ベネスエラ:国民投票を終えて


トニ・ソロ
2004年8月18日
ZNet原文


ベネスエラ政府にとって、15日(日)に行われたチャベス罷免をめぐる国民投票は、政府とその政策、そしてウーゴ・チャベス大統領の正当性を高らかに確認するものだった。ジョージ・W・ブッシュとディック・チェイニーが米国で政権に就いて以来、考え得るあらゆる手だてを使ってベネスエラの政治生活を不安定化させようとしてきた米国とそのお仲間たちにとっては、選挙のディエン・ビエン・フーといえる[1]。とりわけ、ベネスエラ政府とその組織に対する中傷誹謗を続けてきた国際的な主流メディアは、国民投票でチャベス政府が勝利したことで多少おとなしくはなったが、ニュース報道でも分析記事でもあたりさわりのない話をするかそうでなければ敵対的なままである。

ロンドンのインディペンデント紙の一件----同紙は開票途中でチャベスに反対する派の勝利をウェブサイトで公表しておきながら、謝罪もコメントもなしにそれを取り下げた[2]----は、最も目立った例であろう。けれども、ほとんどすべての国際主流派メディアは、不平たらたらながらチャベスの勝利を認めはしたものの、昔ながらのすり切れたお話を繰り返そうとしている。チャベスは国を分断した、チャベスはキューバと密接な関係を持っている、チャベスはポピュリストの強面である、チャベスはたなぼたの石油収入に頼っているなどなどである。最近達成された重要な三つの政策----インフラ統合をめぐるコロンビアとの合意、メルコスール(南米南部共同市場)貿易圏との連携、2002年の反対派によるサボタージュ後の石油生産の信じがたい回復には、ほとんど言及されていない。

チャベスは反対派に対話を呼びかけたが[3]、これまで返ってきたのは沈黙と拒絶だけである。反対派のかなりの部分が、大規模な不正があったという馬鹿げた難癖を付けている。チャベス大統領がどんなに和解を試みようとしても、反対派のほとんどは強い反対かあからさまなサボタージュで対応している。反対派は、国民投票の結果を断固拒絶し、ベネスエラを再び混沌に陥れる行動に出るかも知れない。


1984年、ニカラグア選挙----忘れないように

ニカラグアとベネスエラでははっきりした違いはあるが(ベネスエラは米国が組織したテロリストの攻撃を日々受けてはいない)、ベネスエラの政治状況は1980年代のニカラグアと類似している。20年前の11月、サンディニスタは選挙で決定的な勝利を収めた。分水嶺となった1999年の選挙を演出することに成功する前、1984年の投票は、ニカラグアで最も自由で公正な選挙だった。

その選挙でサンディニスタは投票者の60%の票を得た。米国が組織し資金を与えた右派野党集団は選挙をボイコットした。その他の野党は選挙に参加し、ニカラグアの国会で----とりわけ長きにわたり周縁化されていた大西洋岸からの議員が----かなりの議席を獲得した。英国の議員を含む公平な外国の監視団は、その選挙が自由で公正であったと宣言した。選挙は、サンディニスタ政権の正当性を決定的にするものだった----とりわけ中米の近隣諸国との関係で。けれども、このときでさえ、ニカラグアに対する米国のテロ戦争と不法な貿易ボイコットにより、革命の社会経済的利益を実現することが不可能にされていた。

米国政府はニカラグア太平洋岸の主要港コリントにある燃料貯蔵タンクに組織的攻撃をしかけた。米国が設置した機雷により、ニカラグア水域に入ってきた外国船がダメージを受けた。同時に、米国は、コントラの大量殺人者たちに資金と訓練、装備を与えていた。コントラは最大500人から600人規模で地方部を席巻し、地方の身を守る術をもたない協同組合を攻撃し、診療所や学校を焼き払った。コントラは教師や保健師たちを殺害し、農民とその家族を標的にした。ちょうど今日、コロンビア政府の積極的な共謀のもと、米英が訓練したコロンビア軍の支援下でイスラエルにより訓練されたコロンビア準軍組織兵士がやっているのと同様である。

ニカラグア野党の中心人物だったビオレタ・チャモロやアルノルド・アレマンは米国が自分の国をテロにより貼り付けにすることから嬉しい利益を得ていた。ちょうど今日、アレバロ・ウリベとそのお仲間たちがコロンビアで利益を得ていると同様である。ベネスエラの強情な反対派たちが、これらの経緯を自分たちの導きの星と見なしていないとは考えにくい。1984年のレーガン・テロリスト政権はニカラグアの11月選挙の結果を無視し、戦争と経済的締め付け、外交による孤立化の政策を進めた。


イラン・コントラ・チーム----プレゼンテ!

ブッシュ現政権がベネスエラに同様の手段を用いる可能性は高い。ハイチでアリスティド大統領が追放されたことは、選挙で選ばれた政府に対する尊重など何一つブッシュ政権は持ち合わせていないことをはっきりと示した。ワシントンの政府にいる者たちの多く----リチャード・アーミテージなど----は、不法武器取引とマネーロンダリング、麻薬取引に関与していた、イラン・コントラ・スキャンダルの関係者である。

彼らはニカラグアを確実に破壊するため、法的プロセスを迂回した。アメリカ合州国憲法が現在ずたずたにされ捨て去られているのは、2001年9月の攻撃があったためではなく、これらの者たちが政府内にいるからである。ニカラグアを破壊したと同じホワイトカラーのテロリスト殺人者たちが、ベネスエラおよびラテンアメリカに対する米国の政策を決めている。

一方、ジョン・ケリーが米国大統領になってもほとんど変化は期待できない。民主党の「我もでももっと」式外交政策は、ベネスエラおよびラ米の他の地域にとってほとんど息抜きにはならない。ニカラグアの元外相ミゲル・デスコトが言うように、「米国の現在の振舞いが一時的なもので、ジョージ・ブッシュ二世が大統領の座を去れば変わるだろうと結論するのは大きな誤りだろう。米国の歴史の中で、その世界支配衝動から後ろに引き下がったことは一度もなく、自らの振舞いを修正したこともない。他の人類の権利という観点からは、悪からさらなる悪へと行っているだけである」。


今後ありうるパターン

1984年の選挙後ニカラグアで反対派がやったと同じ手だてをベネスエラの反対派もやろうとするかもしれない。自分たちの望みを達成するために、米国の資金と外交的ごり押し、秘密作戦と経済的支援を期待するだろう。コロンビア大統領アレバロ・ウリベのような米国政府の手先は口で平和を語りながら汚い戦争をやるだろう。1980年代に中米の隣国がニカラグアに対してやったように。

20世紀を通して使われた帝国主義の標準ツールキットが、ベネスエラの参加型民主主義という輝かしい例を弱体化させ、傷つけ破壊させるために用いられる可能性はたかい。ベネスエラの場合には、巨大な石油資源があるため、大規模テロや不法経済封鎖といったツールキットの中の大物は隠されるだろうが。

米国の支配下にある国際金融・貿易帰還にとって、ベネスエラがラテンアメリカの自律性と威厳、自決を決定的に守ったことは脅威である。ベネスエラは、貧困の軽減と理のない規制撤廃・公共資源の投げ売りとを関係づけるこれら組織の矛盾した主張への挑戦だからである。ベネスエラの例が大陸の他の所でコピーされることを許すことはできない。そのため速やかに決定的に、ブラジルやアルゼンチンのような重債務国の選択肢を制限すべく行動に出るだろう。エクアドルとボリビアも同じ扱いを被るかも知れない。

沸騰しているボリビアで、人々が、ベネスエラが石油収入でやっているようにボリビアでガス収入を貧しい大多数の人々に保健と教育の機会を提供するために使うことができないのはなぜかと問い始めるとどうなっていくかは興味深い。既に、7月15日のガスをめぐる住民投票でカルロス・メサ大統領が腹黒い操作を行なったために、カンペシノたちが石油生産施設を占拠するといった直接行動が生まれている[4]。えくあどるいでは、グティエレス大統領が、米国と協力して地方で進めている政策に対する先住民の批判を押しとどめることはますます難しくなっている。

米国貿易代表ロバート・ズーリックとそのチームはますます先を急いで「自由貿易」協定を成立させようとするだろう。ズーリックのチームは、既に年内とされていたコロンビア、エクアドル、ボリビア等のアンデス地域諸国合意を一層急がせようとする可能性も高い。ベネスエラとアルゼンチンの二国間交渉、ベネスエラの、サザンコーン通商圏メルコスールおよびカリブ地域の経済共同体カリコムとのとの関係拡大は、20年近くにわたって自由に席巻していたアメリカ合州国の帝国主義的新自由主義モデルに対する大きな脅威なのである。

環境問題について、ベネスエラ政府による大規模インフラプロジェクトがどのような結果をもたらすかははっきりしていない。巨大インフラ・プロジェクトが約束しながら一般に実現しないキメラ的マクロ経済利益を追求して先住民を追い出し環境破壊をもたらすことになるかもしれない。けれども遺伝子操作種子の領域では、環境に危険で安全性がわかっていないバイオテクノロジーに対するベネスエラの態度は、ラテンアメリカの他の地域で遺伝子操作された作物が広がることをくい止めるかもしれない。したがって、今回の国民投票結果は、モンサント社やデュポン社、ダウ社の他、欧州企業のシンジェンタやベイヤー(アベンティス)にとっても悪いニュースかも知れない。

軍事的側面では、米国が最近発表した部隊の配置換えと応酬からの兵士撤退を実行する際、その一部はアンデス地域に送り込まれるかも知れない。ベネスエラにおける敗北は、米帝国にとって、覇権を防衛するために新たな緊急対応策が必要とされていることをはっきり示すサインである。ブッシュでもケリーでも、これまでずっとそうだったように、米国とその同盟者の利益を守るという点では同じである----あからさまな軍事力や恥知らずの経済的強制によって。

けれども、この度カラカスで再び示されたような、ラテンアメリカの人々の信じがたい創造性と弾力性は、現在の新自由主義の不正と絶望という悪夢からわれわれすべてを救い出す希望と再建のシンボルとして現れると信じても、行きすぎではないだろう。


tonisolo is an activist based i. Central America. Contact via www.tonisolo.net.

1.Fifty years ago in May 1954 the battle of Dien Bien Phu ended French colonial rule in Vietnam.

2.narcosphere. narconews.com "UK's Independent Newspaper Falsifies Venezuela Election Results!" Ron Smith, Aug 15th, 2004 (http://narcosphere.narconews.com/story/2004/8/15/205259/595)

3.www.aporrea.org "Rueda de prensa desde Miraflores Presidente Chavez insiste en llamar al dialogo y a la unidad Por: RNV" 16/08/04 (http://www.aporrea.org/dameverbo.php?docid=19604)

4."CAMPESINOS TOMAN CAMPO PETROLERO EN BOLIVIA" www.econoticiasbolivia.com 16th August, 2004


本記事を含む私のページの他の記事をウェブや集会等の配付資料で転載することは、転載者の責任で行なって下さって結構です。ただし、特に集会等の配付資料で使う場合、元執筆者の名前、訳者としての益岡の名前および「2004年6月に『ファルージャ 2004年4月』(ラフール・マハジャン著、益岡賢・いけだよしこ編訳、現代企画室、1500円)が出版され、2004年4月にファルージャで起きたことが目撃証言を中心にまとめられている」という記述を入れて下さい。


チャベスに反対する人々は、選挙結果が正式に発表される前から、自分たちは約58%の票を得たと発表し勝利を宣言しました。インディペンデント紙が掲載していたのは、この、反対派の勝手な発表。正規の結果が発表されたときに、それがイカサマだったと主張する準備として、反対派がこうした発表を行うことは事前に予測されていました(反対派自身が自主集計結果を正式結果前に発表すると言っていたくらいですから)。

カーター・センターおよび米州機構の投票監視団は、選挙委員会が発表した、ウーゴ・チャベスの罷免に反対する票(チャベス派)が58%という結果は正当であり、投票は公正だったと発表しました。

それに対し、反対派は具体的な根拠を何一つ示さないまま、投票には「巨大な不正」があったと主張し続け、政府は確認作業を行うとしましたが、反対派はそれも拒否しました。

つまり、公正な意見確認作業はすべて拒否する、という態度を表明しているのです。さらに、ここで紹介した記事にもあるように、チャベス大統領による対話の呼びかけも拒否しています。

それにもかかわらず、朝日新聞オンラインの記事には、「国内の安定は、大統領が反対派と積極的に対話するかにかかっている」とあります。そもそもクーデター未遂やサボタージュ、破壊行為等で国内を不安定化させているのは圧倒的に反対派であり、対話を拒否しているのも反対派なのですから、朝日新聞記事のような言明がいかにして成立しうるのかは、謎です。

多くの国際メディアが、他にも、この記事にもあるように、チャベスは国を分断した、チャベスはキューバと密接な関係を持っている、チャベスはポピュリストの強面である、チャベスはたなぼたの石油収入に頼っているといった報道を行なっています。

「チャベスは国を分断した」というのはBBCをはじめ多くのメディアで論ぜられていますが、ほとんどのラ米諸国は少数の富裕層が富の大部分を専有する一方、大多数の人々が国連基準の貧困層以下で暮らす状況が長く続いてきました。ベネスエラも例外ではありません。その意味で、チャベスがいようといまいと、ベネスエラはもともと、大きく分断されていたと言うことができます。貧しく周縁化された人々が声を挙げたとたんに、「国が分断された」と報ずる目線がどこにあるかは、明らかです。

チャベスは政策実施のために石油収入を使っています。石油収入に頼っています。これまで寡頭体制の経済・政治エリートたちが石油収入の多くを自分たちのポケットに入れていたことを考えると、石油収入に頼っていることが、これまであった選択肢の中で批判すべきものであるとも思えません。
益岡賢 2004年8月20日

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