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第19回 定例研究会



日本の水質基準にみる欧米の影響

早川 哲夫氏



〜国立公衆衛生院・早川哲夫室長の講演を聴いて〜

 早川先生のご講演ということで、公衆衛生院で一時期お世話になった私は、お顔拝見がてら出席させて頂いた。ご自分の蔵書、経験をもとに示唆に富んだ興味深いお話であった。以下、僭越ながらレジメの簡単な紹介と私の感想を記させて頂く。

1. 明治・大正時代の近代水道と水質認識

 日本の近代水道はコレラ等水系伝染病対策のた めに創設されたが、これには横浜居留外国人対象の水道建設、対外効果をねらう外務大臣の判断による建設といった背景があった。また、日本の水道創設に関 わったイギリス人技術者は水質の専門家ではなく、施設建設と水質分析切り離した彼らの考え方に日本も影響を受けた。

2. 法定水質基準の不在

 明治23年の「水道条例」から大正10年の認可申請書への水質分析表添付の規定まで、法定水質基準は存在しなかったという。
 水道=水質という認識を持っていた私にとって非常に驚かされた事実である。

3. 外圧による水質管理

 第二次大戦後は水道管理に於いても進駐軍先導であり、米軍兵士の飲料水確保のため塩素消毒強化が図られた。日本としては、その技術を利用するという形態で、昭和25年に水道協会より「試験方法」が出版される。

4.衛生面を強調した「水道法」の成立

 上水道が厚生省の管轄と決まった昭和32年、やっと水質基準を定めた水道法が成立した。その当時もその後も水質については常にアメリカの基準が参考にされている。

5. 国際機関での水質規格

 1958年WHOは世界の国々が最低限実現すべき水質として「世界基準」を定める。その後「ヨーロッパ基準」を経て、1984年に「飲料水水質ガイドライン」を策定した。@水はないよりあったほうがよい、A厳しい基準が得られる水を制限する可能性がある、B各国で「リスクベネフィット解析」を導入してほしい、という思想の転換である。
 確かに世界的に観れば、水質云々よりも、生活 に最低限必要な水量の確保さえも困難である人口の割合はまだまだ高い状況にあるわけで、それらの国々において、水質基準を満足しないから水が使えない、と いうのは不条理な話である。しかし、浄水処理技術においてはガイドライン値のクリアーは容易なはずの日本において、ではBのリスクベネフィット解析が取り 入れられているか、あるいは取り入れる基盤があるかというと、それには大きな疑問が残る。

6. アメリカにおける水質基準

 1996年、アメリカの水質基準改定では「ベネフィット-コスト解析」が採用された。基準を満たすための費用がその便益を上回ると基準が緩められるこことがあり得る、ということだ。このアメリカ的な発想に外圧に弱い日本はやはり右へ習えをするのだろうか?あるいは右へ習えが出来るのだろうか…? 昔も今も変わらない受動体の日本とその国の水道。クリプトや環境ホルモンといった水質問題が山積する今日、日本の水質基準の将来は?そのidentityの確立は?と危惧を抱く次第であった。
 講演後には、先生ご自身が収集されたという水道に関する古書を多数拝見させていただいた。水道関係に限らず、古書収集はご趣味だそうで、造詣の深さに感服。大切な資料をありがとうございました。
 水道に携わる者として貴重な知識を取得出来た、実りある時間であった。

(女性参加者より)
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