子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
860702 体罰死 2002.7.16新規
1986/7/2 石川県小松市の市立芦城中学校で、担任教師(24)が、遅刻や忘れ物をしたとして、北野章くん(中2・13)を宿直室に呼びだして体罰を加える。意識不明の重体となり、7/5朝、死亡。
経 緯 7/2 午後1時50分頃、担任で数学担当の男性教師S(24)が、北野章くん(中2・13)を遅刻したり、音楽の教科書や親と教師の通信ノートなどを忘れたとして、宿直室に呼びだして叱った。
「なんやその反抗的な顔は!根性をたたき直してやる」「歯を食いしばれ」などと言って、章くんの顔を平手で4回ほど手加減なしで往復ビンタし、2〜3回足払いをかけて畳の上に投げつけた結果、頭を強く打って意識不明の重体となる。

地区の中央病院で、急性硬膜下血腫と診断され、手術。

病床の母親が救急車で駆けつける。

7/3 心拍や呼吸機能が低下。

7/5 朝、意識が回復しないまま死亡。
被害者 章くんの母親は当時、末期の子宮がんで、長く入院(上記、章くんが搬送された病院とは別)していた。
遺 族 父親が、病床の母親に章くんの死を知らせに行ったとき、母親は、
「お父さん、あの子死んだんやろ?今あの子ここ来たわ。『お母さん、僕やっと楽になれたよ』って笑っとった。本当にしんどかったんやねえ」と言ったという。
しばらくして、母親も亡くなる。

父親は捜査官に対し、「被告人を恨む気持ちはなく、本件で被告人が教職を去らなければならなくなるのはかわいそうだ」と供述。裁判所に、寛大な処分を望む旨の嘆願書を提出。
教師の処分 傷害致死罪の容疑で逮捕。懲戒免職。
教師本人が、遺族に見舞金として150万円を支払う。
学校ほかの対応 学校設置者である小松市と示談が成立。
刑事裁判 1987/8/26 金沢地裁にて、懲役3年の求刑に対して、懲役2年6月、執行猶予3年の判決。
判決要旨  被告人が被害者の顔面に往復びんたを加えた行為についてみると、これは、判示のとおり、被告人が被害者に反省を促す意図のもとになしたものであり、これが教育上の指導措置としてなされたことは明らかであるが、たとえ教育上の指導のための行為であっても、体罰が許されないことは、学校教育法11条に明記されているところであり、被告人が被害者を殴打した行為は、往復びんたを手加減することなく4回加えたということであって、このような暴行を加えることは、その意図の如何を問わず、同法条にいう体罰に当たると解されるから、これが違法な行為であることは明白である。(中略)

本来学校教育は教師と生徒の信頼の上に成り立ち、教師は生徒を保護すべき立場であるものであるが、こともあろうに、その教師が生徒を死亡させたものであって、本件が教育界のみならず社会一般に与えた影響は大きいこと、生じた結果が重大であることは言うまでもなく、信頼していた担任教師によってわずか13歳で命を奪われた被害者の無念さ、その両親の悲しみの深さは察するにあまりあることなどに鑑みると、被告人の刑責は重大である。

しかしながら、被告人は、教師に憧れて、大学院で教育学を修めた後、新任教師として情熱をもって教育現場に臨み、何かと問題の多かった被害者に対し、大きな熱意を傾けてその指導に取り組んでいたのであり、その教育的熱意から出た行為が結果的に本件犯行となったものであって、本件は、いわば被告人の熱心さが招いた被害者及び被告人の双方にとって不幸な事故であったこと、被害者の遺族と小松市との間で示談が成立し、被告人からも別途見舞金として合計150万円を支払ったこと、被害者の父親は、捜査官に対し、被告人を恨む気持ちはなく、本件で被告人が教職を去らなければならなくなるのはかわいそうだと供述するほか、当裁判所に、寛大な処分を望む旨の嘆願書を提出し、被告人を宥恕(ゆうじょ)していること、被告人は本件により懲戒免職され社会的制裁を受けていること、被告人が、本件を深く反省し、毎月命日には被害者の仏前に参るなどして被害者の冥福を祈っていることなど、被告人のために斟酌(しんしゃく)すべき事情も存するので、以上の諸事情を総合考慮し、被告人に対してはその刑の執行を猶予することとして、主文のとおり量刑した。
(判例時報1261 P141)
参考資料 1986/7/5朝日新聞・夕(縮刷版)、1986/7/4毎日新聞、「学校事故と訴訟Q&A」/文部省教育助成局地方課法令研究会・秋山昭八編/三峡法規、メールによる情報提供(me020713参照)



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