核兵器の「現代化」批判と原発政策批判(要旨)(鵜飼 哲)

核兵器の「現代化」批判と原発政策批判(要旨)            鵜飼 哲

ロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻する際、同国の核戦力部隊に戦闘体制に入るよう命じて言葉による「核恫喝」を行った。私たちはこの暴挙を強く糾弾する。それと同時にウクライナ戦争に至る数年間、核保有国がすべて核兵器の「現代化」を追求して緊張を高めてきたことも批判する。

「低出力」の「戦術核」開発によって使用が容認されうる核兵器が存在するかのような観念が流布される一方で、国際的な規制体制が未整備なサイバーやAI等の先端テクノロジーと核兵器体系の結合も進んでいる。G7の中心メンバーである米英仏はこの事態の悪化に大きな責任を負っている。紛れもない核兵器である劣化ウラン弾を英国はウクライナに供与しようとしているが、G7の他の国々からの批判は皆無である。

 戦時中に核攻撃を受けた唯一の国である日本の政府が、核兵器の使用を国際法上違法であると主張したことは一度もない。核兵器禁止条約の調印を頑なに拒み、米国が核兵器の「先制不使用」宣言をしないよう執拗に働きかけ、「核共有」の検討まで模索してきたのが近年のこの国の姿である。核保有国と非核国のあいだを媒介するという建前の裏で「拡大抑止」の論理に固執するばかりか、自民党右派には独自核武装の野心を隠そうとしない勢力さえ存在する。

 原爆と原発は同じ核テクノロジーから生まれた双子である。フランスのマクロン大統領は「民生用の原子力がなければ軍事核もなく、軍事核がなければ民生用の原子力もない」と明言している(2022年2月10日)。チェルノブイリ原発事故とソ連崩壊以後、原子力産業は国際分業が進み、原発推進国の間には深い相互依存関係が形成された。国際原子力機関(IAEA)の副理事の一人ミハイル・チュダコフはロシア人であり、ロシアの国営原子力企業ロスアトムは一貫して制裁の対象から除外されている。

その一方で米国トランプ政権は2018年、従来の民間の原子力産業と国家主導の核兵器生産体制の分離を見直し、ロシアの原発輸出攻勢に対抗することを目的に重要な政策転換を図った。このため世界の原発産業はこれまでとは次元の異なる戦略的意味を帯び、核をめぐる米ロ中の危険な競合関係に組み込まれつつある。

核兵器禁止条約体制の確立によって核兵器を全面的に違法化することは焦眉の課題であるが、この条約が原発を不問に付す限り、核の国際管理体制に生じているこの深刻な構造変動に対応できない。ウクライナも原発大国であり、ロシアが核兵器を使用しなくても、現在の戦争が核惨事に発展する危険はつねにある。G7広島開催に反対する私たちは岸田政権の原発再稼働および新設、福島原発事故被害者の切り棄て、汚染水海洋放出と対決すると同時に、G7諸国、ウクライナ、ロシア、そして中国の非核化をも視野に入れた反核=脱原発の世界的な運動の創出を、その目標がどれほど遥遠であろうと提唱していく必要があるだろう。(1205字)