漁師達は核廃棄物に怒りをあらわにしている
Fishermen vent anger at nuclear waste


2003年4月15日 BBCオンラインニュース
Jorn Madslien BBCオンラインニュース経済部通信員、ロフォーテン、ノルウェー



 ノルウェーの漁師達のグループが、海中への放射性廃棄物の放出について議論するため、今週セラフィールド近辺の会議で英国核燃料公社(以下BNFL)と顔を合わせている。漁師達は、海流によってアイリッシュ海から北海へと運ばれた廃棄物が、海洋生物を汚染していると考えているため怒っている。BBCオンラインニュースは、彼らの主張点を明らかにする。
北極圏極北地方の、非常に高い山々と波立つ海の間に身を割り込ませた小さな漁業集落は、人々が自らの生存そのものが危険にさらされることになると恐れている、あらたな脅威に直面している。北部ノルウェーの沿岸地方のちょうど沖にあるロフォーテン諸島の片田舎に住む25000の人々は、彼らを取り巻く海に(生計の手段を)頼っている。
 そして、ここ、海に脅威が存在するように感じられるのである。

目に見えない危険性
 1990年代の後半の間中、科学者達はノルウェー沿岸の海洋生物の間で放射性廃棄物の濃度が急激に上昇していることを確認した。少なくとも今のところ、魚や海産物は食べても安全であることは全ての人々が同意すると思われる。しかし、ノルウェーの漁師達は、(放射能濃度の)上昇がこの主要な食べ物への(消費者の)不安を引き起こすのではないかと憂慮している。「ノルウェーの魚は世界中で最も汚染が少ない」と漁師Hans Nybakkは、BBCオンラインニュースに語った。「しかし、(ノルウェー産の)魚や海洋生物が危険物質で汚染されていると世界市場が考えたなら、我々から魚を買おうとは思わなくなるだろう」と漁師仲間のHaakon Solheimは付言した。「海と海がもたらしてくれるものがなかったら、我々がここでは生きていけないということはきわめてはっきりしている」

認定された容疑者
 漁師達は、自分たちの災難が誰の責任で生じたものであるかを知っている。北海の核汚染は肉眼で見えるものではないが、その根源を突き止めるのは容易なことである。すなわち、それはイギリス北西部のカンブリア地方にあるセラフィールドの核廃棄物の再処理工場である。放射性廃棄物は、メキシコ湾流に乗ってノルウェー沿岸まで北上し、魚や甲殻類、海草の中に蓄積される。ノルウェーの海水に対するこのような意図的な汚染により、ノルウェー政府はこれを防ぐための行動を起こしている。「我々は北極に至るあらゆるところで、数多くの海洋生物種において放射能のレベルの上昇を検出している」と環境大臣Boerge BrendeはBBCオンラインニュースに述べた。「この汚染はが、まったく必要もないのに、隣国の食物資源を汚染する隣人が起こした問題であることは議論の余地がない。」「(BNFLは)このようなやりかたで放射性廃棄物を扱う(海中に放出する)必要はない。そうではなくて、単に陸上で貯蔵し汚染を起こさないようにしておくべきだ」。」

苦しい産業界
 魚や海産食品は、毎年310億ノルウェークローネ(27億ポンドまたは43億米ドル)を稼ぎ出す、ノルウェーでは2番目に額の大きい輸出品であり、したがってこの汚染問題はノルウェー国中の沿岸に住む人々全体にとっての問題なのである。すでに日本の魚の輸入業者は、ノルウェーについての懸念を示している。また、健康食品や化粧品会社によって販売されたり動物の餌として使用される製品を作り出すノルウェーの海草関連の産業は、不安を覚えた消費者から問い合わせを受けている。
 汚染された海は、クリーンな旅行先というノルウェーのイメージにもダメージを与えており、そのことがスカンジナビア・チョイス・ホテルの総支配人Petter Stordalenを怒らせ、彼はセラフィールド再処理工場の門外で環境保護の活動家として(行動に)参加した。「息子と一緒に釣るカニや、私が食べるロブスターは、すでにセラフィールドからの放射能によって汚染されている」とStordalen氏はBBCオンラインニュースに語った。
「私は沿岸部にたくさんのホテルがあるノルウェーの旅行産業にしっかりと根をおろしており、また私にはここで育っている息子がいるのだ。」

危険なし
 セラフィールド再処理工場の所有者であるBNFLは、テクネチウム99といわれる低レベルの核廃棄物を数年にわたってアイリッシュ海に直接放出しつづけていることを認めている。テクネチウム99にかかわる問題について、「我々はこれを陸上で処分する技術を持ち合わせていない」とBNFLの広報官Nigel MoncktonはBBCオンラインニュースに語った。そして、(陸上処分の)技術が開発されるまでテクネチウム99を貯蔵しておくことは、英国原子力施設検査局がBNFLに対し廃棄するよう圧力をかけてきているため選択肢としてはありえない。「絶対確実な方策ではないため、必要以上に長く液体の状態での陸上保管をすべきではない」とMonckton.氏は説明した。したがって、BNFLに残された最もダメージの少ない選択肢は、水中に廃棄物を放出する、「リスクが誰にも出ない」放出を行うことだと彼は述べた。「我々が行っていることは、国内法にも国際法にもまったく抵触していない」とMonckton氏は述べ、この放出はイギリスの環境庁の勧告に従ったものだと付け加えた。なお、BNFLのテクネチウム99の放出は、徐々に、または急速に減少しているとMonckton氏は強調した。(放射能)放出の根源である再処理工場は2012年までに閉鎖されるだろう。2020年までに、新しい法律が放射能放出に対してもかなり多くの規制をかけるであろう。

潜在的なリスク
 BNFLは自分たちの所業について一切謝罪しようとしない。「我々はこの問題について、近隣諸国の人々が反対している問題だとみなしているが、その背後に合理性があるとは見ていない」とMonckton氏は主張した。実際、テクネチウム99の放出はほとんど無害であるというBNFLの主張は、ノルウェー放射線防護局(The Norwegian Radiation Protection Authority、NRPA).という思いもよらないところから支持を受けた。「現在のところ、ノルウェーの海産物を食べても危険ではない」とNRPAの上級科学者Anne Liv RudjordはBBCオンラインニュースに述べた。その結果、消費者達が海産物の購入やノルウェーでの休暇をやめる理由はないのだとMonckton氏は主張した。「人々が認識しているものは、その人々にとっての問題となるような事柄であり、われわれがそれに答えることはできない」と彼は述べた。

潜在的な危険性
 しかしノルウェー沿岸の汚染の問題は(ノルウェーの人々にとって)納得できない状態が続いている。「もし放射性廃棄物が、イギリス人が言うように安全ならば、彼らはなぜ埋設処分を行わないのか? なぜ陸上で貯蔵しないのか? もしこの廃棄物が危険でないのであれば、自分たちで食べることだってできるだろうに」とthe Norwegian Coastal People's Partyの指導者であり国会議員でもあるSteinar BastesenはBBCオンラインニュースに述べた。実際のところ、NRPAでさえ、とりわけ廃棄物の放射能が半減するまでに21万3000年もかかることから、テクネチウム99が人間の健康や海中生物に潜在的な長期的影響を与えるという点に懸念を抱いている。Rudjord氏は、テクネチウム99の陸上保管が余りに危険すぎて実行できないのであれば、海中に放出するのも同様に危険であると主張した。「(テクネチウム99の)海中への放出がもたらす結果は、実施可能な陸上保管を行った場合の結果よりもさらに悪いものとなるだろう」と、現在の規模では液体廃棄物からテクネチウム99を除去するために適用できる技術はないというBNFLの主張を退けるように、彼女は述べた。