沖縄県収用委員会審理記録

房前三男さん(土地所有者)


○土地所有者(房前三男)

 通告した予定の時間から申し上げますと、私たちので今日は終わることになっておりますから、特に、起業者のほうはぜひしっかりと聞いていただきたいと思います。

 私は嘉手納の地主の房前三男と申します。

 私は第1回の公開審理以降の、地主や代理人からの意見や求釈明に対し、起業者である防衛施設局からの発言があまりにも無責任であり、権利者としての地主だけでなく、第三者の機関である収用委員会に対しても冒涜していることに、怒りを禁じざるを得ません。そのために、これ以降、またさらに私たちの求釈明をいたすことにいたしますが、地主の心情を代弁するために発言をしたいと思います。

 まず、収用委員の皆さんに申し上げます。

 本来なら、先ほどまでの求釈明に対する起業者の回答を受けて、これから実質審理に入れると思って期待をしておりました。しかし、起業者の対応は恣意的であり、目に余るものがあります。そのために、地主の努力は何ら報われておりません。起業者である防衛施設局は、自ら実質審理に入ることを妨害しているということで断ぜざるを得ません。大変残念なことであります。

 収用委員の皆さんは議事録をお持ちのようですから、あえて例を挙げて説明は要しないと思いますが、第1回公開審理から先ほどまでの起業者の釈明では、実質審理の焦点は絞り切れておりません。私たちが求め、これまでに明らかになっているいくつかの問題点を、収用委員の皆様が起業者に釈明を求めていただきたいと思います。そのことと併せ、後ほど後日になるかと思いますが、担当者をかえて、一部について絞って再度の釈明を求めたいと思います。

 念のために申し上げておきますが、再度の求釈明を一部に絞ることで、今まで起業者が釈明をしようとしなかった事項や、これからの実質審理における権利者の発言を制限するものではないことを強く求めておきます。

 収用委員の皆さん、起業者が法に基づく土地等の強制使用のための手続きをとっている以上、これまで私たちが求めてきた釈明やこれからの審理は、その問題点を明らかにし、地主の権利を保護するための最小限の手続きであります。そのことは、正当な権利であることを主張します。

 私たちの主張の原点は、憲法第29条で保障されている財産権の確保であります。それを侵すことを目的とした今回の手続きについて争い、申請の却下及び強制使用の不要、不当を主張することにあります。本来、起業者は礼を尽くして、土下座をしてでも心血を注いで説得にあたるべき立場にあるはずであります。この公開審理を含め、ありとあらゆる機会に自ら主張することによって、地主の説得と収用委員会に対して釈明を行う立場にあります。にもかかわらず、実に今まで不誠実な態度であります。

 それでは、起業者に釈明を求めます。

 起業者が裁決申請の理由としている各項目や内容、根拠としている法律、その法律に規定されている条文や解釈が、裁決申請に必要でない事項なのか否かをまず答えていただきたいと思います。

 裁決申請に必要でない部分や項目があるのであれば、申請理由書のページと行を指定して答えていただきたいと思います。以上の答えを最初に求めていただいて、続けていきたいと思います。

○当山会長代理

 私のほうがちょっと、今の質問の内容がよく分からないんですけれども。

○土地所有者(房前三男)

 もう一度繰り返しましょうか、ゆっくりしゃべりましょうね。

○当山会長代理

 これ、質問事項に出ておりましたかね。

○土地所有者(房前三男)

 総括的反論の中でやっているわけですから。

○当山会長代理

 いやいや、だから出ておりましたかどうか。

○土地所有者(房前三男)

 出ていません。

○当山会長代理

 出てない。じゃ、どういう内容なのかおっしゃってください。端的に、全部おっしゃる必要はないですから。

○土地所有者(房前三男)

 4行です。起業者が裁決申請の理由としている各項目や内容、根拠としている法律、その法律に規定されている条文や解釈が、裁決申請に必要でない事項なのか否かをまず答えていただく。これが一つであります。

 そして、裁決申請に必要でない部分があるというのであれば、申請理由書のページと行を指定して答えていただきたいということであります。

 要するになじまないとか、答えないのがたくさんありましたでしょう。ですから、そんなのは必要事項なのかどうかを教えてくださいと言っているんです。ですから、すぐ答えられます。

○当山会長代理

 施設局、どうぞ。

 要するに、今言っているのは、申請書の中に必要じゃないのに書いてあるのがあるかという趣旨ですね。

○土地所有者(房前三男)

 はい、そのとおりです。

○当山会長代理

 施設局、どうぞ。

○起業者(那覇防衛施設局施設部長 坂本憲一)

 (回答なし)

○当山会長代理

 そのお答えが全くないというのは、どう考えればいいですかね。要するに、質問事項が来てなかったので答えられないという意味なのか、検討するという意味なのか、あるいはこれもなじまないという趣旨なのか。何か答えをおっしゃっていただけないですか。

○起業者(那覇防衛施設局施設部長 坂本憲一)

 求釈明事項になかった関係がございますので、次回、お答えさせていただきます。

○土地所有者(房前三男)

 議事録をしっかり読んで、答えていただきたいと思います。

 収用委員の皆さん、裁決の申請は私たちは単なる儀式だとは思っておりません。そして形式的であってはいけない、こういうふうに思っております。私たちと起業者との間で、明確に解釈と見解が一致しない場合は、その是非について収用委員の皆さんが判断することになると思います。

 しかし、明らかに答えられるものがあるにもかかわらず、そして、書いてあることについてさえ答えておりません。起業者の申請理由なども含め、私たちが求めている釈明や、これからの審理における私たちの主張について争う意思を放棄する限りにおいて、私たちの主張が正しいことになります。そのことを認めたという理解をせざるを得ないのであります。

 よって、実質審理を進める上で、起業者は自ら作文した申請理由を明確に解釈し、今後の審理において説明をやっていただきたいことを希望しておきます。

 そのことがなされない以上、収用委員会は、裁決の申請者である起業者の不まじめな態度を目の当たりにしているわけですから、裁決を判断するのに、起業者の協力がないことを理由に、裁決の申請理由が土地収用法第1条の要件、手続き及び効果を判断するに不十分な状況であることを即時に決定し、その申請を却下すべきであります。

 これから、私たちの主張の根源にある部分の一部を紹介し、求釈明や審理を進める地主の立場を表明いたします。

 さて、人類の歴史は知恵の歴史であります。文化を創造する歴史であります。そして、自然との共生の歴史であります。沖縄の人々は、長い歴史の中で幾多の戦争を経験しながら、自ら喜びあった戦争を経験いたしておりません。特に、先の大戦で焦土と化したふるさとを見て、再び戦争があってほしい、軍人になってお国のために死んでみたいと思っている人は皆無だと思っております。

 私は戦後の生まれですが、銃剣とブルドーザーに対峙した土地闘争や祖国復帰運動、そこに燃やした先輩たちの青春は、当時は小さい子供から学生まで、その情熱と心に打たれ、ちょうちん行列やデモに沖縄の平和を夢見てきました。歴史を知れば知るほど、沖縄の人々は今も388年もの差別によく耐えていると思います。あるときには自らの言葉を、方言を奪われ、民族の誇りと自決する権利さえ、方法のいかんを問わず、奪われてきたことを知りました。1609年の島津の侵略1879年の琉球処分と続き、本土防衛の捨て石とされた先の大戦後も、国は何ら復興に手をかすことなく、そして、戦後間もなく施行された現憲法に庇護されることもなく、すべての日本国民としての権利は奪いさられ、国は南西諸島の日本国民と同じ血を引く島々の人々を、異民族にその支配を委ねることに涙することなく、米国に沖縄を含む南西諸島を切り売りしました。

 1951年のサンフランシスコ条約の締結などにより、復帰するまでの間に同じ国民としての権利が享受されてこなかったことは、収用委員の皆さんもご承知のことでありましょう。復帰後も、日本国民としての権利の回復は完全ではありませんでした。

 ーつの例を申し上げます。過日、論議になった厚生年金等の、昭和29年の関連法との格差是正を求めたことについて権利の回復はなされず、基金という制度によってわずかにその格差を埋めたにすぎません。しかし、一方では米軍基地への土地や施設などの提供は、日本国内における扱い以上に秘密協定が存在していると言われるほど、これもまた全国民との間に今も差別が存在しております。

 ここに、私たちの主張を補完する注目すべき条約や法律がございます。起業者が根拠としている日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の前文は、民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望すると述べております。私たちが憲法で保障された諸権利を主張し、民主的手続きを求めることについて、安全保障条約さえ認めているのであります。

 仮に、安保条約を優先するという立場を認めたとしても、私たちの今までの釈明やこれからの求釈明、実質審理におけるいろんな意見について、何ら問題がないことになります。さらに、沖縄が異民族の支配下にあるときに制定された、沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律でさえ、その第1条で、権利者との合意により使用することになるように努力すると規定しています。民法でさえ、20年を過ぎた土地については再契約を行っており、あれから26年も地主の意思に反して使用しているわけでありますから、努力の限界は過ぎていることになり、返還すべきであります。

 さらに、日米安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の第2条第3項で、合衆国はこういうふうに述べております。施設及び区域の必要性を返還を目的として、たえず検討することを同意すると認めております。軍事基地の整理縮小、撤去があり得ることを前提に、協約が締結されていることが明白であります。

 アジアにおいて、ご案内のとおり、米軍基地の撤去や整理縮小が実際に進んできたことを考えれば、起業者の主張は的を得てないと言わざるを得ません。最も重要なことは、国際的に認められているヘーグ陸戦法は、私有財産の没収を禁止しております。戦後、銃剣とブルドーザーによる軍用地の強制接収が行われ、日本国民の権利を保障した憲法や民法などによらなかったことは、もう既にご存じのことであります。

 法律の解釈をするまでもなく、起業者が申請理由の中で、復帰時の昭和47年5月15日を契約の始期とする土地が、民法604条の規定により契約期間が満了したなどと述べております。そのことを例にとるだけでも、復帰前の状況はお分かりだと思います。

 私たちは、異民族支配下で日本国の憲法や法律が適用されていないとき、昭和46年12月31日に制定された、南西諸島に限る土地等の強制使用に関する先の公用地法は無効であると考えております。そのことが有効であったとしても、復帰時の昭和47年5月15日の施行は一部の地域に対する法の適用であり、憲法の保障する第95条の住民投票の規定を適用しておらず、違法な法律であることを主張します。それ以降の復帰25年の米軍用地の沖縄における強制使用の歴史は、すべてにおいて差別的な扱いであります。もう強制的な、継続的な使用は終わりにしていただきたいと思います。

 収用委員の皆さん、皆さんが今回の再審理や裁決のため、お読みいただいております沖縄関係の条約やどの協定、覚書、公刊公文を見ても、国内での基地の提供についての記述があるにもかかわらず、日本国内における米軍基地が沖縄になければならないという絶対的な規定はどこにもないのであります。起業者の裁決申請理由の絶対的な根拠はないわけであります。

 仮に、安全保障条約を認めたとしても、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う国有の財産の管理に関する法律、その第2条で国は協定を実施するために、米軍に国有の財産を無償で提供できる旨の約束をしております。沖縄で米軍用地の確保が困難であれば、国有地によってその代替措置を考えればよいことが可能なのであります。今、述べたことはほんの一例にすぎません。

 私たちは、今後の実質審理の中で釈明を求めたことを基本に、具体的に実施を試みる用意があります。次のことについては、ぜひその前に起業者に釈明を求めておきたいと思いますので、釈明する求釈明事項についてしっかりお聞きください。

 それでは、起業者に釈明を求めます。起業者は……聞いておりますか。

 起業者は私たちの求釈明について、審理になじまないと回答している部分について、争わないという意思表示と同一かどうかの釈明を求めたいと思います。お願いします。

○当山会長代理

 施設局、どうぞ。

○起業者(那覇防衛施設局施設部長 坂本憲一)

 急な求釈明でございますので、次回、答えさせていただきます。

○土地所有者(房前三男)

 僕でもやれそうですね、起業者の。

 収用委員会の皆さん、私たちは起業者の主張する、審理になじまないとする釈明の仕方について、重要な認識をもっております。その理由は、収用委員会が求釈明に対して審理になじまないという審理進行上の発言があった場合ならともかく、審理になじまないという起業者の釈明は、中立機関である収用委員会に対して公開審理の指揮権を発動しているものであります。起業者として、第2回公開審理から今回、先ほど9回ありましたから、合わせて30回も繰り返 して、この言葉を使用しております。そのことは、限りなく起業者としての範囲を逸脱していると言わざるを得ません。収用委員会として、毅然として対応されることを望みます。

 さて、冒頭に申し上げましたとおり、いくつかについてはこの後、再度の求釈明を分担して求めることといたしますが、第2回の公開審理で持ち越した事項については、発言がなくても起業者の回答を求めていただきたいと思います。

 最後になりますが、私たちはいかなる場合であっても、裁決の申請がなされた以上、裁決申請時に存在する法律に基づいて、この裁決はなされるべきだと考えております。法治国家として、従来も将来においても新規に法律が制定されるが、ましてや審理中に想定される権利が剥奪されたり凍結されることは、法の支配と秩序を破壊するものと言わざるを得ません。ましてや地方分権を形骸化するものであります。このことについては、私に引き続いて宜保氏が発言をいたします。

 収用委員の皆さん、第1回公開審理の冒頭に、貴委員会の兼城会長は、公開審理の運営について、収用委員会は公共の利益の増進と私有財産の調整を図るという土地収用法の基本理念のもとに、その判断にあたっては起業者及び土地所有者と、いずれの立場にも偏ったものであってはならないことはもちろんのこと、独立した準司法的な行政委員会として、公正中立な立場で自主審理を行いますという表明をいたしました。歴史に耐え得る審判になることを地主は注目しております。

 私たちの求釈明やこれからの実質審理の関わりは、権利者としての当然の権利の行使であります。いかなる団体や個人、国など、地方公共団体であっても、このことを妨害する権利は持ち得ておりません。必然的で常識的なことが起業者に理解してもらえてない現状は、しごく残念なことであります。裁決申請理由書をもって、米軍用地の強制使用について、第三者機関に委ねているという立場からも、再度起業者に明確な釈明と対応を求め、総括的なこれからの意見に入る前の見解といたします。

 ありがとうございました。

○当山会長代理

 ありがとうございました。

 引き続き、宜保幸男さんにお願いしたいんですが、房前さんのほうで持時間の大半を使ってしまいましたので、できるだけかいつまんで、最後にご連絡もございますので、よろしくお願いします。


 出典:沖縄県収用委員会 公開審理議事録
    違憲共闘会議提供、テキスト化は仲田

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