2 拡大読書器の広告  (2001/10/06記入)
  
     
いい人は介護する(?)――障害者として、介護者としての雑感  (その2)

  右の写真は、 通信販売の「エヌ・ジー・シー」が送ってきたチラシの一部です。私はこれを見て驚きました。写真ではよくわからないので、この広告の宣伝文句の一部を以下にご紹介します。NGC広告

 
テレビ画面で拡大
ビデオ端子に接続するだけでOKです

新聞や雑誌、株式欄はじめ様々なデータや書類をテレビ画面を通して、グンと拡大して見ることができます。新聞の一段程度が画面いっぱいに映し出され、細かい文字も写真もくっきり。使い方はテレビのビデオ端子に接続するだけで簡単。しかも持ち運びがラクなので、会議室、集会所などテレビがある場所ならど こでも使えます。電池での使用も可能。
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 テレビ対応電子拡大鏡 
 19,800円

*幅7.2×奥行7.6×高さ12.5cm/約230g/アクリル樹脂製/電源=AC100V(アダプター付)または単4乾電池4本使用(別売)/中国製

 

 私が驚いたというのは、その値段です。私が連れ合いのために購入した拡大読書器の値段は19万8千円だったのですから。何と10分の1ではないですか! もっとも、これを支払ったのは、私ではなく、皆さんを含めた税金です。

 拡大読書器なるものが何か、また、それを購入した際に、なぜ、私自身は代金を支払わずにすんだのかの事情をご存知でない方のために、少しご説明します。拡大読書器の写真

 拡大読書器を広辞苑で引いても、いろいろな百科事典で引いても出てきませんから、まだ一般に普及していない用語なのでしょう。要するに、視力がゼロではないけれども、ひどい弱視で、新聞のような細かい字はもちろん、かなり大きな字の本でも読めないような人のために、文字を電子的に拡大して、テレビのモニター画面に大きく映し出す装置です。テレビカメラを使っている人でしたら、そのズーム装置と同じだと言ったらわかりやすいかもしれません。拡大読書器には、かなりの幅のズーム機能がついており、新聞の一段分の高さをテレビの全画面に移すほど拡大できます。また、自動焦点になっているため、レンズの下に書物なり、新聞なりをおくと、選んだ拡大率できちんと焦点があいます。レンズは30〜50センチの高さに下向きにセットされており、その真下に読みたい文書を置くわけですが、その文書をおく台が前後左右にスムースに移動できるようになっているものも多くあります。
 ドイツ、オランダからなどの輸入品にも、国産品にも、いろいろな種類があって、モニターのついているものもあれば、拡大レンズと読書台だけで、モニターはすでにあるテレビの画面を利用する(あるいは別に購入する)ようなものもあります。弱視者用の展示会などに行ってみますと、7〜8種類から10種類ほどが展示されて、実際に試してみることもできます。
『視覚障害者のための情報機器&サービス』という本や森田茂樹著『拡大読書器であなたも読める!書ける!――選び方・使い方のポイント』なる本によると、この機械は据え置型、スキャナー型、ポータブル型など各種、入手できるものだけで40種以上もあるとのことです。

 ずいぶんはっきりと大きく見えるために、これは弱視者にとっては必携の道具と言えます。ただ、問題がないわけではありません。字を大きくすればするほど、モニターの画面に映る字数が少なくなります。新聞の1行さえ、収まらないほど大きくもなります。書物となれば、なおさらです。連れ合いの場合、読める程度に大きくすると、文庫本の1行が15インチの液晶テレビ画面には入りきれず、上下が切れてしまいます。ですから、1行の下まで読んできて、次の行に移るときは、レンズの下の本なり紙なりを上下に移動させなければならなくなります。そのときに左右にぶれてしまい、次行への続きがわからなくなってしまうのです。もちろん、画面の大きなテレビを使えば1行全部も収まるのでしょうが、100万円もする50インチのプラズマテレビなど買えるはずはありません。日常的に使うためには、食卓の上などに常設しておきたいわけで、それには普通のテレビでは大きすぎます。どうしても液晶がほしいのですが、今、だいぶ安くなったとはいえ、やはり20インチ以上のものはかなり高価です。

 ところで、この拡大読書器の値段ですが、何十種もある機械が、すべて定価19万8千円なのです(注:この部分をお詫びして訂正します。下の注をご覧ください。) これには驚きますが、わけがあります。身障者手帳の視力障害2級保持者なら、上限¥198,000まで市の福祉事務所から補助が出るのです。モニターを別に買うのでなければ、身障者側はまったく支払わなくてもいいようになっているのです。もうお判りかと思いますが、自治体が19万8千円を限度として支払うことになっているため、すべてのメーカーは機種の相違にもかかわらず、全部19万8千円という定価をつけているのです。中には、うちの製品は17万6千円です、というのがあってもいいはずですし、また、当社の製品はここが特別の仕様ですから21万2千円です、というものも当然あっていいと思うのですが、実際は全部同じ値段です。不自然極まりない話です。自治体の支払う援助額が代わらぬ限り、どんなに製造工程が簡略化されようが、部品が安くなろうが、まずこの製品の値下げなどは行なわれないことでしょう。

 そこへ冒頭で紹介したエヌ・ジー・シーの広告です。実物をみたわけではないのですが、原理的には同じ製品でしょう。ただ、私たちが使っているような、拡大レンズが上方に固定されていて、その下で文書を動かす方式ではなく、レンズのはまった装置を手で持って文字の上を移動させる方式のようです。しかし、これと同じくスキャナー型の既製品もありましたが、やはりそれは19万8千円だったのです。ズーム機能つきのテレビカメラなど、ずいぶん安くなって来ています。拡大読書器は、その中のレンズ部分だけなのですから、19万8千円もするはずはないのです。

 さて、最後にまた文句です。厚生労働省は、介護保険料を倍額に値上げしたり、身障者への援助を打ち切ったり、さらに老人保険の支払額を上げたりする前に、こういうメーカーや業者との癒着とも言っていいような値段の設定の方をまず、検討すべきではないでしょうか。そうでないかぎり、中国製の拡大読書器が1万9800円という驚くほどの安い値段をつけようとも、身障者の側は、補助で費用の全額が支払われる19万8千円の機械を買い続けることでしょう。そして、その金は税金から支払われているのです!

  (注: 訂正とお詫び この部分の記述は誤りでした。これをご覧になったある方から、上で引用している森田茂樹著『拡大読書器であなたも読める!書ける!』にも、この本の発行当時の国内で確認出来た30機種余の仕様が1機種1ページで紹介されているが、その価格は5万8千円から85万円まであり、そのうち19万8千円の機種は14機種で、そのうちの13機種の評価が載っている、というご指摘をいただきました。まったくその通りでした。19万8千円のものが多いことは確かですが、それより安いもの5種、高いもの15種がこの本には紹介されています。したがって、これ以降の批判的記述もかなり訂正しなければなりません。いずれ、全面的に書き換えるつもりですが、とりあえず訂正とお詫びを記しておきます。03/05/27)