編集長の辛口時評 2005年11月 から分離

1980年の米議事録訳出:孫子曰く:「知彼知己、百戦不殆」、「不知彼不知己、毎戦必殆」

2005.11.22(2019.8.20分離)

「彼(敵)を知り、己を知る者、百戦して殆(あや)うからず」、「彼(敵)を知らず、己を知らざれば、戦う毎にかならず殆(あや)うし」

 これまでの反米運動は、1980年以来の敵の計画を知らずに戦っていたのである。ああ、なんともかんとも、危(あや)ういかな。負け続けていたのは、理の当然であった。

 1991年に初見参、一九八〇年の上院外交委員会聴聞会議事録『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』を、湾岸戦争に関する拙著『湾岸報道に偽りあり』で、以下のごとく紹介した。


 資料名だけはすでに一年前から知っていた『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』は、マイクロ・フィシュではたったの四枚だが、議事日程で二月から三月にかけての六日間の証言と付属報告集であり、B5版で本文が三六八ページにもおよぶ長文のものであった。

 表紙には斜めに、「HOLD FOR RELEASE SEP 16」というゴム印らしい文字が二ヵ所に押されている。マイクロ・フィシュは白黒写真なので、色は分らないが、赤字の日づけ入りハンコだったのではないだろうか。「九月十六日に公開」ということは「それまでは差止め」の意である。この種の議事録には機密性があり、内容も一部は削除され、公開が遅れることも多いという。この場合、三月十八日に終わった聴聞会の記録が、以後約半年間、公開差止めとなっていたわけだ。同時期の軍事委員会議事録にはゴム印が見られないことから考えると、やはり、特別扱いだったのだろう。

 内容は、定まり文句の「ソ連の軍事力の増大」ではじまり、「ペルシャ湾への合衆国(軍)の接近作業」(U.S. APPROACHES TO THE PERCIAN GULF )という題名の軍事作戦地図でおわっている。だが、むしろ驚嘆すべきなのは、実に詳しい石油事情の分析と予測である。つまり、「安全保障」といい「軍事力」というものの本音が、まさに石油資源地帯確保にほかならないことを見事に自ら告白しているのだ。途中からは「追加報告」となり、文書提出の「CIA長官の陳述書」、「緊急展開軍」(中央軍の前身)、「ペルシャ湾からの石油輸入:供給を確保するための合衆国軍事力の使用」などが収録されている。「事件年表」の発端が、一九七三年十月十七日から一九七四年三月十八日までの「アラブ石油禁輸」となっているのは、この報告の歴史的性格の象徴であろう。


 以後、日本語訳の出版を目指しつつも、14年が経過した。以下は、最新の木村書店の広告である。


1980年から25年後、4半世紀を経て、湾岸戦争からイラク戦争に至る緊急展開軍予算請求の米上院委員会議事録ついに日本語の全文訳が完成!全訳2巻で約600頁
(季刊『真相の深層』05冬8号からの連載開始と同時に予約受付)南西アジアにおける
合衆国の安全保障上の関心と政策
U.S. SECURITY INTERESTS AND POLICIES IN SOUTHWEST ASIA
FEBUARY 6, 7, 20, 27; MACH 4, 18, 1980

木村書店発行、定価は4,000円、事前予約は3,000円。
事前申し込みは発売と同時に郵送。郵送無料。
申し込み先:http://www.jca.apc.org/~altmedka/hanbai.html
郵便払込の口座番号
00150-4-568373
口座名:木村書店
tel/fax: 0422-54-7476


 12/01発行:季刊『真相の深層』05冬8号の目次は、以下である。


   目次
責任編集・発行人・木村愛二の舌代

911 ブッシュとシャロンに獄門台をプレゼント 米国政府関係者から9・11とイラク戦争に対する重大告発  訳・解説:江熊裕志

911 英国随一の保守系大衆紙『デイリーメール』が911謀略説を一挙紹介 付録:「刑事コロンボ番外編:パンケーキの秘密」  楡井研

バスラで逮捕、奪取された2英人秘密工作員の任務はテロ実行 ファイサル・ファハド博士の評論  齊藤力二郎・訳

London 7.7 《7・7ロンドン爆破事件》各言語による情報発信ぶり比較  童子丸開

London 7.7 ロンドン7・7大量虐殺の真相とその深層  江熊裕志

イズラエル・シャミールへのインタビュー パレスチナ/イスラエルでの人権の平等はユートピアに非ず  童子丸開・訳

国際時評 アメリカの侵略政策に奉仕する「国境なき記者団」の素顔  佐々木衛

連載 「元シオニスト活動家の慟哭」イラクのユダヤ人(第2部) ナエイム・ジラディ・著  童子丸開・訳

国際時評 ラテンアメリカに敵対する米帝国とCIA(第3部) 「尊厳・主権・反戦平和の法廷」(エクアドル)  童子丸開 ・訳

国際時評 聖なるマフィア―オプス・デイの素顔を暴く(その7)  童子丸開

国際時評 カール・マルクスの大罪(3)プルードンの主著の邦訳がないのにマルクスの批判本を鵜呑みの怪談  木村愛二

新連載 佐藤 雅彦・訳:『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』 米上院外交委員会記録のうち『付録』その1 問題点概要 No.IB80027―緊急展開軍

編集後記


責任編集・発行人・木村愛二の舌代

 創刊号では本誌を、難解な国際政治の議論にも資料を提供する徹底的な硬派の「高級雑誌」と宣言した。
 成果は確実に挙がっている。季刊『真相の深層』編集長の肩書きで、毎月の連続講演も依頼された。第一回は「権力の構図と情報操作のセオリー」、第二回は「米国によるCIAの謀略構想と世界制覇に向けた計画を暴く!」「9・11事件とイラク戦争の謀略」、第三回は「ネオコン・シオニスト・イスラエルの世界戦略」となる。基本的な証拠は、本号から連載を開始するが、湾岸戦争からイラク戦争に至る「緊急展開軍予算請求」米上院委員会議事録、『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』である。


 [中略]
【編集者の序】舌代でふれたように、今号から『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』を順次、掲載する。この記録は、本文326頁、「付録」42頁、総計368頁。「付録」の内容は以下の通りである。連載第1回の今号では、下記のうち「緊急展開軍」(p327~p336)の部分を掲載する。
 [中略]
《RDF構想》
 現行の計画では、全軍の中から一定の限定された部隊が、部隊内の命令系統は従来のままで、RDF-JTFの司令官(Commander)の下に編入される。RDF-JTFとしての部隊の任命は、統合参謀本部によって行われた。緊急事態(emergency)が宣言された時には、任命された部隊はRDF-JTF司令官に直属する態勢で、展開の準備を開始することになる。どの部隊が配備されるかや、その派遣目的がどのようなものになるかは、その時々の紛争の状況によって決まってくる。このような部隊は、利用可能な機動部隊を送り出すことになる。
 [中略]


編集後記
 本号から、一九八〇年の上院外交委員会聴聞会議事録『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』の日本語訳連載を開始し、同時に、全訳の二巻(約六百頁)の事前予約を受け付ける。二巻の定価は四千円の予定だが、事前予約は三千円とする。この議事録の存在は、一九九二年発行の拙著『湾岸報道に偽りあり』で紹介し、原文を復刻版で広めたが、湾岸平和訴訟で証拠としての原文に部分訳を添えて提出しただけだった。季刊『真相の深層』の読者の予約購読料によって、翻訳料も出せる状況になり、やっと、全訳を公開できるのである。

 孫子曰く「彼(敵)を知り、己を知る者、百戦して殆(あや)うからず」」、これまでの反米運動は、敵の計画を知らずに戦っていたのである。危(あや)ういかな。

 季刊『真相の深層』万歳!

 議事録の内容は、定まり文句の「ソ連の軍事力の増大」で始まり、「CIA長官の陳述書」、「緊急展開軍」(中央軍の前身)、「ペルシャ湾からの石油輸入:供給を確保するための合衆国軍事力の使用」の計画書などが収録され、「ペルシャ湾への合衆国(軍)の接近」という題名の軍事作戦地図で終わっている。付録の「事件年表」の発端が、一九七三年十月十七日から一九七四年三月十八日の「アラブ石油禁輸」となっているのは、この議事録の歴史的性格の象徴である。パレスチナへのイスラエル侵略に抗議する「アラブの大義」の戦いが「石油武器論」を生み、それへの報復と、アメリカ軍のアラブの石油産出国への侵略が、湾岸戦争から現在の9・11事件、イラク戦争にまで続いているのである。一九四七年の国連パレスチナ分割決議にも遡る現代史の「真相の深層」が、ここにあるかと思えば、はるばる、ここまで来たるかの感に堪えない。

 アラブ諸国の「石油武器論」の行使は、結果として、真珠湾攻撃を典型とする「被害者スタンス」の常習犯、アメリカに、イラクを攻撃する口実を提供した。イスラエルは、アメリカとアラブ諸国を戦わせているのである。人種的には同根のユダヤ人は、外見も同じだし、アラブ語も堪能である。秘密情報機関モサドの工作員は、アラブ人を装って、アラブ諸国に潜入している。「過激な方針」を唆した可能性もある。

 歴史の真相とその深層を探る作業は、容易ではない。しかし、真実の究明なしに平和を語るのは、実に空しい行為なのである。本誌の役割は、いかに困難でも、この真実の究明の終わりなき作業を続けることにある。