開戦後22日目:イラク戦争の戦況と反戦平和運動の課題
−−侵略戦争、一方的な破壊と殺戮はまだ終わっていない−−

 4月9日の首都陥落を受けて私たち反戦平和運動は、現局面をどう捉えればいいのか、何を現在の課題としなければならないのか。事態は刻々と変化し流動的であり、数日で情勢は変化するかも知れないが、かいつまんでイラク関係に限って列挙すれば以下のようになるだろう。

@まだ戦争は終わっていない。戦争をやめさせるまで中止を訴えていく。
・まず大前提として米の情報戦、心理戦にごまかされてはならない。首都が陥落したのは事実だが、「フセイン銅像の倒壊」のフィクションの実態を見抜かねばならない。
・最期の決戦地と言われるティクリートでの米軍による皆殺し作戦があるかも知れない。絶対させてはならないことである。
・仮にティクリートで決戦がなかったとしても、バグダッドなど各地でまだ侵略と殺戮行為は続いている。空爆も市民虐殺も兵士への一方的殺戮も続いている。米英軍が完全に戦争を完全に中止するまで闘いを続けなければならない。 

A米英軍の撤退を要求する。
・米英軍は制圧した各地で治安軍として横暴を振るっている。次の課題は、米英軍の即時撤退である。

B植民地政権に反対する。日本政府の協力・加担をやめさせる。
・新政権は軍事政権であり植民地政権である。これへの協力と承認に反対するキャンペーンと運動を組織しなければならない。特に日本政府はこの軍政に「文官」と称した人的バックアップを本気で画策している。絶対阻止しなければならない。
※Protestors shift their focus to anti-occupation(Al Jazeera)
 http://english.aljazeera.net/topics/article.asp?cu_no=1&item_no=2342&version=1&template_id=277&parent_id=258

Cシリア、イラン、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)等への戦争拡大に反対する。
・ブッシュは早くも「次なる敵」「次なる先制攻撃相手」をシリア、イラン、北朝鮮に定め始めた。ネオコンの侵略的な野望を批判し告発しなければならない。人々に警告を発しなければならない。


T

(1)4月9日、米英軍は首都バグダッド中枢部を制圧した。4月10日北部のキルクークも制圧した。しかしまだ全土を制圧したわけではない。首都でも、陥落した諸都市でも、散発的だがまだ戦闘が続いている。政権指導部、党と軍の指導部が姿を消したにもかかわらず、文字通り死を賭して抵抗する民衆を援護することこそが、今最も重要である。落胆しているひまはない。
※<イラク戦争>バグダッドで戦闘続く、国内の制圧50〜60%(毎日新聞)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030411-00002120-mai-int
※Arab volunteers resist US troops in Baghdad(Al Jazeera)
 http://english.aljazeera.net/topics/article.asp?cu_no=1&item_no=2308&version=1&template_id=263&parent_id=258
※ゲリラ戦や自爆で徹底抗戦 依然脅威のアラブ義勇兵(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0411-703.html
※Marines die in suicide bombing as capital hit by new clashes」By Robert Fisk, Independent 11 April 2003
 http://news.independent.co.uk/world/middle_east/story.jsp?story=396045
※UK troops battle to secure Basra(BBC)
 http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/2934665.stm

(2)フセイン大統領の故郷ティクリートが最後の決戦地と言われている。キルクーク、モスルなどの状況を見ると降伏しているので、決戦があるかどうかも分からない。私たちは危険がある限り、この危険を声を張り上げて訴え続ける必要がある。
 4月9日の首都陥落で決定的な局面を迎えたことは確かだが、3月20日クウェートから侵略を開始した今回の米英軍による戦争全体の中で、それが一体如何なる位置にあるのか、まだ分からない。全土の戦闘、全局面の戦闘が一挙に終わらないことも考えられる。
※大統領の故郷で決戦へ 早期の全土制圧目指す 米英、ティクリットに増派(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0411-704.html
※「WAR WITH IRAQ / MILITARY STRATEGY Much Lies Outside Control of Allies 」By Paul Richter, Times Staff Writer April 9, 2003
 http://www.latimes.com/la-war-mili9apr09003425,0,4690536.story

(3)ブッシュの勝利宣言は時間の問題である。米英の軍事的勝利は間違いない。しかし米国防総省による植民地統治がどうなるか分からない。軍事的勝利と政治的勝利とは全く別のものである。殺戮・破壊は容易いが、建設と創造は至難である。その2つは全く別のものなのである。今回の戦争、米英によるイラクへの不法な一方的攻撃の終わり方、新生イラクの建設の仕方が全く不明である。
 多種多様な民族、部族、宗教が複雑に入り組んだ社会構造、長期に渡る戦争とそして一方的な経済制裁とそれにより阻止された経済開発、米英と国連に強いられた経済的後進性、全体としての貧困状態と貧富の格差、国土の異常な荒廃等々。−−そんな状況下で強行された今回の侵略は、おそらくイラクの国家と社会に致命的な打撃を与えたし、今後も与え続けるだろう。
※U.S. Faces Unrest, Violence in Iraq Thu April 10, 2003 Reuters.co.jp
 http://www.reuters.com/newsArticle.jhtml?type=topNews&storyID=2546976

(4)いずれにしても、まだ戦争は続いている。米英による一方的空爆、大量破壊兵器、非人道兵器の大量使用の継続、罪なき一般市民への脅迫、逆らう者への虐待と虐殺、逮捕・拘束、イラク軍兵士の掃討作戦、残党狩りという名の虱潰しの殺戮、ありとあらゆる残虐行為、侵略行為が今も続いている。「血の市街戦」はなかった。しかし代わりに「引き延ばされた市街戦」が今始まっている。−−今すぐ戦争を、一方的殺戮・一方的破壊をやめろの要求を訴え続けねばならない。
※「'We're here to fight the regime, not civilians, but I had to save my men'」By Robert Fisk ra, Baghdad Independent 11 April 2003
 http://news.independent.co.uk/world/middle_east/story.jsp?story=396044


U

(1)「イラクの民衆がフセインの銅像を倒した」−−私たちはこのデマゴギーに騙されてはならない。悪質な、しかし幼稚な仕掛けのこの情報操作にごまかされてはならない。まずはここで反撃すること、デマを暴くことが決定的に重要である。
※The Images They Choose, and Choose to Ignore(by Robert Jensen Dissident Voice)April 10, 2003
 http://www.dissidentvoice.org/Articles4/Jensen_Iraq-Images.htm
※The photographs tell the story... Is This Media manipulation on a grand scale? (Information Clearing House)このアングルからの写真を見れば一目瞭然。TVに向かってピースをする人物もチャラビの仲間という報道もあるくらいだ。
 http://www.informationclearinghouse.info/article2842.htm


 これほどウソと虚構に満ちた「でっち上げ事件」はない。この象徴的出来事の中にも今回の侵略戦争の本質が逆説的な形で表れている。つまり軍事的侵略によって主権国家を無理矢理倒壊させた違法行為を、如何にして、さも民衆が倒したかのように演出するかである。粉飾しなければ持たないのだ。

 実際これは「やらせ」だった。今やもう底が割れている。4月9日のフセインの銅像の倒壊は、米軍により仕組まれた内外への宣伝だったのだ。わざわざ報道陣が陣取るパレスチナホテルの前に、そして反フセイン感情の強いシーア派住民の多い地域に、わずか10台の戦車で繰り出し、食糧をエサにわずか100人程度の住民をかき集め、100人の報道陣を前に、米軍の戦車用レッカー車で引き倒したのである。そして最初はフセインの顔に星条旗をかぶせたが、米指揮官が「それじゃ占領が丸バレになってしまう」と、それを取り外させたおまけのエピソードがまでついた。
 更に誰が渡したのか、星条旗を振るごくわずかな住民の姿が、繰り返し繰り返し大写しで報道されるウソっぽさ。同じことは湾岸戦争の終戦時に、アメリカの「戦争広告会社」が住民に配り演出した「実績」がある。一度目はごまかせても二度目はごまかされない。

 400万人、500万人の首都でわずか100人、数百人の「群衆」。圧倒的多数の首都の住民は、空爆と一般市民への一方的殺戮への怒り、兵士の一方的殺戮への憎しみ、今回の侵略そのものへの憤りと反発、異教徒支配への憎悪、そして敗北感、屈辱感、無力感。等々の複雑な心境にあるはずだ。−−「歓喜で占領軍を迎える」「米軍を解放者として歓迎する」は全くのフィクションである。その意味ではイラクの民衆は軍事的には敗北したかも知れないが、精神的心理的には屈服したわけではない。

 首都での「血の市街戦」はなかった。実はその前に正規軍と民兵は、激しい空爆と圧倒的な機械化軍団に大量に殺戮され、蹴散らされたのかも知れない。士気があっても比較にならない装備の格差でなぶり殺し状態を強いられたのだ。イラクのある老民兵の言葉が印象的である。「あいつらは卑怯だ。人間らしい戦いをしない。我々が応戦するとすぐに戦闘機で反撃してくる」と・・・。その意味では、フセインは逃げたが、民衆は私たちの想像を超えて勇敢に立ち向かっているのである。

(2)ブッシュ大統領はそれを見て「やったぜ!」と歓喜したという。開戦時には「レッツゴー」、大量殺戮と大量破壊の後にはこの言葉だ。判明しているだけで数万人の死傷者、数十万人、何百万人の人道的危機状況を生み出し、何の罪もない一般市民や子どもたちを殺しまくった上で「やったぜ!」はないだろう。唖然とする。ラムズフェルド国防長官は「東欧の革命を見ているようだ」。よく言うよ。自分で「やらせ」をやっておいて。何十万の人々が動いた当時の事件とは似ても似つかずだ。しかも東欧の場合は自壊だが今回は武力で打倒したのだ。
 皆殺し戦争を「やったぜ!」。歓迎もされないのに「われわれは解放者として歓迎されている!」。こんな非人間的にして非道、ウソとデマゴギーで世界を支配しようとするごろつきのような連中が、アメリカの軍事外交政策を牛耳り、人類の生存と世界平和の行方を握っているのである。

(3)米軍による銅像倒壊のフィクションは、何よりもまず米の翼賛化したメディアが、舞台裏とブッシュの狙いを全部了解した上で、率先して「真実」かのように垂れ流した。そして自らも陶酔感、高揚感に浸っている。4月10日の記者会見は反吐が出る様であった。「フセインはどこへ行ったのか」が質問である。「フセインは今頃地下をコソコソと逃げ回っているだろう」とラムズフェルドは答えた。記者会見場は笑いと和みに包まれた。ラムズフェルド戦略が行き詰まった3月末とは様変わり。「勝てば官軍」「結果オーライ」の雰囲気。報道関係者はイラクの民衆がどれほど死んだのか,傷ついているのか、全く関知せず。「解放」のデマゴギーに陶酔している。これはもはや報道機関などではない。「ペンタゴンの広報部」だろう。堕落した「進軍ラッパ」はまだ鳴り響いている。

 そんなデタラメな政権とデマゴギー化したメディアに無批判に付き従う米国民だけがこれに呼応して歓喜した。ブッシュは、米国民の中にもあった戦争の「正当性」への懐疑をこれで吹っ飛ばそうと目論んでいる。最初から最後までメディアを利用する情報操作で、戦争をやっているのだ。

(4)日本ではどうか。似たり寄ったりだ。小泉首相は「独裁者の最後はどこでも同じだね」とラムズフェルドばりの感想を述べた。
 マス・メディアは、まるで今回の戦争の性格−−国際法蹂躙の侵略−−を忘れたかのように、全紙、全TVが、米翼賛報道に右へならえ。その点では朝日も読売も変わらない異常さだ。曰く。「独裁者の末路はあっけない」「24年の恐怖の独裁に終止符」「イラク国民、米軍を歓喜で迎える」。等々。「イラク国民の解放」というブッシュのデタラメな「大義」を大宣伝してやっているのだ。

 フセイン政権は崩壊したのではない。まるで自壊したかのような書き方、言い方はやめるべきだ。もちろん民衆が倒したのでもない。世界最大最強の軍事力が無理矢理力づくで打倒したのである。「フセイン政権が米英軍に侵略され武力で粉砕された」というのが真実ではないのか。しかも国際法で違法だと規定されている国家元首、閣僚たちの殺害、暗殺が「ピンポイント」爆撃で、まさに今行われていることにも、何の非難や批判も行われない異常さだ。


V

(1)改めて確認する。イラクの圧倒的多数の民衆はクルドの一部を除き、宗派・民族を超えて米英軍を歓迎していない。圧倒的多数のイラクの民衆は米英軍を冷淡に突き放して見ている。そして一部の愛国的民衆、民族独立=民族解放の強い意志を持つ人々はまだ戦っている。最初から軍事的な敗北は予定されていた。問題は軍事的に抵抗できなかったことにあるのではない。軍事的には敗北したかも知れないが、精神的に屈服したのではない。ここに現在の本質はある。

 米英軍は、首都バグダッドで歓迎されなかっただけではない。すでに陥落したと言われるバスラ、カルバラ、ナジャフなど、南部の諸都市でも圧倒的多数の民衆には歓迎されていない。これら南部諸都市でも米英軍は首都でやったのと同じ「やらせ」をしたが、メディアに情報操作させるためにだけであり、歓迎はおろか、治安を維持することもできない状況に陥っている。
※Baghdad Slips into Chaos DW-WORLD
 http://www.dw-world.de/english/0,3367,1430_A_829896_1_A,00.html

(2)中東のインテリゲンチャや一般民衆も、植民地主義の勝利への憎悪、首都陥落への屈辱感、復讐への誓いで一杯だ。
 特に首都陥落の直前に起こったアルジャジーラTVへの意図的計画的な攻撃と暗殺は、ヨルダンだけではなく、中東全体に怒りの渦を巻き起こしている。
※Most Arabs Still See U.S. Occupation, Not Liberation」By DAVID LAMB Los Angeles Times
Published: Apr 10, 2003http://www.tampatrib.com/News/MGA0JXA9CED.html
※「Arab world dismayed at 'new colonialism'」By Justin Huggler Independent 10 April 2003
 http://news.independent.co.uk/world/middle_east/story.jsp?story=395688

(3)「圧倒的多数のイラク国民が星条旗を振って米英軍を解放軍として歓迎する」−−米英軍はこれに失敗した。軍事力で政権を打ち倒せても、民衆の心理まで屈服させることはできなかったのだ。つまり「最後通告」と「宣戦布告」で前面に出した「イラク国民の解放」がウソ、デタラメであったことは、現に惨劇に見舞われているイラクの人々が拒否したことで証明されたのだ。「歓迎」し「感激」し「歓喜」したのは、侵略者の側であり、世論操作に騙されている米英の一部の国民の側である。

(4)もう一つの虚飾の「大義名分」である「大量破壊兵器」はどうか。これもウソであることが丸バレになってきた。FOX・TVやCNNなどの米系翼賛メディアが、幾度となく「化学兵器発見」を騒ぎ立てるが、未だに見つかっていない。前回の国連査察の現場責任者スコット・リッター氏が95%ないと言い切ったが、現実はその通りになりつつある。
※Experts:US "Discovery" Of Nuclear Materials Already Known 。
 http://news.nasdaq.com/news/newsStory.aspx?&cpath=20030410%5CACQDJON200304101645DOWJONESDJONLINE001083.htm


W

(1)こうして「イラク国民の解放」も「大量破壊兵器」もウソであることが、明々白々になってきたことで、今回のイラク侵略の意味、本質が露骨な姿を見せつつある。しかしその本質は私たち反戦運動の側が、真実をねじ曲げる大手メディアに逆らって、暴露し広めることによってしか、世界世論に対しては明らかにならない。とりわけ新政権の人事・構成・政策は今回の侵略的性格、植民地戦争の性格を自ら暴露している。問題は圧倒的な翼賛メディアに対抗して、それをどこまでえぐり出すことができるかである。

 先ず第一に、新権力のむき出しの性格である。アフガニスタンのような「傀儡政権」でもない。米ペンタゴンが直接統治する軍政であり、正真正銘の「植民地政権」である。チャラビも、ガーナーも、ウルジーも、皆ラムズフェルドやチェイニーやウォルフォウィッツらの仲間でありネオコンである。「ネオコン政権」と言ってもいい。
 国防総省と国務省との間で、軍政の人事や政策をめぐって対立・亀裂が深刻化しているというが、こんなものは本質的な対立ではない。今回の侵略を強引に引っ張ってきたのがネオコンである限り、ペンタゴン主導で進むのは間違いない。
※イラク再建に本格着手 米主導に内外から反発 求心力ある指導者不在(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0410-676.html

 第二に、もちろん彼らネオコンが軍政の内外政策を全て決定する。ペンタゴンの国内組織ORHAが中核である。人事権も彼らが握る。だから戦争特需や復興ビジネスの形での利権と儲け話は、皆米英系の軍産複合体や土建ビジネス、数々の「戦争ビジネス」が独占する。ベクテル、ハリバートン等々。
※イラク石油は年内に急回復 3百万バレルもと米副大統領(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0410-677.html
※米軍、イラク最大のキルクーク油田の掌握狙う(ロイター)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030411-00000981-reu-int

 第三に、国連はイチジクの葉っぱとしてだけ利用する。パウエルが言うように国連を巻き込まなければ、IMFや世銀からの借り入れは起こせないからだ。また国連の承認を得ることが出来れば、日本を初め、各国から脅迫しながら財政援助を出させることができる。これが「国連の協力」の中身、実態である。露骨にも米を支持した国にだけ復興利権を与えると言明している。
※ポーランドに米支持見返り 参戦国だけの復興会議招待(共同通信)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030411-00000129-kyodo-int
※ロの復興事業参加認める イラク統治協力条件に米(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0410-683.html

 だから「国連」と言っても「国連を中心に決定する」「国連の枠組み」というのとは全く異なる。「正当性問題」をごまかし、更にはカネを引き出すためにだけ国連を利用する、これがネオコンの本音である。絶対に人事権、政策決定権に介入させないだろう。

(2)フセイン政権の崩壊、それは曲がりなりにも統一国家を維持してきた中央集権的な国家権力が武力で叩き潰されたことを意味する。全人口の60%に食糧を配給してきた国家権力が潰されたのだ。2200万人とも2400万人とも言われる国民は、とたんにどうやって食べていくのかが問題になる。電気・ガス・水道などライフラインも破壊された。病院や学校も破壊された。何よりも数少ない雇用も米英は奪い去ったのである。
 そして米国防総省が主導する植民地政権は、戦争でモノとヒトを破壊することは得意だが、国家建設など出来るはずがない。不満が爆発し立ち上がったイラクの人々を徹底的に弾圧するだろう。新政権の植民地総督府的な性格がむき出しになるにつれて、イラクの民衆も、宗派や民族や地域を超えて、反米反軍政、反植民地政権に向けた不満・反発、反対・憎悪を増大させていくだろう。

(3)侵略者を正当化させてはならない。あれこれごまかしても侵略戦争の結果は侵略政権であり、植民地戦争の結果は植民地政権である。イラクの民衆が歓迎もしていない米軍事政権を承認することなどもってのほかである。 
 それだけではない。小泉政権は、イラクの民衆から支持されてもいない植民地政権、ペンタゴン政権に「文官」という名で要員を送る企てをしている。断じて許してはならないことだ。「自衛隊ではないから法的に許される」など詭弁も甚だしい。ORHAはペンタゴンの国内部局だ。この国内部局をイラクの政権とするのだから、植民地総督府なのである。植民地総督府に如何なる要員も送ることは許されない。自衛隊、文官、財政など、一切の加担を阻止しなければならない。


X

(1)ラムズフェルドは「次はシリア」を露骨に主張し始めている。ボルトンは「シリア、イラン、北朝鮮など」を名指しした。「ドミノ理論」を振りかざし、各国の事情を無視してサウジアラビアやイランを「変革」すると豪語している。ネオコンは明らかに今回の首都陥落で勝利に酔いしれ図に乗っている。
※Rumsfeld repeats charges against Syria(Al Jazeera)
 http://english.aljazeera.net/topics/article.asp?cu_no=1&item_no=2263&version=1&template_id=277&parent_id=258
※After Iraq, US may 'reform' Saudi, Iran April 10
 http://headlines.sify.com/2010news2.html
※Regimes who worry that they will be next Guardian
 http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,934369,00.html

(2)4月8日の北アイルランドでの米英会談。彼らはこれを「第二ヤルタ会談」とでも位置付けるつもりなのか。第二次世界大戦の戦後処理を決めたのに似せたつもりなのかも知れない。よってイラク戦争後の世界を「新ヤルタ体制」と呼び、米英と「有志連合」が、国連に囚われずに世界政治を仕切っていく新体制を構築するというのが彼らネオコンの野望なのだろう。10日、ウォルフォウィッツは「国連はまとめやくではない」と言い切り、イラク再建で米に対抗する構えを見せている仏露独を牽制した。
 ブッシュ政権に巣くう極右ネオコンらは、明らかに戦後の国際秩序を根底から覆そうとしている。「アメリカ帝国」という名の、帝国主義=植民地主義体制の復古、復活を本気で狙い始めたのだ。

(3)しかしまだ彼らが勝利したわけではない。これから長い闘いが続くだろう。
−−国家レベルでは、新政権への「国連の関与」の形態と度合いをめぐって、米英の間に亀裂が生じている。ブッシュ=ラムズフェルド=チェイニーの独走にブレアが付いていけなくなっている。戦争前「国連査察派」を形成した仏露独中など国連安保理の多数派や国連の大多数は新政権のあり方でも「国連中心主義」を掲げて対抗している。
−−この頼りない対抗を後ろから突き上げているのが、国際的な反戦平和運動の巨大な潮流である。私たちもその一部であるこの平和の戦線は、世界中で米英大使館を包囲し抗議行動を展開した。アメリカやヨーロッパでは、出撃基地を包囲する激しい反対闘争、抗議行動が行われた。
※US faces severe criticism from global leaders(Al Jazeera)
 http://english.aljazeera.net/topics/article.asp?cu_no=1&item_no=1663&version=1&template_id=279&parent_id=258
※独仏ロ首脳が会談へ イラク再建で国連重視(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0411-707.html
※国連の枠組みでのみ参加 イラク復興で独首相(共同通信)
 http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0410-688.html

(4)すでに述べたように、米英軍は確かに軍事的には勝利したかも知れない。しかし軍事的にもまだ全土で勝利してはいない。仮に軍事的に全土で勝利したとしても、それと政治的な勝利は全く別問題である。傲慢な侵略者、残虐で強欲な植民地主義者が政治的安定を勝ち取ることなど絶対不可能である。イラクでも中東でも、今回のフセイン政権の崩壊は、全く新しい無秩序と混沌、反米・反英帝国主義、反植民地主義の新しい闘いの出発点になるだろう。

 フセイン政権は瓦解した。またイラクの民衆は、米英の圧倒的戦力優位の前に軍事力では敗北した。だがイラク民衆は全体としてまだ精神的心理的には屈服していない。新政権に対する非協力、サボタージュ、ゲリラ的反抗が展開されていくだろう。クルド地区などでは分離独立闘争が継続されていくだろう。
 イラク民衆の戦は自国の民族独立を守るためだけではない。客観的には、否が応にもブッシュとネオコンの広大な世界覇権の野望と対峙する役回りを背負わされたのである。21世紀を戦争の世紀に転落させようとするこのアメリカ帝国主義の世界覇権の確立の正否を決する最前線に立たされたのである。
 私たち世界の反戦平和運動の仕事は山積している。今まさに侵略軍に抵抗しているイラク民衆を援護しなければならない。闘いを続行し彼らと連帯しなければならない。


2003年4月11日午後6時
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局