「対テロ戦争」政策の破綻示した「ロンドン・テロ」
根本問題は「イラク派兵」。小泉首相は自衛隊を直ちに撤退させよ!
◎政府与党は、ブッシュ政権によるイラク民衆への戦争・占領加担、国家テロ加担をやめよ。
◎「ゴミ箱撤去」など馬鹿げた「テロ対策」でごまかすな。政府与党とマスコミは「イラク派兵」「自衛隊撤退」から争点を逸らすな。



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(1) 7月7日にロンドンで起きた「同時爆破テロ」の犠牲者は50人を超え、負傷者は700人を超えた。犠牲者はさらに増える可能性があると伝えられている。犠牲者に対して深い悲しみとともに哀悼の意を示したい。私たちは民衆に対する無差別テロに反対である。だが、悲劇の根源と責任を作り出したブッシュとブレアに対して心底からの強い怒りを覚える。


(2) 地下鉄と二階建てバスをほぼ同時刻に計画的に狙った連続爆破攻撃の狙いが、スコットランドのグレンイーグルズで開催されたサミットにあったことは間違いない。国際金融の拠点シティを狙ったとも言われている。
 しかし、根本問題は“イラク”である。イラク戦争と占領支配を遂行する米ブッシュ大統領の最大の同盟者ブレア首相のイラク政策を指弾したのである。ブレアは、サミットの議題をアフリカ支援と地球温暖化問題に逸らそうとした。イラクを抜きにした「テロ対策」で自らのイラク侵略の破綻を取り繕おうとした。まるでイラク戦争・占領の「泥沼化」など存在しないような態度を取った。今回の事件は、逃げ回る無責任なブレアの首根っこを捕まえ、他でもないブレア自身がブッシュと結託して強行したイラク戦争・占領の「泥沼化」という現実に引き戻したのである。

 事件の犯人・組織はまだ分からない。事件直後に「欧州の聖戦アル・カーイダ秘密組織」を名乗る組織が犯行声明を出し、次いでアル・カーイダ系の「アブ・ハフス・アル・マスリ旅団」も犯行声明を出した。犯行声明の真偽の確認は出来ないが、はっきりとイラクやアフガン侵略に対する「報復」(retalitation)であると記されている。更にはイラクとアフガニスタンから軍隊を撤退させなければ、「次はデンマークとイタリアが同様の罰を受けるだろう」とも記されている。もしこれがその通りなら、今回の犠牲者は、明らかにイラク戦争、アフガニスタン戦争の報復による被害者である。
 実行犯が加害者であることは言うまでもない。しかしブレア首相とその政権もまた死傷した多数の市民に対する加害者であり、責任を負うべき当事者である。最近漏洩された「ダウニングストリート・メモ」もはっきりと暴露している。ブレアはブッシュと共に、「大量破壊兵器」などイラクにはないことを知りながら、ウソの「大義」をでっち上げ、独立主権国家イラクに無法な侵略を強行したのである。ブレアは、今回の事件の犠牲者を含めて、イラクやアフガニスタンの桁違いの犠牲者に対する戦争犯罪者として、もっと直接的な形で、徹底的に断罪されなければならない。


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(1) ブレアがブッシュと共に推し進めてきた「対テロ戦争」の5年間はいったい何だったのか。ブレアは「テロを根絶する」と称してアフガニスタンに続きイラクを侵略した。その5年間の総決算が今回の事件である。サミットを中座して「テロ対策」に追われたブレアの表情は疲労感で一杯であった。ロンドン、イギリスの民衆も「テロに屈するな」の合唱でブレアの周りに結集する状況とはなっていない。更なる報復と好戦的熱狂の声は上がっていない。4年前の米国の9・11直後の状況とは大きく異なっている。むしろ、「対テロ戦争では安全を守れない」「他国に戦争すれば仕方がない」等々、民衆レベルの意識も変わっている。
 「戦争では決してテロを一掃することはできない。」−−アフガニスタン、イラク、アブグレイブやグアンタナモ、そして別の意味でマドリード、ロンドン等々、この間の「対テロ戦争」の何十万人、何百万人もの犠牲者と悲劇が意味することは、この単純な事実なのである。ブッシュ大統領が「テロとの闘い」「テロ拠点の一掃」の名の下に強行してきた帝国主義的戦争政策が全く失敗であり、根本的誤りであることを明らかにしたのである。


(2) 「報復テロ」は文字通り侵略戦争に対する報復である。米英の圧倒的に非対称的の近代的軍事力によって、抵抗する手段を持たないイラクやアフガニスタンの主権国家と民衆に理由もなく一方的に襲いかかりこれを屈服させ、甚大な被害を与えると共に、消えることのない屈辱を味わわせたのだ。断罪すべきはブッシュとブレア、アメリカとイギリスの帝国主義的な“国家テロリズム”である。今回の事件が「対テロ戦争」の破綻を示したとすれば、同時にその根源である“国家テロリズム”の破綻をも明らかにしたと言えるだろう。
 もはや明らかだ。「戦争と報復テロの連鎖」を断ち切る唯一の道は、ブッシュとブレア、これに加担する小泉の側が、イラク、アフガニスタンをはじめアラブ・イスラム世界に対する帝国主義的侵略を今すぐ中止し、軍隊を撤退させることである。

 アフガニスタン戦争、イラク戦争でブッシュ大統領とその同盟者たちが殺した犠牲者は50人、100人の比ではない。アフガニスタンでは、判明しているだけで4000人、5000人もの人々が爆撃で殺され、何十万人、何百万人もの人々が避難民となり、飢餓に苦しんでいる。イラクでは戦争と占領によって少なくとも昨年の時点で10万人以上もの人々が虐殺された。30万人都市ファルージャは激しい攻撃で皆殺しにされ廃墟になった。
 現在も米占領軍はイラクの石油基地と軍事基地を確保するだけで、イラク再建には全く関心がない。米英軍の任務は、民族自決と民族独立のために立ち上がったイラク人民を占領軍の軍事力で壊滅させ屈服させようとしているだけである。大規模な掃討作戦が至るところで繰り返され、無実の人々が家を追われ、逮捕・拘束・拉致され、殺害されている。逮捕・拘束・拉致された人々は、裁判も自己弁護も許されないまま「強制収容所」に放り込まれ、拷問と辱めを受けている。
 イラク戦争のように、ありもしない「大量破壊兵器の脅威」「フセインの脅威」をでっち上げ、国際法を全く無視した侵略戦争を仕掛けて一国の主権国家を打倒したこと、そして今なお軍事占領し殺戮と破壊を続けていることは、イラク民衆だけではなく、アラブ民衆全体にとっての恥辱なのである。貧困や後進性や社会的荒廃一般が「報復テロ」の温床なのではない。米英を先頭とするイラク戦争・占領と「対テロ戦争」、被抑圧民族に対する帝国主義的な支配、植民地主義的な資源略奪こそ、「報復テロ」の温床なのである。


(3) グレンイーグルズサミットは、この事件をうけて「テロとの国際的闘いでの団結」を決議した。小泉もまた「対テロ戦争」の強化に諸手を挙げて賛成した。しかし事ここに至って、彼らはいったいどのような「テロとの闘い」を継続しようと言うのか。
 ロンドンは日本よりはるかに当局の「対テロ対策」が進んでいた。イギリスは恐ろしいほどの「監視社会」である。100万台といわれる街頭監視カメラ、イスラム社会にスパイを入れての監視、繰り返されるイスラム系住民の不当逮捕・拘束等々。しかし、それでもテロを防ぐことは出来なかった。監視社会化や治安弾圧体制の強化では守れないことがはっきりとしたのである。ブレア首相自身が、「この種のテロは、治安対策だけでは阻止できない。英国から自由を奪うつもりはない」と認めざるを得ないのだ。

 にもかかわらず、またまたサミットで確認された「テロとの国際的闘い」とは、結局これまでと同様、侵略戦争と“国家テロリズム”なのである。ブッシュやブレアが提起し、日本の小泉が支持したのは、市民の犠牲など構わない、力で自分の秩序を押しつけようとするこれまでのやり方の繰り返しに他ならない。これが一層の反発と報復を生み出さずにはおかないことは明らかだ。
 私たちは、イラクだけではなく、中東やパレスチナの民衆の怒りと憤りが想像を絶する巨大なものになっていることを思い知らねばならない。自分の戦争犯罪行為を反省せず、他民族を軍事的に制圧し抑圧するのをやめない者は、「報復テロ」の危険と報復から逃れることはできない。他民族を犠牲にした繁栄、侵略戦争と軍事占領、恫喝外交、資源の略奪−−このような帝国主義的軍事外交政策が転換されない限り、「報復テロ」を根絶することなど絶対にできない。これこそ、ブッシュ、ブレア、小泉ら西側帝国主義諸国が開始した「対テロ戦争」以降相次いできたテロ事件から、私たちが学ぶべき最大の教訓である。


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(1) 小泉首相は滞在先のイギリス現地からいち早く、「結束してテロとの闘いを続けていかなければならない」と表明した。国内でもこれに呼応して閣僚たちが判を押したように、「テロに屈するな」「自衛隊を撤退するな」と唱和した。「今撤退すればテロに屈したことになる。」「テロが起こってから撤退すれば尚更テロに屈したことになる。」等々、結局、この論理は侵略と派兵を継続・拡大するまやかしの論理なのである。

 しかし、ブッシュやブレアと同様、小泉の軍事外交政策も完全に行き詰まっている。小泉政府とマスコミは「挙国一致」的な対応をしているが、「テロに屈するな」「自衛隊を撤退するな」のかけ声は空しく響いている。政府・マスコミとも今回の事件を意図的に「イラク問題」から切り離し、まるで示し合わせたように、自衛隊撤退論が焦点化するのを必至に逸らそうとしているだけである。

 日本の国民は不安を募らせている。「次は日本」は当然の懸念である。ところが、政府とマスコミは、治安対策関係者を頻繁にTVや新聞に出して「ゴミ箱撤去」「監視カメラ増設」や「地下鉄避難の仕方」など馬鹿げた「テロ対策」で世論を煙に巻いている。問題の根本である自衛隊撤退を無視し、全てを「国内テロ対策」に還元しているのである。テロが怖ければ、警察国家、監視国家体制、人権抑圧体制を受け入れよと言うわけだ。−−しかし、こんな無責任極まりない、事の本質を逸らした議論は、もうやめるべきである。このような小手先の「テロ対策」で防ぐことができないことは今回の事件で明らかなのである。野党、民主党や共産党の中にもこうした「テロに屈するな」に同調する動きがある。


(2) 日本の大手マスコミは、こぞってテロ事件を非難し「テロとの国際的闘い」を支持、口をそろえたように「テロ対策強化」を主張している。イラクからの自衛隊撤退を主張したところは皆無である。
 「毅然とした姿勢で臨め」「テロによって得るものは何もないことを示さなければならない」(読売)、「G8が『打ち負かすことを決意する』としたのは当然」「国際テロには、世界各国が協力して立ち向かう必要がある」(産経)と興奮して叫んているのはいつものことだ。
 毎日は「自衛隊を派遣した日本も決して人ごとではない」「浮き足立つ必要はないし、卑劣な脅しには屈してはならない。だが、起こりうるテロに対して日本も真剣に、冷静に対策を再検討する必要がある」と国内の「テロ対策強化」を主張したのみ。朝日も「むき出しの武力だけではテロを押さえ込めないどころか、はびこらせる結果にさえつながる」と「対テロ戦争」に異論を唱えながら、結局は「この戦いに勝つには、警察や情報機関の操作能力を高めるしかない」「国際的な監視網、捜査網に各国がもっと投資すべきだ」と「テロ対策強化」の名の下に人権侵害と市民への監視体制強化を要求する始末である。


(3) 小泉政府は、イラク政策の失敗を認めるべきである。米占領軍の統治が破綻し、イラク再建のメドなど全く立たないことを認めるべきである。「大量破壊兵器の脅威」をでっち上げたのはブッシュとブレアだけではない。小泉もそうである。
 マスコミの責任は重大である。小泉のイラク政策が破綻している事実をなぜ報じないのか。「人道復興支援」が虚構であり自衛隊派兵の口実だということはマスコミも知っているはずだ。「非戦闘地域」でないことも。「移行政府」には統治能力がないこと、インフラ基盤が未だに崩壊していること、米占領軍は大量虐殺を繰り返していること、石油と中東の支配権だけが狙いであることも知っているはずである。
 「テロ報道」も歪曲とねじ曲げそのものである。ブッシュやブレアのイラクやアフガニスタンに対する“国家テロリズム”こそが問題の本質であり、根源であることをどこも主張しようとしていない。この巨大で残忍な帝国主義大国による“国家テロリズム”に口を閉ざして、一方の「報復テロ」だけを非難しても何の説得力もない。それは一方の側の“国家テロリズム”に加担し、人々の目を曇らす役割を果たしているだけである。


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(1) 今回の事件の本質はどこの誰よりもベルルスコーニの俊敏な対応に端的に現れている。「欧州の聖戦アルカイダ秘密組織」によって、デンマークとともに「次の標的」と名指しされたイタリアのベルルスコーニ首相は、3000人の派遣イタリア軍の内300人を9月に撤退すると改めて表明した。タイ、フィリピン、ニカラグア、ハンガリー、ノルウェー、ニュージーランド、カザフスタン、ホンジュラス、ドミニカ、スペイン、オランダ、ウクライナ、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア等々と、この間、イラクからの撤退と撤退表明が相次いでいる。当初威勢の良かった「有志連合」軍はもはや跡形もないまでに崩れている。主要国で残っているのは、イギリスを除けば、オーストラリアと韓国、そして日本だけである。日本はすでにイラクでは、報復に値する目立つ存在になっているのである。

 今年3月にオランダ軍が撤退して以降、自衛隊はイギリス軍とオーストラリア軍に治安維持を任せ、その庇護の下に活動している。イギリス軍と自衛隊は一体となり占領軍の一員としてイラク市民に敵対し対峙している。
 しかも、である。そのイギリスでさえ撤退を具体的に検討していることが明らかになった。7月5日付英フィナンシャル・タイムズがすっぱ抜いたところでは、来年4月までに半数を撤退させるという。それだけではない。今年10月にもサマワのあるムサンナ州で治安維持任務をイラク警察に委譲し、この地域の部隊を撤退させる計画だというのだ。「その時は自衛隊も残りたがらないだろう」。当のイギリス軍がこう言っているのである。それでも小泉は、国民の生命を弄び、ブッシュに忠誠を尽くすというのか。


(2) イラク自衛隊が次の標的になる可能性が高まっている。サマワでは6月29日に、自衛隊車列を狙った路上爆弾が爆発し、7月4日には自衛隊宿営地に砲弾が撃ち込まれている。7月7日にイラク入りした第4次業務支援隊90名は地上からは宿営地入りできず、ヘリで移動する状況に陥った。
 自衛隊のイラク派兵と「復興支援活動」は元々、米のイラク戦争への事後的な参戦であることをごまかすための“隠れ蓑”であった。しかも、その見え見えのアリバイ行為も、すでに今年2月に給水活動をやめたことで、ますます露骨になっている。道路や学校など公共施設の「修理」もイラク特措法に基づき自衛隊が行うのではなく地元業者を雇っているだけだ。「復興支援計画」の中心も「発電所の建設」などODAプロジェクトに移っている。

 政府もマスコミも口を閉ざす中で、イラク駐留自衛隊は、米占領軍に加担する正真正銘の侵略軍、占領軍としての凶暴な性格を露呈させつつある。イラクは自衛隊員に都市型ゲリラ戦を訓練するための実戦演習場と化しているのだから当然だ。今やイラクに居座る自衛隊は、「復興支援活動」などやっていない。イラクを破滅のどん底に投げ込みつつあるブッシュへの忠誠を示すだけの存在、あるいは石油資源を軍事力で確保するための軍事的プレゼンスを誇示するだけの存在となっているのである。現地で宿営地爆破事件があるたびに米英軍と同様の警察的・威嚇的行動を取る自衛隊への反感が高まっている。自衛隊の侵略軍化−−知らないのは日本の国民だけである。


(3) 私たちは、「テロに屈するな」「テロとの闘い」を口実に再び加速されようとしている小泉の誤った内外政策、すなわち一方での対米追随のイラク派兵継続、軍国主義外交、同時に他方での国内の治安弾圧体制強化に断固反対する。
 最大の「報復テロ対策」は、即時無条件の自衛隊撤退である。「国内テロ対策」ではない。一刻の猶予もない。小泉首相は、今すぐ自衛隊の撤退を表明し、実行に移すべきである。ブッシュのイラク戦争と占領政策、“国家テロリズム”への加担を撤回すべきである。
 政府与党は、今年12月14日に期限が切れる自衛隊のイラク駐留の再延長の準備を進めている。「テロ特措法」もさらに延長しようとしている。言語道断だ。このまま行けば、小泉の対イラク軍事冒険主義と一蓮托生に成りかねない。小泉の暴走をストップすることが緊要である。小泉は、靖国参拝の強行と固執、軍国主義化と改憲を前面に出して日中関係、日韓関係を最悪の状況に追い込んでいる。国民不在の郵政民営化でも突っ走っている。小泉路線が外交も内政も破綻しているのである。小泉の無責任と軍事的暴走をストップするのは、大衆運動の力だけである。自衛隊撤退を要求する反戦運動の力で自衛隊撤退を実現しよう!

2005年7月11日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局