会のロゴ

特定非営利活動法人
日本下水文化研究会
Japan Association of Drainage and Environment
日本下水文化研究会は新しい人と水との関係を考えていきます。
Smart Water Use and Drain Keep the Environment Healthy
TOP 会の概要 本部 屎尿・下水
文化活動
海外技術
協力活動
関西支部
活動
バルトン
関連活動
広報
ふくりゅう

その他の活動

下水文化研究発表会


下水文化研究会では2年に一度発表会を開催しております。




第7回下水文化研究発表会報告

 11月15日第7回下水文化研究発表会が日本水道会館で行われました。今回は、本会が途上国の衛生改善に海外技術協力事業として具体的に取り組んでいくスタート台と位置づけました。日本や先進国とは異なった特性を有する発展途上国の衛生状況を改善することを考えるとき、今回のテーマとした「衛生の原点」に立ち戻ってみなければならないことであると考えられます。
 参加者も約100名に達し、分科会、パネルディスカッションとも熱のこもった議論を行うことができました。途上国の衛生問題ばかりでなく、本会ならではの「下水文化史」、「水文化」の継承や新たな発展にかかわる活動、国内の水問題についても優れた論文が集まりました。
 ビルキス女史の基調講演は、我々日本人が途上国の衛生の実情と容易には想像できないような問題にも触れられた貴重なものでした。パネルディスカッションは立場を越えながらも、地球上に24億人いるといわれる衛生設備に アクセスできない人口を少しでも減らそうという意図で一致していたと思います。また、衛生の改善を考えたとき、それによるインパクトもあり、途上国の人々の生活全般や環境にも視野を広げる必要性があるといった議論となりました。そして、本会が進めようとしている海外技術協力プロジェクトについても参加者から理解を得ることができました。


研究分科会 座長報告

セッション1 下水文化史・下水文化活動

照井 仁 日本下水道協会

 セッション1では、下水文化史関係の発表が5編、下水文化活動の発表が3編あり、いずれの発表も質が高く、今後の研究及び活動に大いに参考となる発表でした。
 「1.江戸・明治における人糞尿の利用法」では、江戸・明治期に発刊された農書や農業指導書は、し尿の肥料効果を高めるための様々な研究や工夫がされていたことを紹介し、その研究姿勢は農家の立場に立ったものであったことが発表された。し尿の農業利用の歴史については、文献が乏しいこともあり、これまでほとんどわかっていなかったが、江戸期等の農書の研究により、今後明らかになることを期待したい。
 「2.初期の江戸下水」では、江戸の町割で、町割りの中央部分に位置していた会所地が、ごみと下水の捨て場所であるとされてきたが、江戸に城下町がつくられた当初から下水(道)がつくられていたことから、会所地には下水は排出されていなかったことが発表された。
 「3.間取りからみたトイレの位置の変遷」では、日本の家屋における便所の位置の変遷をたどり、古来、農家建築では外便所や軒下便所が一般的で、内便所となったのは武家建築において便所を専用の部屋として機能分化させたからという。そして、便所は母屋から離されていたものが、敷地の制約等によって母屋と一体化が強まったことが発表された。建築史の分野においては、便所はまったく無視され、研究されてなかっただけに、目新しい研究である。
 「4.ポンプ賛−苦役からの解放」では、古来から水を汲み上げる作業は重労働を伴うものであり、動力式ポンプの出現は人間を長年の苦役から解放するだけでなく、近代の産業化に大きな影響を及ぼし、日本の上下水道にも大きな役割を果たしてきたことが発表された。また、大阪市では、現在もポンプ場を抽水所、最終沈殿池を沈澄池と呼ばれていることが紹介された。
 「5.揺籃期の流域下水道(寝屋川流域下水道)」では、日本最初の流域下水道である寝屋川流域下水道は、大阪府の当初計画では流域下水道というより広域下水道の考え方で、流域全体を一括管理することを念頭に置いており、国との考え方に違いがあったことが発表された。そして、流域下水道と公共下水道との一体管理、河川管理者との一体化との実現に努力すべしとの意見が開陳された。
 「6.歴史的水流の復活と湧水の保全・・仙台からの報告」では、城下町仙台を開くにあたってつくられ、昭和初期に姿を消した四ッ谷用水の復活を目指す市民活動の経過が報告され、湧水・溜池調査を行いながら、用水復活や湧水などの保存に成功した例が発表された。
 「7.小金井市式雨水浸透ます事業から考える 保水型下水道の実現に向かって」では、小金井市は公共下水道が100%普及しているものの、大雨時には越流水による河川の水質汚濁や水量の枯渇という問題を生じ、そのため雨水を地下に涵養するため、環境団体、研究者、行政が一体となって雨水浸透施設設置事業に積極的な取組みを行い、今では雨水浸透施設設置率が43.2%と世界一となっていることが発表されるとともに、保水型下水道が提唱された。
 「8.南無雨陀仏と保水型下水道 〈東本願寺の屋根から、京都地下水盆がみえる〉」は、発表者が京都の東本願寺の雨水利用のプロジェクトに参画されており、これまでの下水道は、廃棄物として扱われている雨をすみやかに排除しているとして、「雨を捨てない水環境システムの総体」としての保水型下水道を提唱された。そして、これからの水問題は、上水、下水、河川、環境、防災を統合して、地域水循環、浅層地下水循環の視点で考えるべきで、降った雨、使った水をきれいにして近くに戻すことが発表された。
 最後に、下水文化史・下水文化活動部門では、1編あたりの発表時間が短く、また座長の時間管理がまずかったこともあり、発表者の方々にご迷惑をおかけし、紙面を借りてお詫びいたします。

ページのはじめへ

セッション2 海外下水文化

石井 明男 パシフイックコンサルタンツインターナショナル

 参加された方は講演者の独創的で、意欲的な内容に堪能されたと思います。それだけ面白い話が満載のセッションでした。
 「ベトナムダンフォン村にける屎尿分離式トイレの導入」の発表は、この村に屎尿分離式トイレを85基設置した使用記録です。特徴は@屎尿分離式トイレを使用していること。A排便後の屎に灰をかけ、病原体を死滅、消臭をしていること、B設置後の定着率が極めて高いことである。この研究の優れたところは、実際に現地で実施して、その成果を述べているところである。発表にはないが、実際はどのようなトイレにするか、材料はどうするか、現地での教育はどうするか、一つ一つ頭で考え、実施していったのである。発表はずっと聞いていたかったくらい素晴らしかったのだが、時間で終わりにしてもらった。
 「途上国のし尿処理を考える」の話の特徴はなぜ日本がトイレについて途上国に協力するのが良いか話していることである。改めて考えてみると、日本はトイレや屎尿について科学的に研究した国である。屎尿の成分、屎尿の分解過程、施肥効果、回虫卵の死滅のメカニズム、行動科学的アプローチなどである。し尿処理施設というものは日本にしかないということである。その研究成果を利用しうようとしたところが興味あると思う。
 「都市貧困居住区におけるバイオガスの衛生設備としての有効性」の報告は、屎尿処理を目的で住民が建設費を一部負担しバイオガスプラントを導入しその有効性についての発表講演である。この結果このタイプの設備で、住民は支払いに応じるだけのメリットを感じ設備は稼動し続けることがわかったことは大変な収穫である。それではなぜそうなったかが興味あるところである。これも時間の関係で深く踏み込めなかったが素晴らしい成果であると思う。
 「バングラデッシュにおける衛生に起因する健康リスクと軽減方策の適正概念」は、ODAの悩みを学問的にまとめようとした意欲的な発表である。ここでは、衛生に起因する健康リスクはどういうものか、また、健康リスクを軽減する適正技術、求められる条件を探っている。また、バングラは現在飲料水にヒ素が含まれているので、その対策とシステム改善のための方策を述べている。良かれと思って行うことが裏目に出ることはODAにはままある。
 「途上国援助の視点についての考察」については、日本のODA大綱について述べ、実際の援助と照らし合わせている。その上で援助のあり方に言及している。
 “Current Status,Comprehensive Management Tool For Sustainable Development in Water Supply,Waste Water and Storm Water Disposal of Dhaka City”はダッカ市の水道、下水・都市排水行政の経緯、現在行われている行政、問題点を述べている。バングラデッシュ国ダッカ市の行政の難しさは、人口が1000万人、アジアの大都市である。
 しかし、財政が豊かでなく、この先の見通しがない。苦悶が語られた。
 繰り返すが、このセッションはきわめて質の高い内容であったことを皆様にご報告したい。

ページのはじめへ

 セッション3 下水文化研究

妹崎 大次郎 東京設計事務所

 セッション3では8編の発表が予定されていましたが、日程上の都合等により2編が急遽発表が取りやめになりました。
 「海外における上下水道事業民営化の動向」では、欧米諸国における上下水道事業の民営化方式の違いやその動向等、我が国でも注視されている話題についての報告でした。
 引き続いての「水道事業の公民連携反対論を検証する」では、公共サービスの公民連携、いわゆる民営化に対しての国内ばかりでなく海外でも様々な反対論・否定論が主張されていることに対して、それら多くの反対論・否定論はほとんどが誤解と情報不足に起因していると論破されるなど、先の発表と合わせ興味深い発表でした。
 次の「雨水の雑用水道等への利用 〜福岡市の雨水利用大作戦〜」、「都市流域における水環境形成のための水循環再構築」の2編は、福岡市における過去の大渇水を教訓とした具体的な取り組みの現状と、河川流域での下水道整備に伴い生じる問題点に対し、良好な水環境形成のためには今後どうあるべきかという計画手順と、その結果の施策に対する評価・選定プロセス等についての報告でした。
 結果として2編の論文とも流域住民の理解と協働とがこれら施策を進めていく際に不可欠であると述べられ発表をとりまとめられました。
 「下水道のシステム転換 −進化下水道学事始め−」は、わが国の下水道システムの歴史を概説し、“生命と環境を守る”という下水道システムの基本哲学から、家庭を聖域としない新しい制度を実現すべきであり、進化下水道学という体系の必要性を述べるなど非常に示唆に富んだ内容であり、会場との意見交換も活発に行われた発表となりました。
 最後となった「処理基準を上げ下水行政を一本化せよ」の発表では、発表者の下水道行政に対する経験等から、下水道類似施設に関連した縦割り行政の弊害、処理基準、そして流域下水道、合流式を始め、様々な単位施設の問題点等を辛辣に批判し、今後どうあるべきかの意見を開陳されました。
 セッション3は以上6編の発表が行われました。題名はそれぞれ異なりましたが、その根幹のテーマは全て公・民(私)の協働が不可欠ということではなかったかと思います。
 各発表の進行をスムーズに行うべき座長が、一人の聴衆として熱中しすぎるなどの不手際もあり、発表者の皆様に改めてお詫びすると共に、それぞれの発表時間も20分を越すほどの熱気に包まれたセッションであったことをご報告します。

ページのはじめへ