子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
731004 体罰事件 2002.12.23. 2003.2.30 2005.1.15更新
1973/10/4 葉県の県立安房農業高校の体育の授業中、男性教師N(27)の指示が守れなかった一種の罰として「必殺宙ぶらりん(資料によっては「必殺ブラリン」)」(3.13メートルの鉄棒にぶら下がり床下に落ちる)をやらせたところ、女子生徒(高1)がバランスを崩して落下。腰椎捻挫の傷害を負った。
経 緯 5時限目の体育、バスケットボールの授業中。
N教師はバスケットボールのパスとキャッチを正確に行うよう指示したが、女子チームは男子チームにボールを取れられてしまい、指示が守れなかった。

N教師は、攻撃側がパスしたボールを防御側にカットされると、攻撃側の班全員に連帯責任として「必殺宙ぶらりん」という罰を与えていた。
N教師は女子生徒6人に、罰として「必殺宙ぶらりん」と称する懸垂を命じた。
「必殺宙ぶらりん」とは、体育館2階に設けられたコンクリートの縁(高さ3.1メートル)にぶらさがって懸垂をやり、教師の合図で飛び降りるというもの
次のチームがボールを取られるまで続けられる。


女子生徒らが高さを怖がってためらっていると、N教師は手すりの下で、「さっさとぶら下がれ。さっさとやらねえとタイツを脱がすぞ」と言って脅した。

女子生徒6人は懸垂を始めた
N教師の「飛び降りろ」の合図で一斉に手を離したが、
Bさんは手がしびれて体が硬直し、バランスを崩して体育館の床に落下。腰を強打して失神した。

Bさんが友だちに助け起こされてからも、N教師はパス練習を続行させた。
罰は、木製ベンチのうえに正座させるものに切り替えられた。
Bさんは意識が朦朧とする状態で、最後まで授業を受けた。
授業後、友だちと保健室に行き湿布薬をして、ひとりで帰宅。

翌朝、首が回らなくなり、頭痛、吐き気、背中・腰の痛みが激しくなり、接骨医院に入院。

Bさんは「脊髄ショックによる頚椎、腰椎捻挫」と診断され、神経外科に翌年(1974年)7月まで9カ月間入院して治療を受けた。

退院後も1年にわたり、頭痛、腰痛、足や肩の痛み、手のしびれといった
後遺症に悩まされ、通学が困難だったので、教師が乗用車で送迎。学業も遅れ、2年には仮進級。

丸一日授業に出席できるようになったのは、3年生の3学期になってから。

3年で補講も受けたが、習得単位が不足して卒業が延期。
Bさんの「もう一年、聴講生でもいいから勉強したい」という願いは学校側に拒否される。
補講の後、3月下旬にようやく分離卒業式が行われた。
学校は卒業式に、Bさんの保護者を出席させなかった。
加害教師 N教師(27)は、その年、千葉県で開催された若潮国体に相撲の選手として出場するために、体育担当で同校に採用されていた。

体罰を日常茶飯事に行っていた。本読みでつかえた、にやけているなど、ささいな理由で、また自分の気分次第で、生徒を四つん這いにさせて柔道の帯で尻をたたいたり、「必殺鼻殺し」と自ら発案・命名した体罰で、生徒に鼻血を出させるなどしていた。


N教師は過失を認めない。
翌日、
Bさんの入院先に出向いて枕元で、「お前、どうして俺に早く言わなかったんだ。こうなれば俺の責任になっちまう。俺の責任をどうしてくれるんだ」と非難するだけで、事故に関する慰謝の言葉やいたわりの言葉をかけることは全くなかった。
その後も、病院の枕元で何度も怒鳴り、Bさんを非難し、一度も謝罪の言葉はなかった。
学校側の対応 入院先に出向いた体育主任や教頭からも謝罪はなく、保護者に対して、「あれは体罰ではなく、補強運動だ」と主張

校長は事件発生後、一度もBさんや他の生徒から事情聴取をしなかった。
体育教師の一方的報告に基づき、その行為を正当な授業活動の一環としてとらえ、女子生徒に対する謝罪はしなかった。
教頭が女子生徒を見舞ったのは1回のみ。校長は一度も見舞いに訪れなかった。
保護者に対して、「お宅のお子さんだけが飛び降りたわけではない。学校としては入院をさせてあるのだからそれで落ち度はない」と強い態度で話した。

2カ月後に新聞報道されるまで、学校は県教委に対する報告を
怠っていた。
たいへん遅れて、「事故報告書」を提出。
医療機関の対応 地元の病院はあいまいな態度をとり、「体はもう治っているが安静に寝ているように」と言い、傷病名もはっきりと伝えられず、診断書も自由にはもらえなかった。
県教委の対応 退院する際、県教委はBさんの保護者に対し、「車いすでも何でもいいから学校に顔を出して下さい。今出れば同級生と一緒に卒業できます。Bさんの将来も考えてください」と何度も説得。

事故後、半年してから、県教委は体育教師Nに6カ月の減給処分。校長に戒告処分。
Bさんと母親に、治療費のほかに80万円の示談金を申し出た。
教師の処分 1974/3/ 学校の対応に不満を持った女子生徒側が、N教師を過失傷害罪で刑事告訴。

1978/9/28 館山簡易裁判所で過失傷害罪が認められ、教師に罰金3万円。
被告(N教師)側が控訴。

高裁は控訴審判決で控訴棄却。被告側は上告。

1981/6/ 最高裁は、「危険な行為をさせるときには、自ら模範演技を示すなど教師には事故を防ぐ義務がある」とした2審の有罪判決を支持。罰金3万円が確定。
裁 判 1975/10/ 女子生徒と母親が、県立高校の校長と千葉県を相手取り、本人に860万円、母親に380万円の損害賠償の支払いを求める民事裁判を提訴。
被告側の主張 県側は、「(必殺宙ぶらりんは)バスケットボールに必要な調整力、瞬発力、筋力を高めることを狙いとする補強運動である」と主張。
民事裁判の法廷でもN教師は自らの責任を否定し続けた。
一審判決 1980/3/31 千葉地裁一部認容。 県に対して、女子生徒に480万円、母親に39万円支払い命令。

体育教師のとった行為は、体育授業中、教師が生徒に対して与える懲戒行為であり、違法な体罰ではないと認定。
「この種の筋力補強運動は絶対、許されないものでもない」としながら、「世上行われている筋力の鍛錬の方法としてはほとんど例を見ない希有な異常ともいえるものであり」「床から3.1メートルの懸垂は、ひとによっては恐怖を感じ、非常に危険な方法であることを考えると、Nの行為は、直ちに違法とは言えないけれど、マットも敷かず、口頭説明だけで教師が模範演技もしなかったことなどを勘案して、懲戒の限度を超えたものであり、体育教師Nにのみ過失がある」と認定。

また、「被告N、同K(校長)らは教師としてより先ず一個の人間として原告に対し遺憾の意を表わし労わりの言葉をかけるのが当然であろう。被告らの本件事故に関する頑なな態度は人を指導する教師の態度としてもとるものと非難されても止むを得ないものであり、このような被告らの頑なな態度が感じ易い時期にある原告の心をいたく傷つけ、前記後遺症の心的原因になったことは充分窺える」ので「後遺症と本件事件との間には因果関係がある」と判示。

被告側控訴。原告側も付帯控訴。
2審判決 1984/2/28 東京高裁 控訴棄却。1審支持。
県に対して、女子生徒に520万円、母親に49万円の支払い命令。

「懲戒行為をするについては、教師の正当な指導行為に対して故なく従わないなど生徒の側に懲戒に値する行為があったことを要するものと解すべきである」「(しかし、本件においては)被控訴人(被害生徒)の側において、控訴人(加害教師)の責任を考えるに当たって考慮しなければならないような非違ないし過失があったとは、認められない」

体育授業中に行われる懲戒行為は、体育に対する意識の緊張感を高め、体力の増強、筋力、足腰の鍛錬に役立つなどの効果があり、授業の一環として教師がたびたび行っているもので、直ちに違法とはいえない。」しかし、原則として「懲戒をする必要性のあること、運動場内のマラソン、うさぎ飛び、正座など、懲戒の方法が一般社会の常識から認められ、危険でないことを要する」。

「後記の如く本件懸垂の方法としての希有性、異常性等に照らせば控訴人(N)の本件懸垂を命じた行為は同人の意図はともかくとして、筋力の養成のためとかバスケットボールの目的達成のためというよりは体育授業中の懲戒行為の外形様態をなすものと認めるのが相当である。」この場合、「体育教師が行う懲戒の限度を超えた違法のものであり、本件事故につき過失があるものといわねばならない」と認定。
最高裁 最高裁 1.2審支持 上告棄却
裁判での争点 一審判決のなかで、Bさんの現在も残る体の痛みを「心因性」のものと判断された。
しかし、医学的な検査だけでは、明確に因果関係を立証することができなかった。
一方で、控訴審で県側は精神医学の本を積みあげ、精神医科の証人に呼んで、痛みはBさんの精神的なものや性格などにも起因しているというような主張を展開


裁判では、「必殺宙ぶらりん」が「体罰」か「補強運動」かで争われた。
結果は、懲戒行為の限度を超えたものではあるが、体罰とまでは言えないとしている。
指導及び配慮に欠けるという点では過失を認定。

「懲戒行為」もしくは「懲戒行為の外形態様をなすもの」が適法となるかどうかの要件を、
一審判決では、
1.懲戒の必要性
2.方法の通常性、社会通念上の相当性
3.危険を伴わないこと
の3つをあげた。

2審では、さにらに
4.生徒の側に懲戒に値する行為があったこと
を加えた。
参考資料 「いじめなんかはねかえせ!ルネスいじめかけこみ館からの報告」/谷澤忠彦著/1996.8.1ティーツー出版判例時報967号、判例タイムズ413号、「学校の中の事件と犯罪 1945−1985/柿沼昌芳・永野恒雄編著/2002.11.25批評社」、「体罰と子どもの人権」村上義雄・中川明・保坂展人編/有斐閣人権ライブラリイ、「教師の体罰と子どもの人権」現場からの報告/「子どもの人権と体罰」研究会編/1986.9.5学陽書房



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