『亜空間通信』1032号(2005/06/21) 阿修羅投稿を再録

NHK問題の本質は制度問題と主張する東大大学院憲法学教授 vs.「受信料支払停止運動会」醍醐教授

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『亜空間通信』1032号(2005/06/21)
【NHK問題の本質は制度問題と主張する東大大学院憲法学教授vs.「受信料支払停止運動会」醍醐教授】

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転送、転載、引用、訳出、大歓迎!

 本日(2005/06/21)、「受信料支払い停止運動の会」の会員から、個人宛メールで、同会の主宰者、東大経済学部の醍醐教授が、東大大学院憲法学教授の長谷部恭男教授の月刊誌『世界』7月号に掲載論文、「NHK問題の本質は制度問題である」に対する批判の会員向けメールが、解説付きで転送されてきた。

 私は、以下のように返信した。

法学関係は学閥の巣窟である。
相手にしても仕方ない。
むしろ、問題は、NHK批判を商売にする「偽の友」退治である。

 その論文の掲載誌、『世界』は、典型的な「エセ紳士」、「偽の友」である。東大大学院憲法学教授ともなれば、さらに「エセ」度が高い。議論は「ズレ」っぱなしとなる

 以下が、その会員からの個人宛メールである。

 木村さま

『世界』7月号に掲載された長谷部恭男論文「NHK問題の本質は制度問題である」を読んだ「受信料支払い停止運動の会」の醍醐教授からの会員へのメールです。これが憲法学・情報法の研究者の論説なのかと嘆息されています。


>「事前説明」正当化論の荒唐無稽の論理
長谷部恭男「NHK問題の本質は制度問題である」
  (『世界』2005年7月号掲載)の論評 ― 醍醐 聰

 私の読後感では、長谷部論文には問題が山積しているが、以下では、特に重要と思われる3つの論点を取り上げる。

1.現行の予算の国会承認制を前提にするかぎり、番組の事前説明は不可避とする点「国会で毎年、予算を承認してもらわなければならないことになっている以上、NHKの幹部としては、承認手続きがスムーズに進むよう、各党のキー・パーソンとなる政治家にNHKがどのような番組を放送するつもりであるかを、事前に説明にいこうとするのは自然なことである。」(72ページ)

「来年の大河ドラマや大リーグ中継についての説明もするかも知れないが、昨今、永田町で話題になっている個別の番組があれば、それについて説明をすることも不自然ではない。」(72ページ)

 この論理に立てば、予算の国会承認制があるかぎり、放送に対する外部からの干渉を否定する放送法第3条が死文化するのも、やむをえないという帰結になる。

 長谷部氏は、後段で、事前説明がおかしいというなら、NHK予算の国会承認制を廃止するよう要求すべき、と言っている。確かに、予算承認のカギを握る与党政治家の介入の温床・きっかけになりやすい予算の国会承認制を廃止するという主張は検討に値する。

 しかし、それを裏返して、逆も真なり(予算の国会承認制があるかぎり、事前説明、政治介入は不可避)というのは立証なき論理の飛躍である。
  
 個々の番組についてまで、お伺いを立て、政治家の意向を呑まなければ、予算を通してもらえない現状を追認せよというなら、「予算を人質にとった政治介入を甘受せよ」とNHKに託宣するに等しい。

2.NHKと政治家の関係を、放送事業者と広告主の関係と等置して、番組の事前説明を正当化しようとしている点「政治家に説明に行くなというのは、広告料を財源とする放送事業者に向かって、番組の内容について広告主に一切説明するなと要求するようなものである。」(75ペ-ジ)

 一見して、この文章は意味不明である。麻生総務大臣は過日、受信料不払いが増え続けるようなら、政府広報の形でNHKに広告料を注入するのも一案と発言したが、長谷部氏が好んで使う「現行制度では」、政府あるいは各党はNHKに1銭の広告料も払っていない。したがって、政府あるいは各政党はNHKにとって広告主ではありえない。であれば、政府、政党を広告主に見立てて、番組の事前説明を正当化しようとする「たとえ話」は瓦解する。

 もっとも、長谷部氏は後段で、次のように書いている。「そうした外部からの圧力に屈することなく、番組編集の自律性を保つのが、放送事業者の務めではあるが。」(75ページ)

 いったい、長谷部氏は何を言いたいのか? こういう認識があるのなら、政府、政党を広告主に見立てて、スポンサーにお伺いを立てるのも無理からぬこと、などと訳知りな言い方をしたことが宙に浮いてしまうことを自覚できないのだろうか?

 論理を重んじる研究者なら、「ああも言えるし、こうも言える」などと無定見で処世的な言い回しは止めたほうがよい。

3.受信料を「公金」とみなして、政治介入を正当化しようとする荒唐無稽の議論「かりに受信料が本条〔憲法第89条のこと―醍醐補注〕にいう『公金』にあたるとすると、国会の関与が必要となるのではないかとの意見があるかも知れない。受信料が同条にいう『公金』にあたるか否かについては疑問がありうるが、かりにそうだとしても、NHKについては、経営委員の任命が、両議院の同意を得て、内閣総理大臣によって行われることとなっており、公金を支出するに足る『公の支配』はあると考えてよいであろう。」(74ペ-ジ)

 これも読解が難しい文章であるが、前後の文脈から判断すると、次のような2段階論法と思われる。

 1) 受信料は「公金」にあたると言えなくもない。(断定をしないところが特徴)

 2)「公金」とみなせば、憲法第89条の規定からいって、公の支配が前提になる。

 論文では明記されていないが、長谷部氏が公金の話を持ち出した趣旨は、1)2)を受けて、政治家への番組の事前説明=政治の関与=公の支配の一部、とつなぎ、憲法解釈論的に番組の事前説明を正当化しようという点にあったと思われる。

しかし、こうした2段階(3段階?)論法は、以下の根拠により、荒唐無稽である。

(1)そもそも、受信料は憲法でいうところの「公金」ではない。

 政府見解によれば、「公金」とは、「一般的に、国又は地方公共団体が実質的に所有する金銭」を意味する。

【注: 衆議院議員金田誠一氏提出の「『公金』の定義に関する質問主旨書」(平成13年3月16日)に対する内閣総理大臣森喜朗名の答弁(平成13年4月13日)参照。『広辞苑』もこの定義を踏襲している。】

 具体的には、歳計現金、基金、歳入歳出外現金、一時借入金などがこれにあたり、国または地方公共団体がその目的を達成するための行政活動等に充てる金銭を指す。したがって、受信料が、国、地方公共団体の所有する金銭でないことは自明である。

 NHKが受信料の管理に関して「公金意識の徹底」というのは、契約者に対する「受託財産管理責任」という趣意で述べた常識的意味での用語であって、憲法でいう法律用語としての「公金」とは異質である。

(2)「国会の関与」と「特定の政治家あるいは政治家集団の関与」は別物である。また「NHK予算への国の関与」と、「番組内容への国の関与」は別物である。

 先に述べたように、NHK予算の国会承認制の是非は大いに検討されるべき課題あるが、かりに現行の国会承認制を前提にしても、国会の場でNHK予算を審議することと、NHK幹部が特定の政治家あるいは政治家集団に対して、個々の番組について事前に説明をし、政治家の意向を聞く機会を持つことは、別個の問題である。

 今回、ETV特番の改ざんをめぐって、問題にされているのは後者であるにもかかわらず、わざわざ憲法第89条を持ち出して、議論の土俵を前者に仕向けるのは恣意的な論点のすりかえである。

以上

 何で憲法学教授かと不審なので、電網検索したら、以下のごとく、現在の研究課題が「放送通信法」となっていた。

 長谷部、醍醐、いずれも東大教授、堂々の対決を期待する。ハッキョイ!、ハッキョイ!

http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/IRS/
研究者紹介タイトルページ
東京大学研究者紹介は本学の研究者の研究内容等の情報を本学への入学希望者や一般社会に提供するものです。

http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/IRS/IntroPage_J/intro72252153_j.html
長谷部 恭男
フリガナ ハセベ ヤスオ
職名 教授
所属名 大学院法学政治学研究科・法学部
公法専攻
憲法講座
担当授業科目 学部前期課程 憲法
憲法
学部後期課程 憲法
国法学
大学院 憲法特殊研究
研究分野 法学
/公法学
/公法学
現在の研究課題
放送通信法
国家の正当性

 以上。


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