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 第155号(2004年4月28日発行)

第10回連続学習会

「環境アセスメントと市民アセス」(前編)

(2004年3月5日 中野商工会館)

講師 花輪伸一さん(WWFJ)

  環境アセスメント制度の成り立ち

 今日は、環境アセスメントはどんなものなのか、それを市民が実行するというのはどういうことなのかについてお話したいと思います。

 環境アセスメントが一般的に言われるようになったのは30年くらい前、制度として は日本では30年くらい前に、公共事業について個別の環境アセスメントの制度ができたわけです。そのころの制度は非常に不備だったし、法律でもなかったわけで、実際にアセスメントが行われる際にそれに関与しようものなら、開発側の手先かといって盛んに糾弾を受けた。実際そのぐらいひどいアセスだったわけです。頼まれてやった人たちも結果は開発に手を貸してしまったということで、後で後悔する例が多かった。ですからアセスメントには触らないというのが30年くらい前の環境運動の雰囲気だった。

 それが段々時代が変わってくる、制度も変わってくる、研究も進んでくる。そうすると、環境アセスメントというのは、開発をストップさせるためのいい手段になるんではないかと、そういうふうに考えられるようになったし、実際に環境アセスメントで開発を止めた事例も出てきた。

 環境アセスメントが、最初にできたのはアメリカです。NEPA(国家環境政策法)という法律が1969年の12月に制定されて、翌70年の1月から施行されている。「人間の環境に重大な影響を与える法律その他、国の行為に対して作成される全ての勧告や報告、提案は、詳細な環境報告書と共に提出されなければならない」と定められています。

 要するに国の行為、法律を作る場合、あるいは開発をする場合、勧告をする場合、提案をする場合には、必ず環境へどんな影響があるのか、そういう報告書を作らなければいけない、というのがこのアメリカのNEPAの精神になるわけです。アメリカで最初にできたというのは、国の政策によって開発を進めていった結果、環境が非常に悪くなって、アメリカという巨大な国土を持つ国でさえフロンティア、自然の部分あるいは未開の部分がなくなってしまった。そういうことを背景に、開発をする際には影響を事前に調べるという制度ができあがっていったわけです。


 遅れてしまった日本 

 日本ではどうかというと、1972年に閣議了解という、これは法律ではありませんが、各種公共事業に関わる環境保全対策についてということで、公共事業だけ、しかも種別、例えば港湾、ダム、道路だとか、そういった分野別に環境汚染対策のためのアセスメントをやるということが閣議で了解されたということがあって、分野ごとに調査がなされ予測がなされるようになったわけですが、先ほど話したように、この時代のアセスというものは極めてずさんなものだった。そのため1981年になって法律として体系的な環境影響評価法、これを国会に当時の環境庁が中心になって、81年に提出したが、83年まで引き延ばしにあって、その後廃案になった。これは産業界が大反対したわけですね。開発をする業界が、こういう法律があったんでは開発ができないということでだいぶ圧力をかけて廃案にしてしまった。

 83年に廃案になった結果、97年に制定されるまで10数年ブランクの状態ができてしまった。その間どうしてきたかというと、閣議決定の環境影響評価の実施についてという、いわゆる閣議アセスと呼んでいますが、行政指導です。開発の際には環境影響評価をするようにという行政指導、これにもとづいていろいろな開発で環境アセスメントが行われてきたわけです。ただこれは法律ではありませんので、行政の指導にもとづいて、各都道府県が自分の所で定める環境影響評価の要綱をそれぞれの自治体が作って、その二つでやっていくという時代が10数年続いてきたわけです。そして97年になってようやく環境影響評価法、環境アセス法と言っていますが、それが制定されて99年から実施されているというのが日本の状況です。長い間産業界からの抵抗があったわけですが、世界的な趨勢としてアセス法の法律を持ってないのは日本だけという批判が出されたわけですね。

 そしてこの法律、環境アセスメントの法律の目的はどうなっているかというと、環境アセスの手続きを定める、それから環境アセス結果を開発事業内容に反映させるのが法律の目的で、その結果、事業が環境保全に十分に配慮して行われるようにすると、これ全体が環境アセスメント法の目的になるわけです。これは法律の目的です。本来の環境アセスメントの目的はもっと広く考えるべきで、それについてはまた後でお話します。まず、現行のアセスメント制度がどんなふうになっているのかというのを一通り見ていきます。


 環境アセスメントの流れ

 アセスメントの対象事業というのが、この法律には定められています。全部で13種類、たった13種類なんですね。道路、ダム、鉄道、空港、発電所などを作る際には環境アセスメントをしなければいけないことになっています。しかしながらその事業の大きさによってはしなくてもいいものがある。第一種事業といって必ずやらなければいけないもの、それから第二種事業といってやるかやらないかを検討するもの、この第一種と、第二種のうち検討してやることになったものだけアセスメントの対象になるわけです。それ以外は対象にはならないということになります。

 例えば高速道路ですと、これは全て環境アセスメントの対象になります。それからダムですと、ダムによってできる湖の面積が100ヘクタール以上なら必ずやらなければならない。しかし、75ヘクタールから100ヘクタールならば、やるかやらないかを個別に検討していきますということです。75ヘクタール以下ならやらなくていいということになります。飛行場の場合は、滑走路の長さが2500メートル以上ならば必ずやらなければいけない。1875メートルから2500メートルまでならばケースバイケースで検討します。海岸や水辺の埋め立て、50ヘクタール以上ならば必ずやらなければいけない。40〜50ヘクタール程度なら検討しましょう、それ以下ならしなくてもいいということなんです。ここにも問題がある。小規模な開発になると環境アセスメントは不用であるということが出てくるわけです。こういうところを悪用して、埋め立て面積を30ヘクタールくらいに抑えて環境アセスメントはしないで逃れるという手があります。そしてほとぼりが冷めると隣の30ヘクタールを埋め立てる。合計すると60になるという、こういう汚い手を使うものもあります。しかし、最近は最初に基本計画をきちんと出せということで、そこまで露骨な例はだんだん無くなってきているようです。


 方法書はアセスの設計図

 そして対象事業が選ばれます、第二種事業、さっき言った面積が小さいもの、小規模なものの中からやるかやらないかを決めます。それから第一種は必ずやるということで、まずやるやらないを決めるわけですね。その後で、どんな調査をやるのかという絞り込み、スコーピングと言っていますが、方法書というもので、どんな調査をして、どんな環境影響を予測して、どんな評価をするのか、というところをその方法書の中で決めるわけです。ですから一番この方法書というのが大事で、環境アセスメントの設計図になるわけです。ここで、誤った方法が使われると後々ずっと悪い影響が残ります。この方法書が決まると、その方法書にもとづいて実際にアセスメントが実施されます。調査をして、調査結果から環境への影響を予測する。その予測を評価する。このような影響があるけど、環境にとっていいのか悪いのか評価をしていくわけですね。その結果を準備書という書面にまとめて提出するわけです。そしてこの準備書に対して意見をもらって、それを書き直して評価書に仕上げる。この評価書に対してまた意見をもらって多少補正をして、評価書を確定させたら事業に取りかかる。事業の実施に入るということになるわけです。そしてその後、評価書の中で書かれた環境保全措置を実行していく。場合によっては事後調査、開発した後どういう変化が起きるのか、そういう事後調査を行っていくことになるわけです。

 このスコーピングの段階、方法書の段階で、どんなふうに物事が動いていくかというと、まず事業者、開発をしたいという人たちが、方法書を作ってきます。こういう調査をして、こういう予測をして、その結果どういうふうに評価していくんだという設計図を作って持ってくるわけです。それを1ヶ月間公開します。この1ヶ月の間に関心の高い人たち、あるいは地域の住民の方々が、これを取り寄せて中身を検討して2週間の期間の間に意見を言う、こういう手続きがあります。縦覧期間です。たいがいの場合には、その事業者が自分の事務所の片隅に積んでおくだけで、住民はわざわざそこに行って1ページ1ページ読まなければいけない。だいたいが1000ページくらいある分厚いものです。実はそれ自体が問題なんですが、そういうものを公共機関の事務所の片隅で読むというのはまず不可能です。では、コピーをしてくれと言うと、著作権の問題うんぬんかんぬんで全部をコピーすることはできない。なかなかやりにくい状態になっています。しかし、住民のほうが非常に強い場合には、交渉をして方法書を借り出してくる、借り出してきたものを印刷屋さんに持ち込んでコピー製本してもらう。そうすると1000ページ位の物だと8000円から1万円位かかりますけど、そうやって作って研究者の方々に見てもらって意見をもらったりする。そういう努力を住民の方が重ねるわけです。そしてこの時に方法書がどれだけ良くなるか、悪いところを指摘して良くする、こういう努力をするわけです。事業者の場合には最低限の法律を守っていればいいんだということが見え見えですので、良くやろうというのは残念ながら今まで例が非常に少ない。どちらかと言えば、法律に違反しないところぎりぎりで、あるいは多少違反してもとにかくやってしまえというのが、今までのいろいろな方法書の流れになっています。

 そして、住民意見が2週間の間に出されますと、その意見の概要を事業者が作ります。事業者というのは、たいがい自治体とか国の機関です。それを地元の都道府県知事、あるいは市町村長に示して意見をもらう。その意見をもらって事業者がまた方法書を書き直して最終的に決定する。この方法書にもとづいて調査・予測・評価が行われるというわけです。これは環境アセスメント法ができてから、方法書というものが新たに加わわり住民が意見を言うことができるようになった。その前の閣議アセスでは、これは全く無かったわけで、いきなり環境アセスメントの準備書というのが出てきて、それを見て意見はどうだということだったわけですが、その前に意見を言うチャンスができたわけです。これは縦覧といって見せるだけですが、住民が強い場合には、事業者に要求をして説明会を開かせる、膝詰めで話し合いをして良い物にしていくことができるわけです。事業者にあまり誠意が無い場合には、説明会は全く開かない。法律に書いてないからやらないでいいということで、止めてしまうわけです。


 準備書と評価書

 次のステップとして、準備書、調査が終わってから調査報告書が出てくるわけです。これに対してもやはり1ヶ月間縦覧期間があります。そして、これは説明会がなされることもあります。そしてこれに対して住民意見を2週間求めて、これに基づいて意見の概要をまとめて、また都道府県知事や市町村長の意見をもらう。そしてそれをもとに評価書を作成するという手続きになるわけです。そしてこの準備書ができあがると、ほとんどアセスメントは完了に近いということになります。その次の評価書、最後に出てくる完成した報告書に関しては、これは住民意見を求めません。許認可者、例えば埋立ならば国土交通大臣が認可する際には国土交通大臣、そして国土交通大臣が環境大臣の意見が必要だと判断すれば、環境大臣の意見を聞くということになります。ただし、国が事業者の場合には、環境大臣の意見を聞くことがありますが、国が事業者ではなくて、あるいは国が事業者でも認可するのが地方自治体の場合には環境大臣の意見は聞かない。これは泡瀬干潟の埋め立て問題でかなりひどい例で皆さん怒ったんですが、泡瀬干潟埋立の事業主体は国ですが、一部県も入っている。内閣府が埋め立て計画を作って 事業者になって、沖縄県に許認可を求めるわけです。沖縄県知事が許認可を出すということで、沖縄県知事は環境大臣の意見を聞く必要はないということになります。これは地方分権のせいで、地方に権限を持たせるため県知事が大臣の意見を求めなくていいということになったわけです。そして影響評価書というのは、1ヶ月間縦覧をする。たいがいはさっき言ったように事務所の片隅に置いてあるだけ、見たい人が行ってぱらぱら見て 終わってしまうわけです。


 環境アセスメント手続きの問題点

 閣議アセスの時代から比べれば、環境アセスメント法ができて良くはなったんですが、いろいろな問題が残っている。大きな問題は、代替案の検討が不用だということです。現在の法律でも環境アセスメントをやる時には、もう事業の実施が決まっているということなんですね。環境アセスメントの結果、計画を中止するということはないのが現実です。代替案というのはA案、B案、C案、そして作らないというゼロ案を含めて、それぞれどういう影響があるのかというのを調べて評価書を作る。これはアメリカのNEPAで採用しているやり方です。従ってNEPAの場合には、環境への影響がA案の場合にはこのぐらい、B案の場合にはこのぐらい、C案の場合にはこのぐらい、作らない場合には現状と変わらずということで、どれを選ぶのかという選択をすることができるわけです。

 日本の場合には事業者が主体で、非常に強い。例えば国土交通省が事業者の場合には、国土交通省が自分で環境アセスメントをやる、そして自分でそれを評価する。そして自分でゴーサインをする。ですから良く言われるのは、自分で試験問題を作って、自分で解答を出して、自分で採点して合格させるという、まさにそういうのが今の環境アセスメントの制度なんです。これじゃ意味がないと、全くそう思うわけです。そしてもう一つ、事業者が一人でやっているのを第三者機関がチェックできない。事業者が中で委員会を作って検討することはありますが、外にある第三者機関、無関係な団体が客観的に審査するということがない。だから大変だということなんです。

 それから戦略アセスといって、全体計画、その事業だけではなくて、その事業を含む全体の政策をアセスメントしていくという制度。現在の環境アセスメントというのは、事業アセスなんです。事業を行うためのアセスメント。ですからその事業についてしか考えない。もっと広い意味での計画アセスというのがあるんですが、それは事業を含めたある範囲の計画、例えばダムを作るか作らないか、特定のダムを作るか作らないかというのは事業アセスになりますが、そのダムがその川の中で果たす役割、流域全体での役割がどうなのか、環境への影響はどうなのかというのを広く考えるのは計画アセスになります。その地点にダムがいるのかいらないのかということを考えるわけです。もっと広い戦略アセスになると、その国あるいはその地方の中での水政策、河川政策、ダムや湖の管理など、国の広い政策レベルでアセスメントを行う。一つ一つのダムがいるかいらないか、それ以前の計画を作るわけです。そういった戦略アセス、オランダなどでは、国土をどう将来にわたって維持管理していくのかという戦略アセスが非常に盛んですが、日本ではまだほとんどできていないというのが実情です。それから環境大臣の地位が低い。国土交通大臣等が非常に力があって、環境大臣の地位が低めである。なかなか意見を言う場がない。それから環境影響評価書ができたとしても、それが実現されるという保障がないんですね、実は。ですから大層良いことが書いてあってもその結果環境は保全されていくかどうか、これは非常に疑問があるわけです。それから最初上げたように13事業しかない。対象事業が非常に狭い。


 日本は市民参加の機会が少ない

 それから大きな問題としては、市民参加が少ない。以前の閣議アセスでは準備書に対して意見を言えるだけだった。今回の環境アセス法では方法書と準備書に対して2回意見を言えるようになった。2回言えるようになって増えたことは増えたわけですが、市民参加の場は少ない。これはアメリカのNEPAと比較してもはっきり出てきます。アメリカは日本の2倍、4回市民意見を求める場がある。日本の場合には、事業者が計画を立案すると、対象事業リストに照らし合わせて、アセスをやるかやらないか決め、やる場合には、方法書を出して住民意見を求めます。調査をやって準備書作って住民意見を求める。そして多少手直しをして評価書にして後は許認可を受けて事業実施という段取りになるわけです。アメリカの場合には、NEPA、国家環境政策法に基づいて、計画立案した後、除外リスト、しなくていいリスト、これに照らし合わせます。除外リスト以外の物は全部やらなければならない。やらなくていいのはこれだけだ、他は全部やるべしという意味合いの方が実は積極的なんです。そしてアメリカの場合にはまず簡易アセスメントといって、簡単なアセスメントをやって、10ページとか20ページ程度の報告書をまとめます。これを住民が判断して、これならやっちゃっていいよとか、わざわざお金をかけてアセスメントをやらなくていいよ、そういう判断がここで出される。環境への影響がほとんど問題にされないような事業なら、ここで簡易アセスで実際に事業をやっちゃうことになる。しかし、そうではなくてこれはきちんとしたアセスメントをやらなくちゃいけないということになると、スコーピングといって方法書を作ってそこに住民意見を求める。そして準備書があって、それも住民に意見を求める。そして 評価書ですけど、これもまた住民意見が出てくる。そしてその後で諮問委員会へ申し立てをしたりすることができる。何段階にも住民がチェックする機能がついている。しかも、おもしろいのは、全部が全部じゃないと思うんですが、私がアメリカに行って経験したのは、こういう住民の意見を聞いて行く場を運営しているのがコンサルタント会社でした。事業者じゃない。会社が、その事業者から請け負って、会場を借りて関心のある人に集まってもらって、そこでこの計画はこうなっていますと説明をやって住民の意見を聞いてまとめて事業者に戻していく。日本みたいに全てを事業者がやって、できるだけ住民の意見は聞かないように、顔を合わせないようにやっているのとは全然違う。


 新石垣空港の場合

 これを沖縄県の石垣島の新石垣空港の問題で見て行きます。皆さんご存じのとおり、石垣島ではもう25―26年前から新石垣空港の建設予定地で大もめにもめている。最初は白保の海上を埋め立てて空港を作るという案がでて白保の住民達が公民館組織をあげて反対闘争を展開した。その中で賛成派、反対派と集落を二分して第一公民館、第二公民館でものすごい闘争になってしまったという非常に悲惨な歴史があるわけです。海上埋め立て案は撤回されて、陸上のどこかに作ると言うことで、大田県政時代に候補地を何か所かあげてそれを委員会で選ぶということをやったわけです。大田県政の間に候補地を決めたが、自分の所に来ると皆さん反対をする。大田さんが選挙で破れて稲嶺さんになったとたんに、彼はまた選定をやり直し、白保地区に計画を戻してきた。

 さすがに海を埋め立てるということはできなくなって、カラ岳陸上案といって白保の北の陸上にあらたな計画を作って、住民参加の位置選定委員会を何度も開いて、一見合法的に住民参加で決めていっているわけです。ただし、殆どがカラ岳陸上に賛成な人を委員に選んでいる。結果的に反対1票だけでここにカラ岳陸上案になったわけです。

 20数年前に白保で闘争をしていたおじーやおばー達はリタイアして、今はその息子さん娘さんの時代になっている。その方々は集落をふたつに分断することだけは絶対に避けたいという。話し合いをしてこれを受け入れる決議を公民館で出したわけです。そのかわりに道路をどうしてくれ、あれをどうしてくれという、一種の条件闘争で空港を受け入れた。そして環境アセスメントに入ったわけですが、これがとんでもないアセスメントを沖縄県はやってくれた。

 この新石垣空港の場合には、実は事前調査として2億数千万円使っている。2億数千万円かけて事実上の環境調査をやっちゃったということなんです。しかも2年数か月をかけて。この調査を行った後で方法書の素案というのが出てきて、これが環境検討委員会という学識経験者の会合に何度かかけられて検討された。そしてこの委員会がOKを出してから方法書の縦覧をしてるんですね。本末転倒、順番が逆なわけです。さらにひどいのは、方法書の縦覧の後で基本計画書が出されてきた。とんでもないことです。どんな空港を作るのかという基本計画書がずーっと後になって出てきた。国土交通省から何度も書き直しを命じられて外に出せなかったというのが原因のようです。そして基本計画書の後で、準備書の縦覧が始まる。この3月の末から始まるということなんで、こんないいかげんなやり方を、沖縄県は新石垣空港の場合にしていて、これは環境アセスメントの制度を全く無視している。形だけやって、押し切ろうという、最悪のアセスメントです。これは私が言っているわけじゃなくて、環境アセスメント学会の会長も、このアセスメントは最悪であると表明しています。

 実は、国土交通省は地方空港の整備はやらないということを決めているが、沖縄は特例でやるということなので、必死になって沖縄県は今のうちに作っちゃおうということでしょう。そしてこの環境影響評価の項目の中に「生態系」という、当然、環境影響評価ですのでその地域の生態系はどうなっているかというのを調べなきゃいけないわけですが、そこの文言が「飛行場の存在により事業実施区域とその周辺の地域を特徴づける生態系に影響を及ぼす可能性があり、その影響を予測評価するため地域を特徴づける生態系を環境影響評価項目として設定する」と書いてあるんですが、次の項目に「植物」と出てくる、「生態系」が「植物」に変わっているだけで。それから、「サンゴ礁」とここが変わっているだけ。まさにワープロの文章を切り貼りして項目を差し替えただけ、こういうのがざーっと並んでいるだけなんです。方法書は1000ページくらいあるものです。これがさっき言った一部コピーするのに8000円かかったという代物ですね。環境影響を予測するために、どんな手法を使うのか、方法書ではっきりさせなきゃいけないのは、目標なのです。調査の目標、何を知りたいのか、どういう影響があるのかを知る。

 例えば新石垣空港の場合には滑走路予定地にコウモリの棲む洞窟があります。コウモリに対してどういう影響があるのかを調べるためには、調査の目標を立てなければいけない。コウモリの数を調べて、コウモリの餌を採りに行く範囲を調べるとか、そういった結果を基に評価する場合にはどう評価するのか。空港の工事で数が半減した場合には影響があったとみなす。もしそうなった場合にはこういう対策を取るとか、そういう具体的な目標の設定と、方法の整理、まとめの仕方など、そういうのが重要です。しかし、抽象的な事業計画の内容、現地調査の結果で得られた動植物の分布状況や生息状況について、同じような文章がコピーしてずっと並んでいるだけで、普通の人が呼んでも面白くもなんともない。むしろ苦痛になります。たいがい数ページで寝てしまいます。

 こういうのが今の事業者が出してくる方法書です。事業者の場合には、役所の官僚が自らこういうものを作るんじゃなくて、多額のお金を使って殆どがコンサルタントに外注します。新石垣空港の場合には国土環境という会社、昔は新日本気象海洋と呼ばれたコンサルタントです。日本各地で環境アセスメントが問題になったときには必ずこの会社がでてきます。官僚の天下りもいる。実際の現場の仕事、石垣島のサンゴ礁の調査をやるのは孫請けかもっと下の会社だったりするわけですね。この国土環境は、技術職だけで500人の専門家を抱えています。そのほかに事務職員がいます。だから並の研究機関は太刀打ちできない。


 名護市辺野古の場合

 政府は普天間飛行場の代替施設を辺野古沖に作るというのを閣議決定した時には、環境アセスメントをやって環境への影響をできるだけ少なくするという約束をしています。

 今までの動きをおさらいしてみますと、1996年の4月に日米返還合意、99年に沖縄県知事、名護市長が受け入れを表明、1か月後に閣議決定して辺野古沖だと決めたわけです。決めた後で2000年の8月から代替施設協議会というのを開いて位置と工法を検討してきた。そのころからジュゴンに関する調査が行われるようになりました。

 そして2002年の7月に、辺野古沖に2500メートル×730メートルの埋め立て工法によって代替施設を作るという基本計画が決定された。去年の3月から現地技術調査と環境影響評価を始めるはずだったのが、幸いなことに、ここに参加の皆さんを始め、多くの方々の努力でこの現地調査、環境影響評価にまだ入れない。1年近く足踏みをさせている状態です。2015年に完成予定となっているわけですが、この辺も少し怪しくなってきた。皆さんご存じのように、アメリカ政府自体が代替施設なしの普天間飛行場の返還もあり得るんではないかと言っているということで、日本政府はもう大あわてになっているわけです。なんであわてなきゃいけないのか。アメリカが代替施設いらんといったら、よろこんで止めればいいはずなんですが、この軍事空港を欲しがっているのは実は日本政府なんだということがわかってきた。


 ボーリング調査は実質的な着工

 ボーリング調査をするというのは、海底の地形や地質構造を調査するということで、これは実際には事実上の着工と言っても言い過ぎでは無いわけですね。ですから新石垣空港よりもっとひどい極悪の環境アセスになりかねない。事前調査、現地技術調査と称するものが、実際は着工だとなってしまう。ボーリングしたらもうそのままそれが最初の軍事飛行場工事の第一歩になる。我々は環境省に対して、ボーリング調査は空港を作る一環なのだから環境アセスメントに含めるべきであるという主張を何度もぶつけてきたわけですが、これは事前調査であって、事前調査はアセスの対象ではないという、この紋切り型の答えが日本政府環境省から返ってくる。国会でも環境大臣はそういう答え方をしている。アセスメントとは別なんだという主張の裏には、実は他の空港でもボーリングで海底地形等を調べることはアセスメントの対象にしなかったという前例があります。関西空港、中部国際空港では、ボーリングで海底地形を調査する際には環境アセスメントの前にやりましたという。しかしながら辺野古海域の、サンゴや藻場があってジュゴンが棲むような、自然環境の非常に重要な地域と大阪湾、伊勢湾とは比べてはいけないわけで、ボーリング自体が自然環境あるいは生物に相当な悪影響を及ぼすことが予想される以上、環境アセスメントに含めなければいけない。環境アセスメント学会のリーダー達も、これは当然含まれるとみていいと解釈をしています。政府はそれに対して、ノーと言っている。
つづく)