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第118号(2000年11月28日発行)

建設省経収発第388号
 裁 決 書

審査請求人 那覇防衛施設局長  山 崎 信之郎

 上記審査請求人(以下「請求人」という。)が平成10年6月17日付けで提起した審査請求について、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第40条第3の規定に基づき、次のとおり裁決する

主 文 審査請求に係る処分を取り消す。

事 実
1.審査請求に係る処分日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(昭和27年法律第140号。以下「駐留軍用地特措法」という。)第14条において適用する土地収用法(昭和26年法律第219号。以下「法」という。)第47条の規定に基づき、沖縄県収用委員会5月19日付けでした却下の裁決(平成8年(権)第8号、平成8年(明)第8号(嘉手納飛行場2)。以下「本件処分」という。)

2.審査請求の趣旨
 本件処分を取り消すとの裁決を求める。

3.審査請求の理由の要旨
 請求人が主張する審査請求の理由の要旨は、次のとおりである。以下のとおり、国土調査法(昭和26年法律第180号)に基づく国土調査の成果としての認証が得られていない土地(以下「未認証地」という。)であっても、使用しようとする土地が現地に即して特定されている以上、駐留軍用地特措法の手続をとることができる。したがって、処分庁が、本件処分に係る裁決申請(以下「本件申請」という。)について、法第48条第1項第1号の「使用する土地の区域」を特定できないため法第40条に違反し、法第47条第1項の「この法律の規定に違反するとき」に該当するとし、また、本件申請については補正になじまないとして、却下の裁決をしたのは、違法又は不当である。

(1)本件申請に係る土地(以下「本件土地」という。)については、以下@ないしFのとおり事実上現地に即して特定されている。また、以下GないしHの過去の判例のとおり、未認証地である土地の特定は可能である。
@ 本件土地を含む字等の区域とこれに隣接している字等との区域との境界は確定している。
A 本件土地を含む字等の区域内で、本件土地とその隣接地との境界を除きすべての土地の境界は関係土地所有者において確認済みである。
B 本件土地と隣接地との境界について、隣接土地所有者は全員、沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法(昭和52年法律第40号。以下「位置境界明確化法」という。)所定の手続により確認済みである。
C 本件土地はその土地所有者名義で所有権保存登記がなされている。
D 昭和57年4月1日付けでなされた使用の裁決において本件土地の所有者が認定され、当該所有者は補償金を受領し、補償金については不服を申し立てたことがない。
E 土地所有者が位置境界明確化法所定の位置境界確認の押印を拒否している理由は、本件土地の位置境界について異議を述べているためではない。
F 請求人の認定した本件土地の所有者は、隣接所有者と本件土地の位置境界について争っていない。
G 沖縄県知事に対する職務執行命令訴訟における福岡高裁那覇支部平成8年3月25日判決は、本件土地と同様に未認証地であるキャンプ・シールズ内の土地について、上記@ないしDの事項に係る事実を認定した上で、「土地・物件調書となるべき図書及びこれに添付すべき実測平面図を作成したことは一応の合理性が認められ」るとし、最高裁大法廷平成8年8月28日判決も、「原審(福岡高裁那覇支部平成8年3月25日判決)の適法に確定した事実関係の下においては、本件調書の記載事項の調査方法や土地調書に添付すべき実測平面図作成方法に違法の点はなく、これらは何れも適正に作成されたものということができる」としている。
H 福岡高裁那覇支部昭和58年11月22日判決は、本件土地と同様に未認証地である土地であっても時効取得をすることができ、土地の特定が可能である旨の判断を行っている。駐留軍用地特措法により土地を使用する場合の土地の特定の方が、時効取得によるそれよりも、より厳格な土地の特定が求められているものではない。

(2)本件土地については、位置境界明確化法に基づく認証手続が完了していなくても、昭和57年4月から過去三度にわたって処分庁が本件土地の特定が可能であるとして使用の裁決をしている。一方、昭和62年2月時点から本件申請の時点までの間、本件土地の形質が大幅に変更されるといったような事情がなく、過去に2度なされた使用の裁決の場合も本件処分の場合もともに処分庁は現地の状況を確認している。
 このような事情の下で、過去に2度なされた使用の裁決の場合と同様に本件土地が特定されていることを前提として本件申請をしたのにもかかわらず、処分庁は、過去の裁決の適否を判断する権限を有しないとして本件申請を違法と判断し本件処分を行ったが、
 @ 本件土地が特定されているかどうかは事実認定に係る事項であるところ、前記のように土地の特定という事実認定に係る事項について変更が生じておらず、また、処分庁も現地の状況を確認しているといった事情の下に、本件申請をし、
 A 例え収用委員会であっても行政機関である以上、行政に継続性があるため過去の裁決の判断の適否を判断する権限を有しないとはいえないのであるから、本件土地が特定されてないとする処分庁の判断はあり得ないものである。

(3)本件土地に係る駐留軍用地特措法第5条の認定(以下「本件認定」という。)の申請の土地等の調書における土地の所在、地番、数量と本件申請の土地調書におけるそれとは土地の場所を示す表現としては同じであり、しかも本件認定の申請書に添付された実測平面図と同一内容のそれを本件申請において添付していることから、本件認定を受けた土地と裁決申請対象土地が異なることはあり得ない。したがって、本件申請において添付された実測平面図によって特定される土地は本件認定を受けた土地そのものである。

理 由
 本件処分は、その理由において、要するに、本件土地が未認証地であるがゆえに、本件申請は、その添付書類中の記載事項である法第40条第1項第2号イからニまでに掲げる事項のうち、土地の所在、地番、土地の面積並びに土地所有者及び土地に関して権利を有する関係人の氏名及び住所について対応関係をもって特定されていない等により、同号の規定に違反するため、法第47条の規定に基づき却下するというのである。
 ところで、駐留軍用地特措法に基づき土地を使用しようとする場合における法第39条の規定による収用委員会の裁決の申請は、法第40条の規定による裁決申請書(以下「裁決申請書」という。)及びその添付書類を収用委員会に提出して行わなければならない。もとより、裁決申請書及びその添付書類の記載事項は、それを基に収用委員会が裁決をなすのに必要な事項であるから、当該添付書類のうち同条第1項第2号に掲げる書類については、同条第2項に該当する場合を除き、その記載事項により、当該使用がなされる土地と土地所有者及び土地に関して権利を有する者が対応関係をもって特定されることが必要である。この記載事項のうち、同号イに掲げる土地の所在地、地番及び地目(以下「土地の所在等に関する事項」という。)については、土地が土地登記簿上の各筆ごとにその所有権等の権利の客体となることから、通常は、土地の所在等に関する事項を記載すれば必要にして十分といえるのである。
 しかしながら、未認証地にあっては、土地登記簿の記載事項、不動産登記法(明治32年法律第32号)第17条の地図に準ずる図面として登記所に備えられた旧土地台帳附属地図(いわゆる公図)等と現地との間に不一致があることが多く、土地の所在等に関する事項のみで土地を特定することが国難な場合があるところ、そのような土地を駐留軍用地特措法に基づき使用しようとする場合には、本件のように、位置境界明確化法第10条第1項の関係所有者による確認のための押印を拒んでいる土地所有者が存在するため地籍が確定しないというような場合があり得るのであるから、その手続に先立って国土調査法に基づく国土調査や位置境界明確化法による位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化のための措置を行うべきことを前提とすることは、未認証地であるという一事をもって駐留軍用地特措法に基づく使用ができないというに等しいのであって、駐留軍用地特措法及び法の解釈として妥当でない。
 そもそも、裁決申請書の添付書類に法第40条第1項第2号イに掲げる事項を記載するのは、使用しようとする土地を現実に特定し、かつ、駐留軍用地特措法第5条の認定により駐留軍用地特措法第3条の要件を満たすものと判断された土地の区域内にあることを確認するためである。ゆえに、土地の所在等に関する事項のみで土地を特定することが困難な場合における裁決申請書の添付書類には、むしろ、単純に土地の所在等に関する事項を記載するのでは足りず、土地の所在等に関する事項を可能な限りで記載し、又はそれを「不明」と記載した上で、使用しようとする土地を別途の方法により特定しなければならないのであって、その特定は、駐留軍用地特措法第5条の認定により駐留軍用地特措法第3条の要件を満たすものと判断された土地の区域との関係が明らかとなる程度に、かつ、権利取得裁決の裁決すべき事項を定めた法第48条第1項第1号の「使用する土地の区域」として現地に即して明らかとなる程度にされることを要し、それで足りるものと解すべきである。
 また、法第40条第1項第2号ニに抱げる事項としての使用しようとする土地に対応する土地所有者及び関係人の氏名及び住所は、それが防衛施設局長が過失なくて知ることのできないものであれば、同条第2項の規定により裁決申請書の添付書類に記載することは要しないとされており、仮に、収用委員会が審理の結果に基づきそれが不明であると判断するなら、法第48条第4項ただし書の規定により土地所有者又は関係人の氏名及び住所を確知できないとして裁決すれば足りるのである。ゆえに、土地の所在等に関する事項のみで土地を特定することが困難な場合における裁決申請書の添付書類については、防衛施設局長が過失なくして知り得る限りで土地所有者又は関係人の氏名及び住所を記載すれば足りるものと解すべきである。以上を踏まえ、本件申請及び本件土地に係る事実関係について審査した結果、次のとおり判断する。

(1)本件認定の申請書に添付された土地等の調書に添付された実測平面図(以下「本件実測平面図という。)と同じ内容のものを法第40条第1項第2号の書類の一部として添付していることが認められ、これにより、本件認定により駐留軍用地特措法第3条の要件を満たすものと判断された土地の区域の全部を使用しようとしていることが明らかにされているものと認められる。

(2)本件実測平面図の示す土地の区域は、本件土地が含まれる各字等の区域内において、本件土地とその隣接土地との境界を除きすべての土地の境界は関係土地所有者において確認済みであること、本件土地とその隣接土地との境界について隣接土地所有者は全員確認済みであること、本件申請において本件土地の所有者とされている者(以下「本件土地所有者」という。)も本件土地の位置境界を争っているわけではないから、本件土地は、現地に即して特産されており、これをもって権利取得裁決の裁決すべき事項を定めた法第48条第1項第1号にいう「土地の区域」の特定としても十分なものと認められる。

(3)本件土地が含まれる字等の区域自体の位置境界は確認済みであること、当該区域に関しては、本件土地に隣接する土地の所有者は、すべて、本件土地との境界について確認済みであって、本件土地に関して所有権を主張していないこと、他方、本件土地所有者は、過去の使用の裁決において、本件土地と同一の位置及び範囲の土地について補償金を受領してきたことが認められる。これらの事情を総合すると、位置境界明確化法による位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化のための措置が未了であるとしても、本件土地は、本件土地所有者の所有に属するものと認められるから補償金を受ける者も確定しているというべきである。

 処分庁は、本件申請における本件土地の特定について、本件処分の理由第2の2(3)において「地籍が確定していない以上、土地の特定はあり得ない」といい、並びに本件処分の理由第2の3において「その場所が、土地の所在、地番、地積、土地所有者及び関係人で特定された使用認定を受けた土地そのものであるという特定はできなかった」、「未契約の本件裁決対象土地の位置や面積等の特定ができない」及び「本件裁決申請対象土地は、未認証の土地なので、使用認定を受けた土地表示と本件裁決申請による土地調書添付の実測平面図との整合性がない」というが、上述のとおり、いずれの判断も失当といわざるを得ない。また、本件処分の理由第2の3において「未契約の本件裁決対象土地の位置や面積等の特定ができない」というが、本件土地に、請求人が契約により任意に使用権原を取得した土地が含まれていないことまでを処分庁が確定する必要はなく、仮に、それが含まれていたとしても、その土地が本件認定により駐留軍用地特措法第3条の要件を満たすものと判断された土地の区域内であって、かつ、駐留軍用地特措法第1条の駐留軍の用に供されるものであれば、使用に必要な限度という法第48条第2項所定の要件を満たすのであるから、本件土地の全部について使用の裁決を行うことの障害にはなり得ず、このことにより本件申請が違法となることはない。
 結局、本件申請は、何ら法第40条の規定に違反するものではなく、本件申請を同条第1項第2号の規定に違反するとして法第47条の規定に基づき却下した本件処分には、法の解釈を誤った違法があり、法第131条第2項の規定を適用する余地もないから、取消しを免れない。よって、主文のとおり裁決する。

  平成12年11月17日
  建 設 大 臣   林 寛 子