5.第2回締約国会議(COP2)

(1)会議の論点

   COP2は、1996年7月8日から19日まで、スイスのジュネーブで開催されました。COP2は、COP1とCOP3との中間に位置し、各国の取組状況とベルリンマンデートの進捗状況などのチェックが重要な役割でした。それとともに、主な議題は以下のとおりでした。
1) IPCC第2次評価報告書の評価(今後の気候変動対策を行う上で、十分な科学的根拠を与えてくれているのか)
2) 先進国からの第2回国別報告書のガイドライン(1994年に提出された第1回国別報告書にいくつか問題点が指摘され、97年4月に予定されている2回目の報告書の内容の改訂が問題になった。)
3) 途上国からの第1回国別報告書のガイドライン(途上国は、先進国に比べて資金も技術もないので、同じ報告書は出来ないが、ではどうするのか。)
4) 手続き規則(投票のルールとビューローの構成)
 会議の最大の争点は、先進国が温室効果ガスの排出削減に向けて、IPCCの科学的知見をもとに緊急な処置を取る方向に進むことができるかでした。COP2で何の成果も得られなかった場合、COP3で合意に達する見込みはないのではないか、との危惧がNGOのみならず政府関係者の間でも広まっていました。「アクションをとらない(訳注 だらだらと会議のみを続けていく)、というのはオプション(選択肢)ではない」という、ある途上国政府の発言はこの危機感が端的に現れたものでしょう。
 閣僚会議などの締約国会議とは別にSBI・SBSTA・AGBM・AG13(気候変動条約第13条に関するアドホク・グループ)などの補助機関の会議も行われました。

(2)AGBM第4回会合

   懸案事項である、政策と措置や温室効果ガス排出削減の数値目標に関して、さまざまな国からの提案を絞る基準がなく、議論は停滞したままです。環境NGOは、早急にテーマを絞り込み具体的決定を行うよう先進国に呼びかけました。
   数値目標に関しては、各国が合意しやすいゆるい達成目標にするか、IPCCなどの科学的知見をベースに温室効果ガスの排出量を環境上安全なレベルに抑える「安全着陸」を目標にするか、でも意見が分かれています。さらに、「差異化と公平」をどのように盛り込むかで底無し議論にはまりそうです。

(3)SBSTA(科学的技術的助言に関する補助機関)第3回会合

 IPCCの第2次評価報告書の扱いをどうするか、科学的知見の正当性の判断について意見が分かれました。特に「気候変動は人為的影響が大きい」というIPCCの判断、評価報告書の内容をもとに議論を進めるか否か、などで意見が分かれました。特に産油国グループはこの評価報告書の結果から早急なアクションが必要との結論を出すことに反対し、結局合意に達することができませんでした。

 共同実施活動について、G77+中国、インドなどから、先進国・ 途上国間の共同実施活動と先進国間のそれとを区別し、先進国・途上国間のプロジェクトには財政援助と技術移転を導入するべき、との意見がありました。また、共同実施活動プロジェクトに費用効果原則をあてはめるか否かでもEUなどの先進国とイランなどの途上国で意見が分かれました。共同実施活動については理解を深めるために今後ワークショップを開くことになりました。

(4)SBI(実施に関する補助機関)第3回会合

 地球環境基金(GEF)が気候変動条約の財政メカニズムとして機能していくことになりましたが、GEFとCOPとの覚書をめぐり論議が進められました。資金供与に費用効果基準を盛り込むかどうか(アメリカ案)なども意見が分かれています。
 国別報告書の2回目の統合レポートが発表され、先進国で2000年までに1990年レベルまでCO2 排出量を削減できない国が約半数あることに、G77+中国が懸念を示しました。 最終的には、技術移転・共同実施活動・締約国の国別報告書・財政メカニズム(GEF)・事務局事項について決定することができました。

(5)AG13(条約第13条に関するアドホックグループ)第2回会合

 気候変動条約第13条で規定されている条約の実施に関して起こるさまざまな問題の解決のための多数国間の協議手続きについて検討するアドホック・グループです。今回の会議では、そうした問題にどう対処しているのか、既存の国際機構(世界貿易機構、ILO、バーゼル条約他)の関係者を呼んでワークショップを開催しました。

(6)閣僚宣言(ジュネーブ宣言)

 最終日前日に、COP2での決定事項のまとめ、今後の課題の確認として、締約国会議は閣僚宣言に留意(take note)することを多数の拍手により決定しました。残念ながらコンセンサスによる合意は得られなかったのです。この閣僚宣言は、開催地の地名からジュネーブ宣言とも呼ばれています。

 閣僚宣言はベルリン・マンデートと比較して次の点で評価されています。
1) IPCCの第2次評価報告書は、現段階で最も包括的で権威ある評価であると判断し、温室効果ガスの排出削減の早急なアクションをとる科学的基礎となると認めたこと。
2) 温室効果ガスの濃度の増加は気候系に対して、危険であると認めたこと。暗に長期的には温室効果ガスの排出量を今日より大幅に削減しなければいけないことを認めたことになります。
3) 多くの先進国は、温室効果ガスの排出量を2000年に1990年レベルに戻すために追加的措置が必要であると認めたこと。
4) ベルリンマンデートに基づいてCOP3で採択される法的文書の内容について、法的拘束力のある目標を持たせるべきであるとしたこと。
5) 途上国への資金供与、技術移転が強調されたこと。

 しかし、一方でこの閣僚宣言を手放しで喜ぶわけにもいきません。例えば、「排出抑制及び相当の削減のための数量化された法的拘束力のある目的」(環境庁仮訳)とありますが、いつまでに何に対してどれだけの削減をするのか、また、法的拘束力とは何かに関する具体的な記述はありません。法的拘束力という言葉が宣言に入ったことは前進ですが、こうした問題は、結局先送りされたとも言えるのです。

<コラム>ジュネーブ宣言を巡って

 ジュネーブ宣言は、COP2に出席していた大多数の閣僚に拍手を持って受け入れられたものの、反対意見を述べた国家も少数ながら存在しました。

  • オーストラリア:
     石炭業界を抱えるオーストラリアは、法的拘束力のある目標について、留保しました。
  • ニュージーランド:
     法的拘束力のある目標について、困難であると述べました。
  • ベネズエラ・イラン・サウジアラビア・クウェート・アラブ首長国連邦・シリア・カタール・ヨルダン・ロシア・ナイジェリア・オマーン・バーレーン・スーダン・イエメン(以上14ヶ国):
     全体会議での議論なしに少数の国家だけで作成された閣僚宣言は、バイアスがかかっており、賛成出来ないと公式に主張しました。

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