国際会議での各国の動きとNGOの動き

「 今、何が話し合われているのか」
目次
1.はじめに
2.気候変動条約(国連気候変動枠組み条約)とは
3.交渉の参加者の背景
4.第1回締約国会議(COP1)ベルリン(ドイツ)
5.第2回締約国会議(COP2)ジュネーブ(スイス)
6.第3回締約国会議(COP3)京都に向けて
7.主な出来事(これまで、これから)
8.関連資料

1. はじめに

  気候変動条約の第3回締約国会議(COP3)が、1997年12月に京都で開かれることになりました。気候変動という言葉、すでに2回も締約国会議をすませていながら、どこか近寄りがたい雰囲気もあります。一言で言えば、二酸化炭素(CO2)を筆頭とする温室効果ガスを減らさないと、地球の気温が上昇し(地球温暖化)、異常気象、海面上昇、健康や農業生産、生態系への影響などいろいろ深刻な問題が起こるから、そうなる前に国際的に協力して温室効果ガスを減らしましょう、ということなのです。
 環境問題に関心があるけれど何をしていいか分からないタイプの人にとっては「重要な問題みたいだけど、難しいしやっぱり関係ない」といった感じでしょうか。この小冊子は、そんな壁を少しでも低くすることを期待しています。

2.気候変動条約(国連気候変動枠組み条約)とは

 正式には国連気候変動枠組み条約といいますが、1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット(UNCED)」で各国の署名がスタートしました。条約が実際に効力を持つようになったのは、それから約2年後の1994年3月21日です。このような時間の経過があるのは国際条約が発効するための条件があるからです。気候変動条約では、50番目の締約国が誕生した日から90日目に効力が発生することになっています。また、気候変動条約の締約国数は1996年6月6日現在で159 ヶ国です。

(1)目的(第2条)
   条約の究極の目的は、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼさないような水準に大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」です。しかし、具体的にどのような濃度の上昇速度でどのような濃度に安定させれば「安全」なのかについては、条約には規定されていません。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で議論されていますが、まだ結論は出ていません。

(2)原則(第3条)
上記目的の達成に向けて締約国は、
(1)共通だが差異のある責任に従い、また、先進国は率先して対処すべきであり、
(2)気候変動の悪影響や条約によって大きな負担を負う途上国に配慮し、
(3)予防原則に従い、また、費用効果の大きい予防措置をとるとともに、
(4)持続可能な開発を促進する権利と責務を有し、
(5)協力的、開放的国際経済体制の確立に向けて協力する、
こととなっています。

(3)約束(第4条)
条約の目的を果たすために締約国は条約にもとづく約束を守らなければなりません。
 第4条1項の約束は全ての締約国に関わるもので、各国の事情を考慮して行うこととしています。温室効果ガスの排出量の報告、気候変動防止計画の作成と報告などが含まれています。
 第2項では、附属書I締約国(先進国、旧計画経済諸国合計36ヶ国(当時))は次の約束を行わなければならないとしています。
  (1)温室効果ガス排出量を2000年までに1990年の水準に戻すことの重要性を認識して、そのための政策・措置をとる、また政策・措置をとった結果予測されるCO2 やその他のガスの人為的排出量及び吸収源(森林など)による吸収に関する情報(国別報告書)を定期的に提出する。(2項(a) 、(b) )
  (2)附属書II締約国(附属書I締約国から旧計画経済諸国を除いたOECD各国とヨーロッパ連合(EU)の25ヶ国を指す)は、途上国が約束を行うために必要な費用(技術移転のためのものも含む)、また気候変動の悪影響に適応するための費用にあてるための追加的な資金を供与する。(3項、4項)

(4)締約国会議(COP)(第7条)
 条約で定められた枠組みの中で条約の効果的な実施を進めるために、締約国は法的文書(議定書または条約の改正など)を作っていくことになります。締約国会議は、この条約の最高機関として条約に基づく制度(意思決定方式、補助機関など)や法的文書など、さまざまな意思決定を行っていかなければなりません。

(5)補助機関(第9,10条)
 科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)と実施に関する補助機関(SBI)が設置されました。両機関とも条約の実施をサポートする目的で、各締約国が科学的知見と政策を統合できるようにと設立されました。


(6)国別報告書(第12条)
 第4条で約束した情報を事務局を通じて締約国会議に送付します。附属書I締約国(先進国)は自国で条約が効力を生じた後6ヶ月以内に、その他の締約国(途上国)は効力が生じた後または第4条3項の先進国からの資金援助が利用可能になった後3ヶ年以内に最初の国別報告書を送付し、その後は締約国会議で決定された期間ごとに報告を行うことになっています。先進国は、1回目の国別報告書を94年に提出しており、2回目は97年4月提出となっています。

 このように気候変動条約は、温室効果ガスの排出削減を地球規模で行うための政府間の約束や国際的枠組みを定めています。しかし、条約締約国になればすぐに一定の削減が義務になるのか、というとそうではありません。排出削減を法的拘束力のあるもの(義務)にするためには、条約を改正するか、条約と別の法律文書(議定書など)でそのように定めなければなりません。具体的にどう決めるのか未解決事項が山積している段階で、まず最初の議定書が12月に京都で決まるはずです。

3.交渉の参加者

(1)政府グループ
 京都で決まるはずの議定書の作成に向けた交渉が行われていますが、その交渉の主役が条約締約国の政府です。各国政府代表団は、交渉を自国に有利になるように(あるいは不利にならないように)進めています。そのため独自路線をとるよりも、同じような利益を有する他国の政府と連携して交渉に臨むことが多くなります。気候変動条約でも、附属書I、II国、その他の締約国という条約上の分類以外に、さまざまなグループが形成されています。代表的なグループは、次のような入れ子構造になっています。

a). 付属書I締約国(附属書II締約国(OECD)+移行期経済国)
     (温室効果ガス排出削減の努力義務がある)
  付属書II締約国(OECD)(途上国への資金協力の義務がある)
      OECD(いわゆる先進国クラブ):日、米、英、独、仏、その他
       ただし、条約採択後のOECD加盟国(メキシコ、韓国など)は
       付属書Iに入っていません。こうした途上国から先進国への
       「卒業」も問題になっています。
      EU(ヨーロッパ連合):オランダ、独、英、デンマーク、その他
       環境問題に熱心な国が多く、地球温暖化問題でもリーダーシップを
       取ろうとしています。
      JUSSCANNZ(非EU主要先進国 日本・アメリカ・スイス・
       カナダ・オーストラリア・ノルウェー・ニュージーランドの
       頭文字):EUに対抗するためにEUに所属しないOECD加盟国が
       作ったグループ。日米加豪など温室効果ガスの排出量が増加傾向に
       ある国がほとんどで、議定書交渉でも後ろ向きなグループです。

移行期経済国(旧計画経済国):ロシア、旧東欧
    社会主義体制の崩壊で、経済状態も悪化、結果として、温室効果ガスの
    排出量も1990年に比べると減少しています。経済的な余裕がなく、気候
    変動条約では途上国への資金援助を免除されています。しかし、これから
    経済状況が復活すれば、温室効果ガスの排出量も増加する事が予想される
    ため、今後も他の先進国とは別の扱いを求めています。

b). 非付属書I締約国
  G77+中国(途上国グループ)
  AOSIS(小島嶼国連合):カリブ海、南太平洋、インド洋などの島国
               海面上昇やハリケーンの巨大化など地球温暖化の影響               を最も深刻に受ける国々のグループ。第1回締約国会               議の前に、AOSIS議定書と呼ばれる「先進国の二酸化               炭素の排出量を2005年に1999年レベルから20%削減               することを義務づけた議定書案を提出するなど、気候               変動防止の重要性を最も真剣に主張しています。
  産油国:サウジアラビア、クウェートなど。各国が温暖化防止に取り組む
      と石油の消費量が減少し、石油輸出量の減少と価格の低下によって、
      自国の収入が減少する事を危惧し、温暖化防止を一貫して反対。
  アフリカ諸国:経済的に貧しい国が多く、温暖化による砂漠化の加速、
         食料生産の減少など、影響を受けやすく、また対応能力も低いのです。

コラム:途上国からみた地球温暖化問題
 環境問題の国際的取り組みは常に南北対立の構図を伴っています。地球温暖化問題も例外ではありません。ランカウィ宣言、G77カラカス宣言、アマゾン宣言など途上国環境会議の声明には次のような原則が盛り込まれている。
(1)地球環境問題は、先進国によるところが大、
(2)先進国は、途上国が気候変動に対応するための資金・技術を供与すべき、
(3)貧困は途上国の最大の問題であり、持続可能な開発は環境だけでなく貧困も対処する
ものであること、
(4)気候変動問題の国際交渉は、地球規模の影響を考えるとすべての途上国をまきこんで
いくことが必要である。

┌───附属書I締約国 ─────┐┌─その他の締約国(途上国)─┐
│                 ││               │
│┌─附属書II締約国        ││G77+中国(途上国)   │
││  OECD          ││ 小島嶼国連合(AOSIS)   │
││  EU(ヨーロッパ連合)    ││ 産油国          │
││   JUSSCANNZ      ││ アフリカ         │
││ (非ヨーロッパ連合)      ││ アジア          │
││                ││ ラテン・アメリカ     │
│└─移行期経済国(旧計画経済国)││                │
│ ロシア             ││                │
│   旧東欧諸国          ││               │
│                 ││               │
└────────────────┘└──────────────┘

(2)NGO

 気候変動条約で活躍している環境NGOのネットワークにCAN(Climate Action
Network)があります。CANは1989年に結成され、主な気候変動問題の国際会議ごとにニュースレター(ECO)を発行したり、声明を出したり、各国の気候変動政策の国別評価レポートを作成しています。またCANを構成している地域NGOは、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、東南アジア、南アジアなどがあります。国際環境NGOのWWF、グリーンピースもCANの主要メンバーです。環境NGO内の結束は固く、温室効果ガスの具体的な削減行動を早急にとるよう要求しています。
 環境NGOの他に、企業がつくる産業NGOも気候変動の交渉に参加しています。当初は、CO2排出企業が(石油・石炭、エネルギー業界など)が主でした。しかし、地球温暖化防止がビジネスチャンスになる再生可能エネルギー関連の業界や、地球温暖化によるハリケーンの巨大化による保険金の支払いの増加を懸念する損害保険・金融業界も活躍を始めており、産業NGOの多様化がすすんできました。

内容に関するお問い合わせは「kiko97@jca.or.jp」へどうぞ。