博物館提言活動
第3章 博物館を取り巻く状況〜県の基本施策など〜

 

1.県行財政改革計画

1−1.経費削減とスリム化

県は2002年9月11日、「(仮称)千葉県行財政システム改革行動計画(原案)」及び「(仮称)千葉県財政再建プラン〜財政再建団体への転落回避に向けて〜(平成15年度〜平成17年度)(原案)」を発表した。

この2つの行財政改革計画は、県財政が2兆円余りの債務を抱える中、2003年度から2005年度の3年間で見込まれる財源不足3620億円への対処として打ち出したもので、創造に向けた施策精選型の新しい行政システムを築きながら、財政の危機的状況を「経費節減での歳出削減」と「受益者負担の適正化」により打開するとしている。

改革の3つの柱として、第一に「県行政のスリム化」(民間能力の活用、組織・機構の再編整備、公社等外郭団体の抜本的見直し、定員管理の適正化)、第二に「新しい行政システムの構築」(開かれた県政と県民参加の推進、窓口業務等行政サービスの向上、事務事業の評価と見直し、市町村への事務権限の移譲、人事システムの転換)、第三に「財政構造の体質強化」を挙げている。

このうち定員適正化計画では、2002年度までの5年間で2,358人を削減したとし、今後2003〜2005年度の3年間に事務事業の廃止、業務プロセスの見直し、組織の再編等により職員の削減目標として660人(2002年4月1日現在の職員数14,902人)を挙げ、学校職員についても県単独配置職員の見直しにより25%(2002年4月1日現在の学校職員数1,224人)を削減するとしている。
   

1−2.博物館施設見直しの動き

博物館については、組織・機構の再編整備の一環として「公の施設の見直し」が挙げられ、「県内10箇所ある博物館及び美術館について、市町村との役割分担を明確にし、県内博物館ネットワークの再構築の観点から、統廃合や市町村への移管を進めるとともに、運営方法の見直しを行います。」とされ、2002〜2003年度が検討期間、2004年度から順次実施としている。博物館の管理運営に関係するものとしては、前項の定員適正化計画のほかに、公社等外郭団体について、2002年度中に見直し案を策定し2003〜2004年度順次実施としている。

一方、「財政再建プラン」では、県有施設の入場料の有料化など、利用者負担増として3年間で30億円を確保するとしている。

 見直しの進捗状況については、関係市町村への説明及び意見聴取を実施中とし、今後、県民、市町村や関係者の意見を参考とし各施設について具体的に検討を進めるとし、運営にあたってNPOや県民との協働のあり方についても検討したいとしている。  

 

2.千葉からの「変革と創造」〜「千葉主権の確立」

2−1.県行政の中長期的な視点

 前項の2つの行財政改革発表の3ヵ月前の2002年6月2日、県は中長期的な視点で県政運営の基本的な方向を示した「千葉主権の確立」に向けた「千葉からの『変革と創造』」を発表した。ここには前述の行財政改革や行動計画を通じて実現の目標とする21世紀にふさわしい千葉県のあるべき姿が示されている。

「千葉主権」の具体的な姿としては、以下の具体的な記述が2002年7月5日の「ちば県民だより」にある。

@一人ひとりが千葉県民として誇りと自信を持つ。
A一人ひとりがその人らしく生きることができる経済的にも文化的にも自立した県。
Bこれまでの中央集権型から脱却し、地方が固有の歴史と文化に根ざして、主体的で個性的な県政運営を行い、新しい分権型社会を構築していく。
C生活、産業、環境などあらゆる面における「持続可能」という視点。
D豊かな自然、個性的な歴史や文化、多様で可能性のある産業など貴重な財産の最大限の活用。
E「21世紀型の千葉デモクラシー」=徹底した情報公開と県民参加のもとで、県民の主体的な政策提案型の県政運営。

そして、「変革と創造」の中には、以下の施策等が記されている。

@一人ひとりの個性を大事にする教育、生涯にわたる人間形成と学習機会の提供。
A多様な生物、生態系の保全と再生。開発と保全の対立の構図から自然との共生の実現。
B前例踏襲型の画一的な行財政運営から施策精選型の県政。
C政策形成過程における県民参加の仕組み。

 

2−2.博物館施策との関係

 「県立博物館の統廃合計画に反対し博物館機能の一層の充実を求める要望書」(2002年7月29日付け、提出団体:県自然保護連合、プロジェクトとけ)に対し、県教育庁は「近年、生涯学習社会の本格化、情報システムの高度化などにより、県民のライフスタイルは多様化し、博物館の役割も大きく変化しています。そこで今後は、県と市町村の役割分担をさらに明確にした上で、「千葉からの『変革と創造』」の観点に立ち、フィールド・ミュージアム機能も含めて、幅広く県内の市町村立や私立博物館を含めた「県内博物館ネットワーク」の整備充実を図る必要があると考えております。博物館の見直しにあたっては、こうした視点に立ち、皆さんのご意見も十分参考にさせていただきながら、県立博物館のあるべき姿の具体的検討を進めてまいりたいと考えております。」(02年9月4日付)と回答している。

ここには、博物館を見直すにあたって、教育庁の以下の基本姿勢が示されている。

 @「変革と創造」の観点に立つこと。
 Aフィールド・ミュージアム機能を含めて、県内博物館ネットワークの整備充実を図ること。
 B県民の意見も十分に参考にすること。

 

3.生涯学習社会における博物館のあり方〜(財)日本博物館協会報告

 (財)日本博物館協会は2000年12月に、新しい博物館の理念を「21世紀に相応しい<望ましい博物館>とは、『対話と連携』を運営の基礎に据え、市民とともに新しい価値を創造する生涯学習社会における新時代の博物館である。」とする報告書(文部省委嘱事業「博物館の望ましいあり方」調査研究委員会報告)をまとめ、「対話と連携」こそが博物館力を飛躍的に増大し、家庭・学校・地域の教育力を高めるとした。
 生涯学習社会の新しい教育システムの中では、従来の学校中心の教育活動と比較にならないほどの重要な役割分担を持ち、それを果たすことこそが博物館の社会的存在理由としている。

 その一方で、急速に増大する市民需要に対し、日本国内の博物館が十分対応できない要因として、従来の博物館活動が、収蔵庫管理と展示に重点が置かれ、博物館独自の教育活動の蓄積に乏しく、また活動を推進する博物館資源(人材、資材、予算、情報)も極めて貧困な状況にあることを挙げている。この増大する市民需要と貧困な博物館資源という運営のジレンマを埋める対応策として、「対話と連携」の博物館が唱えられている。

対話の「原則」としては、以下のポイントを指摘している。

@博物館活動の全行程を通して対話する。
A利用者、潜在利用者の全ての人々と対話する。
B年齢、性別、学歴、国籍、障害の有無を越えて対話する。
C時間と空間を越えて対話する。

また、連携の「原則」としては、以下を挙げており、市民や社会とともに創造する博物館が求められていると言えよう。

@館種別、設置者別、地域別を越えて連携する。
A学校、大学、教育研究所等と連携する。
B家庭、行政、民間団体、企業等地域社会と連携する。
Cアジア、太平洋地域及び世界の博物館・博物館関係機関と連携する。

 

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