日本の川

 日本政府は河川政策を見直して、ダム建設を中止したり、「多自然工法」を河川工事に導入したりするようになった。だが、ダムに頼った治水政策の基本は変更されていない。ダムの建設計画は何と約500もあり、新たなダムは次々と着工されている。


●長良川

子どもたちが、橋の上から川に飛び込む。上流の郡上八幡では、川を大切にする人々の暮らしが今も続く。

河口の桑名市・赤須賀では、正月には漁船に大漁旗がはためく。漁港の隣に建設された河口堰により、長良川にシジミはいなくなった。

かつてのシジミ漁場で漁をしてみると、真っ黒で悪臭を放つ大量のヘドロが網に入る。漁は、予想を越える壊滅的被害を受けた。

河口堰のダム湖で水質が悪化するため、気温が上がると泡が流れ出す。河口堰の水の多くは使われていない。「無駄な公共事業」の見事な見本である。



●四万十川

流域の人々の努力により、豊かな生態系が残っている。この川で多くの漁師が生計を立て、全国から観光客がやってくる。
発電のために「家地川ダム」で取られた水は、他の水系へ流されている。漁師・住民たちは、川の水量を回復させるため、このダムの撤去を求めている。



●黒部川

わずか87kmの川に、「黒四ダム」など四つの発電用ダムがある。そのダム湖には、膨大な量の土砂と木の葉などの有機物が流れ込んでヘドロ化する。
1991年から、「出し平ダム」のダム湖に貯まった土砂を下流に流す排砂実験が始まった。海にはヘドロが堆積し、漁業に大きな被害が出た。
国土交通省の「宇奈月ダム」が完成し、2001年6月には上流のダムとの連携排砂が行われた。国土交通省は、ダムの延命策を日本中で行おうとしている。連携排砂後の海はヘドロで色が変わり、悪臭が漂っていた。

日本中のダムが土砂で埋まりつつある。ダムは、環境に大きな負担をかけるだけでなく、寿命を延ばすためには膨大な費用が必要なのだ。




●揖斐川

源流部に日本最大の「徳山ダム」が、「水資源機構」(前の「水資源開発公団」)によって建設されている。高さ161メートルのこのダムの総貯水容量約6億6000万トンは日本最大。(撮影 2005年8月20日)
建設現場右岸から見た下流側。手前はコンクリートで造られた洪水吐き。この地方では水余り状態であるにもかかわらず、40年前の計画は変更されなかった。すばらしい自然と徳山村の文化を破壊し、巨大ダムの建設が急ピッチで進む。

ダムで沈む徳山村は、466世帯が移転し廃村になった。ずさんな移転事業によって、集団移転地の一つで大規模な地盤沈下が起き、再移転が行われた。その費用50億円は税金と水道料金だ。
徳山ダムの総事業費は2540億円。中小ダムの建設計画は見直されても、建設費が大きい巨大ダムの建設は止まらない。

「徳山ダム建設中止を求める会」の人たちは、ダムによる水没予定地でキャンプを続けてきた。試験湛水が行われる2006年も、同じ場所にテントを張る予定だ。(撮影 2005年8月20日)
山の森林を手入れすることで洪水と渇水を防ぐという「治山治水」の原点に戻り、日本の自然を回復させるための真剣な取り組みが必要だ。




●天竜川

日本の川は、源流の山から河口までが短くて滝のように流れるのが特徴だ。急峻な中部山岳地帯はそれがより激しく、大量の土砂を海まで押し出してきた。ダムによる取水で川の水量が減ったため、河原には膨大な土砂が堆積してしまった。
土砂で埋まってしまった天竜川の支流・三峰(みぶ)川にある美和ダムのダム湖。日本中のダム湖が、計画よりもはるかに早く土砂で埋まりつつある。

平岡ダムは、アジア太平洋戦争中に強制連行された朝鮮人・中国人らによって建設された。ダムのコンクリートの隙間から水が漏れる。コンクリートは劣化するので、ダムはいつかは必ず撤去しなければならない。その問題の解決策を先送りして、日本中にダムが建設されてきた。





●大井川

「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」といわれるほどの激流だった大井川だが、今ではまったく水はない。この川にある千頭(せんず)ダムは、土砂の堆積率98パーセントで日本一。こうした川にダムを造ったことが間違いだったのは明らかだ。

大井川河口近くの海岸。川から土砂が海に流れ出ないので、砂浜が250メートルも消えた。今では大量のテトラポッドが海岸侵食を防いでいる。駿河湾に注ぐ川には32ものダムがあり、海の変化で漁獲量は3分の1に減少した。老朽化したり必要がなくなったダムから撤去していくべきだ。

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