【シリーズ】有事法制:討論と報告

有事法制の危険性とデタラメ



 連休明けから衆院特別委員会で有事法制をめぐる本格論戦が始まりました。一言すれば、定義も発動条件も政府の答弁もめちゃくちゃ。とにかく好き放題に発動し自由にこの悪法を利用したいという小泉首相と自民党の狙いだけが浮き彫りになりました。

 私たちは有事法制廃案に向けて、こうした小泉政権と有事法制の危険性とデタラメさを多くの方々に知ってもらおうと新しいシリーズを始めることにしました。簡単なものから難しいものまで、皆さんからの報告や討論、ご意見やご質問などをお待ちしております。ご質問については、事務局一同、できるだけ勉強してお答えするようにします。様々な角度からの有事法制に関する報告も歓迎です。

2002年5月8日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



有事法制:討論と報告 第1号 2002/05/08)
有事法制の危険性とデタラメ
(05/09 加筆訂正)



世論は真っ二つ。反対の声を結集すれば廃案も可能!

■ まず、ぜひ下記の世論調査を見てください。共同通信社の世論調査です。有事法制が必要か必要でないかで、完全に真っ二つに割れています。しかも今国会で強行することについては半数の人々が反対しています。調査は5月1〜2日であり、まだこの法案の危険とデタラメさが国民全体に浸透していない段階での数字です。反対の声を結集すればまだまだ廃案にすることは可能です。頑張りましょう!

     
       「KYODO NEWS」より

「『必要』と『成立』に落差 有事法案、内容に不安か。共同通信の電話世論調査」
     http://www.kyodo.co.jp/kyodonews/2002/yuji/news/20020503-77.html



インド洋に居座る自衛艦、対イラク戦争への支援・関与を画策
文民統制を無視した自衛隊「制服組」の暴走


なぜそんなに長く居座るのか?しかもなぜ艦隊を増派するのか?

 政府は8日、「テロ対策特別措置法」に基づき海上自衛隊艦艇がインド洋上で実施している米軍への補給などの支援活動について、基本計画で定められた期限の5月19日から11月まで半年間も延長する方針を決めた。14日に閣議で基本計画の変更を正式決定し、国会に報告しようとしている。しかも政府は艦艇を現在の3隻から今年7月をめどに派遣当初と同じ5隻に戻す方向で調整している。更に防衛庁は石川島播磨ら十数社に、インド洋の自衛艦などの修理のために社員を派遣することを要請している。あくまでもインド洋長期駐留を狙い目にしているのだ。
 なぜそんなに長く駐留するのか。なぜアフガン戦争が終息しつつあるのに増派するのか。ここに自衛隊の危険な思惑がある。−−対イラク戦争準備である。
 米軍は現在も、アフガニスタンでアル・カイダの追跡・掃討を口実に駐留し、「アナコンダ」「ターミガン」等と命名した軍事作戦を展開している。アメリカが思い出したように「アルカイダの反撃」を宣伝して軍事作戦を展開するのは、米国内を「戦時体制」に置き、アフガニスタンに長期にわたって米軍を駐留させようという目論見に他ならない。軍閥の抗争や内戦の再発の危機を除けば、タリバンやアルカイダの反撃が問題にならないことは誰の目にも明らかである。
 ブッシュ政権の戦争拡大のエスカレーションの最大の照準はイラクへの軍事行動の開始の時期にある。


ブッシュの対イラク戦争へのなし崩し的支援を画策する自衛隊
 自衛艦派遣を延長するという今年11月はアメリカで中間選挙が行われる時期である。そしてイラクに対する攻撃、緊張・軍事挑発が行われる危険性が最も高まる時期である。すでに米はクウェート駐留米軍をアフガン戦争時の5千人から数倍に増やし、ハワイの海兵隊司令部の機能の半分をバーレーンに移したと伝えられている。ブッシュはイラクへの侵略を着々と準備し始めているのだ。
 米は、対イラク戦争準備の一環として4月半ばから、アフガニスタンに続いてイラクへの軍事侵略行動を想定し、日本への更なる軍事協力の強化を打診し始めた。米がイラクを攻撃する場合、現在アラビア海にある米のイージス艦がペルシャ湾まで侵攻するため、代わって、日本のイージス艦や対潜哨戒機P3Cのアラビア海への派遣を要請しているのである。ウォルフォウィッツ国防副長官は、4月末に訪米した与党3党幹事長に対し、自衛隊の派遣期間延長を要請し、同時にイージス艦の派遣をも要請した。
 日本がイージス艦を展開すれば、米の同艦船と高度な情報システムを共有することになり、米の侵略行動への加担が一段と進むことになる。日本の自衛艦の派遣延長とイージス艦派遣の目論見はイラクを射程に入れたものなのである。


日本の「制服組」が仕組んだ「自衛艦派遣要請」
 しかしこの米のイージス艦派遣要請のウラに恐るべき事実があることを5月6日付の朝日新聞がスクープした。「イージス艦派遣、海幕が米軍に裏工作 対日要請を促す」として一面トップで報じられた記事では、防衛庁海上幕僚幹部が4月10日、在日米海軍のチャプリン司令官を横須賀基地に訪ね、海上自衛隊のイージス艦やP3C哨戒機のインド洋派遣を米側から要請するよう働きかけていたというのである。中谷元防衛庁長官は7日の衆院特別委で、この報道について「本人に事情を聞いたところ、米海軍司令官と会合を持ったことは事実だが、働きかけるよう言ったことはないという」と否定したという。「会っただけ」など誰が信じようか。
 しかも、海幕幹部はその働きかけの理由として、米がイラク攻撃してからではイージス艦を派遣しにくい。だから今のうちに派遣しておけば、そのままなし崩し的に対イラク戦争へ参戦できるから、というのだ。言語道断。まさにシビリアン・コントロールが崩れていることを示す典型的な事例である。
 先にウォルフォウィッツ国防副長官が日本側に持ちかけた派遣要請の裏側に、海幕幹部の工作が存在した。4月中旬から慌ただしくなり始めたアメリカの対日要請は実は日本の制服組が仕組んだ“陰謀”だったのである。もっとうがった見方をすれば、日米制服組による「共同謀議」かも知れない。


昨年来頻発する自衛隊「制服組」の独走−−「関東軍の独走」と満州侵略から始まった「15年戦争」を想起すべき。絶対許してはならない文民統制の無視
 記憶に新しいところだが、米の対アフガン侵略後、小泉政権下で「軍部の独走」が頻発している。言った言わないで物議を醸した「Show the flag」は軍部がどう関わったかは不明だが、外務省の一部と米国務省の一部が仕組んだ「陰謀」であった。
 海上自衛隊は、「テロ特措法」成立前から空母キティホークの護衛を口実に護衛艦を出動させ、更には基本計画策定を待たずに「調査研究」目的で自衛艦を派遣させるなど、違法・脱法行為を平気で行い、シビリアン・コントロールを無視した独走を既成事実として積み上げてきた。それを小泉政権は処罰せず助長してきた。否、公然と容認してきた。
 しかしかつて日本は「軍部の独走」から内外の民衆にどれだけ多くの犠牲を強いたのか。もう一度考えてみるべきだ。今から71年前、1931年の9月18日、その後の日本の運命を決める重大な事件が勃発した。「満州事変」である。日露戦争で奪取した南満州鉄道を中心とする満州(中国東北部)権益の維持拡大が、中国民衆の反日帝闘争の高揚と欧米からの圧力の中で危機に瀕したとき、関東軍参謀の石原莞爾・板垣征四郎らが柳条湖鉄道線路を自ら爆破するという「謀略事件」でっち上げ侵略戦争を拡大していったのだ。15年戦争の発端となったあの大事件である。


朝日新聞のスクープの裏にある「制服組」突出、「背広組」との軋轢
 上で述べた海幕の独断専行をはじめ、自衛隊「制服組」の独走を批判する朝日新聞のスクープが目立っている。最近右傾化していた朝日新聞では珍しい連続スクープ、しかも、すべて1面トップ扱いだ。そこまで危険な事態が進行している証拠ではないだろうか。
 5月4日には、「防衛庁、民間へ派遣要請 インド洋 米支援の艦修理」が載った。「テロ特措法」も想定外のやり方で戦争協力に民間企業を動員し指図するもの。まさに有事法制の先取りだ。
 5月5日には、「有事法制 必要性を強調 省への昇格希望初の記述 防衛白書踏み込む」が載った。これは、防衛白書原案作成の際に「背広組」と「制服組」が文民統制を巡って対立していることを示すものだ。
 そして5月6日の「イージス艦派遣を工作 海幕幹部 米に対日要請促す」。
 そして、ここも大事なのだが、こうした3日連続の朝日のスクープは「軍事情報」の内部告発から表面に出てきた可能性が強い。「制服組」の独走を牽制しようとする「背広組」からリークされたのかも知れない。

朝鮮半島情勢を注視、「省」昇格の希望も 防衛白書原案
     http://www.asahi.com/politics/yuuji/K2002050500025.html

「文民統制」めぐる議論、内局と制服組に激しい対立
     http://www.asahi.com/politics/yuuji/K2002050500054.html

イージス艦派遣、海幕が米軍に裏工作 対日要請を促す
     http://www.asahi.com/politics/yuuji/K2002050600031.html


メディア規制と「軍事情報」漏洩規制の裏で進められる戦争準備の危険性
 朝日のスクープは、有事法制が成立すれば、当然禁止対象になる。また「有事」ならずとも、今審議中のメディア規制法が成立すれば、政府・防衛庁にとって、朝日新聞で暴露されたような「軍事情報」スクープを規制する便利な手段になる。
 現に福田官房長官は8日の特別委員会で、軍事情報漏洩に罰則を課す立法措置を検討していく考えを公然と表明した。有事の際の軍事情報の扱いについて、「(有事の)法律を万全にするには、必要最小限の秘匿は考えないといけない」と表明、その具体策について「罰則になるかというと、総合的に考えないといけないが、国会の議論も踏まえて考えていくべき問題だ」と述べたのである。
 結局、有事法制やメディア規制法など今の国会で審議中の悪法を通してしまえば、国民には全く知らされないまま、軍幹部や政府トップの間で、陰謀と政争に覆い隠されながら、戦争準備が進められていくのである。