海上ヘリ基地建設に反対し、平和と環境を守る共同宣言

一九九八年一月五日 

海上ヘリ基地建設に反対する市民団体連絡協議会 

 沖縄では、最近基地問題をめぐって二度の住民投票が行われた。この二つの住民投票は、何よりも住民自治の最高の発現であるとともに、住民自らが自立と平和の確立に向けて「自己決定権」を行使したものであったと言うことができる。一昨年九月八日の県民投票は、悲惨な沖縄戦の体験にくわえ、戦後米軍が「銃剣とブルドーザー」によって建設した軍事基地に対して、圧倒的多数の県民の根強い基地拒否の姿勢を明確に表明したものであった。そして、昨年十二月二十一日に行われた名護市民投票は、新たな基地建設に対して、全国的にも初めて住民が「ノー」を表明した画期的な投票であった。

 この名護市の市民投票は基地の新設の賛否を問うものであったはずである。しかし実際に議会が可決した条例は、振興策をからませて、基地反対か振興策かというねじれた争点を意図的に作り出すものであった。しかもこの投票では、賛成票獲得のため、大臣・政府高官の現地派遣や、自衛隊員、防衛施設局職員ら国家公務員の動員や、国家予算の私物化とも言える振興策の提示などがあり、国の介入には目に余るものがあった。それに、企業ぐるみで行われた不在者投票は名護市民有権者の二割に達するという前代未聞の異常なものであった。そのような状況のなかでも、しかし名護市民は賛成・条件付き賛成に七・七ポイントの差をつけ、過半数が基地反対に投票したのである。条件付き賛成派にも、本音では基地に反対しつつ、「基地がなければ振興策もない」という政府の脅しに心ならずも条件付き賛成を選択せざるを得なかった人びともいたのである。そして基地「賛成」が一割にも満たなかったことをみれば、民意はあまりにも明白である。

 にもかかわらず、名護市長は基地受け入れを表明した。市長が提案し、議会によって可決制定された市民投票条例は、投票結果を尊重することを求めている。そして市長自身も投票結果を尊重することを明言していた。しかし市長は、自らそれを踏みにじったのである。この市長の行為は明らかに民意に背き、議会に反するものであり、直接民主主義も間接民主主義もともに否定する行為にほかならない。もとより市長の基地受け入れの表明は、法的には全く無意味なものであるが、しかし市長が重大な市の政治姿勢について住民・議会に説明することなく、一人の独断で行なったことは、独裁に等しいと言わざるを得ない。くわえて、市長は基地受け入れの表明と同時に辞表を提出し辞職した。民意を否定したうえ、自らは責任を負わない立場へ逃避したのである。これは、二重三重の民主主義の否定である。

 海上ヘリ基地(米軍海上航空基地)建設予定地になっている辺野古沖の海域は、サンゴと海草類を中心に健全な生態系を保っている点で沖縄屈指の海域であり、しかも国の天然記念物に指定され、国際条約によって保護が定められているジュゴンの生息地として注目されている海域でもある。この海域に、巨大な軍事基地を建設し、沖縄の自然環境をさらに破壊することは、将来に大きな禍根を残すとともに、地球環境の保全という近年の世界の趨勢に逆行するものである。

 沖縄のように、五十余年に及んで他国に軍隊が基地を集中させ、占領同然に支配してきたところは世界に例がない。「基地の中に沖縄がある」と表現されるように、沖縄の全域が巨大な軍事基地に囲まれて、人びとはまさに基地のフェンスにへばりつくように、ひしめき合いの生活を強いられ、そして当然、日常的に基地のさまざまな被害を受け、「安保」の支配の下に、頻発するひどい人権蹂躙の事件・事故にも泣き寝入りを強いられてきた。このような沖縄の極めて異常で悲惨な状態を、世界の良識は決して認めるわけがない。沖縄県民が新たに基地を受け入れるとなれば、それこそ県民自らが進んで日米両政府の「基地奴隷」になることであり、それはまた他国・他民族に対してこれからもさらに加害者の立場に立つことを意味する。

 国の振興策というのは、全国平等に行われるべきものである。沖縄は、全国一県民所得の低い地域であり、基地と関係無しに振興策をとるべきは国の責任である。沖縄だけが基地と引き代えに振興策がとられなければならないとすると、これこそ明らかに、沖縄を「内国植民地」として扱うものであり、歴然たる不平等・不公正な国家行政と言わなければならない。このようなことは、人道的のも許し難いことである。

 われわれは沖縄の歴史と現状をふまえ、かつ以上述べた所見を添えて、ここに、新たな海上ヘリ基地建設に断固反対し、普天間基地の無条件全面返還といっさいの軍事基地の撤去を求めて、平和と環境を守ることを宣言する


海上ヘリ基地建設に反対する市民団体連絡協議会の参加団体・代表者名(受付順)


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