沖縄県収用委員会 第11回審理記録

加藤俊也(土地所有者代理人・公認会計士)


 加藤俊也(土地所有者代理人・公認会計士):

 公認会計士の加藤俊也と申します。伊江島の阿波根昌鴻さんの代理人として、反戦地主に対する経済的差別の問題について意見を述べたいと思います。公認会計士のプレゼンテ−ションですので、少しビジュアルにやりたいと思いますので、スライドのほう、お願いします。

 今回、沖縄の米軍用地につきましては、国と契約を結んだ地主、あるいは契約を拒否して今回のような公開審理を行っている地主、双方おりますけれども、これらの土地は渾然一体となって米軍用地として使用されていまして、その米軍用地としての使用の対価として、契約した場合には地代もしくは賃料、契約を拒否した場合には損失補償金、これを受け取るということについて言えば、経済的実態は全く同一であります。

 この経済的な補償について、伊江島の阿波根昌鴻さんが1987年5月15日からの10年間の 強制使用において、どのような経済的な差別を受けてきたのか、ということを具体例として説明したいと思います。

 今、スライドに写っております図1をご覧になってください。こちらのほうがちょっと小さいですけども、これが契約した場合、こちらが契約を拒否した場合です。阿波根昌鴻さんはもちろん契約を拒否して、強制使用10年間を受けたわけですけども、伊江島の契約地主に対して、どのような契約の地代単価が支払われたのかというデ−タを入手しましたので、仮に阿波根昌鴻さんが契約を拒否せずに契約に応じていた場合に受け取ることのできた地代の総額を計算することができます。その計算した金額をこのグラフの100のところ、100%にもっております。それに対して、右側のこのグラフは阿波根昌鴻さんが契約を拒否したことによって、収用委員会によって払い渡された損失補償金の金額を表しています。実際に払い渡されたのはここのところまでなのです。契約に応じた場合にこれだけもらえるはずの経済的補償が、契約を拒否する、そのことだけによって、実にここのこの部分だけしかもらえていないわけです。これは6割を切っています。さらに、当然この損失、経済的補償に対しては国の税金がかかるわけですから、その国の税金、さらにそれが県民税、市民税に跳ね返り、実際に地主が使用できる可処分所得としての金額が本来的な経済補償の対象となるべきでありますけれども、今回の場合、問題を簡単にするために、国の税金である所得税のことだけを考えました。特にこの損失補償金、あるいは地代が、国の税金から支払われている。このことを考えれば、所得税はその払戻しにあたるわけですから、ネットワークでの補償金というふうに考えることもできます。その場合、もし契約に応じて契約地主と同じ課税方法で所得税がかけられた場合には、所得税はこの金額で済むわけです。したがって契約地主の場合、契約した場合の手取りの補償金は、この赤い部分になります。

 ところが、契約を拒否した場合には、これも阿波根昌鴻さんが、ずっと裁判で争って、今最高裁判所に上告しておりますけれども、税法の規定により、非常に不利な重課税を受けることにより、この白い部分が重課税の部分ですが、さらにこの下の青い部分が、本来われわれが、税法どおりに計算して払うべき所得税と言われている部分です。この両方を差し引かれておりますので、実にこの赤い部分、この部分だけが手取りの金額になるわけです。この手取りの金額につきましては、これを見ていただくと分かりますように、4割、もちろんこちらの契約をした場合も100%より以下になっておりますから、これを考えますと、実に手取りで考えますと、拒否した場合、半分以下しか経済的補償が与えられない。こういう事実が、この10年間、確定した事実として発生しているわけです。

 これは事実ですが、このような事実からして、こういうような経済的な不公平が発生することは、憲法の適正補償の原則に反することは明らかです。したがって、1987年からの10年の強制使用がいかに違法なものであったかを如実に示していると言えます。そして伊江島については、今回また10年間の強制使用が申し立てられていますけれども、これがそのとおり認められるならば、経済的補償もまた同じような、このようなひどい経済的差別を生むことが明らかであります。したがいまして今回の申し立てについては、これは違法が明らかであって、即刻却下されるべきである。これがわれわれの結論です。

 さて、ではどうしてこのような経済的な差別が生じるのかをご説明したいと思います。

 まず最初に、この一番上の青いところ、これは何によって発生するかと言いますと、これは毎年の地代が、契約地主の場合には、毎年、毎年地代の単価が上がって、それに対して、契約を拒否した場合、損失補償金は、大ざっぱに言えば、使用裁決の時点の地代に使用期間をかけて計算されることによって、その時点の地代に固定されてしまうことによる。つまり地代の値上がり分の差額がこのようにあります。このことについては、もう少し後にご説明します。

 それから、その次の緑の部分は何か。これは損失補償金が10年分であれば、10年分、使用期間の前に全額払い渡さなければならない。その規定によりまして、全額前払いされることにより、契約の場合は、毎年、毎年の払い渡しであるということから、10年分の先払いの金利相当を割り引くということで、差し引かれているものであります。その結果、この値上がり分の差と、金利の差し引きを引いた分が実際に反戦地主に払い渡される金額になってしまうわけです。

 さらに、ここの部分は、先ほど申しました重課税ですけれども、所得税法上、5年を超える損失補償金が払われた場合には、これを受け取った1年間のその年だけの収入にして、税金を計算すべきであるという、国側の主張によりまして、このような重課税がなされているわけです。これでご覧になれば分かりますように、実にこの手取りの額、今申しましたように、手取りの額は、契約した場合のもう6割を切っているにもかかわらず、この線、こちらの税金の額を示す線と、こちらの白い税金、青い税金、この両方のとにかく納めた税金の額を比べますと、ほとんど同額となっています。6割も低い所得収入に対して、ほ ぼ同額の税金をかけることになってしまう。このことが、いかにこの課税額がおかしなものであるかをここではっきり示していると思います。

 では、この中で、やはり一番大きな原因になっております地代の値上がりの部分について、さらに説明したいと思います。次のスライド、お願いします。

 このグラフは、伊江島の契約地主と反戦地主の地代の推移を年に従って、表したものです。一番の上のグラフは、これが契約の農地です。伊江島の地目が農地、それ以外山林というふうに二つに分かれていますので、これ2本線が出ておりますが、これが契約の場合 の農地の地代の推移です。これが山林の場合の契約の推移です。これはごらんのとおり、ずっと右上がりになっていますね。毎年毎年地代単価が引き上げられているわけです。それに対しまして、契約を拒否した場合には、損失補償金のもとになった地代単価は、この時点で固定されておりますので、これが農地についての単価ですが、このように10年間、変わりません。同じく山林もこのように変わらないわけです。これがこのグラフだけではなくて、右上がりになっていることが、毎年毎年累積されているわけでありますから、 図の3お願いします

 これを累積をとってみますと、このように10年たった毎年、毎年の累積額をこうやってグラフにしていきますと、反戦地主の山林、これが反戦地主の農地、これは契約地主の農地、これが契約地主の山林ということになりますが、反戦地主の場合には、毎年の地代の額が、固定されていますので、単にまっすぐな直線で、累計は計算されるのに対して、契約地主の場合には、毎年の地代が上昇してきますので、その累積は、さらにこういうように上のほうにカーブを描いていくわけです。

 この結果、ここの一番の断面が、これが10年たったとき累積の数値ですけれども、ごらんにように、農地と比べると既にもうこれでもって3分の2の金額しか経済的な補償がなされないということが明らかになります。すみません、図の2に戻っていただけますか。

 もう一つここで注意をしておきたいのは、同じ農地の地代についても契約地主の地代は最初の年にここから始まっているのに対して、反戦地主の農地の地代はここなんですね。もう既に最初の年から、このように地代の差額が生じているわけです。この原因は何かと言いますと、この契約を拒否した場合の損失補償金のもとの地代の評価が、実は強制使用の告示の時点の地価に、その後裁決までの一般の物価指数をかけることによって計算されるわけですから、告示は非常に早い段階でなされた場合には、実際に収用裁決がなされるまでに、実際の地代のほうが引き上げられてしまって、最初のスタートの時点からこのように差がつけられてしまっているわけです。国はこの間、常に早期の申し立て、早期の公開審理というようなことを目指して、非常に早期に告示の申し立てをやっているそのせいで、非常に反戦地主のほうは、ここでも経済的な損失を受けているわけです。

 さて、具体的な事実についての説明はこのようなところであります。もうスライド結構です。

 では、なぜこのような経済的な差別が生じているのか、この点について、その理由をもう少し述べたいと思います。先ほど言いましたように、一番大きな原因でありますのは、地代の値上がりが一切認められないことにあります。これは、土地収用法の規定が、損失補償金の算定にあたっては、裁決時点での地代をもって損失補償金を計算する、そこで全額を前払いで、払いわたすということを規定しているために、契約の場合、毎年、毎年上げられていく地代が、反映されていかない、このことに一番の問題があります。

 したがいまして、この問題を解決するためには、いかに使用期間を短くして、損失補償金の金額と契約地主の地代を常に公平なものにしていくか、地代の上昇、契約地主による地代の上昇分を使用期間を短くすることによって、損失補償金に反映させていくということしか方法はありません。

 さらに、中間利息の控除、前払いによる利息の控除について言えば、これは前払いされた資金を、事業なりあるいは運用なりすることによって利益が上げられるということを前提にとられているわけでありますけれども、はたして沖縄の反戦地主がそのような対象として考えるべきかどうかということを考えれば明らかだと思います。そしてさらに問題なのは、今回の10年間の強制使用では、この現金割り引きの利率が年3%でなされていることです。現状を皆さんご存じのとおり、もう年に1%を超えるような預金利息がほとんど 存在しない。こういうような状態の中で、反戦地主たちは、3%という非常に高い利息で不当な割り引きを引かれていたわけです。

 ここで一番大きな問題は、やはり金利も市場の動向によって、動いていくものでありますから、10年にもわたるような長期の期間の金利を予測することは、だれにもできないわけであります。 したがいまして、これも長期の使用期間を前提にし、その長期間の使用期間を一括して、一定の利率で割り引くことをやれば、必ずや反戦地主に損害を与えるか、もしくは何らかの金利が高くなったことによって、利益を得られたとしても、それは逆に国民の税金の無駄遣いということになってしまうわけです。常に問題なのは、こういう経済的問題について言えば、通常常識的に考えられる予測可能な使用期間、それをもって経済的補償をなすべきであるということであります。

 さらに、もう一つの所得税の問題について、この問題については、かなり税法上の細かい、ややこしい問題がありますので、ここでは多くを述べませんけれども、われわれは、この所得税の問題だけに関しては、これは税法上の問題である本来の税法の適正な適応をすれば、このような重課税は発生しない、したがって、国の課税処分を取り消せという裁判を継続中であります。

 しかしながら、国は、この裁判において一貫して国の重課税をなした課税処分は適法だと、税法上適法なんだというふうに主張しております。そして福岡高裁の那覇支部も一審では、那覇地裁は、われわれ原告側の主張を認めましたけれども、高裁において、第二審ではこれを逆転して、国の課税処分は適法なんだという判断をして、今最高裁で上告中になっているところであります。

 もし、これが税法上の問題ではなく、この公開審理で考えられなければならないことは、国の主張どおり、あるいは高裁の主張どおり、重課税が適法なものであるとすれば、先ほどのグラフで見られたように、これをもっても手取りの補償金額が非常に減額されてしまうということです。

 したがって、本来の可処分所得という意味での実質的な経済補償を公平にするという観点からは、少なくともこういうような重課税が発生しないような使用期間になすべきであります。ちなみに、5年を超えるものについては重課税が発生するということになっておりますので、5年を超えるような今回の申し立ても、この意味でもって違法は明らかであ ると思います。

 さて、この三つがこの経済的差別を生み出している理由でありますけれども、この理論的な問題、これは憲法の適正補償の原則と、それを受けた土地収用法がもっている法的な構造の問題でありまして、基本的に土地収用法は長期の収用期間を認めることができない構造になっているというふうに私は考えております。

 さらに、沖縄の米軍用地の問題について、このような経済的差別を重大化させている原因は、国が意図的に反戦地主と契約地主の損失補償金、経済的補償に差をつけているというふうに言わざるを得ないことであります。契約地主の地代を支払うのは国・防衛施設局であります。したがって、国は意図的に契約地主の皆さんに対する地代の支払いを多くして、契約地主との差額を広げることができます。

 私は、米軍用地に土地を提供している契約地主の皆さんが、好き好んで貸しているわけではない、喜んで貸しているわけではない、そして多大な迷惑をかけているんだから、相当の当然の地代を支払ってしかるべきだというふうに考えますけれども、しかし、反戦地主との経済的差別を無理につくり出そうとして、このような地代の上昇をつくりあげるということがなされるとすれば、それは非常に大きな問題であると言わざるを得ません。

 本来、契約自由の原則がありますので、だれかの土地を借りて使いたい、その場合には地主にこれを申し込んで、その地主が拒否したら、その土地は使用できない、これが当たり前であります。それにもかかわらず、駐留軍用地特別措置法という法律を持ち出して、米軍用地については土地を貸しなさい、地主がいやだと、拒否すると言っても、その土地は使い続けられる、返ってこない。さらに、いやだということで契約を拒否したら、先ほど説明しましたような、実に半分にしかならないような経済的補償しか得られない、このような事態をこの間の強制使用においてはつくり出しているわけです。

 このような事態で考えれば、普通の経済的な観点から考えれば、どうせ自分の土地は契約したところで返ってこないんだから、あえて契約を拒否して、もらえるものも半分で我慢しようというような人間は、本当に自分の信念を強固にもった者以外には考えられないと思います。したがって、多くの軍用地の契約地主の皆さんは、本当は自分は米軍用地として土地を貸したくない、しかしながら契約を拒否しても返ってこない、拒否したら経済的な補償が少なくなってしまう、その中で泣く泣く契約に応じているというのが実態であろうというふうに考えます。

 そして、このような実態をつくりながら、契約地主の方々が多く、反戦地主の数が少なくなったことをもって、日本政府は政府の安保条約あるいは米軍基地政策は沖縄の多くの方に支持されているんだ、だから皆さん、契約に応じて土地を提供しているんだ、このような主張をしているわけですけれども、これは今見ましたような経済的差別の実態を明らかにされれば、これは反対であれば反対と叫んでくださいと言いながら、口を手でふさいでいる。あるいは、反対の人は手を挙げて反対の意思表示をしてくださいと言いながら、手を縛りつけて手を挙げられないようにしている、まさにこのような実態だというふうに思わざるを得ません。

 先ほど述べましたように、このような経済的差別を解消していく方法は、使用期間を短くし、地代値上がりの点から言えば、理論的に言えば、使用期間を1年以下にすることしかありません。使用期間を1年にすれば、契約地主の毎年毎年の地代の値上がり分を損失補償金の地代に反映させることができますし、現金割引による前払いのことも考えずに済みます。所得税法上の重課税も発生しません。したがいまして、経済的公正、適正補償の観点からは、理論的には使用期間を1年以内とすべきであると思います。そして、毎年毎年収用委員会を開いて損失補償金の額を決定すればいいのでありまして、駐留軍用地特別措置法を改悪した結果、暫定使用が認められて、とりあえず基地の使用に障害が発生しないことでありますから、毎年毎年公開審理を開いて、毎年毎年決めていけばいい。その中で、この間、日本政府がいろいろ言ってきた甘い言葉が、一体どれほど実現していったのかということが、その公開審理の場で明らかになると思います。

 最後に、この地代値上がりの問題で申しましたように、国は契約地主への地代の支払いということを道具にして、経済的差別の実態をつくり上げておりますけれども、実にそれはわれわれ国民の税金をもとにしているわけです。国、特に防衛施設庁、あるいは防衛庁、ここがわれわれの税金をもとにしながら、このような好き勝手なことを、特に適正補償の観点から違法であることをおそらく認識しながら、なおかつやっているというようなことを、やはりわれわれは納税者、タックスペイヤーとして許してはならないだろうというふうに考えます。この点は、地代支払いの点だけではなく、既に防衛産業からの納入価格の問題、その他で問題になりつつあることだと思います。

 ここで私は、公認会計士としてとともに、一坪の地主として申し上げますけれども、国側がこのようにわれわれの税金をもとにして、なおかつ税金から給料をもらいながら、このような違法で悪らつなやり方をやっている、そういうことに対しては、やはりわれわれ日本政府のお膝下の本土にいるものがきちんと声を挙げて、それを追及し、批判することをやっていかなければならない、それがなければいけないということが、われわれの一坪地主の意義であり、存在価値だと思っているんです。

 沖縄の反戦地主の皆さんは、これまでこの経済的差別の問題についてほとんど語られることはありませんでした。それは、契約拒否は銭金の問題ではないという反戦地主の言葉に明らかなように、いくら金を積んだから、いくら多額の補償金を払ったからといって、地主が信念に基づいて拒否している土地を使っていいというものではない、ということです。

 しかし、このように非常に問題を生じている米軍基地用地として、その使用を押しつけておきながら、なおかつ地主の意思をねじ曲げながら、無理やり使っておきながら、しかもまともな経済補償もしないというようなことは、これは断じて許されない問題。憲法の適正補償、そういう原則の問題だけではなく、これは絶対にやってはならないことじゃないか。そういう問題を、やはりわれわれの本土に住むものから声を挙げ、具体的事実を明らかにし、それを解消するようにしていくことが必要だと思います。

 収用委員会の皆さんに今回ご説明しましたので、この経済的差別の問題につきましては、具体的な事例もありますので、防衛施設局のほうから具体的な数値とか理屈について、反論があれば出していただいて、具体的な討論をなしたいと思います。

 そして、収用委員会の皆さんが、今回の経済的差別の問題を解消し得るような、公正適正な判断をしていただけることをお願いします。この経済差別の問題解消のための使用期間の長さ、それから損失補償金の金額の決定、この二つは、これまでも、そして今でも、収用委員会に固有の権能だ、収用委員会が決めることができるというふふうに国も認めている権能でありますから、その点をもって十分にご検討の上、公正なる判断をお願いしたいと思います。

 当山会長:

 はい、ご苦労様でした。では、続きまして新垣勉さん。


  出典:第11回公開審理(テープ起こしとテキスト化は仲田、協力:違憲共闘会議)

  図版提供:加藤俊也(陳述者)


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