自治労音協通信

 2面  NO48号/2002.5.5発行

わがまま音楽紀行(連載第18回) ★東南アジアの国境に立つの巻

大阪市職労 宮本雄一郎

ソウルからイムジン江に向かう列車  


1 出会いと別れの春です

音協会員のみなさん、お元気でお過ごしでしょうか。「桜咲いたら一年生」という歌がありますね。でも、今年の春は特別急いでやってきたので、四月の入学式には桜がなく、「桜散ったら一年生」と替え歌を歌ってみました。
春は別れと出会いの季節です。私自身も職場を変わりました。今の時期は人生を考えさせる季節だなあ、などと勝手に感じいっています。みなさんの春はいかがでしょうか。

2 国境の歌イムジン江 に立つ

いつものことですが話があちこち飛びます。前回の東南アジア放浪から、今回はワールドカップ共同開催の地韓国です。アジアの国々は国境で他の国と接しています。韓国は北朝鮮とイムジン江をはさんで向かいあっています。イムジン江は漢字で「臨津江」と書きます。今日は、首都ソウルから列車に乗って1時間、「金村」という田舎の駅で降り、国境の統一展望台をめざして放浪します。
まず、金村の駅前でバス乗り場を探します。しかし、統一展望台は僻地のようで、人に聞いても行き方を知っている人はいません。困り果てていると、前方から警察官らしき3人がやってきました。私は「統一展望台に行きたいんですが」片言の韓国語で話しかけました。警察官たちは3人で何やら相談しています。見ていると、その中の一番若くてスマートな警察官が成り行きから私の面倒をみる羽目になったようです。
漫画「こち亀」に出てくる中川巡査ばりのハンサムポリスが、「ちょつと待っているように」と言って駅前にいる人々をつかまえて行き方を聞いてくれました。しかし、何人聞いても誰も行き方を知りません。それでも彼は熱心です。栄養ドリンクを買ってきて私に渡すと、なおも行き方を調べています。一人の娘さんがポリスに何やら話をすると、彼は
私を交番に連れていきパトカーに乗せました。どうやらバス停がわかったようです。
パトカーは私を乗せて走り出します。すすめられるまま栄養ドリンクを飲みます。幸か不幸か、私の人生は今までパトカーとは無縁だったのです。今回はじめてパトカーに乗りました。(悪事でパトカーに乗るのでなくて、本当によかったなあ)と、私はこの珍しい体験と、世界一親切なポリスに感謝したのでした。
ところで「イムジン江」という歌がありますがご存知でしょうか。「イムジン江水清くとうとうと流る 水鳥自由に 群がり飛びかうよ 我が祖国南の地 思いは遥か…」二つの国に別れてしまった南北の統一を願って歌われる歌です。イムジン江の川岸に立つと目の前に北朝鮮が見えます。川幅のもっとも狭い所は五百メートル。対岸には団地があり、学校が見えます。両岸のどちらにも人が生活しているのです。北のスピーカーからは宣伝放送が風に乗って流れてきます。眼下のイムジン江は南北を隔てて静かに横たわっています。そして、歌のとおり鳥だけが自由に川面を渡ってふたつの国を飛びかいます。
展望台からの帰途、金村駅に戻りました。遠くから列車のライトが見えます。駅のホームから眺めると、レールはどこまでもまっすぐに北に伸びています。いつか、南北のレールがイムジン江を越えてつながる日に思いをはせます。

3 歌に国境はないキッチン・ミュージカル「NANTA」

さて、「NANTA」というミュージカルは日本でも上演されたのでご存じの方もあると思います。身体を使ったリズムと動きを特徴とする韓国現代劇です。レストランの厨房で働く4人の若者が、厨房の道具を使ってリズムを刻み、身体でそれぞれのキヤラクターや主張を表現します。
ストーリーはさておいて、この劇の特徴は言葉を使わない「非言語的表現」です。4人の若者どうしの対立と協調、支配人とのかけ引きなど、ストーリーの展開が言葉を用いずにリズムとパフォーマンスだけで展開します。テンポよく分かりやすいあらすじ、卓越し
た身体表現で会場は次第に笑いと興奮の絶頂へと向かいます。
「NANTA」の興行的成功を支えるのは、この「非言語的表現」のうまさです。アジアや欧米、イスラム圏の人々などで会場は満員でしたが、そのすべての観客に理解されるミュージカルを作り出した韓国の文化的水準の高さを実感しました。
音楽に国境はありません。観劇で酔い、韓国の焼酎「マッコルリ」を飲んで酔った頭で、「NANTA」や「イムジン江」のように国や文化の違いを越える歌が生まれ出る時代に生きていることを実感したのでした。 (つづく)

「おばちゃん するめちょーだい」
「あいよ 2000 ウォんだよ」


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