BNFL事件裁判での関電桑原部長(当時)の陳述書2
(桑原氏の陳述書(二)から、美浜の会がOCRで読みとったもの)


乙第41号証
平成11年12月10日

陳   述   書(二)

関西電力株式会社 原子力・火力本部
                原子燃料部長 

はじめに

 債権者は、当方の11月30日付けの答弁書等に対して、小山英之氏の陳述書や主張書面において、新たにいくつかの疑問や指摘事項を提示してきていますので、再度、補足事項をまじえつつ、MOX燃料の安全性について私の考えをご説明いたします。

第一、MOX燃料ペレット外径に関する安全評価の考え方

一、設計段階での仕様値の設定方法

 MOX燃料ペレットの外径仕様値については、燃料設計上の要求と製造実力の両方を考慮して、ウラン燃料と同じ値の 8.179〜8.204mm と設定しています。そして、この仕様値を前提にして安全評価を実施し、安全上問題がないことを確認しています。
 安全評価において考慮すべき項目及び基準は、既に述べているとおりですが、各項目について、評価を厳しくする方向にばらつくものと仮定して評価しますので、製造公差に起因する不確定性を、十分吸収できるような評価となっています。

二、製造された燃料が仕様値を満たすことの確認方法

 実際にMOX燃料を製造し装荷するに際しては、製造されたMOX燃料ペレットが、安全評価において前提とされた仕様値を満たしているかどうか確認する必要があります。

 ペレット外径データにつきましては、私どもは、製造メーカーと取り決めを行い、抜取検査によってこれを確認することとしています。

 しかしながら、抜取検査は、製造されたペレットが安全評価の前提とされた仕様値を満たしていることを確認するための唯一の方法ではありません。
要は、製造されたペレットが、ある定められた条件を満たしていることを確認できれば良いわけですから、例えば、製造工程において自動的に測定されたデータであっても、それが信頼できるものであれば、利用してさしつかえないことは当然です。

 債権者は、仮処分申立書におきましても、また、今回の小山英之氏の陳述書や主張書面におきましても、繰り返し、「抜取検査に合格することが、安全性を保証する絶対の条件である」と主張していますが、製造されたペレットが安全評価の前提とされた仕様値を満たしていることを確認するという本来の目的を考慮すれば、債権者の主張は、誤りです。


第二、高浜4号機用MOX燃料ペレット外径データに係わる確認

 次に、仮処分申し立ての対象となっております高浜4号機用MOX燃料ペレットの外径データについて、これまでの繰り返しになりますが、再度、安全評価との関連で、安全性が確認できることを説明します。

一、抜取検査データによる確認

 まず、当社が、正式に契約で製造メーカーに要求している抜取検査データについてですが、現地での調査などの結果から、私は、高浜4号機用MOX燃料ペレットにつきましては、適正に検査がなされていたと考えております。
 この点につきましては、平成11年11月に公表いたしました調査の最終報告書や、答弁書において詳しく述べているとおりであります。
 従いまして、高浜4号機用MOX燃料は、そのペレット外径データが安全評価の前提となっている仕様値を満たしていることを、抜取検査により確認できていますので、安全性について問題がないと言えます。

二、全数自動測定結果からの確認

 
次に、私どもが現地等で調査した結果、契約上要求している抜取検査とは別に、製造工程において実施されているMOX燃料ペレット外径の全数自動測定結果からも、MOX燃料の安全性を確認できることが判りました。

 BNFL社が、製造工程においてMOX燃料ペレットの全数自動測定を行っていること、及び、それが信頼できるデータであることは、先の答弁書において詳しく述べた通りです。ペレット外径データの測定装置や仕様値を外れるペレットの選別装置について、それらが正しく動作することを確認した上で測定がなされていますし、何より、BNFL社は全数自動測定結果をそのまま数値として保存していましたので、私は、これを詳しく確認することができました。

 債権者は、全数自動測定を行うなら、何故、抜取検査が必要かという疑問を呈していますが、ペレットのような大量に製造する工業製品については、全数測定検査ではなく、抜取検査を行うことが一般的であることから、当社はBNFL社に対して、契約上、全数測定ではなく抜取検査を要求しています。一方、BNFL社は、当社の要求する品質を確保するため、製造工程の途中において、全数測定を行い、仕様値の範囲外にあるペレットを工程から取り除いているものです。

 この全数自動測定結果は、ペレット全数について外径を計測し選別していますので、選別後のMOX燃料全てについて、ペレット外径が、安全評価の前提となっている仕様値を満たしていることを保証しています。

 債権者は、全数自動測定がそんなに信頼できるのなら、高浜3号機用燃料について、なぜ作り直しを命じたのか、と疑問を投げかけていますが、これまでも説明しているとおり、BNFL社が今回の問題を真摯に受け止め、顧客の信頼を回復することを視野に入れて、作り直しを申し入れてきたものです。

 なお、債権者は、全数自動測定データを紙ベースに加えて、電子データでも開示するべきである、と主張しています。しかし、本来このような製造データは企業機密に深く関連するものであり、今回は、MOX燃料ペレットが適正に製造されていることを示すために、BNFL社が、特別に紙ベースでの開示にのみ同意しているものです。電子データで開示した場合、容易に関係箇所に配布でき、他のMOX燃料製造者がBNFL社製MOX燃料ペレットの外径データを入手して分析できることになります。このため、BNFL社は電子データでの開示を拒否していますので、これを当社が開示することはできません。



第三、MOX燃料ペレット外径に関連する安全性

 債権者は、MOX燃料ペレットの外径が、安全評価の前提となっている仕様値を満たさない場合は、MOX燃料が破損し、非常に大きな被害が発生する可能性があると主張しています。MOX燃料ペレットはそもそも仕様値を満たしていますので心配はありませんが、ペレット製造上のばらつきを考慮しても、債権者が言うような事態は考えられないことを説明いたします。

一、通常運転中にペレット外径が燃料被覆管酸化に与える影響債権者は今回の主張書面において、「通常運転時の被覆管の酸化が、ペレット外径に左右され、制御棒飛び出し事故や原子炉冷却材喪失事故に影響を与える」と主張し、「ペレット外径が大きいと被覆管の温度を高めその酸化を促進」するとしています。

 確かに、燃料被覆管は、その外面の温度が高くなると、酸化が進みもろくなる傾向がありますが、原子炉を通常運転している時は、冷却水が常に被覆管外面を流れており、被覆管外面の温度はペレット外径の大小に係わらず、一定の幅に保たれています。したがって、ペレット外径はペレット温度に影響を与えますが、ペレット外径が大きいからといって、燃料被覆管の酸化が進んでもろくなるということはありません。

 また、債権者は、被覆管外面温度はペレット外径の影響を受けないと言う当方の説明に対して「燃料ペレットの温度の項があるのに、その部分は提出されていない」……「債務者は、わざとこの部分を落として都合の良いところを根拠としている」と主張しています。
 この件については、ペレット外径が、被覆管外面温度の計算の説明に関係しないから引用しなかっただけです。

二、制御棒飛び出し事故の場合


 債権者は、制御棒が飛び出して核分裂反応が急速に進む事故を想定する場合、ペレットと被覆管の機械的相互作用による燃料破損について、「長期にわたる通常運転中の燃料と被覆管の劣化を反映して決まるのであり、そこに隙間の状態も、したがってペレット外径も強く関与するのである。」と述べて、ペレット外径が大きいと重大な結果につながる可能性があると主張しています。

 しかしながら、前項で述べた通り、そもそもペレット外径の大小は、被覆管の外面温度に影響を与えるものではなく、したがって、通常運転中に被覆管の酸化を加速させるものではありません。

 また、燃焼が進んだ燃料は、次のような状況になっています。
 ・原子炉の運転が進むにつれて被覆管が約150気圧で押されて縮んでいる
 ・核分裂生成ガス等が蓄積してペレットが膨張している
 ・被覆管が酸化や水素吸収によりもろくなっている
 このような状態にある燃料について、事故が発生し、急激な核分裂の熱によりペレットが膨張すると、被覆管に機械的な力が加わって燃料が破損することがあります。
 しかし、こうした燃料は、既に被覆管とペレットの間隙がなくなっていますので、ペレットの初期外径の大小が、燃料の破損に強い影響を及ぼさないことは明らかです。したがって、「もし、燃料ペレットの外径データが不確かな場合、ペレット−被覆管機械的相互作用が想定より異なったものとなり、さらに燃料も劣化するおそれが生じる。」とする債権者の主張は、全くその根拠を欠いています。

 また、ペレット外径とは直接関係のない事項ですが、今回の小山英之氏の陳述書で、設置変更許可申請における燃料棒破損割合について、「解析方法を変更して、安全余裕を切り縮めている」と述べられている点について、言及します。

 これは、今回のMOX燃料に係わる設置変更許可申請において、制御棒飛び出し事故でサイクル末期・ゼロ出力運転のケースにおいて、燃料棒破損割合を、従来の約 10%(小山英之氏の陳述書では 11%としているが、誤りと思われます)から約1%(正確には約0.43%)に変更している点を指摘しています。一見すると、破損割合を 1/10〜1/20 に減らして、安全余裕を切り詰めているように見えるというものです。

 しかし、これは決して安全余裕を切りつめたものではなく、むしろ、これまでは簡便な手法での計算しかできないため、安全サイドになるようにやむを得ず過度の保守性を持たせていたのですが、解析手法が向上し、実際の現象をより精度良く評価できるようになったというのが実態です。
 すなわち、これまでは、出力の変化を1次元でしか解析できなかったのですが、3次元で詳細に解析したところ、上記のケースでは、燃料破損割合が約 0.43% であると評価できるようになったものです。
 原子炉運転経験の蓄積や、コンピューター技術の進歩など、いろいろな要素が重なって、より精度良く評価ができるようになった結果であり、決して債権者のいうような、安全余裕の切りつめではないことを、重ねて強調させて頂きます。なお、この解析手法については、国の安全審査においても、妥当であることが認められています。

三、冷却材喪失事故の場合

 債権者は、冷却材喪失事故においては、「ペレット外径が仕様値内にない場合、被覆管の酸化と水素脆化がそうとうに進んで基準が満たされる保証がなくなり、炉心溶融に至る可能性を生じる。」と主張していますが、前述の通り、そもそもペレット外径の大小は、被覆管の外面温度に影響を与えるものではなく、通常運転中の被覆管酸化が進むことに関係がないものです。

 また、債権者は、今回の証拠説明書において「通常運転中の酸化量が全く考慮されていない。これでは安全性が本当に確保されるのかどうかの保証があるとはいえないのである。(略)結局、MOX燃料の場合、仕様内にペレットが納まっている場合にさえ、15%制限を満足しているのかどうかきわめて不確かな状況にある。」と述べていますが、これは全く不当な表現と考えられます。その理由は、次の通りです。

 15%制限とは、冷却材喪失事故時において、燃料被覆管の酸化量を、被覆管肉厚に対して、15%以下にしなければならないというものです。
 私どもは、冷却材喪失事故時の燃料被覆管の酸化量を評価する場合、被覆管温度が最高となる、燃焼初期の燃料を対象にして評価をしています。被覆管温度が高い時が、冷却材喪失事故時の酸化量も大きいからです。
 その評価結果は約3.3%であり、十分安全であることを確認しています。


 なお、念のため、参考として高浜4号機を対象にして、冷却材喪失事故時の酸化量に通常運転時の酸化量も加えて評価を実施した結果、燃焼度が進んだケースも含めて、安全上十分な余裕を持っていることを確認しています。
これは、国にも認められており、公開されている資料中にグラフで示されています。


四、苛酷事故について

 債権者は、さらに議論を飛躍させ、ペレット外径が安全審査の前提となっている仕様値を満たさない場合、燃料の破損が激しく進んで、炉心溶融にまで至る可能性を述べていますが、これは、全く合理性のない議論といわざるを得ません。

 これまで述べてきたとおり、MOX燃料ペレットの外径は、十分適正に管理されていて、それを原因として、燃料の健全性が失われるような状況は考えられません。
 念のため、制御棒飛び出し事故や冷却材喪失事故までも想定していますが、その場合でも、発電所周辺に著しい影響を及ぼさないことが安全評価により確認されていることは、これまでの説明の通りです。

 さらに、原子力発電所では、たとえ異常が起きても、すぐにこれを察知し、必要に応じて適切な対策を実施することはもちろんのこと、債権者が述べているような苛酷な事態に至らないよう、いろいろな工夫を何重にも講じています。
 これについて、次に説明します。


第四、原子力発電所全体としての安全確保

一、原子力発電所の安全確保の考え方

 最初に、原子力の安全確保の考え方を説明します。
 原子力発電所では、まず第一に、機器の故障−破損といった事故の原因となるような異常を未然に防止することが重要であり、このため、十分に安全上の余裕を持った設計を行うとともに、常に多くの点検と検査を行い、異常や故障を起こさないようにしています。

 また、仮に異常が発生したとしても、異常を早く検知し、原子炉を停止する必要がある場合には、原子炉を自動的に停止できるように、異常の検出装置や原子炉緊急停止装置が設置されています。

 さらに、原子炉冷却材喪失事故等のように燃料から放射性物質が放出されるような事故を想定し、これに備えるための装置を設けて、そのような事故が発生しても、原子力発電所周辺の公衆に対して著しい影響を与えないで対応できるような設計をしています。


二、異常が発生した時の対応の具体的な事例

 具体的な事例によりまして、原子力発電所に異常が発生した場合、どのようにして異常の拡大を防止するかについて、説明します。

 まず、燃料被覆管がわずかに破損し、放射性物質の一部が原子炉一次系冷却水の中に漏れ出すようなケースについて説明します。

 原子力発電所では、一次冷却水中の放射性物質の濃度を常時モニタリング装置で監視しており、そのレベルが上がれば、中央制御室は即座にこれを認識し、必要な場合は原子炉を停止するなどしかるべき処置を講ずることになります。また、常時モニタリングで感知できない程度の漏れ出しであれば、数日に一回行っている一次冷却水のサンプリング分析で判ることになります。
そして、サンプリングの頻度をあげて監視を強化するなどの対応がなされます。

 次に、代表的な事故である、原子炉冷却材喪失事故を例にとって説明します。

 原子炉一次系の冷却材配管は、本来十分な強度・品質を有していますので、通常起こるとは考えにくいものですが、仮にこれらの配管がいきなり破断する事態を想定します。

原子力発電所では、万一事故が起きた場合に備えて、原子炉を「止める」「冷やす」「閉じこめる」という安全のためのシステムが、あらかじめ作られています。そして、実際に事故が起きた場合は、自動的にこれらのシステムが起動するようになっています。

 冷却材喪失事故の場合は、一次冷却水が原子炉格納容器内に漏れ出しますので、一次系の圧力が下がり、格納容器内の圧力が上昇します。これらの情報を多くの計測装置が感知します。

 各計測装置がそれぞれ異常を検知すると、自動的に制御棒を一斉に落下させ、原子炉内での核分裂反応を停止させます。(「止める」)
 これに引き続き、原子炉の炉心を冷却するために緊急炉心冷却装置が自動的に作動して、緊急用に蓄えられている冷却水を原子炉冷却系に注入し、炉心の余熱を除去するよう設計されています。これらの冷却水は、最終的に格納容器内に貯まりますので、ポンプで循環させることにより、十分長い期間炉心を冷やし、余熱を除去し続けることができます。(「冷やす」)

 冷却水と一緒に格納容器内に放出された放射性物質については、格納容器内の天井からスプレイを降らせて格納容器内に留めるとともに、格納容器そのものも気密性が高く、放射性物質を十分内部に閉じこめることができる設計になっています。(「閉じこめる」)

 また、信号系やポンプなど安全上重要な設備については、複数設置しており、仮に一つの機器が故障しても十分機能を果たせるように、高い信頼性を持たせています。

 このように、原子力発電所では、たとえ事故が起きても、それを拡大させず沈静化させるように、様々な安全対策を多重的に講じています。したがって、原子力発電所において、債権者が言うような被害が発生することは、全く考えられないことです。

以 上