発言要旨/5月13日広島の集い
白川真澄
冷戦終焉後、グローバル化が全世界を席巻した。新自由主義の下で貿易と投資の自由化が急速に進み、G7はグローバル化の司令塔の役割を担った。グローバル化は米国の政治戦略でもあり、経済成長・所得向上による「民主化」を通じて中国を米国主導の安定した国際秩序に組み込もうと試みた。中国はグローバル化の流れに乗って急成長し、新たな経済・軍事大国になった。同時に、グローバル化は格差を急激に拡大し、地域経済を破壊した。21世紀に入ると、民衆の世界的な反グローバル化運動が活発に展開された。
2016年を転換点として、脱グローバル化の動きが台頭した。「米国第一」のトランプ政権が登場し、欧州では移民・難民排斥の排外主義を煽る右翼ポピュリズムが勢いを増した。米中貿易戦争が仕掛けられ、「新冷戦」と呼ばれる米中対立が出現し、ハイテクをめぐる覇権争いが激化した。中国による勢力圏構築の動きと米国による対中包囲網の形成がぶつかるようになった。とはいえ、米中間の経済的な相互依存関係は維持・継続された。
しかし、コロナ・パンデミックとウクライナ戦争の勃発はグローバル化に急ブレーキをかけ、軍事と経済が一体化する「経済安全保障」が前面に登場している。その焦点は、半導体のサプライチェーンの戦略的再編にある。米国は、脱中国依存=中国排除のサプライチェーンを同盟国との間で構築しようと、先端半導体の対中輸出を規制した。中国は、半導体の国産化に巨額の投資を行なっている。「経済安全保障」は一国レベルの経済ナショナリズムではなく、米国主導の中国包囲網を経済面から強化し、米中間の政治的・軍事的対立を激化させる。その旗振り役がG7だ。ただし、「経済安全保障」は、経済合理性に反するコスト高を招き、「グローバル・サウス」を引き込めないといったジレンマを抱えている。
私たちは、グローバル化にも「経済安全保障」にもノーである。再エネと食の地域自給、ケアを中心にした循環型地域経済の発展で対抗する。そして、米中両大国による世界の分断・分割を許さず、非覇権・非軍事の「第三のパワー」の登場、越境する市民の連帯をめざす。