7月10日関電交渉報告 その2(関電の温暖化対策)
関電はCO2排出量の削減を目標にしていない
関電の目標=「排出原単位」の低減は、老朽原発の酷使(利用率85%)に導く
CO2排出量の増大をもたらすオール電化の宣伝はやめよ


 現在、地球温暖化を防ぐためにCO2排出量の削減が焦眉の課題になっており、京都議定書では日本は2010年ごろ(08〜12年度平均)に1990年度比で6%削減することになっている。電力分野はCO2排出について最大クラスの排出部門であるため(2005年度実績)、排出量の削減についてどのような対策を立てるのかが具体的に問題になっている。
また同時に、排出量の削減を火力からCO2を出さない原発へのシフトによって行なおうとするならば、老朽原発の酷使というこの分野に独特の危険性が持ち上がる。
 そのため、7月3日付「関電の温暖化・CO2対策に関する質問書」に基づいて、7時10分ごろから8時45分まで約1時間半にわたってやりとりを行った。最初に関電から一通りの回答があり、それをめぐった非常に活発な議論が行われた。
 ただ、関電が目標としているのはCO2排出量の削減ではなく、「使用端CO2排出原単位」の低下である。「使用端CO2排出原単位」とは"1kWhの電力使用に伴って排出されるCO2量(kg)"のことであるが、このキーワードの意味が理解できていなければ議論の全体が分かりにくい。そのため以下では必要に応じて説明を織りまぜている。なお、関連資料「関電・電事連のCO2対策は、ここが問題」を参照していただきたい。

 関電の温暖化・CO2対策に関する基本的な疑問点は次の点であった。
 (1)関電はCO2排出量の削減には直接触れず、「排出原単位」の低減を目標に掲げているのはなぜか。その関電の目標では、2010年ごろにCO2排出量自体はどれだけ削減されるのか。
 (2)関電の「排出原単位」低減目標では、必然的に老朽原発を酷使する傾向が生じることになるのではないか。そのときの原発利用率はいくらと想定しているか。
 (3)CO2排出量=排出原単位×使用電力量という関係がある。関電は、オール電化を宣伝して使用電力量を増やすことによって、CO2排出量をむしろ増やそうとしているのではないか。

 これらについての1時間半にわたる活発なやり取りによって、関電の姿勢がかなり明らかになってきた。結論から言えば、関電のCO2対策は次のようなイメージで捉えられる。
 つまり、関電はCO2排出量の削減自体は目標とせず「排出原単位」の低減を目標とするが、それは主に老朽原発の酷使に依存している。それによって「排出原単位」は幾分下がる可能性があるが、それ以上にオール電化などで使用電力量(販売電力量)を増やすので、結局発電に伴うCO2排出量は増える(この事情のためCO2排出量の削減は目標にできないのだ)。その増えた分を海外での植林などの事業による削減分である程度は抑えようとしている。
 このように、関電相手の交渉は電力分野に限られているとは言え、温暖化問題をめぐる普遍的な諸問題を如実に含んでいると言える。

1.関電はCO2排出量の削減にはいっさい触れようとしない
 関電は「使用端CO2排出原単位」を1990年度の0.353(kg/kWh)から2010年度ごろ(2008〜12年度平均)の0.282に約20%低減することを目標として掲げている。なぜ「排出原単位」の低減を目標にするのかとの問いに対し、関電は次の電事連の考え方を読み上げた。「お客さまの使用電力量は天候やお客さまの電気の使用事情といった電気事業者の努力が及ばない諸状況により増減することから、電気事業者としては、自ら努力が反映可能な原単位目標を採用している」。この電事連の考えでは、CO2排出量=排出原単位×使用電力量という式を想定している。そのうち使用電力量はお客さまの問題で、その前の比例係数である「排出原単位」だけに責任をもつという考えである。
 では、そのときCO2排出量はいくらになって、1990年度の排出量4261万トンからどれだけの削減になるのだろうか。ところがこの肝心の質問には答えられないという。答えられないとはどういうことかと皆で厳しく問いただしたが、言を左右にして答えなかった。
 ところがその前に、2010年度ごろの使用電力量はいくらかとの質問に1506億kWhだと答えていた(実はこの2010年度の使用電力量はすでに関電の経営計画で公表されており、毎年約0.5%ずつ電力需要を増やす結果である)。そうすると、CO2排出量=原単位(0.282kg/kWh)×使用電力量(1506億kWh)=4250万トンとなる。これだと1990年度の排出量4261万トンからほぼ横ばいとなるが、実際には排出量は増加する。
 実は、関電は原単位0.282を導く際に、海外で植林したりして削減したCO2分も京都メカニズムとして考慮に入れたと回答した。その分はいくらかとの質問には答えなかったが、発電によるCO2排出量から海外削減分を差し引いた量が上記4250万トンになる。つまり、発電によるCO2排出量は4250万トンより多いのは確実である。「京都メカニズムによって削減されるCO2の量は、電力の使用とは関係がないため、原単位の計算に繰り込むのは筋違いではない」との質問に対しては、「世界的なCO2削減に貢献している」と繰り返すだけだった。
 とにかくCO2排出量の削減自体にはいっさい触れたくないという異常さが、参加者の目に強く焼きついた。この姿勢は後述のオール電化問題でより鮮明になる。

2.排出原単位の低減目標は老朽原発の酷使に導く
 「使用端排出原単位」は、1kWhの電力使用に伴って排出されるCO2量(kg)のことである。同じ1kWhの電力量でも、その発電が石炭、石油、LNGあるいは原発のどれによるかによってCO2排出量(電源別原単位)が異なる。またたとえば石炭では、直接燃焼(発電)に伴って排出されるのは0.887kgだが、採掘・運搬などの分まで入れると0.975kgとなる(後者はライフサイクルと呼ばれている)。実際に使用する電力はいろいろな電源からの分が混ざっているので、電源別原単位に電源構成の割合をウエイトとして掛け合わせた平均値で原単位が決まる。
 まず関電の回答では、直接発電分かライフサイクルかの質問に対しては、直接発電分だけでライフサイクルは採用していないとのこと。それは「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令」に従った措置だという。そうすると、火力以外の原子力などの原単位はゼロとしていることになる。こうして、「排出原単位」の低減は火力から原発へのシフトによって実現されることになる。
 そこで、原単位0.282を算出したときの原発の利用率はいくらを想定しているかと聞いたところ85%だという(注)。これは現状から見れば相当に高い数値である。この85%はどのようにして想定したのかと聞くと、「至近5年間の平均等から想定した」という。この「至近の5年間」とは1999〜2003年度の5年間の利用率に基づいて算出したと答えた。この5年間は、関電の原発の利用率が最も高い時期である。「至近」といいながらそのような数値を採用している。特に2002年度と03年度はほぼ90%もの利用率になっていた。その結果が美浜3号機事故だったのである。そのため2004年度は70.2%にまで落ち込んだ。その後、75%、77%と徐々に回復してはいるものの、今後さらに老朽化が進むために80%を越すには多くの無理が生じるに違いない。
 それにもかかわらず、原単位低減目標を強行すれば、美浜3号機事故の再現に導くであろう。必然的に老朽炉に鞭打つ路線となる原単位低減目標は見直すべきである。
(注)関電の回答では、2008〜2012年の平均で自社発電分の電力量が約1300億KWh(後の電話で約1260と訂正)で、その電源別構成は、水力12%、火力33%、原発54%、新エネ0%と想定している。2005年度と比べると電源別構成はあまり変わらないが、発電電力量が非常に大きな伸びになる。これは舞鶴火力や堺火力などが新たに動くことにより、他社からの受電分を減らして自社火力分を増やすためだという。ただし、原発利用率85%も含め、関電のデータについては再度吟味が必要だと感じる。

3.CO2排出量自体を削減するために、まずはオール電化の宣伝をやめるべきだ

 再び前掲の式:CO2排出量=排出原単位×使用電力量:に戻ろう。前述のように関電は電気の使用はお客さまの問題なので関電とは無関係だという考えを述べた。
 ところが、他方ではオール電化を宣伝して使用電力量を増やそうとしているではないか。エコキュートを使う方が生活は便利になり、ガスを燃やすよりCO2の排出も削減できるなどと交渉の場でも声を大にして宣伝した。これこそお客さまの領域に踏み込んでいるのではないか。参加者から激しい抗議の声があがった。ある参加者からは、余りお湯なども使わないのに、エコキュートを取り付けてひどい目にあったという話しが丁寧に披露された。また同時に、太陽光発電に変えて、省エネの生活スタイルが定着するとの話もされた。
 使用電力量が増えればCO2排出量も増えること自体は関電も認めざるを得なかった。「では、あなた方はいったいCO2を減らすためにどうすればいいと考えているのですか」などと関電広報は逆に質問してくる始末だった。これに対しては、発電所からの排出が最も多いという実態を踏まえ、関電は企業の社会的責任をどう考えているのか等の批判の声があがった。これまでも大気汚染・公害訴訟で関電の責任が厳しく問われてきた。関電はこれらから何を学んだというのだろうか。

 関電の公表している原単位の値はいったいどんなデータを用いて、どのようにして算出したのかなど不可解な点があるが、関電は基礎データを出すことを嫌がっている。火力の内訳さえ、経営計画では公表しているのに出せないという。京都メカニズムの活用についてもどれだけを算定しているのか等、いっさい明らかにしようとしなかった。CO2問題を明らかにするために、まずは基礎データを出すよう最後に強く要求した。その上で改めて、関電の姿勢を問いただす必要がある。

(07/07/12UP)