在特や仮放免などに関する法務省への申し入れ

 

  在留特別許可(以下、在特)の裁決取消を求めて法務大臣を相手取り東京高裁に訴訟を起こしていたマウンミンスイさんの訴えが去る3月25日に棄却されてしまいました。それを受けてAPFSでは4月2日、植田むねのり衆議院議員の仲介により、法務省への申し入れを行ないました。その際の話合いについて報告します。

●要請の内容

 出席者は法務省側が石黒敏夫・法務省入国管理局審判課補佐官、津留信弘・審判課違反審判審判係長、蛭田昭久・入国在留課永住審査係長ほか全5名、APFSが吉成勝男代表、フジタ未来経営研究所の鈴木江里子さん、津川、山口、白取の5名でした。

 APFSは申し入れ前にあらかじめ法務省に対して要請書を送りましたが、申し入れの際に、あらためて吉成代表が正式な文書として石黒審判課補佐官に要請書を手渡しました。
 APFS側の要請内容は次の5点です。

(1)1999年9月から実施してきた在特一斉行動での出頭者に対し、どのような基準のもとに裁決が行われたのかを明らかにしてほしい。
(2)マウンミンスイさん一家への在特を求める。また、上告あるいは再審情願を行っている間は、一家を収容しないよう求める。
(3)一般アムネスティの実施が困難であるならば、一定の基準のもとで在特を柔軟に運用することで非正規滞在者を救済するよう要請する。
(4)再審情願はどのような状況であれば認められるのか、また、再審情願により救済された件数、その際に認められた在留資格の内訳を明らかにしてほしい。
(5)上陸拒否事由に該当するものの日本人配偶者を得た後に上陸特別許可が認められた件数と、どのような場合に上陸特別許可が認められるかを明らかにしてほしい。

 申入れの席では、おもに石黒補佐官が要請書に対して答えました。

●在特の「新基準」とアムネスティについて
 まず、(1)については、裁決における判断の基準はなく、出頭理由、生活状況などを総合的にみて個別に判断した、といういつもながらの返答でした。これに対して吉成代表が「中学生以上の子どもがいる家族(片親のケースは除く)にはすべて在特が認められた。これは新基準と判断してよいのではないか」、また石黒補佐官が挙げた「総合的にみる」要素の中に「内外の諸状況の変化」という言葉があったことを受けて「それは何か。在特が認められた10家族にはそれがあったということか」と質問しました。しかし、石黒補佐官はどちらの質問に対しても、どれか1つの要素があったから認めたわけではなく、あくまでも総合的に判断した、と繰り返すばかりでした。

 (3)については、アムネスティの実施は不法入国や不法残留を誘引する作用があり、かえって事態を悪化させるという法務省従来の考え方を示したうえで、在特についても、「人道的観点、他の不法滞在者のへの影響を考えて、適切に行なっている」と石黒補佐官は答えました。これに対してAPFS側は、「定住化が進めば『個々のケース』ではやりきれなくなる。基準を明確にしたほうがよいのではないか。この点について一考の余地はあるのか」と質問しました。それに対する返答は、「まったく考えていないわけではない」が、不法残留者が最高時の29万人から今年1月の統計で約22万500人になったことを示して「やっと10万人減ってきた」と指摘
、摘発・送還は大切であり強化してきたこと、法務省では入国・在留のほうもきちんとやっており、車の両輪でやってきたというものでした。

 APFS側は、不法入国も含めると現在の非正規滞在者は約25万人と推計され、最高時と比べて4万人しか減っていないと指摘。そのうえで、摘発・送還には限界があり正規化も道ではないか、不法のままで放置するほうがかえって日本社会にとってマイナスなので、基準の明確化をぜひ検討してほしいと主張しました。そして、その場でスタッフの山口が石黒補佐官に参考資料として、在特一斉行動を記録した本『子どもたちにアムネスティを』を手渡しました。

●マウンミンスイさんの件と再審情願について

(2)については、再審情願が行われた場合はあくまでも「嘆願書」の内容を見て判断することになるが、再審情願に法的拘束力はなく、一般的にはすみやかに収容・強制送還することになる、と石黒補佐官は答えました。そして、ミンスイさんのケースにおいてもそうなる可能性があることを示唆しました。これに対してAPFS側は、「来る4月18日の仮放免更新日に収容するということか」と聞いたうえで、妻が病気中で悪化の可能性もあることから、人道的にも仮放免を認めるよう強く求めました。そして妻の診断書を石黒補佐官に手渡し、このような申し入れがあったことを現場である東京入局管理局に伝えてほしいと強く訴えました。

 これに対して石黒補佐官は、4月18日に収容するかどうかは未決定で、これから出される「申請」を見て判断すると述べました。また、「ミンスイさんを収容しないとここで約束してほしい」と迫るAPFS側に対し、ここでの約束は無理としたうえで、先のミンスイさんのケースで述べたこともあくまでも一般論であり、基本はすみやかな強制送還、申請をみて判断、と一般論を繰り返しました。一般論ではなくミンスイさんの件についてどうなのかという質問に対しては、法務省側は具体的なケースに関するその場での判断を拒みました。そして、どんなケースでも人道的な観点は判断材料にしている、再審情願したから自動的に仮放免が更新されるわけではないと言っている、と述べました。「これまで仮放免を認めてきた理由となっている状況は変わっていないのに、今回は何が変わったから収容する可能性があるのか」というスタッフの津川の質問に対しても、一般論以外には言及しませんでした。

 また(4)の「法的拘束力がない」という再審情願についての質問に対しては、あくまでも本邦との緊密な関係などがある場合に限って例外的に在特が認められるという効果があると法務省側は答えました。また、正式名称はなく、入管が「作った制度ではない」とも述べました。吉成代表が「私は再審情願という方法を入管の審判部門で教えてもらった。きちんと位置づけられた制度ではないとすると、誰かが勝手に作ったのか」と聞くと、法務省側はそれには言葉を詰まらせたものの、きちんと位置づけられた「制度」ではないことを強調するばかりでした。

●上陸特別許可や統計について

 (4)と(5)では具体的な件数を明らかにするよう求めましたが、法務省側は、(4)には件数を明かしませんでした。ですが、(5)の上陸特別許可が認められた件数については明らかにしました。そして、これは手作業で出した数であり、申請件数までは把握しておらず、正否の比率を出すこともできない、と法務省側は述べました。また、上陸特別許可も個別のケースごとに判断していると言及しました。

 APFS側は、たまたま裁判を経て退去強制になった者が永久に入国できなくなることもあるというのは過酷ではないか、もう少し基準や枠を広げる必要があるのではないか、と質問しましたが、それに対しては、刑罰を受けたのは事実であり、家族的結合については十分考慮していると法務省側は答えました。吉成代表は「執行猶予機関が経過したことは、上陸特別許可の判断材料になるのか」と聞きましたが、それに対しても法務省側は、「執行猶予が明けたことは一つの事実。でもそれが基準というわけではない。こうしたことも材料として総合的に判断している」と答えるにとどまりました。

 また、統計の話の際に、鈴木さんから法務省に対し、非正規滞在者に関して法務省が発表するデータには国籍と人数などの項目しかないが、滞在年数などの統計もぜひとってほしいとの希望が出されました。それにより、非正規滞在者の日本在住が短期なのか長期にわたっているのかがわかるし、国としても何らかの判断がつきやすいのではないか、という理由からです。

 法務省がマウンミンスイさんの仮放免について具体的な言及をいっさいしようとせず、あくまでも一般論に終始する形式的な姿勢には憤りを覚えます。とはいえ、かなり厳しい状況となってきた感もあります。ですが、APFSでは引続き、再審情願などにより、ミンスイさんの在特取得を支援していくつもりです。 

 




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