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2003年4月 第22回映画研究会は、西部劇 vol. 2!

折れた矢

参考上映:「折れた矢」1950年、FOX、監督デルマー・デイヴィス

場所:キノ・キュッヘ
日時:2003年4月13日(日)16:00〜
料金:無料(打ち上げ¥1000)
問合せ:042ー577ー5971(キノ・キュッヘ)

解説:佐々木健

● フロンティア・スピリットと西部劇

 かつてアメリカ人は自分たちの国を本当に良い国だと信じていた。自分たちはアメリカに逃れてきたのではなく、古い因習の旧大陸を見捨てて、神が幸福を約束する「新天地」にやって来たのだと考えていたし、西部の開拓というのは、先住民族であるインディアンから土地を強奪するのではなく、荒地に神の福音をもたらすことだと思っていた。しかし、そんな考えは白人の身勝手な考えで、もともと暮していたインディアンからすれば白人は侵略者にほかならないわけだ。

 自らを「社会主義的な自由主義者」と自認するジョン・フォードですら、西部劇の名作といわれる「駅馬車」(1939)においてアパッチを単なる野蛮な未開人としてしか捉えていない。西部劇では常にインディアンは悪役であり続け、そのことが少数民族にたいする偏見を助長してきたともいえる。

 しかし、第二次世界大戦後白人=善、インディアン=悪という勧善懲悪という単純な図式に対する反省から、インディアンの立場に立つ西部劇も現れてきた。デルマー・デイヴィス監督による1950年作品「折れた矢」はそうした西部劇の代表作といえる。

● 物語

 時は1870年頃、北軍くずれのジェイムズ・スチュワート扮するトムが金鉱探しをしていた折にアパッチの少年が怪我をしていたのを助けたことから、アパッチの考え方に理解を示す様になる。野獣と同じだと思っていたアパッチも母親は子供のことを心配し、インディアンを殺さない白人をインディアンは殺すつもりはないといったフェアプレイの精神があることを学ぶ。しかし一方西部の町では、アパッチに襲われて2ヶ月間も東部からの郵便が届かない状況が続いていた。なんとか平和的解決が出来ないかと思ったトムはアパッチの言葉や習慣を学習し、アパッチの酋長コチーズに会いに行く。そうして互いに理解し合い、郵便配達を襲わない約束をとりつける。しかし、反アパッチ派はそうしたトムをスパイと決めつけ、リンチにされ縛り首になりそうにもなる。理解ある将軍に助けられ、将軍に「グラント大統領の熱意で、アパッチと平和条約を結ぶ」ことへの協力を求められる。

 トムはコチーズと相談し、良い人間も信用出来ない人間も互いの中にいることを確認しあい、アパッチとアメリカ軍の間で3ヶ月間の平和条約のテスト期間を設ける事になる。

 そうしてアパッチと親しくしている内に、トムとアパッチの娘ソンシアレイは互いに惹かれ合い結婚するというロマンスも生まれる。

 3ヶ月の試行期間も終盤に近づいた頃、コチーズに恨みを持つ白人反アパッチ派の陰謀によりトムとソンシアレイも一緒に襲撃されソンシアレイが殺されてしまう。悲嘆にくれ、「白人は平和を望んでいない!襲った白人を捕まえて殺す!」というトムに対し、コチーズは「平和は簡単にはやってこない。戦争は誰にも始めさせない!」と語り、平和条約が維持されたのだった。

● 赤狩り

 この「折れた矢」は、平和を求めているのはインディアンであり、インディアンは心の痛みを理解する優しい人間として描いた最初の映画といわれる。「折れた矢」の脚本は1950年のアカデミー賞にノミネートされマイケル・ブランクフォード作と言われているが、実際は赤狩りによって追われた「ハリウッド・テン」のひとりアルバート・モルツによる作品だ。

 1946年「非米活動調査委員会」の委員長にJ・パーネル・トーマス議員が任命された時から赤狩りが始った。アメリカにおけるナチスの活動を調査するために設置されたものだったが、第二次世界大戦後の東西冷戦の時代に突入されると共産主義者の活動を調査する機関に生まれ変わり、ハリウッドのユダヤ系社会を恐怖に陥れたのである。これに対し、ウィリアム・ワイラーやジョン・ヒューストンらは抗議声明を発表、逆に自らブラック・リストを作り、共産主義者の一掃に協力したのは、後の大統領になる、ロナルド・レーガンだった。このリストによって300人以上の左翼系映画人が映画業界を追われることになった。

● イラクへの武力攻撃に反対する反戦派スターたち

 今回のイラクへのアメリカの武装攻撃に反対を訴えるミュージシャンや映画関係者にも「赤狩り」と同じような弾圧が行われている。「戦争反対や体制批判を表現する者へのバッシング」はマドンナやショーン・ペン、ティム・ロビンス、スーザン・サランドン、シェリル・クロウ、ディキシー・チックス、マーチン・シーン、ジョージ・クルーニーなどに対して行われているという。いわゆる、「戦争に反対すると仕事を干されるぞ!」という脅しをされているわけだが、アカデミー賞ドキュメンタリー部門最優秀作品賞を「ボーリング・コロンバイン」で受賞したマイケル・ムーアは元気良く次のようなメッセージを発信した。

「――私がアカデミー授賞式でブッシュと戦争を批判した日の翌日、『ボウリング・フォー・コロンバイン』上映館の観客全米動員数が110%アップ。ニューヨークタイムズ紙ベストセラーリストで、『アホでマヌケなアメリカ人』が1位に返り咲いた。アマゾン・コム・オンライン書店ビデオ予約数で、『ボウリング・フォー・コロンバイン』はオスカー最優秀作品賞『シカゴ』を上回った。ディキシー・チックスの話は皆さん既にご存知だと思うが、そのボーカルがブッシュと同じテキサス出身だから恥ずかしいと発言をしたので、CD売り上げは『ガタ落ち』、ラジオのカントリー専門局も曲を流すのをやめてしまったと言う。しかし実を言えば、CD売り上げは『落ちていない』 攻撃に晒された後も、ディキシー・チックスのアルバムは今週のビルボード・チャート、カントリー部門で1位につけているしディシー・チックスの『トラベリン・ソルジャー』(美しい反戦バラード)は先週のインターネット・リクエストで1位になった。彼女たちは実はなにも傷ついてなんかいないんだ。メディアは、わずかの異議をもつ芸能人を抑え込むことで、平均的アメリカ人に対する見せしめにしようとしているのだ。権力の回し者たちはいかにして恐怖心をかきたて、大衆を操っていることか。今、平和と共にあるアメリカを信じる我々多数派が黙っている時ではない。声を大にしよう。ここは我々の国なのだから。」

 いつの時代もアメリカは敵を作り侵略や虐殺を続けてきたといってもいい。しかし、いつの時代もそれに反対し平和を求める人々が存在すること(したこと)を、認めそれを支持したいと思うのだ。

● おまけ

 「赤狩り」そのものをテーマにした作品は「真実の瞬間」アーウィン・ウィンクラー監督、ロバート・デ・ニーロ主演/1991年がレンタルビデオになってます。興味ある方は是非ご覧ください。また、マイケル・ムーアのメッセージはpmn(民衆のメディア連絡会)のメーリングリストに転送されたものを要約しました。