森林伐採 

●オーストラリア

オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア島には、巨木が林立する鬱蒼(うっそう)とした原生林が拡がり、多様で独特な生態系がある。この島の約20%の地域が、ユネスコによって「世界自然・文化遺産」に指定されている。

ウェルド渓谷の、世界遺産指定地域に隣接する森。樹齢数百年の巨木が立ち並び、神秘的な緑の世界が広がる。私が海外で見てきた森林の中で、もっとも感動を与えてくれた。

保護施設で飼育されているタスマニアデビル。タスマニア島にはウォンバット、カモノハシといった数多くの貴重な固有種の生き物が生息する。

驚いたことに、タスマニアに残されたすばらしい原生林は、長年にわたって次々と伐採されてきた。オーストラリアの森林伐採の基準は低く設定されており、原生林でも伐採できてしまうのだ。

タスマニアで伐採された木材の約90%が製紙用のチップに加工され、その約80%が日本へ輸出されてきた。日本はチップの72%を輸入に頼っており、その38%がオーストラリアから。タスマニア産は、日本が輸入するチップの12%にもなる。原生林伐採がオーストラリアでは合法であるため、日本の製紙会社はそれを根拠に原生林が混じったチップを買い続けてきた。(数字は08年現在

伐採跡で、ここにあった原生林について語る地元住民。森を守るために、首都から移り住んだ。タスマニアでの原生林伐採は、オーストラリア国内の世論を二分するほどの大きな問題となっただけでなく、世界各地からも伐採反対の声が上がった。

原生林が伐採されると太い丸太だけを運び出すと、伐採跡地は石油をかけて燃やされる植林しやすくするためである。

世界中で、原生林を伐採してその跡にユーカリやアカシアなどの単一樹種の植林が行なわれている。タスマニアでも、広大な面積の原生林がユーカリ畑に替わってしまった。そこでは豊かな生態系は維持できない。

島の中を、原生林や人工林からの丸太を積んだ木材運搬トラックが、ひっきりなしに走る。タスマニアに3カ所あるチップ工場へ運ばれ、砕かれて製紙用チップにされる

3〜4cmの木材チップは、屋外にうず高く積み上げられる。工場内の船着場で専用船に積み込まれて日本の製紙工場へと運ばれ、木材パルプを経て紙に加工される

巨木が林立するスティックス渓谷の、樹高90mのユーカリ。2010年10月、林業界と森林保護団体とが「保護価値の高い森林」の伐採を停止し、伐採を天然林から植林へ移行することに合意した。だがそれには、合板生産のための伐採は除外されるなど問題が残る。2009年にはタスマニア産合板の97%が日本へ輸出されている。


●インドネシア

広大な熱帯林を持つインドネシアでは、森林面積がこの50年間で1億6200万ヘクタールから9800万ヘクタールにまで減少。現在、1年間に380万ヘクタールが伐採されている。かつてインドネシアのスマトラ島には鬱蒼(うっそう)とした熱帯林が広がっていたが、今ではわずかしか残っていない。

アカシアの木を満載した製紙会社のトラック。アカシアは成長が早く、植林してから約6年で伐採されて紙の原料にされる。インドネシアで製造される紙とパルプ原料は、天然林木からが80%で、植林木はわずか20%という。

天然林を皆伐して造られた広大なアカシアの植林地。日本が海外から輸入するコピー用紙は、1996年に2万5900トンだったのが2002年には26万2600トンへとうなぎ登りに増加。そのうちインドネシアからは、82%にあたる21万4611トンが2002年に輸入された。日本のコピー用紙が安くなったのは、インドネシア製の安い紙が大量に輸入されるようになったからだ。

アカシアの植林地は森林ではなく「畑」である。多様な樹種からなる天然林とは異なり、単一樹種の植林地では生態系は育まれない。

スマトラ島中部で操業するインダキアット社ペラワン工場。構内へ入ろうとしている左のトラックの荷台には、アカシアよりはるかに太い天然林材が積まれている。この会社が2000年に使った木材の約75%が、天然林を皆伐して得られたものだという。

森林保護区内で違法伐採された跡。すぐ近からチェーンソーの音が聞こえる。白昼堂々と違法伐採が行われているのだ。「ここからもっとも近い製紙会社はインダキアット社なので、木材はそこへ運ばれているとしか考えられない」と案内してくれた地元NGOスタッフは語った。インドネシアのほとんどの国立公園・森林保護区で違法伐採が横行している。

川岸は伐採が禁止されているが、ここもすでに伐られてしまっている。チェーンソーの音がし、道路には運び出された丸太が積み上げられていた。違法伐採の現場にはいたる所で出会った。違法伐採には軍や警察が関与していることが多く、野放し状態である。
疾走するトラックにカメラを向けると、男たちが鋭い視線を送ってきた。明らかに、違法伐採した木材を運んでいる。
インダキアット社から積み出される紙製品。この会社のスマトラ島とジャワ島にある3工場で、インドネシア全体の約42%にあたるパルプ250万トン・紙370万トンを生産する。
インダキアット社の排水口の下流には、川沿いにたくさんの人が暮らす。「多くの漁民たちはこの川で漁をし、住民たちは水浴びや洗濯をしてきました。ところが工場の操業が始まると漁獲量は激減し、時には大量の魚が死んで浮かび上がったんです。川岸に住む人たちの90%は漁師でしたが、現在では1%しかいません」と工場の排水問題に取り組んできたユノスさんは語る。
肩から背中にかけて湿疹が出ている若者。工場に浄化装置が出来るまでは、川の水はもっと茶色で酸っぱい味がし、川へ入ると体が熱くなるほどだったという。川の水を飲んでいる人は減ったものの、誰もが今でも水浴びを続けている。
インダキアット社の植林地に囲まれて暮らす先住民族・サカイ。「アカシアを1回だけ伐ったら土地は返す」とのインダキアット社の約束を信じて共有地を貸したが、返してもらえなかったという。違法伐採を含む天然林材を使って現地で製造された紙・パルプを使い続けることは、インドネシアでの熱帯林消滅に加担することになる。



●パブアニューギニア

パプアニューギニアの熱帯林は豊かな生態系を育む。ここで暮らす人々は、森に生息する動物を捕まえ、森の中のささやかな畑を耕してきた。

日本の製紙会社による皆伐の跡。植林するために火が放たれている。人々にとってかけがえのない森が、日本でダンボールやベニヤ板の芯などとして使い捨てられる。

伐採された木材は砕いてチップにし、日本へ向かう船に積み込まれる。日本の木材と紙の消費が、フィリピン・インドネシア・マレーシアの森林を次々と消してきた。

ユーカリの苗。日本の製紙会社は、多様な樹種の森を伐採し、ユーカリやアカシアといった単一樹種の植林を行っている。10年後に再び伐採するためだ。だが、その畑と化した「森」中では鳥の鳴き声も聞こえない。

●ロシア

地球全体の森林面積で、ロシアが占めるのは約22%。そのうちの80%近くがシベリアにある。高さ30〜40メートルものカラマツやエゾマツなどが果てしなく広がる。

猟師が200sのシカを仕留めた。シベリアには、シベリアトラ・ヒグマ・イノシシ・クロテンなどが生息する。ウデヘなどの先住民族は森の豊かな恵で暮してきた。

1990年代に韓国企業がおこなった大規模な皆伐の跡。永久凍土の上にあるシベリアの森林が伐採や火災で失われると、凍土が溶けてメタンガスが発生。その結果、地球温暖化を加速させる。
トラックなどのタイヤが沈まないように、大量の木材が泥の中へ投入されている伐採現場。ソ連崩壊によって、森林では武装した盗伐団が横行。許可を得た伐採でもその法はきわめて乱暴で、営林署は職員給料の捻出のために伐採している。
森林火災の跡。伐採道路が次々とでき、森の中へたくさんの人が入るようになり、盗伐だけでなく人為的な火災も増えた。伐採よりもはるかに大きな被害を与えている。
新潟東港に積み上げられたシベリアで伐採されたロシア材。日本は、国内で使う木材の80%近くを輸入。輸入の重点を、熱帯材からロシア材へと移しつつある。世界の森林を消さないために、再生可能な方法による伐採での木材だけを輸入すべきだ。
クラスヌィ・ヤール村はウデヘたちの村。子どもたちは、祖先から受け継いだ文化と生活を守り続けようとしている。だがシベリアの森林は急速に減少しており、森林の恵に頼った彼らの伝統的な暮らしは危機にひんしている。

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