子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
S950804 2004.4.新規
1995/8/4 静岡県西伊豆町立仁科小学校で、夏休みのプール開放で遊びにきていた林田靖司くん(小5・10)が、プールの排水口に右足を吸い込まれておぼれ、死亡。
経 緯 同小学校では、夏休みのPTA学校プール開放事業としてプールを解放。児童の母親2人が監視に当たっていた。事故当時、約40人が遊んでいた。

8/4 午後1時頃、靖司くんはプールで遊んでいたが、友だちらとプール底の排水口の蓋がずれているのを発見し、直そうとして排水口管に右膝を吸い込まれておぼれ、意識不明の重体後に死亡。
プール プールは縦25メートル、幅13メートル。排水口のある部分は水深1.3メートル。
排水口のふたは、鉄格子製で、縦横49センチ、重さ17キロ。

静岡県は町教育委員会に、排水口のふたを固定するよう指導していたが、同小学校ではふたを固定していなかった。
背 景 1971/7/ 同小学校では過去にも、プール清掃後の水張り中に、排水口のふたをはずして足を吸い込まれる事件があった。この時には、水位が低かったため、大事には至らなかった。

1979/8/10 文部省(当時)が、排水口の危険性を提起して「水泳プールの施設設備の整備点検について」通知を出す。
1985/8/28、1986/5/24にも通知を出していた。 
学校ほかの言い分 1996/1/末 西伊豆町は小学校のプールの施設面での不備を認める。遺失損益と慰謝料など4160万円の賠償額を算出したが、「靖司くんにもある程度の危険回避の判断能力があり、今回の事故での過失がある」として3割を減額、約2900万円の賠償額を提示。

両親は「賠償額が低いのと、町側の不備を認めたうえで子どもの過失責任を認めさせようとする姿勢は納得ができない」として拒否。
裁 判 1996/3/22 両親が、事故原因は、排水口上のふたがボルト等により固定されておらず、ふたを外れたまま放置していた西伊豆町と、文部省から排水口に関する安全管理の通知を受けながら指導と監督をしなかった静岡県にあるとして、管理の瑕疵(かし)を理由に町と県に対して計約9140万円の損害賠償を求めて民事裁判を起こす。(国家賠償法二条一項)
被告の主張 西伊豆町は事故は靖司くんが意図的に排水溝に身体を入れ排水管口に吸い込まれた結果やむなく生じたものであると争い、静岡県は町に対し排水溝はふたを固定するなどの措置をとるよう指導監督は行ってきたので行政指導には不備・不都合はなかったと主張。
判 決 1998/9/30 静岡地裁沼津支部で判決。一部認容、一部棄却。(確定)

「本件排水口の吸引力は、これに身体の一部を密着させたり挿入されたりして閉塞状態となると吸水圧が強く働き自力で排水溝を脱出することが困難であること、同排水溝には蓋を設置していたが固定化されておらず、その重さは水中では浮力が働き小学校児童でも移動が可能で本件事故当時は、本件排水溝の蓋ははずされていたこと等からみて、町にはプールの設置管理に瑕疵があり国賠責任を負う。」とした。

一方で、「A(=靖司くん)は本件事故当時小学校5年生で、その判断能力が未熟であったにせよ、本件事故は、Aが右のような本件排水溝に自ら入り込んだことが一因となって発生したものであり、Aにも過失があったといわざるを得ない。」として靖司くんに2割の過失相殺を認めた。

地方自治法では県教育委員会は町に対し、町の教育事業の適正な処理を図るため必要な指導、助言又は援助を行うよう定めているが、違反行為の是正又は改善等の必要な措置を講ずべき義務はないこと、県教育委員会は文部省よりの「水泳等の事故防止について」の通知を踏まえて町にも通知し、それに加えて、県教育委員会は町教育委員会に対し、プール排水溝の蓋の固定化等学校プールの安全に関する必要な指導をしていることからみて、県の町に対する指導等に関しては違法はない。

(判例時報1678)
参考資料 「学校災害ハンドブック」/喜多明人/1993.9.12草土文化、「あぶないプール」/有田一彦/1997.7.15三一書房、「教育データブック」1998−1999/時事通信社、「教育判例ガイド」/船木正文/有斐閣



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