1月16日関電交渉報告

関電の安全軽視の体質はなんら変わっていない
◆高浜1号で下請け作業員が一次冷却水を浴びた事故
   →関電社員が定検前倒しを指示し、当の社員は事務室にいた
◆温排水データ改ざんの原因解明もまだなのになぜ美浜3号を起動したのか
   →「Q&Aを探しています」「地球温暖化対策・・・」
◆若狭支社長の責任は →「何を問題にしているのか理解できない」


 1月16日午後6時から約2時間半、関電本店4階の会議室で、グリーン・アクションと共同で交渉を行った。関電からは広報2名、市民は20数名が参加した。冒頭に、美浜3号機を起動したことに関する抗議声明を読み上げ、関電に手渡した。
 この日は、温排水データ改ざんに関する問題美浜3号起動に関する問題1月10日の臨界失敗と起動のやり直しに関する問題について、それぞれ事前に出していた質問書にそって交渉を行う予定だった。ところが、14日に高浜1号で、下請け作業員4名が放射能を含む一次冷却水を浴びる事故が起きたため、最初にこの高浜1号の事故について取り上げた。
 全体を通して、関電の安全軽視の「企業体質」が何ら変わっていないことを如実に示す交渉だった。また、福井県警による書類送検を前にして、非常にかたくなで、いつにも増して高慢な態度だった。「美浜事故の教訓を何も学んでいない」と参加者の誰もが強く感じた。以下に焦点となったいくつかの問題について報告する。それぞれの質問書に対する関電の回答は、別紙を参照されたい(関電が文書回答をしないため、テープおこししたもの)。

■高浜1号の事故−関電社員が定検前倒しを指示。そのため、放射能を含むドラム缶2本分の冷却水を下請け作業員4名が浴びる。当の関電社員は事務室にいた。
 1月14日、定検中の高浜1号機で、下請け作業員4名が放射能を含む一次冷却水を浴びるという事故が起こった。事故は、充てん/高圧注入ポンプ入り口連絡弁の取替工事に伴う耐圧漏えい試験終了後、試験を実施した系統の水抜きを確認しないままフランジの取り外しを行ったために370リットルの放射能を含む水が漏れ、作業員が浴びるというものだった。15日付の関電プレスでは、作業員の被ばくはなかった事等を簡単に記しているだけだった。しかし新聞報道では、フランジ取り外しは翌日の工程になっていたが、関電社員が作業の前倒しを指示し、そのことを水抜きを操作していた発電室に連絡することもなく、取り外し作業をさせていたことが明らかになっていた。
 まず最初に、この事故についてのコメントを要求した。すると関電広報は、淡々とプレス発表の内容などを読み上げ始めた。「まず事故を起こしたことの謝罪の言葉はないのか」と言われても、「原因を究明中」などと繰り返した。参加者は「二度と事故を起こさないと約束したのではないのか」と厳しく追及した。「定検短縮のために原子炉が動いているうちから準備作業をさせていたために起こった美浜3号機事故の教訓を何も学んでいない」「美浜事故の教訓はどうなっているのか」との参加者の怒りに対し、「教訓を学んでないわけではない。事故を起こしたことは遺憾であります」とやっと述べた。作業員が浴びた370リットルとは「ドラム缶2本分くらいです」と平然と答え、「口の周りのスミヤなどを行ったが被ばくはなかった」と強調した。しかし「遺憾」という言葉さえ、関電の公式の発表では一言もふれられていない。まずそのことをホームページ等で明らかにするよう要求した。
 さらに、定検の前倒しを指示した関電の社員は、事故のときどこにいたのかと問うと「事務所で事務の作業をしていました」との回答だった。定検の前倒しを指示しておきながら、水抜きの確認も連絡もせずに、自らはさっさと事務所に引き上げ、被害を受けたのはまたしても下請け作業員だった。美浜3号機事故の構図と全く同じだ。
高浜1号機 放射能含む水漏れ 作業の4人にかかる 健康に影響なし(日刊県民福井1/16)
放射能含む水漏れ 高浜1号 4作業員にかかる、被ばくなし(福井新聞 1/16)

■大飯3・4号機の温排水データ改ざんは「改ざんではなく調整」
 データ改ざんの原因も明らかになっていないのになぜ美浜3号を起動したのか→「Q&Aを探しています」

 昨年12月14日、関電は大飯3・4号機で温排水データを「不適切に調整していたことを確認しました」と発表した。東電等と並んでやはり関電もデータ改ざんを行っていた。しかし交渉では「改ざんではなく調整、不適切な処置」などと述べ、「改ざん」とはまだ言えないと言い張った。そしてなぜデータ改ざんを行ったのかについては「8年前のことで退職しているものもあり、原因の解明には至っていない」と答えるのみ。また責任の所在については「調査結果を踏まえ対処したい」と述べるにとどめた。要求していた過去1年間の取水口・放水口の温度データについては「性能管理の企業ノウハウに係わる」として公表せず。「取水口・放水口の温度データがなぜ企業ノウハウなのか」と問われても、「性能管理に係わる」とだけ答えた。
 温排水データの改ざんを続けていたのは「関電の体質改善が不十分なのではないか」との質問に対しては、「改善は進みつつある」との回答。参加者からは失笑と「どうしようもない」、「答えになっていない」、「ちゃんとした日本語で答えよ」と批判の声が飛んだ。東電事件の時にも「総点検」したはずなのに見逃していたのかと問われると、「あの時は温排水データは対象外でした」と小声で答えていた。さらに、「温排水データ改ざんの原因も分かっていないのになぜ美浜3号機を起動したのか」と問うと、広報社員は持参した分厚い資料をパラパラとめくり始め、答えようとしない。「何をしているのか」と聞くと「Q&Aを探しています」としばらく資料を探し続けた。見つからないのか、突然「地球温暖化対策のためにも美浜3号の起動は必要で・・・」等と話し始める有様だった。

■福井県・大山参事−「情報公開は重要」。それでも「スケルトン図は公開できない」(関電)
 私たちは11月29日の交渉の時から、大幅減肉が見つかった高浜2号の当該部位のスケルトン図の公開を要求していた。関電は「テロ対策」等理由にならない理由で公開を拒否していた。美浜3号機の起動前の1月9日に福井県に出向き、このスケルトン図の非公開について、関電の情報公開が後退していることを福井県原子力安全対策課の大山参事に伝えた。大山参事は、「情報公開は重要で、積極的に進めるべき」と明確に語った。このことを紹介し、「福井県は情報公開は進めるべきと述べているが、それでもスケルトン図を公開しないのか」と問うと、広報社員は「福井県の大山参事ですか」と軽く話し、「福井県にもスケルトン図等公開できないと伝えている」と言い出した。参加者から「本当にスケルトン図についての事か」と確認されると、「いやスケルトン図と具体的に言っているわけではなく、核物質防護のため機器の配置に関するものは」と訂正した。福井県の参事が言ったくらいでは無視してもかまわないというような態度だった。

■事故当時の若狭支社長が「再発防止策を実施する委員会」のメンバーでも「問題ない」
 新聞報道では1月中に、福井県警が当時の若狭支社長(現原子力事業本部副事業本部長)を含め、10人ほどの関電社員を業務上過失致死傷容疑で書類送検する予定だと報じられていた。この件に関連して、当時の若狭支社長とは藤谷堯氏であることを確認した。若狭支社長が立件の対象となれば会社そのものの責任が問われることになるがとの質問に対しては、「捜査に関することで仮定のことについてはコメントを差し控える」という常套文句だった。
 さらに、事故当時に原子力の責任者である若狭支社長が、事故直後から、「再発防止策を着実に推進するための『原子力保全改革委員会』」のメンバーであることについて、「再発防止策が根本から問い直されるのではないか」と質問していた。これに対しては、「再発防止策の実施状況は、国や福井県に確認してもらっている」と一般論を述べるだけだった。参加者からは、「雪印事件でも明らかだ。事故を起こした責任者がなぜ再発防止策を実施するのか」等々厳しい声が続いた。しかし関電は、「何を問題にされているのか理解できない」と繰り返し、結局、「悪いことはない。問題はない」と居直った。また、破断した箇所が未点検だったことは「若狭支社や本店には報告されていない」という回答と相まって、事故の責任が上部に及ばないように必至で予防線を張ろうとしている意図が明らかだった。福井県警による書類送検がまもなく行われるのに、なぜその前に美浜3号機を起動したのかについては、「地球温暖化防止対策のためにも・・・・」と語るだけだった。
<美浜原発事故>関電の若狭支社長を聴取 福井 (毎日新聞 1/19)
美浜原発事故 元支社長ら書類送検へ、関電立件も検討(産経新聞 1/8)

■高浜プルサーマル再開については「今後検討」
 美浜3号機事故直前の2004年7月報告でコジェマ社の品質保証監査の責任者は、BNFL事件で「データねつ造はない」とウソを繰り返していた桑原茂氏だった。

 関電社長は1月5日に福井県庁で行った記者会見で、美浜3号機が営業運転に入る2月上旬からプルサーマルの検討を開始すると述べていた。また、美浜3号機事故によって約2年半中断したプルサーマルについて「新たな取り組み」も福井県などに報告したいと述べていた。
 交渉では、高浜プルサーマルの再始動については「今後検討する」として具体的な回答を避けた。2004年7月12日に関電が出した「海外MOX燃料調達に関する品質保証システム監査結果について」と題する報告書の内容を再検討するのかと問うても「現時点では言えない」とだけ回答。ただ、2004年7月段階でコジェマ社の品質保証監査の責任者は「原子燃料(サイクル、品質・安全、燃料技術、輸送)担当の副事業本部長であり、桑原茂氏であったことを認めた。桑原氏は、BNFLのMOX燃料データねつ造事件のとき、原子燃料部長として「データねつ造はない」とウソを繰り返し、データ不正を隠した当の人物だった(現在は日本原燃の常務取締役で品質保証室長、考査室長)。関電がプルサーマルを再始動する場合、このような人物が進めていた状況から再出発できると考えているのだろうか。また、上記報告書では、BNFL事件の「反省」は書かれているが、2001年12月にコジェマ社に60億円もの賠償金を支払ってMOX燃料を廃棄にした事件について書かれてない。これについては、「品質保証システムを確認することを目的にした報告書だから」と回答をはぐらかした。プルサーマル再始動の前に、これらの問題をまず明確にすべきである。

 最後に、1月10日の臨界の失敗と起動のやり直しについては、「安全側に見積もってホウ素濃度を高めにしていた」と「安全側」を繰り返していた。起動もまともにできない失敗については「トラブルではありません」と大きな声を出し、参加者から「ならば頻繁に起きているのか」と問われると、「頻繁という訳では・・・」と言葉を濁していた。
 2月上旬の営業運転前に次の交渉を設定するよう要求して終わった。