米兵によるイラク人への残虐行為
この責任はどこまで登りつめるのだろうか?

(2)
American soldiers brutalized Iraqis.
How far up does the responsibility go?


アブ・グレイブにおける拷問
セイモア・M・ハーシュ
TORTURE AT ABU GHRAIB
by SEYMOUR M. HERSH


ザ・ニューヨーカー 5月2日号より
http://www.newyorker.com/fact/content/?040510fa_fact

[翻訳] ピース・ニュース


前回に引き続き
イラクでの米軍によるイラク民衆への拷問・虐待・虐殺を最初にまとまった形で報道した雑誌「ザ・ニューヨーカー」5月2日号を紹介します。

 ブッシュ・ラムズフェルドは直ちに辞任せよ!イラク民衆への拷問・虐殺を止めよ!
 イラクへの侵略と占領を直ちに止めよ!
 小泉首相はイラクへの侵略戦争支持を撤回し自衛隊を直ちに撤退させよ!!

 セイモア・ハーシュ記者は、ベトナム戦争中に南ベトナムのソンミ村で起こった米軍による約500名の村民の虐殺=ソンミ大虐殺をスクープした記者です。ハーシュ記者はこの記事でピューリツア賞を受賞しています。
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col501.html


(1)より続く

 諜報部の将校は「我々を激励して『いい仕事をした』と言った。彼らは今や前向きの結果と情報を得つつある」。「諜報部(MI)の要求により収容している拘置者に対して軍用犬を使って脅そうとした時には犯罪捜査部(CID)の人間がいた」とフレデリックは書いている。あるときフレデリックは上司の第320憲兵大隊のジェリー・フィラボー中佐を脇に連れ出して拘置者の虐待について質問したと家族に語った。中佐の答えは「気にするな」というものであった。

 フレデリックは書いている。アブ・グレイブの警備員が「OGA」つまり第二政府機関(other government agencies)−それはCIAと軍事請負企業の従業員のことである−と呼んでいる部署の支配下にあるイラク人拘置者が、11月に尋問のため部隊に連れて行かれた。「彼らはその拘置者にひどく圧力を掛けたために彼は死んだ。彼らはその拘置者の死体を氷詰にして死体袋に入れ、約24時間シャワーを掛けた・・・次の日、軍医が来てその拘置者の死体を担架に載せ、ニセの点滴注射を腕に付けて持ち去った」。死んだイラク人は刑務所の収容者管理システムには登録されなかった。「だからその拘置者は番号を持っていない」とフレデリックは詳述した。

 フェデリックの弁護はもちろん極めて保身的なものである。しかし彼が家族に送った手紙とeメールでの不満は2つの陸軍内部資料で補強される。−タグバの報告書と陸軍法律執行主席幹部で憲兵司令官のドナルド・ライダー少将のものである。

 昨秋、サンチェス司令官はイラクの刑務所システムの見直しと改善方法についての提案をライダーに命じた。11月5日付けのライダーの報告書では組織全体に渡って、潜在的に人権、教育訓練、要員確保の問題があり緊急な注意が必要だと結論付けている。報告書はまた拘置者を警備するための憲兵の使命と、拘置者を尋問しようとする諜報チームとの間の対立についての深刻な懸念についても報告している。陸軍の規則では憲兵による諜報活動は受動的な情報収集に限定されている。しかしアブ・グレイブでは何かが狂ってしまった。

 「その後に続くインタビューのための好条件を築くために」――拘置者の意思を破壊することの婉曲な言い方だが――憲兵が諜報員と共に行動するということがアフガニスタン戦争の時には既に行われていたという証拠があるとライダーのレポートでは書いている。「そのような行為は一般的には、拘留施設のスムーズな運用には逆行し、拘束されている者を従順で素直な状態におこうとするものだ」。カーピンスキー将軍の大隊は「その施設の手続きをMIの尋問に合わせるように命令されはしなかったし、このような尋問に加わりもしなかった」とライダーの報告書は書いている。ライダーは「憲兵の役割を明確にし・・警備員の行為と諜報員の役割を明確に分ける」ための規則を決めることを当局に呼びかけた。イラク戦争を遂行する幹部はこれに注目した。

 しかしライダーは、状況は危機的な点まではまだ達していないと結論付けることにより、その警告の価値を切り下げてしまった。いくつかの規則は欠陥があるにせよ「憲兵隊は不適切な監禁の履行をわざと適用してはいない」とライダーは述べた。彼の調査はどうひいき目にみても失敗であったし、また厳しい見方をすればもみ消しといわざるを得ないものだった。

 タグバの報告書は仲間の将軍たちに丁重だが、ストレートに異議を唱えている。「残念ながら[ライダーの]調査で浮かび上がった多くの組織的問題はこの調査の主題とまさに同じものである」「実際のところ収容者が受けている虐待の多くは、その調査の間、あるいはその近くの時期まで起こっていたのである」とタグバは書いている。「ライダーの報告書での発見とは反対に、第800憲兵大隊、第327憲兵集団に割り当てられた人達がMIの尋問のために『良好な条件を築く』ために施設の規則を変更しろとの指示を受けていることを発見した」と報告書は続けている。陸軍諜報員、CIA、私企業の請負人は「実際に憲兵隊の警備員に対して証人の尋問にとって好ましい肉体的、精神的条件を用意するよう要求した。

 タグバは、陸軍CID調査者の宣誓陳述書を引用して彼の主張を裏付けた。憲兵で被告人の一人であるスペシャリストのサブリナ・ハーマンは、収容者を眠らせないことが彼女の仕事だったと証言した。収容者の一人であった拘置者には頭巾を被せ指とつま先とペニスに電線を取り付けて箱の中に監禁したのであった。「MIは彼らに何かをしゃべらせたかった。MIとOGAがこれらの人々にしゃべらせるために何かをすることがガーナーとフレデリックの仕事であった」。

 別の証言者、告発されているジャベル・デイヴィス軍曹はCID調査員に語った。「MIが創った部署の拘置者を目撃した。・・道徳的にどうかと思える様々なことをさせられていた・・・彼らは違う規則にしたがっていると告げられた」。

 タグバは書いている。「デイヴィスはMIが警備員に対して収容者を虐待するようほのめかしていると聞いた。MIは何といったのかと聞かれると、デイヴィスは次のように述べた。『この男を可愛がってやれ』、『悪い一夜を過ごさせてやれ』、『確実に彼を処置してやれ』」。諜報員がこのコメントをガーナーとフレデリックに言ったとデイヴィスは言った。「私の理解ではMIのスタッフはガーナーを誉めていた・・・『いい仕事をした。彼らはおとなしく話しを聞くようになった。彼らは全ての質問に答える。彼らは良い情報を吐き出し始めている』というような言葉で」。

 何故、彼が下した虐待(強制猥褻行為)に関する一連の命令を報告しなかったのかと問われ、ディヴィス軍曹は「なぜなら、彼らがもし異常なことや、ガイドラインから外れたことを始めたならば誰かが何かを言うと思っていたからだ。それに虐待(強制猥褻行為)が行われたウイングについてもMIに属し、MIの職員が虐待(強制猥褻行為)を認めていたと思われたからだ」と答えた。

 また別の証言者、不正行為で告発されていないスペシャリストのジェイソン・ケネルは「私は彼らが裸だったのを見たが、MIは我々に、彼らのマットレスやシーツや衣服を取り払えと命令するのだった」。(彼の見方によれば、MIが彼にそれをさせようとしたならば「彼らは書類が必要だった」)。タグバは民間請負業者の従業員で通訳のアデル・L・ナカーラのインタビューを挙げた。彼は「一団のMIからの人々が」一群の手枷足枷をかけられた収容者がガーナーとフレデリックによって虐待されるのを監視していた晩のことを語った。

 タグバ将軍は諜報将校と民間請負業者に対しては厳しい言葉を控えた。タグバ将軍は、MI大隊の司令官の一人のトーマス・パパス大佐には戒告処分と裁判によらない懲罰を、前共同尋問・報告聴取センターのスティーブン・ジョーダン中佐には解任と戒告処分を与えることを薦めた。彼はさらに、調査団に対して嘘を言ったことおよび、「認可されてもいなければ、軍の規則にも合致しない『条件を整える』ことで尋問テクニックの訓練を受けていない憲兵が尋問をしたり命じたりすることができるようにしたということで、民間請負業者のCACIインターナショナルのスティーブン・ステファノウイッツを軍の仕事から解雇し戒告処分と機密取り扱い認定許可証の取り消しを主張した。「彼は、彼の指示が物理的な虐待と同じであることを明らかに知っていた」とタグバは書いている。彼はまたCACIの第二の従業員であるジョン・イスラエルに対しても懲戒処分を薦めた。(CACI のスポークスウーマンは、会社は軍からそのことに関して『なんらの正式な連絡も』受けていないと語った)。

 タグバは「私が察するところ」、パパス、ジョーダン、ステファノウィッツ、そしてイスラエルは「直接にせよ、間接にせよアブ・グレイブの虐待に責任がある」と結論付け、強く即座の懲戒処分を薦めた。

 イラクでの軍刑務所組織内部の問題は上級司令官に隠されていなかった。カーピンスキーの7ヶ月の任務中、逃亡、逃亡未遂、その他の深刻な安全保障上の問題など第800憲兵大隊の司令官が調査した、数十にも登る公式に報告された事象があったとタグバは述べた。出来事のいくつかは収容者と憲兵を死亡させるか負傷させるものであり、大隊のなかで一連の「学んだ経験」事例になったものであった。そしてタグバは、カーピンスキーが相変わらず報告書を承認し、毎日の規則の変更について指示に署名をした。しかしタグバはカーピンスキーがフォローアップせず、命令がが確実に実行されるために何もしなかったことを発見した。彼女きちんとフォローしていたならば「虐待の事例は防止できたかもしれない」とタグバは付け加えた。

 タグバ将軍は更に、アブ・グレイブが限界を越えて収容しており憲兵警備軍は極めて人手不足と資源の欠如になっていたことを発見した。「この不均衡はひどい生活条件、逃亡、説明責任の不在の原因になっていた」と彼は書いた。タグバは言う。実際の拘置者人数と公式に報告された数字の間に大きな差異が生じていた。適切に選別が行われなかったことにより多くの無実のイラク人が不当に拘留されていた――いくつかのケースでは無期の拘束になっていた。タグバの調査はアブ・グレイブの市民の収容者の60パーセント以上が社会にとって脅威ではないと判断され、そのことは彼らが解放されることの可能性を与えていた。カーピンスキーの答弁は彼女の上司の司令官が「いつものように」そのような拘置者の保釈に関する彼女の提案を拒絶していたということだった、とタグバ言う。

 カーピンスキーが運営しているはずの刑務所で彼女を見かけることはほとんどなかった、とタグバは書いている。タグバはまた 「軍隊での自分の経験のなかで前例がないくらい」のものを含む、広範囲な管理上の問題を発見した。兵士たちは「ほとんど準備ができておらず、訓練もされていない・・・配置前も、動員された現場でも、戦場に到着しても、そして任務全体を通じて」と彼は付け加えている。

 タグバ将軍は、カーピンスキーが極めて感情的であるように叙述しているが、彼女のインタビューに4時間以上も費やしている。「彼女の証言の中で特別に気がかりであると思ったことは、第800憲兵大隊に特有な問題の多くが彼女のリーダーシップ不足と兵士達の間に基本的な標準や原則を打ち立てたり強化したりするという命令を彼女自身が拒絶しているということによって引き起こされているのだということをを彼女が理解し受け入れようとはしないということだ」。

 タグバはカーピンスキーと7人の旅団憲兵司令官と下士官の解任と公式な戒告を薦めた。カーピンスキーに対して刑事訴訟は提案されなかった。明らかに昇進の機会を失い公衆の非難による冷遇は十分な罰と見られる。

 先週、この話題がCBSに発表された後、ペンタゴンはイラクの刑務所組織の新しいトップのゲオフェリィー・ミラー少将がバグダッドに着き仕事に就いたことを公表した。彼はグアンタナモ湾拘留センターの司令官であった。サンチェス司令官はまた、軍と民間の尋問官による不正行為の疑いについての調査を承認した。

 国際的な激怒が大きくなるに従って、軍の上級司令官とブッシュ大統領は少数の行為は軍全体の行為を反映したものではないと主張した。しかしタグバのレポートは集団的な悪事と最も高いレベルでの軍のリーダーシップ欠如への容赦のない調査になっている。タグバが描いたアブ・グレイブの光景は、陸軍規則とジュネーブ条約が日常的に破壊され、拘置者に対する日常的管理を陸軍諜報部隊と民間請負業者の従業員に任せっぱなしにしているというものである。拘置者に対する威嚇と拷問を含む尋問によって情報を得ることが優先課題であった。

 しかしアブ・グレイブにおける虐待はアメリカの諜報活動を活発化するという面ではほとんど何の役にもたっていない。36年間CID代理人として働いたウイリー・J・ローウエルは拘置者にたいする暴力や虐待は常に逆効果を生じると語った。「彼らは真実だろうが真実でなかろうが尋問する側が聞きたがっていることを言うだろう」、「『聞きたがっていることを言うまで鞭打つことができる』が正しい情報は得られない」とローウエルは言う。

 第四ジュネーブ条約の下では占領権力は「厳然たる」安全保障上の脅威となる民間人を拘置できる。しかし占領軍は真の安全保障上の脅威となる民間人のみが拘置されるよう標準規則を確立しなければならない。拘置者はいかなる拘置の決定についても上告し状況を見直してもらえる権利を持っている。ヒューマン・ライツ・ウオッチはドナルド・ラムズフェルド国防長官に対して、イラクの一般市民が何の嫌疑もないまま数ヶ月に渡り拘留されていることについて非難している。実際のところ、アブ・グレイブは新たなグアンタナモになっている。

 アブ・グレイブからの写真は、これらの拘留が恐るべき結果をもたらしていることを明らかにした。拡大しつつある反乱とは無関係に監禁されている多くのイラク人にとっても、アメリカ軍の規律にとっても、そして世界における米国の評判にとっても。

 フレデリックの軍弁護士のロバート・シャンク大尉は先月、第32条項尋問において、軍は「これら6人の兵士をその罪業によりあがなおうとしている」と述べてその弁護を終了した。同様に、フレデリックの民間弁護士であるギャリー・メイヤーズは本件の罪状は依頼主の主張をはるかに超えるものだと、軍法会議で論争するつもりだと私に告げた。「見つけることのできる全ての関係した諜報将校と民間請負業者を法廷に引きずり出してやるつもりだ」、「この6人の兵士によって軍が将軍幹部を救済してやれると本当に信じているのかい。そうはいかない」とメイヤーズは言う。
完