政府がこそこそ劣化ウラン弾の安全宣伝を始めていた
非核三原則、原子力の平和利用原則を逸脱する原子力文化振興財団の宣伝パンフレット
政府・文部科学省は責任の所在を明らかにせよ!
宣伝パンフレットを撤回させ、出鼻を挫こう!
<PDF版はこちら(683KB)>
<社民党福島瑞穂議員が提出された質問主意書>

 文部科学省の所管公益法人である日本原子力文化振興財団(以下、原文振という)は、2004年6月15日付けの『プレスレリーズ No.111』として、『劣化ウラン弾による環境影響』という表題のパンフレットを発行し、マスコミ・報道関係者に配布しています。
 このパンフレットは、劣化ウラン弾による健康影響および環境影響は事実上皆無であると、劣化ウラン弾の「安全性」を広報しています。また、劣化ウラン弾の軍事的・経済的な利点について、「徹甲焼夷弾のような性質を持ち、そしてコストが安い」と解説し、「放射線の影響を期待した兵器ではない」などと、米軍になりかわって、劣化ウラン弾使用の正当性についての釈明を行っています。そしてさらに、「劣化ウラン弾を拾って長期間持ち歩いたり、あるいは劣化ウランの粉末が溜まっている戦車内に入って、舞い上がった粉末を吸い込んで肺にたくさん取り込んだりする場合を除いて、それほど心配のない物質」と主張し、コソボ紛争やイラクにおいて劣化ウランを環境中にばらまき、放射能で汚染したという行為が妥当なものであったかのように主張しています。このパンフレットの目的は、米軍による劣化ウラン弾の使用を積極的に擁護することにあるといわざるを得ません。
 パンフレット発行に先立つ2004年2月、原文振は、日本原子力研究所の成田・研究情報部長を講師として『報道関係者のための原子力講座−劣化ウランと放射線』を開催、報道関係者を集めて、「いかに劣化ウランが安全なウランであるか」をレクチャーしました(原文振HP参照 http://www.jaero.or.jp/data/publish/geppo/ の月報3月号)。2月といえば、自衛隊のサマワ派兵による劣化ウラン被曝の危険性が問題にされ、自衛隊員の家族の間で不安・懸念が高まっていた時期です。今回出されたパンフレットは、この『講座』の内容をベースにまとめられたものです。改めてパンフレットという形で報道関係への配布を始めたのは、サマワからの自衛隊員の帰還、多国籍軍への参加とイラク駐留の長期化を前に、劣化ウラン問題が再度クローズアップされることを恐れているからです。自衛隊員とその家族の不安を押さえ込み、マスコミ報道を抑制することが、このパンフの狙いなのです。
 しかし、このパンフは原文振のHPにも掲載されておらず、マスコミ関係者にこそこそと配布している状況です。事柄の重大さに比べてあまりにも無責任です。このプレスレリーズの発行責任はどこにあるのか。編集、学術的な検証は誰がどのように行っているのか。そのそもこのプレスレリーズは、どのような目的や経緯で作成されることになったのか。誰が発案し、誰が作成を指揮したのか等、責任の所在を明らかにさせていかねばなりません。原文振パンフの狙いと、そのデタラメな内容を暴露し、政府・文科省がこそこそと始めた劣化ウラン安全宣伝を出鼻で挫きましょう。
 社民党党首の福島瑞穂議員は、臨時国会中の8月に、この問題について質問主意書を出されました。政府は早急に回答し、責任の所在を明らかにすべきです。

劣化ウラン弾は「原子力の平和利用」なのか?
原文振の設立目的をも逸脱、非核三原則・原子力基本法も踏みにじる異様な安全宣伝
政府は米国の劣化ウラン弾使用に賛成なのか?!

 そもそも、原文振がこのようなパンフレットを発行し、劣化ウラン弾に関する安全キャンペーンを行うこと自体が大問題です。原文振の目的は、「広く一般に原子力平和利用に関する知識の啓発普及を積極的に行」うこととされています(原文振 規約第3条(目的))。劣化ウラン弾とは放射性物質の軍事利用であり、「平和利用」の対極に位置するものであることは言うまでもありません。劣化ウラン弾の安全性を宣伝することが、なぜどのように「原子力平和利用に関する知識の啓蒙普及」になるというのでしょうか。それとも、劣化ウラン弾は「原子力の平和利用」だとでも言うのでしょうか。このようなパンフレットの発行は、原文振の本分を大きく逸脱した行為です。
 劣化ウラン弾が、放射能および化学的毒性による健康影響を引き起こす非人道兵器であることは、国際的に広く認知されています。1996年、国連人権小委員会は、クラスター爆弾や生物兵器と並んで、劣化ウラン弾を大量破壊兵器・無差別殺傷兵器とする決議を採択しました。また、2002年の国連人権小委員会においても、劣化ウラン弾は反人道的兵器とみなされています。
 また日本は、広島・長崎の被ばくの苦しみを経験し、その上に立って非核三原則と原子力の平和利用を国是としてきました。原子力基本法第2条は、「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限」るとの基本方針を定めています。
 原文振が本プレスレリーズを通して、劣化ウラン弾の容認・支持を公然と表明していることは、非核三原則と原子力の平和利用という国是に反し、さらには国際的な流れにも逆行した愚挙という他ありません。当然、所管官庁である文部科学省および政府の姿勢と責任が問われるべき重大問題です。政府・文科省は、原文振と同じ立場にたって、米国による劣化ウラン弾の使用に賛成するというのでしょうか。政府の姿勢と見解を厳しく問い、責任追及の声をあげましょう。

「劣化ウランは安全」と言うのであれば、政府・文科省はイラクにおける被害事実を検証し、現地調査を行え!
 研究者・医療関係者による各種調査や報道等を通じて、イラクでは子供たちを中心にガン・白血病が増加し、異常出産が多発していることが伝えられています。しかし、原文振のパンフレットは、このような深刻極まりないイラクの状況について一言も書いていません。
 劣化ウラン弾を巡る問題は、まず最初に深刻な被害があるという現実から出発しています。湾岸帰還兵、バルカン帰還兵、旧ユーゴとイラクの住民の間で同様の健康被害が戦争後に発生していることから、その共通の原因物質として劣化ウランが疑われるようになったのです。これが問題の本質です。
 ところが、原文振は、現実にイラクで発生している深刻な被害をすべて黙殺し、被害者の存在を切り捨てた上で、劣化ウラン弾の「安全性」を主張しています。原文振パンフは、コソボ等でのUNEPの調査、及びクウェートでIAEAが行った調査結果を引用する形で、「環境に影響はない」と結論づけています。しかし、劣化ウラン弾が最も大量に使われたイラクでは、いかなる国際機関による調査も未だ実施されていません。安全だと断定した組織もありません。調査も何も行われていないのに、なぜ「安全」などと言えるのでしょうか。
 小泉政権は、イラクに対する道理の通らぬこの戦争を全面支持し、後押ししてきました。そして今、多国籍軍への参加と、イラク侵略と軍事的支配により積極的な役割を果たそうとしています。日本は、イラクでの深刻な被害について事実上の責任を負っているのです。
 したがって日本政府には、少なくともイラクで発生している被害事実に関する報告一つ一つについて、調査や検討を行い、見解を明らかにする義務があるはずです。被害について調査もせずに「劣化ウランは安全」などとは、まったく許せません。例えば、UMRCのA・ドラコビッチ博士が明らかにしたような汚染の実態についてどのように評価するのか。イギリスでは、湾岸帰還兵・バルカン帰還兵の受けた健康被害が、劣化ウランに起因するものであることが法廷で認められましたが、この事実についてどのように評価するのか等々。政府・文科省は、調査・検討の上、見解を明らかにすべきでしょう。そして何よりも、政府・文科省は率先して、自らの手で、イラクにおける医学的・疫学的、あるいは物理化学的な調査を徹底的に行い、「安全」であることを立証すべきです。

政府は、サマワから帰還した自衛隊員全員の被曝調査を実施せよ!
 原文振パンフは、「はじめに」の中でサマワへ派遣された自衛隊員について触れています。自衛隊員にも健康影響はないと主張するのがパンフ全体を通じた主旨であることは明らかです。日本政府もパンフと同じく、自衛隊員への劣化ウランによる健康影響はないという立場に立っています。派遣自衛官には外部線量しか測れない気休め程度の簡単な線量計しか携行させていませんし、サマワから帰還した自衛隊員についても、被曝調査は一切行っていません。しかし、2004年4月の「ニューヨーク・デイリー・ニュース」は、サマワから帰還した米兵の尿中から劣化ウランが検出されたと報じています。なぜ同じ地域の空気を吸っていた自衛隊員について安全だと言えるのでしょうか。政府は、サマワから帰還した自衛隊員全員について、尿中のウラン濃度の測定等、被曝の有無を確かめるような精密な検査を行い、結果を公表すべきです。

パンフは、劣化ウラン弾による内部被曝の危険性を故意に無視
 原文振パンフレットは、「劣化ウランの放射線量は天然ウランの100分の1」だと強調しています。それゆえ、劣化ウランは花崗岩内など自然界にある天然ウランよりもはるかに害がないものだから、劣化ウラン弾は安全なのだと主張するのです。
 しかし、問題となっているのは、単なる劣化ウランではなく、劣化ウラン弾のウランが、体内に吸入されやすい微粒子となって空気中に飛び散った場合の危険性なのです。その微粒子はただの1個といえども膨大な数のウラン原子から成っています。その微粒子が肺に入り、長期間体内に留まってアルファ線を放出し続け、細胞の遺伝子を傷つけます。そのような危険性がまさに劣化ウラン弾では問題になっているのです。
 ところが、原文振パンフが行っているのは、抽象的に劣化ウラン1グラムと天然ウラン1グラムがここにあるとせよ、そこから出てくるガンマ線の量・外部被曝の量はどちらが多いかという類の比較にすぎません(ただし、その天然ウランとはウラン鉱石内からウランとその娘核種を抽出した架空の「ウラン」です)。
イラクには悲惨な結果が現に我々の目の前にあるのです。アルファ線による内部被曝という劣化ウラン弾の具体的な危険性をいま問題にしなければならないのに、天然ウランとの抽象的な比較をして見せることで、その危険性から目をそらせようとすること、これこそが原文振パンフの狙いに違いありません。

「地上1mで測れば劣化ウランは検出されない」−アルファ核種の特性を故意に無視
 次に、原文振パンフは「1m離れたところからの測定では劣化ウランは検出されない」という論理を持ってきて、劣化ウランが環境中にあっても「通常の測定方法では環境レベルと同じ」と結論づけ、劣化ウランは安全であるとしています。しかし、劣化ウランはエネルギーは大きいが、到達距離の短いアルファ線を主に放出する、いわゆるアルファ核種です。彼らの主張するような地表からの放射線(β・γ線)を1mも離れたところから測定するような方法では検出されないのは当然です。彼らの論理は、アルファ核種による被曝の特性を故意に無視した、詐欺的なやり口です。
 地上1mで放射線を測って、β・γ線が検出されなければ「劣化ウランはない」ないしは「安全」ということになるのであれば、日本国内の原子力施設において、プルトニウムやウランのような、β・γ線をほとんど無視しうるようなアルファ核種による汚染が考えられる場合、地上1mからのβ・γ線の測定のみをもって安全性を確認できるということになるでしょう。しかし、国内の原子力施設でアルファ核種を測定する場合は、汚染された箇所の表面をふき取ってその密度を測定したり、空気をフィルターで濾して、その放射能濃度を測定する方法がとられているのです。「地上1mで測定」などというずさん極まりない放射性物質の管理方法は許されていません。

国内でばらまけば犯罪となる劣化ウランが、なぜイラクでは「安全」なのか?
 また、コソボやイラクでは、地面に劣化ウランがまかれていても「安全」だというのであれば、日本国内でも同じく「安全」で、劣化ウランが道路や庭、公園にばらまかれても問題はないということになるでしょう。
 しかし、日本国内において劣化ウランは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)に基づいた厳重な管理が要求される放射性物質となっています。当然、劣化ウランを環境中に故意に放出することは犯罪的行為であり、政府自身、そのような行為は同法第七十六条の2違反の罪に該当し得るとしています。
 日本国内では地面にまけば犯罪になるようなものを、イラクやコソボでは、なぜばらまいても「安全」なのでしょうか。イラクやコソボの人々は特別で、放射線に強い耐性を持っているとでもいうのでしょうか。原子炉等規制法を尊重する義務のある原文振は当然、それに則り、放射線の危険性についても広く注意を呼びかけるべき立場にあるはずです。しかし、原文振はパンフを通じ、イラクやコソボの人々、子供たちの生命や健康を軽視し差別するような許し難い二重基準の安全性を敷衍しているのです。これは、人倫にもとる許し難い行為という他ありません。

「劣化ウランの子供と大人への人体影響は同じ」は、安全規制の考え方に反する虚偽宣伝
 さらに、原文振パンフは、劣化ウランの影響が子供に大きく出ることはないとしています。イラクで子供たちに被害が集中して発生していることを念頭に、子供たちへの被害を否定するのが目的であることは明らかです。その論理は、子供は大人より放射線感受性が高いが、呼吸量や食品・水の摂取量が大人より少ないので、各々の効果が相殺し合うというものです。
 しかし、原子力安全委員会報告書「原子力発電所等周辺の防災対策(平成12年5月改訂)」は、プルトニウムおよびアルファ核種の野菜・肉等における摂取制限を、大人10Bq/kg、乳幼児1Bq/kgとしています。また海外の摂取制限値の設定においても、一般に、子供の摂取制限レベルは大人より厳しくなっています。FAO(国際食糧農業協会)の定めた放射能対策レベルにおいても、成人と幼児の摂取制限量は、区別されて評価されているのです。「劣化ウランによる子供と大人の人体影響は同じ」などという彼らの主張は、これら安全規制の考え方にも、明らかに反しています。
 原文振は、国内の安全規制を尊重すべき立場にあるのですから、当然、大人と子供では放射線の影響が違うことを知らせ、子どもへの注意を促す立場にあるはずです。ところが原文振は、パンフの中でまったく逆の解説を行っているのです。これは、明らかに虚偽に基づく宣伝であり、許されません。

 以上みてきたように、原文振のパンフは、財団設立の目的から大きく逸脱したものです。また、その内容は嘘と誤りに充ち満ちており、国内法規や安全規制にも公然と反する主張を敷衍するものとなっています。文科省と経産省から原文振へ支給される補助金等は年間10億円にのぼっており、これは財団の収入の約6割を占めています。国民の税金を、このような宣伝活動に使うことは許せません。
 パンフレット『劣化ウラン弾による環境影響』は速やかに回収、廃棄させましょう。政府・文科省の責任を追及しましょう。

美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
2004年8月



※ 「白血病に結びつく理由ない」 劣化ウラン弾「安全」の記述 原子力財団の広報資料(北海道新聞)
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20040821&j=0022&k=200408217954




<社民党福島瑞穂議員が提出された質問主意書>
財団法人日本原子力文化振興財団のプレスレリーズ
「劣化ウラン弾による環境影響」に関する質問主意書

 文部科学省の所管公益法人である財団法人日本原子力文化振興財団(以下「本財団」という。)は、「プレスレリーズ No.111」として、「劣化ウラン弾による環境影響」という表題のパンフレットを作成し、平成十六年六月十五日付けで発行している。このプレスレリーズは、ジャーナリスト向けに発行されているもので、マスコミ報道にも大きな影響を与えるものであるが、「プレスレリーズNo.111」(以下「本プレスレリーズ」という。)は、劣化ウラン弾による健康影響及び環境影響は事実上皆無であるという内容で、その解釈には疑問が多い上に、兵器としての劣化ウラン弾の「安全性」を積極的に広報するものとなっている。
 国際的には、劣化ウラン弾が放射能及び化学的毒性による健康影響を引き起こす非人道兵器であることが、国連機関等の中でも指摘され、議論となっているものである。千九百九十六年の国連人権小委員会は、クラスター爆弾や生物兵器と並んで、劣化ウラン弾を大量破壊兵器・無差別殺傷兵器とする決議を採択し、二千二年の国連人権小委員会においても、劣化ウラン弾は反人道的兵器とみなされている。少なくとも、劣化ウラン弾による環境影響が無いという国際的合意はまだ一度もなされていない。
 ところが、本プレスレリーズは、環境影響はないと断定するのみならず、劣化ウラン弾などの劣化ウラン兵器を妥当なものと解説し、その使用を積極的に肯定している。まるで、米軍による劣化ウラン弾の使用を積極的に支持し、擁護するのが目的であるかのような内容となっている。
本財団寄附行為第三条によれば、本財団は「広く一般に原子力平和利用に関する知識の啓発普及を積極的に行」うことを目的として設立された団体とされている。劣化ウラン弾は核分裂兵器ではないものの、放射性物質を軍事利用するものであることは明白であり、「原子力平和利用」の対極に位置するものである。その使用を積極的に肯定するようなプレスレリーズの発行は、本財団の本分を大きく逸脱した行為と言わざるを得ない。
 また日本は、広島・長崎の被ばくの苦しみを経験し、その上に立って非核三原則と原子力の平和利用を国是としてきた。原子力基本法第二条は、「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限」るとの基本方針を定めたはずである。本財団が本プレスレリーズを通して、劣化ウラン弾使用の容認・支持を公然と表明したことは、非核三原則と原子力の平和利用という国是に反し、国際的な流れにも逆行している。所管省庁である文部科学省及び政府の姿勢と責任が問われるべき重大問題であると考える。
 よって、以下質問する。

一、本財団の設立目的に照らして、本プレスレリーズは不適当な内容と考えられるが、政府はどのように考えるか、見解を示されたい。

二、本プレスレリーズは原子力基本法の精神からも逸脱したものと考えられるが、一と同様に政府の見解を明らかにされたい。

三、本財団は、文部科学省を所管省庁として、文部科学省と経済産業省からの補助金等は年間十億円に上っている。国民の税金が財団収入の約六割を占めるが、その業務について、以下の項目に沿って明らかにされたい。
 1 本財団が行っている広報活動、新聞広告、講演会、発行している出版物などすべての活動について、活動項目ごとに詳細を示されたい。また、それぞれの活動項目ごとの二〇〇四年度の予算についても示されたい。
 2 本財団が発行するプレスレリーズについて、発行の目的、年間発行回数及び配布先を明らかにされたい。
 3 本財団が発行するプレスレリーズの発行責任はどこにあるのか。また、編集体制はどのように組まれ、学術的な検証はだれがどのように行っているのかを明らかにされたい。
 4 本プレスレリーズは、どのような目的や経緯で作成されることになったのか。また、だれが発案し、だれが作成を指揮したのか。その責任の所在を明らかにされたい。

四、所管省庁である文部科学省は、米国による劣化ウラン弾の使用について賛成するという立場なのか、その見解を明らかにされたい。

五、日本国内において劣化ウランは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)に基づいた厳重な管理が要求される放射性物質である。当然、劣化ウランを環境中に故意に放出することは犯罪的行為であり、政府自身が私の質問主意書(第百五十六回国会質問第四四号)に対する答弁書において、そのような行為が同法第七十六条の二違反の罪に該当し得るという見解を示している。このように、日本国内では厳格な管理が要求されている劣化ウランであるが、本プレスレリーズの解釈は、この法律の定めと明らかに対立するものではないか。また、日本国内では禁止でも、コソボやイラク等では環境中に放出しても安全とする根拠はあるか。

六、多くの研究者・医者の調査やジャーナリストの報道等を通じ、イラクでは子供たちを中心にガン・白血病が増加し、異常出産が多発していることが伝えられているが、本プレスレリーズは、このような深刻極まりないイラクの状況を全く無視している。まず、その現実について、以下の項目に沿って政府の見解を示されたい。
 1 政府は、これらイラクでの被害事実について、調査・検討を行ったことがあるか。
 2 政府は、今後被害実態についての調査を行う考えがあるか。
 3 政府は、これらイラクでの被害事実について、認めないという立場か。調査もせず認めないという立場であれば、何を根拠に否認するのか明らかにされたい。あるいは、既に政府は被害事実を認めているという立場であるなら、その原因は何であると考えているのか、その見解を明らかにされたい。

七、本プレスレリーズは、サマワへ派遣された自衛隊員についても、劣化ウラン弾による健康影響はないと主張する趣旨のようであるが、二千四年四月の「ニューヨーク・デイリー・ニュース」は、サマワから帰還した米兵の尿中から劣化ウランが検出されたと報じている。
 1 同じサマワから帰還した自衛隊員について、尿中の劣化ウラン検査などの被ばく調査は行ったのか。行っていないとすれば、その理由は何か。
 2 尿中から劣化ウランが検出されたということは、サマワの空気中を漂っていた劣化ウランを含む粉塵を吸い込む等の吸入摂取が考えられるが、同じサマワの空気を吸っていた自衛隊員に被ばくの恐れがないと判断するのであれば、その根拠は何か。
 3 今からでも、帰還した自衛隊員について、尿中のウラン濃度の測定等、被ばくの有無を確かめるような精密な検査を行う体制を整えるべきではないか。

八、本プレスレリーズには、「劣化ウラン弾を拾って長期間持ち歩いたり、あるいは劣化ウランの粉末が溜まっている戦車内に入って、舞い上がった粉末を吸い込んで肺にたくさん取り込んだりする場合を除いて、それほど心配のない物質」という記述がある。この記述は、劣化ウランの微粒子が砂嵐によって広範囲に拡散する危険性を示唆するものでもあるが、それを人々が大量に吸入しなければ良いという解釈と読み取れる。これは、体内に取り込まれたアルファ核種による内部被ばくの危険性をあまりに軽視する解釈ではないか。政府の見解を示されたい。

九、本プレスレリーズは、「劣化ウランの放射線量は天然ウランの百分の一」とし、劣化ウランを「最も安全なウラン」と記述している。しかし、放射線量(被ばく線量)の計算の前提となる被ばく条件は具体的に示されていない。天然ウランの放射線量には、ラジウムやラドンなど娘核種の存在を計算に加える一方で、劣化ウランについては、濃度、物理的・化学的形態や人体に取り込まれ被ばくさせる具体的な経路を無視するという恣意的な操作が行われている。このような操作は、科学的とはとても呼べないものであるが、政府はこのような解釈を容認するのか。

十、本プレスレリーズは、「放射線は地上一m離れたところから測定するものであり、そのような測定では劣化ウランは検出されない」ことをもって、「通常の測定方法では環境レベルと同じ」と結論づけ、劣化ウランは安全であるとしている。これは、アルファ核種による被ばくの特性を無視した、あまりに非科学的解説である。土壌中のアルファ核種の存在を、一メートル離れたところで検出するためには、そこに何トンの劣化ウランの塊が必要か示されたい。

十一、日本国内の原子力施設において、プルトニウムやウランのような放射性物質によって、ベータ・ガンマ線をほとんど無視しうるようなアルファ核種による汚染が考えられる場合でも、地上一メートルからのベータ・ガンマ線の測定のみをもって安全性を確認することになっているのか。

十二、原子力安全委員会報告書「原子力発電所等周辺の防災対策(平成十二年五月改訂)」によれば、プルトニウムおよびアルファ核種の野菜・肉等における摂取制限を、大人十ベクレル毎キログラム、乳幼児一ベクレル毎キログラムとしている。また海外でも一般に、子供の摂取制限の方が大人より厳しくなっている。ところが、本プレスレリーズは、子供の放射線感受性は高いが、食物摂取量・呼吸量が少ないので、劣化ウランの影響は大人と同じであると記述している。国内の安全規制を尊重すべき本財団は、大人と子供では放射線の影響が違うことを知らせ、子供への注意を促す立場にありながら、全く逆の解説を行っているのである。政府は本財団の、このような解説をそのまま容認するのか。

十三、以上、本プレスレリーズの内容の様々な問題点を指摘した。これだけ誤りが多く、なおかつ本財団設立の目的からも離れた本プレスレリーズは、速やかに回収され、廃棄されるべきだと考えるがいかがか。

十四、本プレスレリーズに関連して、本財団の関係者に対し、何らかの処分を行うべきではないか。また、本財団の存在そのものを再検討すべきではないか。

 右質問する。