沖縄差別立法への反撃

 米軍用地収用特措法の改悪の内容は、当初マスコミの報道によれば「県収用委員会の公開審理が開かれている間は継続して使用する権限がある」とする一文を付則でつけ加えるだけと言われていましたが、しかし、中身が明らかになっている今日、それは、沖縄差別そのものであります。

 20年前の「公用地暫定使用法」の期限切れの時も「地籍明確化法」の付則に「公用地暫定使用法」を付け加えて延長しました。今度で強制使用に関する法律の改正問題は二度目になります。そもそも米軍用地収用特措法が準拠している土地収用法自体が弱者をいじめる違憲性の強いものであります。

 よって、米軍用地特措法に至っては、より一層の違憲性の強いものであり、改正ではなく廃棄するのが当然であります。

沖縄と「本土」の温度差

 米軍用地収用特措法に対する問題は、この間の基地問題に対するいわゆる「温度差」問題と根本的にはひとつであります。すなわち「本土側」で特別立法ではなく、米軍用地収用特措法の付則に一条を加えるだけだから、いいのではないかという認識であります。しかし、沖縄においては文字通り沖縄差別立法として認識されています。この落差は大変大きいものがあります。

 したがって、私たちは、この温度差を埋める努力もしなければなりません。

米軍用地収用特措法改悪の違憲性

  1.  改悪は、単なる条文の変更にとどまらず、米軍用地収用特措法の法的性質そのものを変更するものであって、「有事立法」の新たな新設であります。
  2.  現行の米軍用地収用特措法は、収用法の一法体系と考えられていました。そのため、土地収用法を準用し、県収用委員会が裁決権限を有するとの解釈がなされてきました。
  3.  これを前提として、使用権限を取得するには使用期間全期間の補償金を全額一括して支払わなければ期間中の使用権限を取得しないと解釈してきました。そのため、阿波根さんのように不当な重税が課せられてきました。
  4.  形骸化してはいるが、法定の収用手続きを履行することと、補償金支払いが義務づけられてきました。
  5.  審理期間についても、地方の主体性を維持するため、各県収用委員会の権限としてきました。

 〔憲法29条(財産権の保障)、憲法31条(適正手続きの保障ー刑事に関する条項であるが不利益扱いについては準用される)、憲法92条以下(地方自治)〕

 ところが、今回の法「改悪」は、以上の基本を完全に破壊するものであります。

主な条文の内容解釈

  1.  内閣総理大臣による使用認定(強制使用することのできる事業として内閣総理大臣が認めること)のあった土地について県収用委員会に裁決申請がなされたが、使用期間末日(今回で言えば、5月14日)前までに裁決が認められない(県収用委員会が強制使用裁決の決定をまだ下さず、審理が継続中)場合にも、裁決において定められる期間まで引き続き土地を継続して使用することが出来る。
     審理が継続中で、未だ裁決が下されていないから、本来は占有継続することが出来ないにもかかわらず、裁決が下りるまで継続して使用することができ、土地を返還する必要はない。
  2.  その際には、6カ月ごとに自分が見積もった金額(損失補償金)を土地のある供託所に供託する。地代相当額ではなく、いきなり損失補償金を供託する。
  3.  裁決申請が却下されても、土地を返還する必要はなく、防衛施設局長から建設大臣に対し審査請求(裁判でいえば、控訴のようなもの)をすれば、その間も継続して使用することができ、建設大臣が県収用委員会と同一の判断をして申請を却下するまでは継続して使用することができる。
    県収用委員会が却下しても、建設大臣に不服申立をするだけで、継続的に使用することができる。
     建設大臣がいつまでも決定しなければ、県収用委員会が使用してはいけないと判断している土地を何時まででも継続して使用することができる。
    ちなみに、反戦地主会・一坪反戦地主会は5年前の強制使用に対し、建設大臣に審査請求をしたが、5年を経過した今日まで審査は放置されている状態である。
     そうなると、暫定使用名目で申請している強制使用期間以上の使用が可能となる。
     裁決に対する不服申立については、中断効力が及ばないとされており、県収用委員会の決定は、これが覆せば、また、却下した状態での審理が継続することになり、審理中ということで継続使用ができる。
  4.  供託した補償金は、地主に支払う必要はなく、地主が請求した場合に初めて、全部又は一部を支払う。
  5.  暫定使用期間中の補償金は、地主と防衛施設局が話し合いで決めるが、決まらない時は、県収用委員会が裁決で決める。

    (付則)に次の条項を入れる
  6.  法律が施行される前に裁決申請をした土地で、施行期日前に既に使用期間が満了しているのに権利取得ができていない土地(象のオリ)についても、この法律を適用する。
  7.  暫定使用期間前の損失については、損失者と施設局が話し合う。決まらない時は、県収用委員会が裁決で決める。

法「改悪」の憲法違反

  1.  土地収用法は、内閣総理大臣による「使用認定」(強制使用してもよい事業であると内閣総理大臣が認めること)と、県収用委員会による「使用裁決」「明渡裁決」(土地を強制的に明け渡して使用させるとの決定)を経て、明け渡し期間の損失補償をして、初めて使用が開始する。
    この三つの要件のうち、一つの内閣総理大臣による「使用認定」があれば、暫定使用の名目で土地を取り上げることが出来る。(憲法29条、憲法31条に反する)
  2.  県収用委員会が却下しても、防衛施設局は審査請求を出して不服申し立てをすれば、その結論が出るまでは、暫定使用が出来る。
    地方自治の原則から、県収用委員会の権限に委ねる趣旨であると解釈されていたにもかかわらず、県収用委員会の(土地を取り上げることは許されないとの)判断を否定することであり、地方自治(憲法92条以下)の原則に反する。
  3.  補償金は、地主に支払わず、いきなり供託することで、土地を取り上げることが出来る。(憲法29条、憲法31条に反する)
    手続き保障と補償金の支払いで、はじめて国は使用権限を取得するとの原則を否定するものである。
  4.  法「改悪」前にすでに不法占拠状態になった土地にも暫定使用を認めるものであって法律不遡及の原則(憲法39条の準用)に反する。

 以上の通り手続きは、憲法違反である。

法「改悪」の問題点

  1.  内閣総理大臣の使用認定(土地を取り上げてもよい事業であるとの認定)だけで、個人の財産を取り上げることが出来るもので、まさしく「土地強奪法」で「有事立法」である。
  2.  県収用委員会が却下の判断をしても、防衛施設局が建設大臣に対して異議を出せば、いつまでも暫定使用ができる。建設大臣が却下決定を覆せば、再び継続使用ができるが、その間も国は何ら支障なく土地を使用し続けられる。
     これは、米軍用地収用特措法、土地収用法の完全な変更であり、地方自治を否定するばかりではなく、収用委員会制度の形骸化と無力化を進めるものである。
  3.  これまで違法占拠であったものを遡及して適法にするものである。これは、法の統治の原則を否定し、不遡及の原則にも反するものである。
  4.  暫定使用に対しては、これを救済する手段が定められていない。
    使用裁決に対する審査請求、取り消し訴訟等の行政的、司法的救済の道があるが、暫定使用には救済手段がなく問答無用の土地取り上げである。
  5.  公用地暫定使用法以上に強権的な土地強奪法である。
    実際には沖縄のみに適用されるのであって、憲法95条による住民投票を要するものである。
  6.  違憲状態にある「象のオリ」の規定を本則に入れず、付則に入れるのは、県民感情を考えて付則にしたなどと言うが、本則に入れれば、改正条項が明確に、「象のオリ」を示すものであり、一地方にのみ適用される法律であるとの論議を生じる。
     そうすると、当然、95条により、当該地方公共団体の住民の過半数の同意を得る必要があるか否かが問題となる。
     本則は、日本本土でもありうることであり、全国的適用法との言い逃れができるが、付則部分は、沖縄にしか適用されない条項であることは明らかである。そうすると、県民投票を要するか否かの論議を生じるから、これを付則に外し、住民投票問題を回避しようとしているのではないか。
    なお、付則の法的効力と付則部分についても、憲法95条の特別法といえるのかが議論されなければならない。

 以上の通り、「改悪」案は極めて違憲・違法な法律であり、決して制定させてはならない。

                    1997年3月31日       

反戦地主会  


 出典:三宅俊司弁護士 > 沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック
 米軍用地収用特措法改悪は「有事立法」の制定である(一坪反戦地主会)
 米軍用地特措法改正案要綱(案)
 法律案参照条文
 米軍用地特措法改悪案(全文)(沖縄タイムスへリンク)
 沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック