115小熊英二「『共和国』の理想とは」( レジス・ドブレ著『娘と話す国家のしくみってなに?』の解説文 現代企画室 2002年7月刊)(2006/04/02搭載)

レジス・ドブレ著『 娘と話す国家のしくみってなに?』 ( 現代企画室 2002年7月刊)の解説文を、小熊英二さんが書いていますが、その中に、次のような記述があります。同書116ページより。

…… もっとも、ドプレのいうような意味での「国民」を唱えていた人も、日本にいなかったわけではありません。戦後の知識人として有名な丸山眞男は、「国民は国民たろうとするものである」と述べて、言語や風俗、文化的伝統などを共有しているだけでは「たかだか人民ないし国家所属員であって、「国民」ではない」と唱えていました。
 また、作家の小田実は、アメリカの海兵隊将校と話しあったさい、その将校が「海兵隊には不合理な命令には不服従できるという規則がある」「たとえば、私に大統領が議会に軍隊をさし向けよというような命令を下すなら、私は大統領と戦うだろう」と述べたことを聞いて、日本では「護られるべき「祖国」とは何なのかという考察」がないまま、「愛国心」が説かれていると書いています。
 そして、小田がベトナム反戦運動にとりくんだとき、彼はベトナム行きを拒否して脱走した米兵を援助しました。そのとき米兵たちは、人類の平等をうたった「アメリカ憲法の原理」がベトナムで踏みにじられている以上、それに逆らう自分たちは「愛国的脱走兵」だと名乗っています。小田はこれを聞いて、自分たちの考える原理が彼らの「アメリカの原理」である以上、自分たちはどこへ行こうとアメリカ人なのだ」と考え、これは「地縁」や「血縁」にもとづいた「大和魂」などとはまったくちがうと唱えていました。こうした事例を考えると、六〇年代の運動も、ドプレのいう「共和国の理想」とまったく無縁ではなかったといえます。……

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