博物館提言活動
第4章 利用者、博物館の声〜アンケート、シンポジウムから

 

 「博物館の役割と課題」「博物館の評価」「市民・NPOとの協働」「県が打ち出した行財政改革」について、利用者、博物館はどう考えているのか。市民アンケート(事前アンケート回収数500、シンポジウム会場アンケート回収数40)、シンポジウムでのパネラー及び会場発言、各博物館からのアンケートの回答結果の概要を以下にまとめた。

 上記の各項目ごとに「利用者の声」「シンポジウム」「博物館の声」として整理してみた。なお、「博物館の声」は各博物館の組織としての正式な見解ではなく、回答者個人の考えと解していただきたい。また、シンポジウムのパネラー発言の内、県や博物館関係者の発言は、「博物館の声」の中に含めた。従って、「シンポジウム」として紹介されている声は、利用者の声の一部でもあることをご理解頂きたい。

 なお、シンポジウムの開催場所が自然誌を主要なテーマとする中央博物館であり、回答者に自然愛好者の比率が高く、NPO関係者でも自然保護分野で活動する者も多かったことから、千葉県立博物館全体の中では、人文系(歴史系)と比べ自然系の意見が多く反映されている。同様に、アンケートでは「千葉県に居住/千葉県外に居住」で質問しているため正確には把握できないが、千葉市周辺に居住する者の割合が、それ以外の市町村に居住する者より大きくなっていることが想像される。また、主たる関心の対象である施設が美術館または現代産業科学館である者からの回答はかなり少なかった模様である。

 

1.博物館の役割と課題

1−1.利用者の声

博物館に今後期待する役割として、6項目の選択肢による市民アンケートの結果は、以下の順であった。

 @県民が参加体験して学べるセミナーや講座など学習の場(65%)
 A自然保護や環境保全に関する科学的知見の提供(64%)
 B地域文化の拠点として地域の交流の場(54%)
 C学術的資料を陳列、展示する場(53%)
 D情報センターの拠点(38%)
 ENPOやボランティア団体、県民との協働(34%)

県や博物館に対する期待や注文などへの自由記述の意見の傾向は、大まかに整理して「静的な博物館から脱却して欲しい」「博物館を充実して欲しい」「サービスの質を高めて欲しい」の3つに大別できた。その3つについて、それぞれ5項目ずつグループ化した類似意見を次に示す。

(静的な博物館から脱却して欲しい)
 @センスがよく、魅力的で、驚きのある、親しみやすい博物館になり、参加型の活動を増やして欲しい。
 A積極的に活動する博物館になって欲しい。地域や社会の現場に出て、科学的知見を提供して欲しい。
 B調査研究に力を入れ、最新の成果を展示等に反映し、現在の課題に迅速に対応して欲しい。
 Cまちづくりの拠点に博物館がなって、地域と密着した活動をして欲しい。
 D地域の文化・歴史を残すことに影響力を発揮して欲しい(対象地域全体をフィールドミュージアム[野外博物館]に)。
 Eネットワーク(NPO・市民・業・学・官)の拠点になって欲しい。
 F自然保護の専門家を育成して欲しい。

(博物館を充実して欲しい)
 @(県に対し)博物館の予算を減らすのではなく、むしろ充実すべきである。
 A自然誌系の博物館を充実して欲しい(中央・地方とも。山の博物館や三番瀬博物館の設置)。
 B博物館に自然保護・環境保全・生態系保全の拠点になって欲しい(自然保護の研究所の設置)。
 C博物館に生物多様性・自然誌のデータベースとなって欲しい。
 D環境・開発面でのチェック機関に博物館がなって欲しい(行政、議会、市民、業者等への助言を行う)。
 E「県民の蔵」としてデータや資料の保管整理をしっかりして欲しい。
 F三番瀬の問題をはじめ環境問題についての最新情報を、常に展示の中に盛り込んで欲しい。

(サービスの質を高めて欲しい)
 @様々な面でマネジメントの質を高める必要がある。
 A学校との連携を強化して欲しい。
 B気軽に利用でき、資料・データ類も利用しやすいようにして欲しい。
 CWebサイト等で情報を得られるようにして欲しい。
 DもっとPRする必要がある。
 E展示に魅力がない。標本がきたない。展示は何らかの体験を伴うものにして欲しい。

 また、これらとは別に、「自然系と人文系をつないで総合的に現代の課題に応えることができる博物館になって欲しい」とまとめることができるような回答が8件あった。また、以上の項目のいずれかに拾い上げることに躊躇した具体的な要望として以下のものがあった。少数意見を取りこぼさないように挙げておきたい。
@絶版となっている『千葉県メッシュマップ』(1990年、中央博物館著)を再刊して欲しい。
A美術館・博物館に障害者の展示スペースを設けて欲しい。
B募金箱を置くようにすればよい。
C谷津田・里山を博物館が買い上げ、または借用して保護して欲しい。
D専門家による(標本の)同定の窓口を設けて欲しい。

 

1−2.シンポジウム

  シンポジウムでは、自然誌博物館への具体的な提言や期待が数多く出された。

@地域の人と自然と文化を系としてとらえた環境の創造の拠点。生物多様性の観点から、身近な地域の自然環境と人々の暮らしや文化を見直し、自然保護を機軸に人間社会の未来と地球環境全体の保全の方向性を考える。

A千葉県の地域づくりはエコミュージアム(あるいはフィールドミュージアム)づくりから始まる。博物館の施設から外に出て、生きた野外の資料を見つめよう。市民によるエコミュージアム(あるいはフィールドミュージアム)の発想がこれからの博物館ネットワークの基礎となる。

 B市民参加による野外博物館(フィールドミュージアム)管理運営のスタッフ養成が是非とも必要である。わが国唯一の自然誌博物館機能を充足して中央博物館に加えて、自然調査研究や自然観察指導員養成の「自然保護大学」または「自然保護基礎研究所」を設ける。

C生き物に関する基礎的なデータをしっかり積み重ねる。

D千葉にとって必要な展示を行うこと。三番瀬を総合学習に活用する際の窓口。干潟の展示を充実させる。

E移入種問題に対処する。ワイルドライフセンターなり野生生物研究所なりを別途につくる。

E中央博物館の名称を見直す。千葉県の外人用案内パンフレットには、中央博物館が「歴史博物館」となっている。中央博物館という名称では、その特色や内容がわからないので、名称を「自然誌博物館」にする。

F自然系に興味を持つ子供たちを増やす。自然科学を博物館が中心になって普及する。

G文化科学情報発信基地=自然と共生するまちづくりの拠点として位置付ける。


  
1−3.博物館の声

 各博物館からのアンケート回答およびシンポジウムでの県、博物館のパネラーの発言では、以下の役割や課題が挙げられた。

(役割)

@自然が病んだときに、きちっと診断し治療するのが自然誌博物館の役割である。現場にきちっと対応できる体制をつくり、自然の現場をしっかり守っていく。

A自然や文化について研究し、その成果を踏まえ、将来の社会のありようについてきちっと提言していく。情報発信だけでなく現場の方々とともに、自然と文化を守ってこれを育む。

B生涯学習施設として、展示、事業を通して楽しみながら学べる場を提供する。

C資料・情報が集積された研究機関としての博物館は、過去、現在、未来に対する社会責任
を負う。
 過去−過去の記録を保存し、調査研究の成果とともに、未来に手渡していく役割。
  現在−直接現在の県民市民に働きかける役割。
  未来−未来を担う人格や社会の形成に寄与する役割。

D多様なニーズに応え、利用者と一体感のある取り組みや情報発信を行う。

E生涯学習時代における社会教育機関の一拠点として機能する。

F博学融合の体験的活動や場を提供する。

 (課題)

@企画展示の予算が低い(中央博物館は茨城自然誌博物館の1/10)。研究費予算はほとんど無いに等しい(中央博物館は年間5万4千円/人)。

A各博物館の特徴を出した活動ができる条件整備が必要である。

B市民の求める教育施設として果たす役割を創造できる機能を構築すること。

Cユニバーサルで障害者や老人にも快適な環境づくりが必要である。

D収蔵庫の容量が不足している。

E県の博物館の将来を行政、学識経験者、県民および学芸員などで考える場や組織が必要で ある。

 

1−4.博物館の役割と課題に関する考察

 利用者の「博物館の役割」としての期待は、博物館の従来のイメージである「陳列、展示の場」という静的、受動的なものから、施設の境界や従来の枠に拘らず、「参加・体験・対話・協働」という双方向の動的、能動的な役割へと変化してきている。そこには、千葉の自然や伝統文化の価値を認め、自ら担い手としてそれらを保護・保全し、次世代へ伝承したいという強い意欲がみられる。野外博物館(フィールドミュージアム)の管理運営の主体として市民研究者を養成して欲しいとの声や、そのための「自然保護大学」や「自然保護基礎研究所」の設置などが必要になる。

 また、ネットワークとしては、博物館相互のネットワークだけでなく、NPO・市民・学校・行政期間・企業などとの多面的なネットワークを求めている。県は中長期の基本方針である「千葉からの『変革と創造』」の中で、生態系、生物多様性保全を重点施策として挙げているが、そのためには自然誌博物館の資源(人材や資料など)をより有効に活用するなど関係機関との適切な連携と役割分担が期待されている。

 博物館の声として、情報発信とともに、市民とともに自然と文化の現場を守り育むこと、未来を担う人格や社会の形成に寄与する役割が挙げられたが、これらはこうした利用者の声と一致するものといえよう。地域で直面している課題に向き合うことが今、博物館に求められていると言えよう。こうしたことを可能にする具体的な条件整備の方策を博物館だけではなく、その利用者とともに検討する時期にきている。
 

 

2.博物館の評価

2−1.シンポジウム

@展示の充実、親しみ易さ、最新の技術を導入し、社会のニーズを捉えて更新していくことなども博物館の評価になる。見えない部分の評価も重要であり、博物館をきちんと評価していくことが必要である。

A博物館に対する正しい評価方法をつくって、それが市民にも行政にも理解されることが不可欠である。

B入場者数での評価はそれ自体あまり意味がない。入館者一人当たり○○円の予算を掛けているということならば、入館者が○○円に相当する価値を得たかどうかということが評価のものさしの1つになるのではないか。それは、博物館活動に関心を持たない人を説得する道具としても利用できる。民間企業でさまざまに工夫されているように、博物館をよりよくするための指標をつくる必要がある。

C自然保護や教育・文化の育成はお金で計れるものではない。しかし、県民や社会のためにどのような活動をどのくらいしているかを明確に示す責任がある。

 

2−2.博物館の声

@日本博物館協会の活性化・効率化に資する評価のあり方に関する調査研究を参考にしたい。静岡県では外部研究者を入れて評価ワーキンググループを結成し、各事業に対する指標を用いた事業評価に取り組んでいる。学校との連携、ボランティアとの関係、利用の快適性、社会とのネットワークなど70項目程度の評価指標がある。これらを参考に今後、県としても評価手法を検討したい。

A各博物館及びその各部署、更に各学芸員が仕事内容をアピールするための自己評価と情報公開が必要である。

B評価項目として、収集(収蔵資料数)、取り扱い資料、展示活動(常設展、生態園等の野外展示、特別展、企画展、トピックス展、シンポジウム)、教育普及活動、展示解説(解説員等が解説した人員数)、講座、観察会、刊行物、電話相談、来館相談、取材対応、視察対応、研究活動(学術論文、調査報告、著作物、学会発表、学会役員)、市民・NPO・NGO支援(講師、協働作業、協働研究)、行政支援(審議会・委員会への参加)、大学等非常勤講師などがある。

C対費用効果の「効果」の捉え方、過去・現在・未来にどのような責任を負えるかという視点、市民の直接的な評価などが重要であり、そのためのシステムを開発する必要がある。

D館内外の視点を設け、相乗的な視点の変化による評価の繰り返しが必要である。

E利用者数の増減などの表面的な現象だけで評価するのではなく、展示内容や諸事業の実績などを総合的に勘案して評価すべきである。

F適正で総合的な評価が必要である。

G展示の内容や質、企画力、施設の利便性、使い勝手、運営力、与えた感動の度合い、目標設定の適格性とその達成度などが評価指標となる。

H教育、調査研究、資料収集保管活動などにおける効果効用に視点を置いた評価が必要である。第三者からの評価、その評価の公開も重要といえる。

I県民の立場からの評価を受け入れることを忘れてはならない。

 

2−3.博物館の評価に関する考察

 博物館活動に関する評価システムはまだ確立されてはおらず、千葉県もこれから検討する段階である。
 入場者数だけでの評価は不充分であり、入館者や参加者の満足度とともに、県民に対して社会的貢献をわかりやすく説明する責任が博物館にはある。いずれにしろ前述した「博物館の役割」として期待される項目が、そのまま評価の対象となると考えられるが、自然科学、社会科学、そして文化への深い理解を前提としながらでの第三者機関による評価、また、各博物館毎の地域性専門性を加味し、透明性や合意形成手法も含めた総合的な評価システムの確立が求められている。
実は、こうした評価の物差しがあって始めて、後述する博物館の行財政改革の論議が可能となるはずである。

 

3.市民・NPOとの協働

3−1.利用者の声

類似の意見をグループ化した結果、次の2つの意見が特に多かった。

@地域の活動、学習の場、NPO・NGOも含めネットワーク化する情報拠点および交流の場に博物館がなる。(41件)
A環境教育(体験学習、野外セミナー等)でNPOと博物館が協働する。(34件)

以下に挙げたのは、それぞれ十数件の類似の意見があったものである。

(NPOを主体として捉えた表現のもの)
 @情報の収集・集約や配信・配布にNPOが関わる。
 A博物館が行うあらゆる活動にNPO・ボランティアが参加する(運営は除く)。
 B博物館の運営をNPO等が中心になって行う。
 C運営まで行うのはNPOの実力次第と思う。

(博物館を主体として捉えた表現のもの)
 @博物館が学校や地域の活動を支援する。
 A博物館が主体となってNPO・ボランティアが協力する。
 B博物館が県民の価値観の転換に寄与するような活動を行う。
 C博物館が専門的見地から学習会等に講師を派遣する(NPOへのアドバイザー)。

 以上にグループ化できない意見も多数あった。その中には、博物館のあり方そのものについて触れたもの、NPOの捉え方について触れたもの、県民の関心について触れたものなど様々なものがあった。

 NPO全般についてはまだ萌芽的な段階であることから、それが何を行う組織かについて必ずしも共通認識が固まっていないようである。また、博物館が何を行うべきなのか、博物館をどういう場所として捉えるべきかについても、かなりの認識の差があることが見てとれた。

 本件アンケートは、回答者の立場を「公務員」「研究者」「NPO」「自然愛好者」「学生」などと付記してもらうようになっていたが、特定の意見に特定の立場の人からのものが多いといった傾向は特に見られなかった。ただし、「NPOには期待していない」との趣旨の意見が4件あり、その全てが「公務員」に属す人からの回答であった。

 

3−2.シンポジウム

@千葉県の自然誌のネットワークを市民の手で構築してはどうか。発掘調査をした場所(800箇所)を青空博物館として県土全体の自然誌マップづくりをする。それを行う市民の学習意欲を養い、研究する拠点の役割を中央博物館が担う。活動するミュージアムシステムの構築。まず野に出、山に出、街に出、いろんなデータをとり整理する。それを皆の共通財産とする。そういう気分で千葉県方式のミュージアムを発想し、管理運営に対するアイデアを交換する。

Aサービスの受け手としてだけでなく、公共の担い手としての市民が求められている。行政に任せていた政策形成のプロセスの中に市民が関わっていくことが必要で、その基礎研究ができる場として博物館を活用する。これからの博物館は、市民に開かれた地域の研究拠点となるべきだ。

B市民が現場データをとる。そのための手法やポイントを博物館が指導する。学術研究と社会教育が一体の取り組みと言える。

C中高生のための生物研究発表会を博物館主催とする。三番瀬の特別展の開催もお願いしたい。

D博物館行政が県民参加の理念を持つことが必要である。館長の公募、博物館評議員会の公開及び委員の市民参加、県民が利用できる展示会場の設置、研究テーマの募集、県民の研究施設の併設などを進めて欲しい。

 

3−3.博物館の声

@県内の学生やボランティアを受け入れている。今後の開かれた博物館については検討中である。

A古文書同好会に便宜を図っている程度で、特別な取り組みはしていない。NPOについてはこれから勉強したい。

BNPOからの呼びかけに呼応しているが、今後は博物館側からの呼びかけが必要になる。友の会や小中学校との連携を進めている。

C市民やNPOと博物館は相互に補完することが必要であり、方法を検討中である。

D住民とのつながりは、企画展、アンケート、資料等の提供、共同の展示解説、座談会など である。これからは社会教育機関や学校との連携が必要と考えている。

E安房学講座では地域の人たちに企画運営かかわってもらった。連携事業ではNPO、市などと協力共同した。

F友の会の自主運営に対する支援、共同研究者グループ(資料調査・整理)の充実が必要である。

3−4.市民・NPOとの協働に関する考察
 
博物館活動の範囲を広く自然や文化の保護・保全全般として捉え、現場の活動をNPOが担い、そのための必要な研修や指導などを博物館が担う。また、従来の限定された博物館活動の枠組みの中にNPOが加わり、一部を肩代わりする、あるいは側面から支援する。協働の様々な形態が考えられる。
 こうした利用者からの多様かつ多面的な提案に対して、博物館側の発想は全体として乏しいと言えよう。

 第2章で記したように、平成9年度文部省委嘱事業報告書で「県民参画の前提となる基本方針の確立」が挙げられいるが、これが実効性をともなう形で検討された跡がうかがえない。各博物館ごとに、外部と協働していく具体的な施策を、NPO、利用者と協働で検討する時期がきていると言えよう。

 また、NPOに対する知識や理解が博物館側に不足している面もある。博物館側の一部にあまりにも事務的で高飛車な対応も見受けられ、いずれにしろ今後の相互の交流、協働に対して前向きな対話が求められる。 

 

4.県の行財政改革

4−1.利用者の声

 「博物館の統廃合」「市町村への移管」「民間委託」「入館料の有料化」の4項目について、賛成、反対いずれでもない判断しかねる方がいずれも多数を占めた。賛成、反対に関わらずアンケート回答者は、博物館を地域の自然保護や文化の拠点として、今後ますます充実させる必要があるという点で一致していた。 

(1)博物館の統廃合について
  賛成が13%、反対・慎重があわせて全体の41%と、統廃合に否定的な意見が多かった。

(賛成意見)
@展示内容などが画一化しているのであれば、博物館はいくつもある必要はない。
A学術的資料を集めて系統だてて整理すれば更なる発展向上につながると思われるので、統廃合を契機に博物館の機能を向上させることができる。

(反対・慎重意見)
@多様化が求められる「生涯学習」のニーズに逆行することになる。
A自然保護や文化の発信地として、今ある博物館が有効に機能し、地域の文化度が向上することこそが必要である。
B統廃合されると、身近で気軽に見学することができなくなる。

 

(2)市町村への移管について
  賛成が6%、反対が8%で、大方は判断しかねるという状態である。
@博物館の対象範囲が市町村区分と果たして一致するのかどうか。
A市町村の財政負担や人材面での可能性などを検討する必要がある。
B単独の市町村ではなく、複数の市町村の共同運営方式が実態に即している。

 

(3)民間委託について
  賛成8%、反対・慎重12%で、多数は判断しかねるという状態である。

 (賛成意見)
@サービスと効率性が向上する。
A民間でも一般の企業ではなくNPOならば、利益を懐に入れないので任せられるかも知れない。

(反対・慎重意見)
@一般の企業は利益本位だから、利益が出なければ長く続く保障がない。
A民間ではサービスが低下するか、入館料が高くなるかの結果になる。
B民間では優秀な人材の確保は困難であろう。 

 

(4)入館料の有料化について
  有料化賛成23%、反対18%だった。多数は判断しかねている。
  また、有料化した場合でも、小中学生などへの配慮や料金設定は来館者に負担がかからない程度(ほぼ100〜300円の範囲)という点ではほぼ一致している。

(賛成意見)
@財政状況を考えれば、受益者負担もやむをえない。
A入館料を支払うことで、博物館に対する県民の意識が高まる。

(反対・慎重意見)
@実際には税金が投入されており、もともと無料ではない。
A有料化してもそれほどの収入にはならない。
B有料化に見合う内容や満足度が確保できるか疑問。
C入館者が確実に減る。
D文化・教育に絡むことに受益者負担を前面に押し出すのは疑問。

 

4−2.シンポジウム

 会場との質疑・意見交換の中でも、行財政改革の問題が出された。
 博物館における教育・文化活動に対する県政での位置づけを問う声、本来の県財政の逼迫の要因を問う声、管理運営の透明性を求める意見、今後の博物館改革政策の決定プロセスなどについて意見が出された。
@財政が逼迫しているとしても、博物館などの教育・文化面に税金を投じていくことは大切である。県単独の公共事業の実施が財政逼迫を招いたとの指摘もあり、まず、こうしたことをきちんと分析すべきだ。
A今後の博物館改革政策の決定プロセスでは、県民を含めた合意形成を図るために、その手法をきちんと確立する必要がある。知事部局だけで決めてしまうことがあってはならない。
B博物館の管理運営には透明性が必要であり、開かれた検討委員会、戦略プロジェクトが必要である。
C博物館に限らず聖域を設けず見直すというが、生物の聖域は千葉の聖域として守っていかねば自然破壊が進む。行財政が逼迫しているといっても、これからは房総半島の中で、生物の聖域をきちっと位置づけることは重要である。

 

4−3.博物館の声

 学校教育と並んで、県民の未来に関わる場として博物館の必要性は増していく。一方で、行財政改革が博物館運営に大きな影響を及ぼしつつある。県立博物館の統廃合は、千葉県の博物館設置構想の重大な変更であり、十分な検討と広範囲な議論が必要との声が大きい。
 また、設立の経緯、資料内容、地域との関わりなどは、それぞれの博物館固有のものであり、行財政改革のもとでの画一的な対応はおかしいとの意見もあった。
 県民にとって何がベストなのかという視点が最も大切であり、多様性、安全管理、適切な保存管理を考慮した上で、県民が利用しやすい博物館を再構築することを目指して、今後の博物館はどうあるべきかという議論をもう少し時間をかけて積み重ねていく必要あるという意見が出ていた。

(1)博物館の統廃合について
 @なぜ統廃合なのかの原因が不明であり、その先の計画が見えてこない。統廃合については慎重な検討を求めていきたい。

(2)市町村への移管について
 @県立という立場で広域的に活動してきたことから、単なる行政事務の移管というわけには
いかない。移管を受ける市町村民やその周辺の市町村民それぞれの未来の問題にも関わるこ
となので、単に、財政上の理由で短期間に結論を出せる問題ではない。
 A市町村の活動の限界についても、検討していく必要がある。

(3)民間委託について
 @全面的委託なのか、部分的委託なのか、具体像がまったくみえない。
 A館蔵資料の管理は慎重な取り扱いが求められる。どのような民間委託が可能なのかの基礎的な検討が必要である。
 B公共団体としての自負や見識はどこにいってしまったのかと、悲観的になってしまう。

(4)入館料の有料化について
@博物館法を遵守している自治体が少ないのだから、有料化もやむを得ない。ただし、有料化が直ちに県収入の増加につながるかは不明である。
A有料化は既決事項だが、どのようなかたちで有料化が実施できるのか。各館の実情に即した検討が必要である。
B現状を踏まえ、慎重な検討が必要である。
C徴収経費を考えれば現行を支持する。博物館法の理念を愚直に守る県があってもよいのではないか。

 

4−4.県の行財政改革に関する考察

 今後の博物館政策を検討していくには、県の行財政改革の決定プロセスが透明性を有し、県民にもわかりやすく、また、県民や当事者である博物館の決定プロセスへの参画が不可欠である。特定の行政部局による独断専行はあってはならない。

 まず、新しい政策を決定する前提条件として、博物館の統廃合、市町村への移管、民間委託、入館料の有料化などが現状を改善し、博物館の機能を充実できるかどうかが検討されねばならない。そのためには「博物館の役割」「博物館の評価」とともに県及び市町村博物館のネットワークのあり方や役割分担なども検討されなければならない。

 県の財政逼迫の原因を問う声が多数だされている。博物館の統廃合等を進める根拠の第一が財源不足であるとするなら、県財政の悪化の要因とその責任が厳しく問われることになるのは避けられないだろう。

 自然や教育・文化を守る博物館活動を、「変革と創造」で言う精選対象事業と位置づけて、今後の博物館政策を検討してもよいのではないだろうか。

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