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2008年05月15日

犯罪学理論を通じた「マイノリティ」と権利の理解

 (2008年度春学期のシラバス)

【授業内容】
 「マイノリティ」という存在は、必ずしも社会的な実態として先にあるわけではない。むしろ「マイノリティ」というレッテルが社会統制の場面で利用されているところに「マイノリティ」の本質がある。
 そうした動きが特に顕著なのは「犯罪」や「治安」を巡る言説である。古くから、「犯罪」は「社会問題」であるとされてきた。しかし犯罪に対処する活動は、実は抑止するべき「マイノリティ」を階層的に創出する過程に他ならない、という理解も可能である。その意味では「社会問題」は意図的に作り出されるのである。犯罪学は、経験科学というよりも、むしろそうした層を創出するためのツールとして提供された、という捉え方もできる。

 「治安」に対する関心が社会的に高まっている最近の状況では、こうして作り出される「マイノリティ」像の多様化も見られる。だとすれば、犯罪学/刑事政策論を研究する観点からは、誰が統制されるべき存在とされているかをしっかりと検証していくことが求められる。
 そうした観点に立って「排除」の論理を検証するためには、検証する自分たち自身の立ち位置をも自覚する必要がある。人権を考えることはそれを捉えなおすための好機でもあり、有効な対処手段を講じるための基盤でもある。
 授業では「犯罪学」や種々のマイノリティ論を通じて、どのような「マイノリティ」が創出され、排除されているかという点を、理論面、実態面を含めて検証してみる。

【授業計画】
- 犯罪者像として語られる「マイノリティ」像
- 近代犯罪学が想定した犯罪者像(ロンブローゾの「生来性犯罪人」)
- 社会問題の構築(「マイノリティ」像が作られる過程)
- 社会学的犯罪学(緊張理論、学習理論、文化葛藤理論)の「マイノリティ」像
- ラベリング論、ラディカル・クリミノロジーと人権保障的アプロ一チ(政治的犯罪学)
- 社会的排除/排除型社会の現実(「社会的排除」概念とグローバリゼーション)
- ソーシャル・インクルージョンとしての改善・社会復帰のための刑事政策
- 「外国人犯罪」、少年犯罪などが問題視されるコンテクスト

【参考文献】
犯罪学に関する書籍,論文などを授業中に指示する。
ヤング「排除型社会」(洛北出版)
ベッカー「アウトサイダーズ」(新泉社)
「外国人包囲網-治安悪化のスケープゴート」(現代人文社刊)
浜井・芹沢「犯罪不安社会」(光文社新書)
ライアン「監視社会」(青土社)
河合「安全神話崩壊のパラドックス-治安の法社会学」(岩波書店)
上田「犯罪学講義」(成文堂)
菊田「ホーンブック犯罪学」(北樹出版)
鮎川「少年犯罪」(平凡社新書)
徳岡「少年司法政策の社会学」(東京大学出版会)
藤本編「アメリカ犯罪学事典」(勁草書房)
バラ他「グローバル化と社会的排除」(昭和堂)
ダルモン「医者と殺人者-ロンブローゾと生来性犯罪者伝説」(新評論)
グールド「人間の測りまちがい-差別の科学史」(河出書房新社)
渡辺「司法的同一性の誕生-市民社会における個体識別と登録」(言叢社)
など。

なお、元となる文献資料としては以下も参照:
フーコー「監獄の誕生ー監視と処罰」新潮社
フーコー「狂気の歴史ー古典主義時代における」新潮社
フーコー「性の歴史I 知への意思」新潮社
ドレイファス&ラビノウ「ミシェル・フーコー 構造主義と解釈学を超えて」筑摩書房
ライクマン「ミシェル・フーコーー権力と自由」岩波書店
ゴッフマン「スティグマの社会学」せりか書房
ゴッフマン「行為と演技」誠信書房
ゴッフマン「アサイラム」誠信書房
キッセ&スペクター「社会問題の構築」マルジュ社
デュルケム「社会学的方法の規準」岩波文庫
デュルケム「自殺論」中公文庫
デュルケム「社会分業論」青木書店

投稿者 teramako : 2008年05月15日 00:52

コメント

寺中先生、

「誰が統制されるべき存在とされているか」を問うことが、
まさに、誰が刑罰や刑事司法プロセスの中で
差別され排除されているかのを問うことと
同義なんですよね?

刑事司法に遭遇する人は
元々何らかの意味で社会的弱者であることにより、
差別され排除され刑事司法プロセスの中に放り込まれる。

そして今度は、
結果「犯罪者」になってしまうことで、
二重に差別され排除される。

刑罰・刑事処遇然り。
出所後の社会復帰を阻害されること然り。

さらには、
同じ罪を犯した人間の中から、
比較的軽い罰とより思い罰を受ける人を
区分け選別する行為そのものが、
広い意味でマイノリティをつくりだしている行為だと思います。

投稿者 海野 弾 : 2011年10月12日 21:54

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