ニュース第75号 01年12月号より

森林ボランティアから森林NPOへ

 「森づくりフォーラム」副代表 園田安男

 

  振り返ってみれば、森づくりフォーラムが任意団体として立ち上がってから、7年の時が流れているのです。この間、事務局スタッフとして関わってきたが、いよいよこの12月でそれも辞めることになりました。これも自分にとってのひとつの区切りでもありますので、これまでを振り返ってみるのも悪くはないかと思い、つれづれなるままに、です。しかし、なんでも振り返ってみればいつも時の流れは早く、1年の単位では見えなくても10年もなれば見えてくるものもあるんですね。

◆汗を流すということ
 この活動を始めたとき、能書きのあれこれよりもできることから始めるというものでした。ところが、これが思いの外、楽しい。この楽しさをみんなのものに、ということで仲間ができ、定期的なものになり、そして、様々なものを見て、聞いて、考えて、それぞれに森林との関わりを見つけていったのです。
 「汗を流す」ということでいえば、ボランティアといえば、無償労働というふうに広く理解されています。この無償労働ということをとても感じさせるものでした。賃労働とは違う、汗を流すことそのものが楽しい、という感覚です。正直言って、純粋に労働が楽しいと思えたのは発見でした。「1ha草刈りやってなんぼ」の世界ではないのです。30年前に読んだレーニンの「土曜労働」の世界でした(てなことを書いてもわかんなよね)。
◆森林に市民が参加すること
 やがて、森林に人が入らないことも放置することもすべて根拠のあることとして理解するようになりました。あるいは、森林を所有することと林業をすることとは別だ、とか今では当たり前に理解してますが、知らなかったのです。それは森林ボランティアの意味を見いだした事であり、参加者が癒されたり、楽しんだりという個人的な満足感からの参加があったとしても、個人の趣味の問題ではないと理解したわけで、社会性と多様性の発見です。結果、山の所有者や林業家の人たちとともに考えるという指向となり、社会的にアピールする必要を感じて、ネットワークづくりとなり、森づくりフォーラムの立ち上げにつながったわけです。「森林(やま)が好き」という共通の言葉でつながったのです。
◆放置林にこだわりながら
 出発からして、「放置された森林」をかなり意識してきました。放置林は「所有者が価値を見失った」という現象です。ここに森林に関係なかった私たちが関わる根拠を見たのです。森林=林業の構図から抜け出せない森林政策は、小規模の所有者を「放置」することになっていました。「俺たちは森林所有者と林業家は同じものではないとわかったのになあ」とつぶやいたのですが。小さな所有者に「森林が金になるかどうか」以外の選択肢を提起できなかったのです。今もそうですが。
 多分、森林ボランティアの活動は「森林の持つ価値の再発見」の場だったと思います。そして、その価値は金になるとか環境にいいとか、そんな実利的なものではなく、もっと多様で、おもしろいという感覚を伴うものではないかと思っています。うまくはいえませんが。目先の木材価格を高騰させる力ではないことは確かです。
 「汗を流す」ということは、一方では、森林ボランティア活動を労働力としてみる視点を強調したかもしれません。「森林ボランティアでは森は守れない」などといわれたりもしますから。違うのです。森林ボランティアの意味するところは森林の価値の多様性の発見の場、なのです。
 森林ボランティアが社会的に認知されるようになったということは、森林に林業関係者や森林所有者以外の人たちが森林という舞台に登場しえるようになったということです。これは、価値観の転換が必要だったのですが、皮肉なことに林業の低迷という現実があってできたことかもしれません。山が金になっていたらとても素人は入れません。
◆森林ボランティアから森林NPOへ
 森林や林業の応援団でありたいと思い、森林への入り口をたくさん作るということで始めた森林ボランティアですが、事態が見えるようになって、森林への関わりをより積極的に、主体的に、自分たちの考え方で、ひとつの事業体として森林にかかわりたいと思うようになったのです。つまり、「目指すべき森づくり」という指針を持ち、事業として行うことです。イメージでいえば、「市民参加の森林組合」です。森林NPOとして、森づくりの方向を持ち、森林に地域としての意味、ローカル性を与え、森づくりの事業を行い、森林と楽しむ団体をめざすのです。森林ボランティアから森林NPOへ、という道です。森林ボランティアは森林に関わるセクターのひとつになるために、NPOへと飛躍することに未来があると考えるようになりました。
 森づくりフォーラムはネットワークやパートナーシップを呼びかけています。しかし、ネットワークを構成する団体の中身が充実しなければ形骸化してしまうのは当たり前です。そこで、いまもう一度、「花咲き村」に帰ろうと思いました。現場での活動の充実は、ネットワークの次の飛躍を準備します。
 森林が好きで、森林に関わりたいと思う人は誰でも森林活動に参加できるようなること、どこまでいっても、「参加する市民」をベースにした活動がNPOの基本なのです。森づくりNPOにおいても同様です。森林という課題とNPOという存在をつなげたらと思っています。

 巻頭言目次    森の列島に暮らす・02年1月    巻頭言・01年11月