関西電力の「企業文化」とプルサーマルに関する質問書


2004年7月22日

関西電力社長 藤 洋作 様

 貴社は現在プルサーマルの準備作業を進めており、7月12日にはコジェマ社に関する監査結果を公表しました。しかし他方、プルサーマルと不可分の関係にある再処理の推進をめぐってはコスト比較を隠していたという重要な問題が明るみに出てきました。また、火力発電所検査記録のねつ造・改ざん問題は、貴社の品質保証体制全般に疑問を投げかけています。さらに、過去のBNFLデータ不正事件は、未だに、現在のプルサーマル推進体制に深い疑問を提起しています。
 これらは一口に言えば、貴社の「企業文化」に関する問題だと思われますので、以下その内容について具体的に質問します。各質問項目の中にある質問のそれぞれに即して答えてください。2週間以内に回答の場を設定していただくよう要請します。

1.電事連も使用済み核燃料の直接処分コスト試算を隠していたことについて
 使用済み核燃料直接処分のコスト試算が隠されていたことについて、原子力長期計画策定会議でも、青森県議会でも強い批判の声が出されています。
 電気事業連合会は7月7日、「原子燃料サイクルの経済性に関する過去のケーススタディについて」という文書を発表しました。そこでは、「平成6〜7年度に・・・各社の原子力部門のメンバーで構成されている検討会を開き、直接処分を含むケーススタディを行っていたことがわかりました」となっています。
 貴社は電事連を構成する企業であるのですから、この問題について明確に答えてください。

(1) 電事連が過去に直接処分のコスト試算を行っていたにもかかわらず、そのことを隠し続けたまま再処理路線を推進してきたことに対し、まず謝罪すべきではありませんか。

(2)上記文書では、「六ヶ所再処理事業を積極的に推進してまいります」と意志表明をしています。しかし、再処理事業には膨大な費用が必要であり、その費用は国民に負担を求めているのではありませんか。それでも電事連としては、サイクル路線について、国民的議論は不要であり、独断的に決定できると考えているのですか。

(3)他方、電事連は今年になって再処理に必要な費用の試算を当事者として公表しました。これは、再処理に関して国民的議論の必要性を認めているためだと思われます。そうであるなら、直接処分とのコスト比較の試算についても、再処理工場の建設に進む前に公表すべきだったのではありませんか。

(4)貴社は、再処理や核燃料サイクルは「国策」だとしばしば強調してきました。ところが、私たちが今年6月7日に原子力委員会の近藤委員長など3名の委員と出会ってこの点を確かめたところ、電力会社がこれら政策を進めることを「期待する」と言うにとどめただけでした。そこで質問するのですが、再処理をするのが電力会社の義務だという国策は、国のどの法律または計画に書かれているのですか。そのことが具体的に書かれている文書を示してください。

(5)新長計の策定会議でも、再処理と直接処分について今後検討が始められます。いまの段階で、原子力委員会は今後も再処理を進めていくとは一言も言っていません。直接処分の方が国民負担が低いことからすれば、再処理ではなく直接処分の路線を選ぶ可能性があることを認めるべきです。そうである以上、少なくとも、長計策定の議論が終了するまでは、再処理と不可分な関係にあるプルサーマルのMOX燃料製造に向けた準備作業をすべて凍結すべきではありませんか。

2.火力発電所検査記録のねつ造・改ざん及び原発・プルサーマル問題に関して
 貴社の全ての火力発電所11基で、定期事業者検査の検査記録がねつ造・改ざんされていたことが明らかになりました。またこの問題は火力発電部門だけの問題ではなく、BNFL事件から明らかなように、貴社の「企業文化」と言わざるを得ません。

(1)火力発電所の問題そのものについて
 (a) 今回発覚した火力発電所での検査記録の不正事件では、11機の火力発電所全てで、3659件もの不正がありました。検査をしていないのに検査をしたようにデータをねつ造したり、測定値が管理値から外れた場合には、管理値そのものを書き換えたり等々です。 中でも、今回の不正発覚のもととなった関空エネセンの「定期自主検査結果」については、検査日を大幅に書き換え、国の検査第1日目終了後に、口裏合わせのために文書登録データを削除する等の大規模な不正が行われていました。そして、貴社の6月28日付「報告書」14頁では、結果として「過去の定期事業者検査実施時に『定期自主検査結果』が作成されていたか否かについて、確定することはできなかった」と結論づけられています。この結論は、安全管理の確認ができない程に、大がかりな不正が行われていたことを意味します。貴社の体制がこのような「企業文化」ともいうべき状態にあったことは確認できますか。
 (b) 火力発電所の検査記録のねつ造・改ざんについて、貴社の6月28日付「報告書」では、今回の事件の原因として「品質システムに関わる火力部門のトップマネジメントの指導不足」があげられています。それでも責任は「火力部門」だけにあるということですか。火力部門のトップマネジメントを監督するべきトップマネジメントはどのようになっているのか、会社規定の図式で示してください。
 (c) 責任は「火力部門」だけにあるとすれば、BNFL事件の時の貴社の教訓であった「担当部署のみで判断していたのが問題」という教訓は生かされていなかったということですか。
 (d) 6月28日の記者会見には社長は出席しませんでしたが、なぜですか。社長に責任はないのですか。ないとすればなぜですか?
 (e) 貴社が社長を委員長にコンプライアンス委員会を設置したのは、2002年11月です。その最中にも検査記録の不正は行われていました。このことは、火力部門だけの問題ではなく、貴社全体の問題、社長の責任問題ではないのですか。

(2)火力発電での不正事件を教訓とする、原発、プルサーマルの問題
 (a) 原発の検査記録について、調査を行わないのですか。
 (b) 調査しない場合、原発の検査記録にねつ造・改ざんはないと断定できるのですか。断定できる根拠は何ですか。
 (c) 貴社は昨年10月23日にプルサーマル再開に向けて「品質保証体制は改善された」との報告書を出しました。しかし、同時期に火力発電所では検査記録のねつ造・改ざんが行われていました。プルサーマルだけ「品質保証体制は改善された」とする根拠は何ですか。トップマネジメントは両方に監督責任をもつのではないのですか。

3.7月12日付「海外MOX燃料調達に関する品質保証システム監査結果について」と今後のプルサーマル推進計画について
 貴社は7月12日に上記文書を発表し、MOX燃料製造の元請会社(原子燃料工業)と製造会社(コジェマ社)の品質保証システムは「適切である」と結論づけました。その中で、「BNFL問題再発防止対策の確認結果」では、コジェマ社を例にとれば、異常な事態が発生したときには速やかに元請け会社に連絡する」、「製造期間中に実施する現場確認、データチェック等の活動に協力する」に関しては、コジェマ社の品質保証システムの中に「反映される枠組みがあり、本契約締結後にその具体的内容が規定され、実施されることを確認した」と書かれています。

(1)コジェマ社への監査結果について
 (a) 上記の「枠組みがある」とはどういうことを意味しているのですか。
 (b) 上記文書13頁の「5.5.3 BNFL問題再発防止対策の確認結果」の中で、「当社が製造期間中に実施する現場確認、データチェック等の活動に協力する」ことについて、コジェマ社の品質保証システムの中には、「枠組みがあ」るだけで、現在は品質保証システムの中に規定されていないと書かれています。すなわち、コジェマ社は現在、貴社が現場を確認したり、データチェックをすることを了解していないということですか。
 (c) コジェマ社が了解していない理由は何ですか。
 (d) 異常な事態が発生したときの速やかな連絡や貴社が行う現場確認、データチェックは、BNFL事件の教訓として、国の電気事業審議会の「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会報告」(2000年6月22日)でも厳しく指摘されたものです。その重要な確認は、本契約締結後でいいとする理由は何ですか。本契約の前に確認すべきではないのですか。
 (e) 同13頁で、「各組織の責任と権限が明確である。特に、検査員に対する管理者の監督が適切である」と記載されています。この記述は具体的にどのようなことを意味するのですか。BNFL事件の教訓の一つである、「製造部門と管理部門の独立」は保証されているのですか。 
 (f) BNFL事件の再発防止対策に関する重要な確認が全て出来ていない状況で、監査結果は「適切である」となぜ言えるのですか。

(2)元請会社である原子燃料工業への監査結果について
 (a) 上記文書8頁の「4.5.3 BNFL問題再発防止対策の確認結果」の中では、「コジェマ社に対する組織的な指導・監督が行える品質保証体制である」をはじめとして9項目があげられています。そしてその9項目全てが、原子燃料工業の品質保証システムの中に「枠組みがあ」るだけで、現在は品質保証システムの中に規定されていないと書かれています。なぜ、枠組みだけしかないのですか。
 (b) 上記9項目の中では、例えば「加工前に、加工作業の実態を現場で確認する」という内容もまだ枠組みだけとなっています。原子燃料工業が、加工前に、コジェマ社の加工作業の実態を現場で確認することについて、両者の間で了解が得られていないということですか。
 (c) そうであるならば、了解が得られていない理由は何ですか。コジェマ社と原子燃料工業という2つの核燃料製造会社の間に、何らかの企業秘密が関係しているのですか。
 (d) 上記9項目は、本契約の前に確認すべきではないのですか。
 (e) BNFL事件の再発防止対策に関する重要な確認が全て出来ていない状況で、監査結果は「適切である」となぜ言えるのですか。

(3)監査を行った部門について
 同報告書1頁の「2.品質保証システム監査の実態プロセス」の項目では、今回の2社への品質保証システム監査は「原子力事業本部品質・安全グループが担当した」、「同グループが、実施計画書を作成し、原子力事業本部副事業本部長がこれを承認した上で、・・・実施した」と記載されています。
(a) 計画書を承認した「原子力事業本部副事業本部長」とは誰ですか。
 
(4)本契約に進む条件は、何ですか
 原子力安全・保安院は、貴社の文書を「参考資料として受領した」とだけHPで紹介しています。また新聞では、「福井県の理解を得られれば、本契約を締結する」と報道されています。
 (a) 「福井県の理解」とは具体的にどのような事柄をさすのですか。
 (b) 本契約に進むための条件は、何ですか。

4.MOX燃料に関するBNFL事件の反省と責任に関して
 MOX燃料データ不正事件に関する電気事業審議会の「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会報告」(2000年6月22日)では、14〜15頁において、「関西電力がロットP824のデータに疑義はないとする最終報告書を提出したことに問題があったのは当然である」との認識を示し、また特にP783の情報を隠したことについて、「規制当局は関西電力に対し、当時の責任の所在を明らかにした上での徹底した再発防止策の実行を求めるべきである」と記述しています。

(1)「当時の責任の所在」について、貴社は結局どのように判断したのですか。それはどの文書の何ページでどのように明らかにされていますか。

(2)当時の原子燃料部長であった桑原茂氏は、新たなプルサーマルの推進体制についても、貴社を代表して原子力委員会で説明するなどの重要な役割を果たしています。しかし、氏がBNFL事件について責任を問われるべき立場にあったことは明らかではないでしょうか。この点、氏が当時大阪地裁での「MOX燃料使用差止仮処分命令申立事件」に提出した2回の陳述書(1999年11月29日12月10日)の内容に照らして、以下に質問します。
 (a) ロットP824について、桑原氏は自ら現地に出向いて検査員に面接したときの「印象」以外に何の根拠もないまま、不正なしの判断をリードしています(第1陳述書6〜7頁)。ところが、この判断は貴社の2000年6月14日付最終報告書において誤りであったと総括されています。すなわち、桑原氏が判断をミスリードしたことを貴社として公的に確認しているわけです。その結果、桑原氏の責任はどのように問われたのですか。具体的にいつどのように処分されたかを示してください。
 (b) ロットP783について、貴社は1999年当時次のような情報を受け取る経過をたどりました。
・ 10月20日に、NIIが統計的疑義をもっているとの報告をBNFLから受けた。
・ 11月13日には、その根拠となるNIIの解析結果をBNFLから受け取った。
・ 12月9日にはこの件について通産省から確認するよう通知されている。
ところが、桑原氏の陳述書では、12月10日の第2陳述書においてさえ、この件について一言も触れずに、不正はないと断言しています。結局裁判では最後まで陳述書の訂正はなされていません。このように裁判という公的な場で世間を欺いたことに対して、桑原氏はどのように責任を問われたのですか。具体的な処分とそれが行われた日付を示して下さい。
 (c) BNFLが実施した全数測定について桑原氏は陳述書で、「顧客の要求する品質を確保するため」のものと目的を規定しています(第1陳述書8頁)。しかし、このような目的規定が誤りであることは、貴社の最終報告書(2000年6月14日)・参考資料Vや当時資源エネルギー庁が原子力安全委員会に提出した説明資料(1999年9月)に照らせば明らかです。事実、上記参考資料Vでは、全数自動測定の目的を「(乾式研削のため)発熱によって研削砥石間隔が変化し、外径のバラツキが大きくなるため、その後の抜き取り検査での合格率を確保するのが目的である」と明確に記述しており、エネ庁資料でも「製造者が不良品をなくすために実施(社内用)」と規定しています。
さらに驚くべきことに、全数自動測定を通過すれば「ペレットが仕様値を満たしている」との判断を桑原氏は何度も強調しています(第1陳述書8、10頁、第2陳述書3頁)。ところが、貴社の最終報告書では、全数測定を通過しても必ずしも仕様値を満たすとは限らないことが複数個所で具体的に示されています。また事実、品質保証用抜き取り検査の(5,6)判定に合格しなかったロットが15ありました。この点について当時裁判長は貴社に対して求釈明を行い、貴社も裁判の中で事実と認めています。したがって、これらの事実について、桑原氏は当然知っていたわけです。
このように事実を知りながら、全数測定について誤った見解に立って、誤った結論に導いた桑原氏の責任はどうように問われたのですか。
 (d) 貴社としては、抜き取り検査で不正があっても安全性は保証されるという判断に立っているのですか。もしそうなら、それはなぜですか。またその場合、品質保証検査の意義はどこにあるのですか。もしそうでないなら、品質の保証されない、すなわち安全性に抵触するような不正を見逃そうとしたことについて、住民や市民に謝罪すべきではありませんか。
陳述書で異常な熱意を込めて全数測定の意義を強調した桑原氏の動機は、抜き取り検査に不正があっても安全性は保証されると強調したかったことにあるのではないでしょうか。実際、氏の見解に立てば、品質保証検査であるはずの抜き取り検査は必然的に不要なものとなるからです。桑原氏を擁護することは、この立場を擁護することになるのではありませんか。
 (e) 桑原氏は現在、原子力事業本部副事業本部長として、新たなプルサーマル推進の中心的役割を担っています。データ不正事件に重大な責任を負っているはずの氏がなぜこのような役割を担うことができるのですか。桑原氏の責任を問わないことが貴社の「企業文化」なのですか。

(3)品質保証検査の不正を知りながら意図的に見逃し、安全性が問題にされないように全数測定を異常に持ち上げ、全体として品質保証の意義を低下させた当人が、新たなプルサーマル推進を担う中心にいるわけです。すなわち、新たなプルサーマルの品質保証体制を中心的に担っているわけです。これでどうして、BNFL事件の反省がなされていると言えるのですか。このような状態でなぜ、社内の「再発防止策」は整ったと言えるのですか。現在のプルサーマル推進の品質保証体制は信頼できるとなぜ言えるのでしょうか。


2004年7月22日

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