101中国新聞「時を超え踊るロゴ 『殺すな』 平和運動 すそ野広げる ――岡本太郎のヒロシマ(4)」(『 中国新聞』 2005.02.04)(2005/02/13搭載)

 『中国新聞』は、「文化」欄で、シリーズ「明日の神話」を連載しているが、2月1日からは、「第2部 反戦と反骨 岡本太郎のヒロシマ」と題し、文化部の道面雅量記者による4回連載の記事を載せた。その4回目の2月4日号では、ベ平連が1967年に米『ワシントンポスト』紙に載せたベトナム反戦意見広告の文字、岡本太郎さん筆の「殺すな」をめぐる話題をとりあげ、今、イラク反戦運動の中で、美術評論家らによる新しい運動にもつながっているとして、以下のような文を掲載している。
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明日の神話
第2部 反戦と反骨  岡本太郎のヒロシマ
時を超え 踊るロゴ 「殺すな」
平和運動 すそ野広げる

 二〇〇三年三月、イラク戦争開戦に際して世界的規模で反戦運動が盛り上がった。日本でも、被爆地広島で約六千人が「NO WAR(戦争) NO DU(劣化ウラン弾)!」の人文字を書くなど、運動が各地に広がった。
 そんな中、東京の繁華街に現代美術家らによる一風変わったデモ集団が出現した。手に手に握るのは、デザインもさまざまに「殺すな」と書いたプラカードやのぼり。三月二十一日、結成して初のデモには約三百人が集い、他団体と共同の行進でもひときわ目立った。
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 この「殺すな」の題字、実は岡本太郎が書いたロゴがモチーフになっている。一九六七年四月三日付の米紙ワシントンポストに、ベトナム反戦の意見広告として載った。作家の小田実さん、哲学者の鶴見俊輔さんらが率いた「ベトナムに平和を!市民連合」(べ平連)の運動に協力し、岡本が筆を執ったものだ。
 「不吉な感じさえする、この字の迫力に突き動かされた」と、デモの発起人で美術評論家の椹木(さわらぎ)野衣さん(42)は言う。岡本を論じた雑誌連載を終えたばかりのころ、友人と喫茶店で話していて突如、この字が脳裏に浮かんだ。イラク開戦が迫る中、主として美術関係者にインターネットで呼び掛け文を発信した。
 「突然ですが、反戦運動を始めます。名前は『殺すな』」−。三十数年前に書かれた岡本のメッセージが、時を超えて現在の美術家らを呼び覚まし、異色のデモが始動したのだった。
 岡本がロゴを書いた新聞広告のコピーを、べ平連の元事務局長吉川勇一さん(73)=西東京市=に見せてもらった。全面の上半分に「殺すな」の字が躍り、下半分に英文で「日本の市民の訴え、ヒロシマからの声」として、ベトナム爆撃停止を求めるアピールと市民九人の意見が載っている。
 アピールは「われわれはヒロシマとナガサキの苦痛に満ちた経験からこのことを言いたいのだ」とうたう。九人の中には小学生も東大教授も作家も主婦も、広島の原爆詩人栗原貞子さんもいる。
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 「殺すな」の文案はべ平連が示し、岡本が快諾したという。吉川さんは「あのころの常で、岡本さんには無償で書いてもらった上、お金も出してもらったと思う」と苦笑する。
 そして、表情を引き締めてから言った。「ベトナム反戦運動は、日本が政治的・経済的に戦争に加担していることを見据えて進める必要があった。そういう錯綜した現実にも、『殺すな』の簡潔で普遍的なメッセージは切り込めた」。以後、岡本のロゴはバッジなどのべ平連グッズに転用され、国内でも運動のすそ野を大きく広げた。
 椹木さんと共同でデモ発起人になった美術家の小田マサノリさん(38)も、「殺すな」に宿る「切断の力」を強調する。「僕たちはメディアで入手できる情報量が多過ぎて、イラクの状況や背景を知ろうとすればするほど、判断停止に追い込まれる。べトナム戦争の時より、もっと錯綜した現実がある。でも、人間であることの根源的条件である『殺すな』には、その呪縛を断ち切る力がある」
 岡本のロゴにその力をもらった小田さんたちは、十回を超えるデモを重ね、美術展やライブの形でも「殺すな」運動を続けている。原爆をテーマに「明日の神話」を描いた岡本の精神は、多彩な逸話の中で今も生きている。     (道面雅量)
=第2部おわリ
【写真説明】
「殺すな」とデザインしたプラカードを掲げ、東京都内で反戦デモをする美術家らの集団=2003年3月21日 (奥村Takeshiさん撮影)                                                                                                                           
 岡本のロゴによる反戦広告が載ったワシントンポスト紙のコピー。岡本太郎記念館(東京・南青山)に随時展示されている

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