子どもたちに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
600227 学校災害 2002.3.3 新規
1960/2/27 栃木県鹿沼市の市立菊沢中学校の製図の授業中、生男子生徒Aくん(中3)が折ったセルロイド製定規の破片が隣の席に腰掛けていた同級生の男子生徒Oくん(中3)の右目に当たって失明。
経 緯 「職業選択」教科の「住宅平面図」製図の授業中、男子生徒のも54名が出席し、I教師が担当。
授業が始まって間もなく、Oくんは日頃仲良しのAくんと製図が上手なBくんの間の通路側に机を持って移動。Aくんと並んで腰掛けていた。
そこへCくんが定規を忘れたと言って、Aくんに借りにきたので、Aくんは自分の定規を二つに折って貸そうと思った。
Aくんは、セルロイド製の定規(長さ15センチメートル)に安全カミソリで傷をつけ、座ったまま右膝の上で両手に力を込めて折った。
約1センチ四方のセルロイドの破片が飛んで、左隣のいすに座り、下を向いて製図をしていたOくんの右目に当たって失明。
担当教師 I教師(32)は、勤続年数11年のベテラン。
事故のとき、I教師は教室をまわって個別指導をしていた。
裁 判 Oくん側は、事故の原因はAくんの過失と授業の受け持ちだったI教師の過失によって生じたとして、損害賠償を求めて提訴。
争 点 Oくん側は、事件が発生した市立菊沢中学校が鹿沼市の設置管理によるものだったところから、同校の教室が国家賠償法第2条でいう「公の営造物」であり、学校の授業は広義における営造物の管理に含まれるとして、公の営造物の瑕疵(かし=欠陥)を理由に、鹿沼市に対して損害賠償を請求。

これに対して、鹿沼市は、国家賠償法第2条にいう造営物の管理の瑕疵には、教諭の教育活動面の過失は含まないので、かりにI教諭に過失があるとしても、鹿沼市に対して損害賠償を求めるのは筋違いだし、教育活動は公権力の行使ではないから、同法第1条にも該当しない。もしI教諭に責任があるとすれば、民法不法行為により、I教諭に対して損害賠償を求めるべきと主張。
判 決 1963/1/12 宇都宮地裁でI教諭の過失を否定し、原告の請求を棄却。訴訟費用を原告の負担とした。
判決要旨 1.公立学校教員の教育活動は国家賠償法第1条にいう「公権力の行使」に当たる。
義務教育である中学校への就学は保護者に義務として課せられており、しかも当該地域には私立学校が存在しないから、学齢生徒は必ず鹿沼市の設置した中学校に就学しなけれぱならず、しかも義務教育においては、生徒は教員の命令により進退するものであって、その事実は、教員が公権力ないし公権力に似た力をもって生徒を支配しているものとみられる関係において、故意または過失によって生徒に損害を与えたときは、「公権力の行使」に当たる者が損害を与えたものとして、国家賠償法第1条の規定の適用があると解するのを相当とする。

2.ただし、この場合、I教諭には注意義務違反の過失はない。
教員が、中学校の製図の授業において、順次個別指導をすることは授業の性質上必要なことであるが、個別指導中に生徒の定規の貸し借りに際して、これを二つに折ろうとしている動作に気付かなかったとしても、通常、二つに折ることがまったく予想もされなかった動作であるから教員が指導上払うべきであった注意義務を怠ったということにはならず、したがって、教員に過失があったとは認められない。
むしろ、当該生徒は中学三年の終わり近く、是非善悪の弁識力を具有していたとみるべきであるから、これらの生徒の行動に対して、教員が責任を負うべき理由はない。
その後 Oくんの入院費の実費は、AくんとCくんの家庭で折半して負担。
その他は、教職員、生徒会、およびPTAなどからの若干の見舞金で終わっている。
参考資料 「賠償金の分岐点 教師が責任を問われるとき」/下村哲夫著/学研教育選書、「学校事故賠償責任法理 私法研究著作集/伊藤進著/信山社出版



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