場から海洋に放出されるヨウ素の量(管理目標値)は、ラ・アーグ再処理工場から実際に放出されている量に比べて相当に小さく想定されている。ラ・アーグの放出量について、再処理量を800トンに換算して計算すると、六ヶ所の海洋放出量は、ヨウ素131でラ・アーグの約29分の1、ヨウ素129で約20分の1になる。(参照
 半減期がわずか8日と短いヨウ素131については、使用済み核燃料中にはほとんどない。再処理工場内の高レベル濃縮廃液貯槽などで発生したものの大部分がそのまま海洋へと放出されることになっている(申請書第4.2-3図)。つまり、ヨウ素131の場合、発生量自体がラ・アーグよりも相当低いと仮定されていることになる。
 半減期が1570万年と非常に長いヨウ素129については、日本原燃は使用済み核燃料中のものの大部分を大気への経路に追い出し、高性能のフィルターで1/250に低めて大気中に放出する(申請書第4.2-2図)。残りが海洋に放出されるため、ラ・アーグと比べると海洋分が低くなる。その結果、大気と海洋への放出量を足しあわせた全放出量で比較しても、ラ・アーグよりも放出量は少なくなっている。全放出量で比較した場合でも、ヨウ素129の放出量はラ・アーグの16分の1である。この違いは、ヨウ素の液体中から気体への追い出し技術、及び濾し取るためのフィルターの性能がフランスよりもはるかに高いという以外に考えらないが、なぜこのような違いが生じるのか一切説明されていない(ちなみに炭素14はすべて気体として放出されることになっているが、なぜすべてが気体になるのか何も説明がない。イギリスのセラフィールドでは炭素14は海水中に相当量が出ている)。
 ヨウ素131の発生量がなぜ少ないかの説明は何もない。ヨウ素129について、六ヶ所はラ・アーグの技術を導入しているはずなのに、このような違いが出るのはおかしい。海洋へのヨウ素放出は、海草での濃縮率が高く被ばくへの寄与度が大きくなる。原燃は、被ばく線量を低く見積もるために、ヨウ素の海洋放出量をごまかし低く見積もっている可能性がある。
 また、ヨウ素の他に海草での濃縮率が高く寄与が大きいルテニウム106などの放出量もラ・アーグに比べて低く設定されている。これらの放出量がラ・アーグ並だとすれば、被ばく線量は0.022mSvより高くなることは明らかだ。
 もうひとつ重要な点は燃焼度の問題である。ラ・アーグで扱っている使用済み核燃料の燃焼度は約3万MWd/tである。ところが六ヶ所再処理工場で扱う予定の使用済み核燃料では、燃焼度が約4万5千でラ・アーグの1.5倍もある。一般には燃焼度が上がるとそれだけ中に含まれている放射能量も多くなる。燃焼度の違いを考えれば、六ヶ所の放出量の少なさは、より信じがたいものとなる。

5.三陸海岸で獲れた海産物から、これまで検出されなかったような放射能が検出されるというような事態は起こらないのか?


 セラフィールド再処理工場による汚染は、イギリス周辺海域にとどまらない。セラフィールドから放出された放射能は、海水に溶け込み、あるいは海水中に浮遊する小さな粒子に吸着して海流に乗り、アイリッシュ海を超え、遠く北極海にまで到達している。(参照
 ノルウェイでも、セラフィールド再処理工場が放出したテクネチウムなどの放射能が魚介類から検出されている。このことは、ノルウェイの主要産業である漁業に打撃を与え、国際的な問題になっている。(参照1参照2
 六ヶ所再処理工場の場合も、放出口の周辺海域だけでなく、三陸からさらにより遠方の地域にまで影響を及ぼすものと考えられる。
 事実、2002年8月に実施したナガスクジラ・プロジェクトでは、実際に放出口真上からハガキを流したところ、岩手県はもちろん、ほとんど東京湾に至る広範な地域にハガキが流れ着いた。三陸の山田町の湾内でもハガキが見つかっている。このことは、原燃のいうように、放射能が一様に拡散してしまうのではなく、親潮前線に阻まれた狭い海域を放射能が流れ、南北に広範囲にわたって沿岸部を放射能が汚染するという現実の姿を示唆するものである。エチゼンクラゲの流れを見ても明らかだ。(参照
 放射能がリアス式の湾内に入り込みそこに蓄積される可能性がある。岩手県などにおいて、これまで検出されなかったような放射性核種が、海産物から新たに検出されるようになったり、あるいは、海中放射能のバックグラウンドの濃度が上昇したりというような事態が起こる可能性は否定できない。(参照
 しかし、原燃の被ばく評価は、放出口近くの比較的狭い領域に限定されている。三陸海岸で獲れる海産物にどれだけの放射能が含まれることになるのか。放射能はどこまで広がるのか。影響が及ぶ範囲についてはまったく評価されていない。日本原燃や国は、三陸沿岸への影響についてはまったく何も具体的に考えていないのである。

6.風に乗って海から陸へ移動する放射能による被ばくは評価されていない。ヤマセによって放射能が陸へと飛んでくることはないのか?


 英セラフィールド再処理工場の事例では、海面に浮遊する微粒子に放射能が吸着して濃縮し、この微粒子が泡や波が砕ける際に宙に舞い、風に飛ばされて何kmも内陸部へと運ばれることが明らかになっている。事実、海岸地帯の人家の床や掃除機の中から、プルトニウムの粒子が発見されている。同じ量のプルトニウムでも、空気中に漂う粒子を吸い込んだ場合の被ばくは、魚介類の経口摂取による被ばくよりもはるかに危険である。(参照
 下北の海岸では、波が高く吹き上がる光景がよく見られ、夏場にはヤマセと呼ばれる東風が海から陸に向かって吹く。セラフィールドと同じような放射能の陸地への吹き戻しが発生するに違いない。しかし、0.022mSvには、風に乗って飛んでくる放射能の問題が一切考慮されていない。

7.地表に落ちてきた放射能の蓄積や、海岸や海底に蓄積する放射能による被ばくは評価しなくてよいのか?

 原燃は、大気に放出される放射能からの被ばく線量の評価において、地表面での放射性降下物の密度などは毎年一定であると仮定している。しかし、地表へ降下する放射能の一部は蓄積し、農産物や畜産物へ移行する放射能量もそれだけ増加するはずである。つまり原燃の評価は、大晦日の除夜の鐘とともに、それまでに降り積もった放射能がきれいさっぱり消えて無くなり、真っさらな状態で次の1年を迎えるとでもいうような、おかしな仮定になっている。
 また、日本原燃は大気に放出された放射能の蓄積だけでなく、海洋放出された放射能の海岸や海底への蓄積についても評価していない。セシウムやプルトニウムといった放射性物質は土壌に吸着し、蓄積されることが知られている。イギリス・セラフィールド再処理工場の周辺海域では、政府機関のモニタリングによって、海底へのプルトニウムの蓄積のために海洋環境中のプルトニウム濃度が下がらないことが明らかにされている。また、アイルランドの政府系の研究機関は、アイルランド近海での魚類中のセシウム137の濃度が低下しない原因は、海底へのセシウムの蓄積が原因であるとしている。(参照
 六ヶ所再処理工場の場合、海岸に打ち寄せられ蓄積する放射能によって被ばくするという経路が考えられる。ラ・アーグ再処理工場周辺の海岸で、子供が遊んだりすることによって、小児白血病発症のリスクが高まるとする調査報告もある。(参照)しかし、原燃の解析では、放射能は海岸で反射され、すべてが海に戻っていくと仮定されている。0.022mSvには、この被ばく経路は含まれていないのである。
 また、海底に蓄積した放射性物質が底棲魚介類や海藻に移行し、これを摂取することによる被ばく経路も存在する。セラフィールド再処理工場の周辺では、海底に蓄積したプルトニウムによって、底棲の生物ほど、高濃度に汚染されていることが知られている。(参照)しかし、0.022mSvでは、このような被ばく経路も考慮に入れられていないのである。

8.なぜ魚類におけるセシウムの濃縮はセラフィールドの6分の1なのか?

 2月22日の青森県議会全員協議会において原燃は「ヨウ素は海水濃度に対して魚で30倍」に濃縮されると述べている。申請書では、ヨウ素・セシウムに関する濃縮係数は魚類について30とされている。(参照
 濃縮係数とは、海水中の放射能が生物によって何倍濃縮されるかを示すもので、生物1g中の放射能量を、その生物が棲む海水1g中の放射能量で割ったものである。被ばく線量を評価するにあたって、摂取量と共に重要なファクターである。しかし、濃縮係数は一般に、摂餌の形態や、環境中での捕食・被食関係(食物連鎖)の形態等、様々な要因によって容易に変動しうることが知られている。
 事実、イギリスの政府機関が行ったセラフィールド周辺海域でのモニタリングデータから、魚類におけるセシウム137の濃縮係数を計算すると、40〜180、平均82と幅を持ったものとなる。(参照
 また、濃縮係数がどの程度の値を取るかについてはいくつかの研究がある。海水魚に対する値として古い研究では、Frekeの30(1967年)やThompsonらの30(1972年)という低い数値もあるが、各機関の推奨値は、NRCが40(1977年)、IAEAが100(1985年)である。またその他、Postonらの100(1988年)という値もある。新しい研究ほど、濃縮係数は高いものとなっている。(参照)原燃の30という濃縮係数は、60年代の研究と同じ値であり、最低限の数値を採用していると言ってよい。
 セラフィールドでの実態に基づけば、海洋放出のセシウム137からの被ばくは、最大6分1に過小評価されていることになる。
 原燃の30という濃縮係数は最低限の数値であり、現実に即して濃縮係数を設定すれば、被ばく線量は容易に0.022mSvを超え、もっと高くなることは明らかである。

9.1日に6グラムしか牛肉を食べないという設定は妥当なのか?


 大気に放出された放射能の被ばく経路として、畜産物を通じて摂取し内部被ばくするというルートがある。この場合、畜産物をどの程度摂取するのか、その量によって体内に取り込まれる放射能の量が規定され、被ばく線量が決まる。原燃は、0.022mSvの計算において、牛肉の摂取量を一日6グラムとして計算を行っている。(参照)1週間で42グラム、1年間で約2.2キログラムである。しかし、日本人1人当たりの年間牛肉消費量は、現在10kgを超える。最も被ばく線量が高くなる場合を計算しているはずなのに、あまりにも過小な仮定である。事実、2月7日に青森県が公表した「線量評価における食品等の摂取量について」では、牛肉の摂取量は1日20グラムとされている。1日6グラムとは、内部被ばくを故意に低くするための意図的な設定だと言わざるをえない。
 むしろフランスなどでは「決定グループ」という考え方が適用されており、牛肉などを普通の人より多く食べるような典型的な食料摂取の人のグループが被ばく評価の対象として設定されている。さらに幼児の場合は別に考えるべきだ。

10.六ヶ所再処理工場の全操業期間にわたる集団線量は何人Svになるのか? それによるガン死は何人なのか?

 六ヶ所再処理工場は通常運転時でも、原発よりはるかに大量の放射能を放出し、多くの人口集団を被ばくさせることになる。したがって、六ヶ所の場合、被ばく影響を評価するにあたっては、公衆一人当たりの被ばく線量だけでは不十分であり、被ばく影響が確率論的な性格を持つものであることを考慮し、人口集団全体の総被ばく量=集団線量を計算して評価する必要があるはずである。原発の場合、「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」は、仮想事故の場合の集団線量を評価することを求めている。例えば、敦賀2号機の設置変更許可申請書では、1次冷却材喪失事故時の集団線量を690人Svと評価している。現行のICRPのリスク評価(1人Sv当たり0.05人のガン死)に基づけば、およそ35人が事故によって死亡する計算になる。(参照)
 しかし、原燃は、一人当たりの線量=0.022mSvのみを強調し、住民全体としての影響については口を閉ざしている。集団線量が明らかになれば、そこから確実に被ばくのもたらす被害が、具体的な形で明らかになるからである。
 また、クリプトン85などによる皮膚に対する等価線量から、集団被ばく線量を割り出し、操業期間中に何人が皮膚がんになるかを計算して示すべきである。

11.放射線に対する感受性の高い胎児、乳幼児に対する危険性は考慮されているのか?

 原燃の被ばく線量評価は、年齢差や性差、体質等によって個々人毎の放射線に対する感受性に差異があることを完全に無視している。とりわけ、細胞分裂の活発な子どもや乳幼児、胎児が、放射線に対して特別に敏感な感受性を持っていることが考慮されていない。原燃が、評価の対象としているのは基本的に成人である。しかし実際に被ばくする住民の中には、多くの子ども達、妊婦が含まれるのだ。子ども達への被ばく影響や危険性が特別に評価されるべきである。
 文部科学省が運営する原子力情報サイトでは、年齢による感受性の相違と食品摂取レベルの制限について次のように述べられている。「一般公衆の中には、新生児から老人までのあらゆる年令層が包含されている。年令により、身体的、解剖学的標準値がことなるほか、核種の代謝や食品摂取の実態も異なる。国によっては、誘導介入レベルに年令別の補正を試みている。一般公衆をまもる立場からは、年令別の線量換算係数の設定が強く望まれるところである」。(参照
 原子力安全委員会報告書「原子力発電所等周辺の防災対策」では、プルトニウムおよびアルファ核種の野菜・肉等における摂取制限となる濃度を区別し、1キログラム当たり大人10ベクレルに対して、乳幼児では1ベクレルとしている。このような事情を原燃はまったく考慮していない。

[2]0.022mSvは本当にとるに足りない線量なのか

 六ヶ所再処理工場が周辺にもたらす被ばくの影響はいかなるものか? これを理解するためにまずやるべきことは、イギリスのセラフィールド再処理工場周辺で発生している事態を直視する必要がある。広島と長崎の原爆被爆者の調査から導かれた被ばくのリスクと、数々の仮定を重ねた被ばく線量の数値に、そしてそれらの予測に、運転開始か否か判断の全てを委ねるのではなく、実際の再処理工場の周辺で起こっている現実をまず直視すべきである。

 1983年に地元テレビ局がセラフィールド近郊で小児白血病が多発していることを放送すると、それは英国全体を揺るがす大問題となった。放映後、サッチャー首相は調査のための特別委員会設置を命じた。その特別委員会は結論を出せず、「環境放射線の医学的側面に関する委員会(COMARE)」がそれを継承し、既に10回もの報告書がだされている。結果として、全英平均の10倍以上という頻度で小児白血病が過剰に発生している事実については英国政府を含め誰もが認めざるを得なくなっている。しかし、それが再処理工場からの放射能によるものだという因果関係については、英国政府は完全にはねつけている。その理由は計算される被ばく線量はそのような白血病の過剰発生をもたらすにはあまりにも低すぎるから、というものである(この論理にしたがうと、白血病の子供の人数が増えれば増えるほど、ますます強力に放射能の影響ではないと主張できることになる)。

 青森県は英国の再処理工場周辺で小児白血病が過剰発生しているという事実を認識しているのだろうか。そして放射能との因果関係が今も否定されていることも認識しているのだろうか。

 六ヶ所再処理工場が稼動してもそれがもたらす被ばくは最大0.022mSvであり、年1mSvの基準を十分に下回っていると青森県は説明している。ここでは1mSvという基準、その背景にある1Svの被ばくによる一般公衆の致死的ガン発生のリスクは5%(0.05/Sv)であるという主張の基礎、そして、これらを六ヶ所再処理工場での被ばく評価に適用することについての疑問をまとめる。

1.2万人に一人のガン発症を容認する年1mSv基準

 現行の法令がよって立つ国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告は、1Svの被ばくによる一般公衆の致死的ガン発生のリスクは5%(0.05/Sv)であるとしている。すなわち、20人が1Svの被ばくをすると、そのうちの一人がその生涯のうちにガンを発症すると言う主張である。0.1Svの被ばくならば200人に一人が、0.01Svならば2000人に一人が、0.001Svの被ばくならば20000人に一人がガンになる。すなわち、年1mSv(=0.001Sv)という限度は2万人に一人がガンを発症する程度の被ばくならば容認しなさいということと同義である。

 1Svのリスクは5%(0.05/Sv)という主張の基礎は、広島と長崎の原爆被爆者の調査研究である。実はこの調査からは1Svのリスクは10%(0.1/Sv)であることが導かれているが、国際放射線防護委員会は広島と長崎では原爆による極短時間の被ばくであるのにたいして、実際の放射線防護では長時間にわたるじわじわとした被ばくが予想されるので、ある種の回復効果を見込んで1/2にしたのであった。じわじわと浴びる方が安全というのは本当か?全米科学アカデミーがまとめた報告書(BEIR Z)によると発ガンリスク係数として1Sv当り10%を推奨している。法令の基礎は2倍の過小評価を含んでいることになる。

 青森県は再処理工場の操業を認めるに際して、基本的な考え方として、年間1万人にひとりとか2万人にひとりの発ガンは仕方がない、そのような犠牲を県民に強いてもいいと考えているのだろうか?これを自覚した上で、年間1mSvという基準に言及しているのだろうか?
 年0.022mSvで計算しても、再処理工場が40年間操業をつづけるとするとほぼ1mSvになる(0.88mSv)。このような長い期間であれば何万人かに一人のガンの増加は取るに足らないものとして青森県は考えているのであろうか。最終的意志決定を県知事が行うとして、現在の選挙民から選ばれた知事に将来の人のガンまで左右させる権限がどうして与えられるのだろうか。


2.広島と長崎の経験から導かれる放射線リスクとは

 放射線リスクの議論では、広島と長崎の原爆被爆者の調査から導かれた致死的ガン発生のリスクが他の被ばくのケースにも一般化されている。被爆者の間では1Sv当り10%というガン発生リスクであっても、それを他の異なる条件におかれた人々に適用するのは簡単ではない。原爆被爆者は、あの厳しい戦争の時代を生き延び、被ばく後の最も過酷な時期を乗り越え、そして残念ながらガンや白血病、あるいは他の原因で亡くなっている。すなわち、ガンや白血病を発症したのは、逆説的に聞こえるかも知れないが、基本的に健康で丈夫な人たちなのでなる。より弱い人たちは、当時の劣悪な環境の下、ガンや白血病になるよりも以前に、外傷やより一般的な疾患で大勢亡くなっている。すなわち、この調査に参加できている多くは相対的に健康で体力のあった被爆者であり、調査対象が全体を代表していないことになる。これは「戦争生存者効果」と呼ばれており、放射線による発ガンのリスクを過小評価させることは知られているものの、未だ定量的には解決されていない。このような「戦争生存者効果」を考慮すると、リスクは1Sv 当たり10%より相当に高いと言えるだろう。アリス・スチュアート氏は、リスクが押し上げられる可能性を指摘している。
 また、ここに言う放射線リスクは致死的ガン発生のみを考えているのであって、皮膚ガンや他の疾病については全く考慮されていないことに注意が必要である。放射線被ばくがもたらす被害は、ガン・白血病だけではない。未だ全面的に解明されていないが、被爆者の証言や調査から、放射線が、心臓疾患や高血圧など循環器系の疾患、気管支炎などの呼吸器系疾患、免疫の低下や不全、発熱、倦怠感等々、全身に様々な症状を引き起こす原因となっている可能性は否定できない。多くの被ばく者が苦しむのは、ガン・白血病だけではなく、さまざまな健康被害なのである。広島・長崎の被爆者は、いわゆるブラブラ病のような症状に苦しめ続けられてきた。放射線による免疫の低下等によって、外傷の治癒の遅れや、感染症等が引き起こされ、多くの命が奪われた。しかし、これらの被害は、ガン・白血病ではないという理由で、現行のリスク評価には反映されていない。ガン・白血病は、被ばくがもたらす被害の氷山の一角に過ぎない。その水面下には、様々な健康被害が、巨大な塊となって必ず存在する。これらの健康被害を考慮していないという点で、現行の放射線リスクは根本的に過小評価されていると言わざるをえない。

 青森県は、1Svの被ばくによる一般公衆の致死的ガン発生のリスクは5%(0.05/Sv)であるという現行法令の基礎が、広島と長崎の原爆被爆者の調査から導かれたものであることを承知しているのだろうか?この放射線リスク係数には「戦争生存者効果」が考慮されていないことを承知しているのだろうか? また、致死的ガン以外の皮膚ガンや他の疾病については何も考慮されていないことを承知しているのだろうか?

3.広島と長崎の経験をそのまま再処理工場に適用できるか?-内部被ばくの危険性を重視するべきである

 英国政府はセラフィールド再処理工場周辺で小児白血病が過剰に発生していることを認めているものの、それと再処理工場が放出する放射能との因果関係は頑なに否定している。その根拠は計算される被ばく線量はそのような過剰発生をもたらす線量よりも低いから、というものである。そして白血病多発の原因として域外からの住民の流入によるウイルス説を上げている。しかし、二十年以上たっても関連するウイルスすら見つかっておらず、全く説得力を欠いたままになっている。ここでの発ガンのリスク計算には広島と長崎の調査結果が使われている。
 最近になって、全く別の主張が現れている。それは欧州議会内の緑グループが中心になって設立した欧州放射線リスク委員会(ECRR)によるものである(欧州放射線リスク委員会2003年勧告)。同委員会は、まず小児白血病と再処理工場からの放射能との因果関係を認定し、その発生率に応じて、被ばく形態の違いを考慮すべきだとの立場に立っている。すなわち、同じ線量であっても内部被ばくが問題となる再処理工場のもたらす被ばくの方が原爆による被爆よりも何倍も危険であるという主張である。
 そのためには、線量の意味にさかのぼって考え直す必要がある。被ばく線量は生体の単位質量当たりに付与される放射線のエネルギーとして計算される(実際には放射線の種類や臓器・組織の放射線感受性の違いを考慮して各々修正係数で2重に荷重される)。この計算に関して、内部被ばくと外部被ばくとを完全に区別して評価すべきであると欧州放射線リスク委員会は主張している。例えば肺について考えると、レントゲン撮影のような外部被ばくでは肺は一様に照射されるので、肺の被ばく線量としては肺が吸収した放射線のエネルギーを肺の重量で割ればいい。しかし、プルトニウムを含む微粒子を肺が吸引した場合にはそれが沈着した部分の周辺部(直径数十マイクロメートル)のみが照射されるのであって、その外側の部分に放射線はとどかない。この場合もその局所の吸収エネルギーを1kgもある肺全体の重量で割れば、線量は低いものになってしまう。しかし実際にはその局所のダメージは大きく、そこからガンが発生する可能性が高いと考えられる。すなわちこの場合は、局所の吸収エネルギーを肺全体でなくその局所だけの重量で割ったものをもって被ばく線量と考えるべきである。
 身体に一様な被ばくを、一回の外部被ばくとして経験した広島と長崎との調査から導かれた放射線リスクと、体内に取り込まれた放射能による永続的な被ばくを局所的にうける内部被ばくによる放射線リスクとを比べると、後者の方が格段に危険であり、これによって初めてセラフィールド周辺での小児白血病の過剰発生が説明されることになる。

 英国セラフィールド再処理工場周辺では、被ばく線量は低いと言われながらも、小児白血病が多発している。そして、英国政府は線量が低いことを理由にして小児白血病と再処理工場による被ばくとの因果関係を認めていない。青森県はこのことを承知しているのだろうか?六ヶ所再処理工場周辺で同様の被害が現れても、同様な論理でもって、日本原燃や日本政府は県民の訴えを退けるであろう。青森県民の生命と健康に責任を持つ青森県当局は、このことについてどのような責任をとるのだろうか?